姉弟の数分間
ガイアスの世界
今回ありません
姉弟の数分間
剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス
ー 特別監獄最奥 ー
種族問わず普通の姉弟が再会するには相応しい場所とは言えないガウルド城地下最下層にある特別監獄。しかしヒトクイの王にして『聖』と『闇』、人と魔族の狭間で生きるという数奇な生き方を選んだ夕闇歩者である姉にとって弟と再会する場所など正直どうでもよかった。それよりも自らの手で封印石に封じた弟と再会しなければならないという状況が問題であった。
強大な力でヒトクイの首都であるガウルドに大きな被害をもたらした弟。巨大な盗賊団の頭として裏社会で暗躍していた弟。
だが彼女は姉であったが故に、覚悟が足りなかった。自分の覚悟の甘さがヒトクイの人々を地獄に落とした事実を背負い、姉は償いきれない程の罪を犯した弟を自らの手で裁いた。しかしそれすらも甘く覚悟が足りなかったと後悔する。
自分と同じように数百年の時を生きた弟の命を奪う手段はあった。だが命を奪うという決断が出来なかったのは、やはり彼女が姉であったからだ。
誕生の経緯が同じというだけで、実際に血の繋がりが自分とあるのかもわからない弟。しかしそれでも弟に向ける愛情は本物だった。だがそれも今は過去。久方ぶりに再会した弟と対峙した姉は決意する。封印されて尚、未だ肥大化を続けるその禍々しい気配を前に姉は、ヒトクイの王として『聖』と『闇』、人族と魔族の狭間で生きることを選んだレーニは、このままにしておけば必ずヒトクイは愚かこの世界に災いを振りまくだろう唯一の家族である弟を殺すこと決意した。
再会を望まなかった姉とは違い、夜歩者の上位存在として生み出された闇歩者の弟は違った。弟は僅かに自分の中に残る姉への愛情を断ち切る為、再会を望んでいた。
誕生の経緯が同じだけで、実際に血の繋りが自分とあるのかもわからない姉。しかしそれでも姉に向ける愛情は本物だった。だがそれも今は過去。
自分とは全く違う上位存在になっていた姉。気付けば人族の王となってその社会に溶け込んでいた姉。許せなかった。人族という下等な種族を家畜として飼うならまだしも、共存しようとする姉が許せなかった。だから弟は反抗した。姉が大切にしているものを全て奪おうとした。姉のように人族の社会に溶け込み、姉のように裏社会の王となって姉から大切なものを奪った。
自分を生み出した世界を呪い続けてきた弟スビアは、姉と再会し決意する。姉への愛情を完全に絶ち切ることで、この世界を完全に壊すことを決意した。
封印した側とされた側の久方の再会。いくつか言葉を交わした姉弟であったが、既に両者の中に以前のような関係性は無く、全く考えの違う二人の会話は一切交わることなく平行線をたどり続けた。そんな膠着状態が続く中、二人の状況を壊すようにそれは突如として現れた。
「何?」
それは封印石に封じられたスビアが放つ禍々しい気配よりも更に禍々しくそして醜かった。世界にある全ての負の感情を凝縮したようなその気配を受け、思わず逸らしてはならない視線を後方にある扉へ向けてしまうレーニ。
その気配は特別監獄の入口付近、先程まで一緒に同行していたブリザラやアキ、ソフィアたちがいる場所から感じられる。
— 段取りが違う……武具屋これはどういうことだ? —
この状況を理解できないのは、封印石に封じられたスビアも同じであった。自分よりも遥かに禍々しく強大なその気配の持ち主のことを知っている様子のスビアは、その気配の持ち主へ届くかもわからない疑問をぶつけた。
「……この気配の正体を知っているの?」
状況が理解できていないレーニは、自分よりも状況を理解している様子のスビアへ尋ねた。
— ……姉さんには関係無い…… と言いたい所だけど、教えてあげるよ…… —
レーニからの問を一度は断ろうとしたスビア。だが気が変わったのか、スビアは今怒っている状況を語り出した。
— 今僕たちが感じている気配の正体は、武具屋一撃死中店主、笑男 —
「……武具屋一撃死中……あの戦場に突然現れるという武具屋……」
小さな小競り合いはあっても、大陸で起っているような大規模な戦は統一以降起ってはいないヒトクイ。だがそのヒトクイの王であるレーニですら、その存在の噂を耳にする程、一撃死中の知名度は高かった。
「でも……武具屋がいいえ、人が纏っていい気配じゃない……これじゃまるで……」
— 『絶対悪』の残滓……そのもの…… —
レーニの言葉を遮り、その先に続く言葉を口にするスビア。
— そう、そのものなんだよ……武具屋はあくまで負の感情を集める為の副業……笑男の本当の目的、正体は……ッ! —
「え?」
スビアが笑男の正体について語ろうとした瞬間、それは起った。
— 消失した……だと? —
特別監獄全域に広がっていたはずの笑男の気配が忽然と残り香すら残さず忽然と消失したのだ。
— あ、有り得ない……有り得ないよ……だって…… —
笑男の気配が消失したという事実を受け入れられないスビアの声色が焦りで乱れた。
— だって……そのものなんだ……この世界に存在する負の感情を1つに纏め上げる理……笑男は『絶対悪』の残滓なんかじゃない、『絶対悪』そのものなんだよッ! —
信じられない状況を前に混乱が臨界点を越えたスビアは、笑男の正体を叫ぶ。
「……『絶対悪』そのもの?」
自我を持つ生物から発せられる負の感情の集合体。時に人の心を惑わせ、時に大きな災いを振りまく自然現象、それが『絶対悪』の残滓という存在、概念であることはレーニも理解はしていた。だがそれ以上のことは知らない。レーニはスビアが口にした言葉の半分以上を理解できないでいた。
— 僕は『絶対悪』によって纏め上げられた世界全ての負の感情を受け取り、それを力としてこの世界を壊すつもりだったんだ……それを笑男も望んでいた……なのに……『絶対悪』が消失したら……このクソな世界を壊すことができないじゃないか…… —
夢の終わり。願いの消失。欲望の霧散。『絶対悪』が消失したことによって全てを失ってしまったかのように意気消沈してしまうスビア。
「……」
スビアが言っていたことが本当のことなのかそれはレーニにはわからない。だがそこまでして世界を壊そうとしていたその想いに触れてしまったレーニは、小さな石の中に封じられた弟をただ見つめることしか出来なかった。
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