表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
315/513

奇跡の観測者

 ガイアスの世界


 今回ありません


 


 奇跡の観測者





「ゴフッ! ……ゴホッゴホッ、ゴホッ……」


 突如体中に走る痛みと共に喉に何かがせり上がってくるのを感じ青年は耐えきれず咳き込んだ。その瞬間口の中に広がる鉄の味。青年は口から大量の血液を吐き出していた。


「ゴホッゴホッ……ゴフゥ……」


 咳き込むごとに吐き出される血液が周囲に飛び散り、地面にボトボトと堕ちていく。吐血が止まらない青年は、その原因を探るように痛みが集中する右胸に視線を向けた。


「グッ……ゴフゥゴホッゴホッ……」


 右胸には黒く禍々しい邪悪な気配を放つ一本の槍のようなものが突き刺さっていた。動揺が走ると同時に更に強い咳の勢いが強まる青年。肺に貯まる血をどうにかして吐き出させようと体が青年へ咳を強制する。


「ガホゥ……うぅぅ……」


 一度に大量の血液を流失し、みるみるうちに顔色が青くなっていく青年は口から流れ出る真っ赤な鮮血を垂れ流しながらその視線を前へ向けた。

 呼吸困難からくる酸素不足の影響か両端が白くなり歪む視界の中、青年は自分へ槍を放っただろう相手を見つめる。青年の前に立つその男は笑っていた。おおよそ笑っているとは思えない冷たく感情の無いその笑み。まるで無機質な仮面を貼り付けているような、そんな笑みを男は青年へ向けていた。


「……」


 霞む視界。薄れゆく意識。己の死期を悟った青年は、自分よりも先に旅立った好敵手ライバルの無惨な亡骸を見つめながらその場に崩れ落ちる。


「……」


 暗転する視界。何も聞こえない。あの音は聞こえない。進んだ道の先、ここに望む未来は存在しなかった。


 ピシィ。


 「はッ! ……くッ!」


 何かが切り替わったようなそんな音と共に両目を見開く青年。まるで今この場で何が起こっているのか理解しているかのように体を素早く起こしながら、その視線は一箇所へと向けられる。その視線の先には青年の好敵手ライバルの後ろ姿があった。だが好敵手ライバルの前には男から放たれた槍のようなものが迫っている。


「クッ!」


 立ち上がった青年は飛び出す。その速度は初速から最高速。空に轟き大地へ突き刺さる雷の如き速度で青年は、好敵手ライバルの前に出ると、それ同時に腰に帯剣していた剣を鞘から抜くと同時に、迫る槍のようなものを弾いた。


「ッ!」


 光の瞬きのような速度で自分の前に飛び込んできた青年の姿に好敵手ライバルは驚きの表情を浮かべる。だが次の瞬間、驚く好敵手ライバルのその顔に大量の血液が付着した。


 既に男から放たれていた第二の槍が青年の頭部を跡形も無く吹き飛ばしていた。


 暗転する視界。何も聞こえない。あの音は聞こえない。進んだ道の先、ここに望む未来は存在しなかった。


 ピシィ。



「ハッ!」


 目を開いた瞬間、即座に立ち上がりその場から飛び出していく青年。その先には好敵手ライバルの後ろ姿。だが青年は好敵手ライバルには目もくれず前へ飛び出すと、迫る槍のようなものを素早く抜剣した剣で弾く。


「クッ!」


 槍のようなものを弾いた瞬間、まるで次の状況を予期するかのように青年は後ろに立つ好敵手ライバルに体ごとぶつかって行く。青年の体当たりによってよろけた好敵手ライバルの顔をかすめていく槍のようなもの。好敵手ライバルに体当たりすることで、男が放っていた第二の槍を回避することに成功した青年。


「ガハッ!」「グフゥ……」


 だが非常にも男の放つ第三の槍が青年と好敵手ライバルを容赦なく貫く。


「……」「……」


 命の消えた好敵手ライバルの虚ろな目を見つめながら意識が失われていく青年。




 暗転する視界。何も聞こえない。あの音は聞こえない。進んだ道の先、ここに望む未来は存在しなかった。


 暗転する視界。何も聞こえない。あの音は聞こえない。進んだ道の先、ここに望む未来は存在しなかった。


 暗転する視界。何も聞こえない。あの音は聞こえない。進んだ道の先、ここに望む未来は存在しなかった。


 進んだ道の先、ここに望む未来は存在しなかった。進んだ道の先、ここに望む未来は存在しなかった。進んだ道の先、ここに望む未来は存在しなかった。進んだ道の先、ここに望む未来は存在しなかった。望む未来は存在しなかった。望む未来は存在しなかった。望む未来は存在しなかった。望む未来は存在しなかった。望む未来は存在しなかった。望む未来は存在しなかった。望む未来は存在しなかった。


 暗転する視界。何も聞こえない。あの音は聞こえない。進んだ道の先、ここに望む未来は存在しなかった。


 ピ……


「……もうやめてくれ……」


 一体何回、何十回繰り返しているのか、目の前に次々と現れる光景の中で自分が死んでいく光景を幾度も見せられていたスプリングは、弱々しくそう呟いた。


「……こんな未来を見せ続けて何の意味がある?」


 色が失われた世界。白と黒だけしか色が存在しないその場所にスプリングが居る意味。ここがこれから起こる未来を見せている場所だと何となく理解していたスプリングは、全く力が及ばない相手に自分が殺されていく光景を幾度も見せつけることに何の意味があるのかと精神の擦り切れた表情で疑問を弱々しく口にする。


 — 奴を倒す為 —


 その疑問に何者かの答えが返ってくる。


「倒す為? ふざけるな、見ればわかるだろう! 今まで見てきた光景の中に、一撃でも奴に入れた俺がいたか? 何十人もの俺は手も足も出ずただ死んだ……そんな何十人もの俺の中でたった一人だ……2回……奴の攻撃を2回凌いだ俺はたった一人……それでも僅か数秒長く生き延びただけ……奴を倒すなんて、そんなの奇跡でも起こらなきゃ不可能だろッ!」


 幾度も見せられたその光景に映るスプリングの行動は、毎回所々少し違っていた。だがその結果は変わらない。圧倒的な実力差を前に、最後は無惨な死を遂げるだけ。そんな絶対的力を持つ存在を倒すなど奇跡でも起こらない限り不可能だと言い切るスプリング。



 — 奴の攻撃を2回凌ぐという奇跡を起こした自分をお前は見た……数秒生き延びることができたという奇跡を起こした自分をお前は見た —


「……はぁ? それが奇跡だと?」


 何者かは攻撃を2回凌いだことを奇跡だという。数秒生き延びたことを奇跡だという。だがその後の結果は同じ。待っていたのは死。


「そんなの奇跡とは言わない!」


 結果死んでいるのだからそれは奇跡でも何でもないと何者かの言葉を否定するスプリング。


 — そう、これはお前にとって奇跡ではない……奇跡を観測した時点でお前にとってそれは必然 —


「奇跡が必然……だと」


 — お前は幾多のお前たち、いや俺たちが積み上げてきた奇跡をその目で観測しそれを経験として積み上げ必然へ変換することができる……幾多の俺たちの奇跡を繋げ必然とすることができるお前なら、望む未来を掴むことが出来るはずだ —


 幾多の自分がこれから起こすだろう僅かな奇跡。その奇跡を観測し同じように起こすことができればそれはもう奇跡では無く必然。未来の自分に起る幾多の奇跡を観測できる俺ならば、奇跡を必然にして望む未来を掴むことが出来る。


「……」


 そう語ったのは、どの未来に存在していた自分なのか。そんなことを思いながらスプリングは、もう一度己の死に様と奇跡が映る光景に向き合うことを決意した。

 それはスプリングにとつて死ぬよりも辛く苦しい幾多の一瞬であった。




 剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス



 ピシィピシィ。



「……」


 見開いた目。その視線の先に映るのは特別監獄の天井。そこから流れるように視線をこれから戦う敵へ向け、体を起こし立ち上がったと同時に飛び出していく。視線の端に映るガイルズの姿はボロ雑巾のようになってはいるがまだ死んではいない。


「ふんッ!」


 ガイルズの前に立ち、これから戦う敵、笑男スマイリーマンが放った『闇』の槍の一本目を鞘から素早く抜剣した剣で弾く。それと同時にガイルズへ体当たりをかまし体勢を崩し、二本目の『闇』の槍を躱す。素早く反転、間髪入れずに放たれた三本目の『槍』を剣で弾く。


「はははは、突然起きたかと思えば完璧な動作……」


「まるで、全てが見えているみたいですね……だろう?」


 一切ブレの無いその動きを称賛し拍手を送りながら芝居がかった口調でそう言う笑男スマイリーマンの言葉の続きを奪い取り、全てを見通すような不敵な笑みを浮かべるスプリングの姿がそこにはあった。



 ピシィピシィピシィィィィィィィ


 止まっていたはずのその音が再び聞こえ始める。誰にも聞こえずただ1人にだけ聞こえる何かが砕ける音が大きく響き渡る。

 ガイアスの世界


 今回ありません

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ