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 迫る『闇』迫る音

ガイアスの世界


 今回ありません


 迫る『闇』迫る音




  剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス




 奥へ行けば行くほど『闇』の気配は強まり、そして濃さを増していくガウルド城地下にある監獄。既に常人では踏み入れることすら出来ない程の『闇』の濃さに、監獄の受刑者たちは理性を消失しその殆どが死んだような様子になっていた。しかし受刑者たちとって幸いだったのは、スプリングとガイルズがこの監獄にいたことだ。

 元、伝説武具ジョブシリーズの所有者であるスプリングに残された数少ない能力の1つ『闇』を祓う力と『聖』を力に変え『闇』を滅る聖狼セイントウルフを内包するガイルズ。

 方向性ベクトルは違うが大本を辿れば『聖』へと行きつく両者の力は、その場に存在するだけで監獄に充満していた『闇』を浄化していたからだ。

 ただその場に存在しているだけで、走り抜けるだけで空気を清浄するかのように『闇』を浄化してしまうスプリングとガイルズのお蔭で、監獄内の受刑者たちは『闇』に呑まれ理性を失わずに済んでいた。

 しかし監獄へ流れてくる『闇』の気配は止まらない。悪臭は、その大本を絶たなければ消えないように、『闇』も元を絶たなければ消えはしないのだ。


「……なるほど、普通ならにわかには信じられない話だが……俺の中に蘇った記憶が本物で、あの場にいたお前が、今のお前なのだとしたら辻褄が合っちまうな……」


 意識が過去へと飛んだ。自分の中で起っていたことを正直に話すスプリングのその内容を更にガイルズは意外にもすんなりと受け入れた。

 普通突然過去へ飛んだなんて話をされても人はそれを易々と受け入れることは出来ないものだ。だがガイルズにはスプリングのその話を信じざるを得ない実感があった。

 それは今まで存在しなかったはずの記憶が唐突に蘇ったこと、そしてその記憶の中にあったオアシスで、『闇』の気配を放つ正体不明の敵と渡り合っていたスプリングが当時の実力以上の力、もっと正確に言えば『剣聖』の力を振っていたことであった。唐突に蘇ったその記憶が真実であるのならば、スプリングが言っていた過去に飛んだという言葉と辻褄が合ってしまうのである。


「よし、お前が過去へ飛んだことは信じてやる……だがそのこととは別に、俺には1つ疑問がある、お前は何をしにここへやって来た?」


 スプリングが過去へ意識を飛ばしたことを肯定したガイルズだったが、次いでといわんばかりに、スプリングが何故ここまで付いてくるのかその目的を尋ねた。


「……正直、ここに来るまで俺もよくわからなかった……」


 そう口にするスプリングの表情は強張っていた。


「よくわからないだと?」


 何処か歯切れの悪いスプリングのその態度に首を傾げるガイルズ。


「……笑うなよ」


 少し考えた後、スプリングはそう前置きをして話し始めた。


「これが過去へ飛んだことと関係しているのかはわからないが……数日前、俺は突然ガウルドが『闇』に覆い尽くされる幻を見たんだ……」


「ガウルドが『闇』に覆われる幻をみた……だと」


 スプリングから発せられた思いもよらないその言葉にガイルズは笑う所か、真剣な表情を浮かべた。


「……笑わないのか?」


 意外なガイルズの反応に戸惑うスプリング。


「……この階段の前に立つ前なら、笑っていただろうな……なるほど、お前も感じているんだな」


 そう口にしたガイルズの表情はスプリングと同様に強張っていた。


「ああ……お前のそんな顔久しく見てなかったな」


 普段戦う時ですら漂々としているガイルズの表情が強張っていることに気付いたスプリングは自分のことは棚に上げて、無理矢理口角を上げる。


「……この階段の前に立って、俺は確信した……俺が見た幻は現実になる……」


 しかしそれも長くは続かず、直ぐに強張った表情に戻ったスプリングはそう言いながら更に地下へと続く階段を見つめた。


「「……」」


 二人の目の前にある階段からは際限無く『闇』が溢れだしていた。その『闇』は明らかに先程まで感じたいたものとは別物。何も対処せず放置すれば城は愚か町全体、下手をすれば国すら呑み込みかねない規模、それほどまでの強く濃い『闇』にスプリングとガイルズの表情から余裕が消える。今まで『闇』に対して常人離れした耐性を発揮していた二人であっても目の前の階段から溢れだす『闇』を前にしては平然としてはいられない。

 

((『絶対悪』の残滓か……))


 階段の奥から感じるその『闇』の正体について奇しくも二人はこの時同じ答えに辿りついていた。


「……俺がここまでやって来た目的、それは俺の見た幻が現実にならないよう対処するためだ」


 一度階段から目を離したスプリングはガイルズを見るとそう口にする。自分が見た幻に対して半信半疑のままここまでやって来たスプリングだったが、更に地下へと続く階段から溢れだす強大な『闇』を前にしてそれが『絶対悪』の残滓であると理解すると幻に対して半信半疑だった考えは確信へと変わった。


「……まるで未来予知だな」


 今思えば、所々であれは未来予知だったんじゃないかと思えるスプリングの幾つかの行動を思いだしながらガイルズは少し呆れたような表情を浮かべた。


「いや、上手く説明できないんだが未来予知とは違うと思う……」


 ガイルズが口にした未来予知という言葉を歯切れ悪く否定するスプリング。


「ああ? 未来予知じゃないって言うなら、お前が見た幻は一体何なんだよ」


「……なんというか、警告を受けているような……」


「警告? ……誰に?」


 警告というからには、スプリングに警告する者が存在する。突発的にそう思ったガイルズはスプリングにそれが誰なのかと重ねて尋ねた。


「これもうまく説明できないんだが、自分の中にいる大勢の自分と言えばいいのか……」


「大勢の自分?」


 全てはスプリングが感じた感覚の中の話であり、当然その感覚をガイルズは全く理解出来ない。


「その大勢の自分1人1人が持つ記憶というか経験を俺に幻として見せているというか……」


 自分の中で何が起っているのか、本人ですら理解できていない状態にあるスプリングは、自分の中に存在する突き動かされる衝動をしどろもどろにそう表現した。


「大勢の自分ねぇ……まあなんにせよ、このまま何もしなければお前の見た幻が現実になるのは確かだ」


 結局スプリングが言う大勢の自分が何なのか、その自分が見せたという幻が一体何なのかは全く理解できなかったが、この状況のまま何もしなければその幻が現実になるのは事実であると言い切ったガイルズは、強大いな『闇』、『絶対悪』の残滓の気配が溢れだす階段を見つめた。


「……ははッ! 数年前までただ強さを求めて戦いに明け暮れるだけの傭兵だったお前が……ガウルドを救う、まるで勇者ヒーローだな、出世したもんだなぁ!」


 『絶対悪』の残滓の気配がする階段を見つめるだけで体中に緊張が走るガイルズ。その緊張を紛らわせるようにガイルズはスプリングに軽口を叩く。


「茶化すな……俺は勇者ヒーローなんて器じゃない」


 伝説武具ジョブシリーズに選ばれし所有者であったならば、まだそんな大層な看板も背負うことが出来たかもしれない。だが伝説武具ジョブシリーズから見放され、所有者の残りカスのような状態の自分が背負うには大きすぎる看板だと、スプリングはガイルズの言葉に苦笑いを浮かべた。


「照れるな照れるな、僭越ながらこの俺様が勇者様のお供をしてやる……」


 苦笑いを浮かべるスプリングを更に茶化すガイルズ。しかしその表情が唐突に真顔へと変わる。


「……兎に角だ、止めるなら悠長に話している暇はない、先へ進むぜ」


 これから対峙する『絶対悪』の残滓はこれまでガイルズが聖狼セイントウルフの能力強化の為に幾度となく戦ったものよりも遥かに強い。勝てる見込みがあるのか、それすらわからない存在を前にそれでもガイルズは先へ進む事を決断し、地下へと下る階段へ足を進めた。


「……だから俺は勇者ヒーローじゃない……ただの戦闘職兼冒険者だ」


 ガイルズの茶化しにあえて反応し、心に過る不安を無理矢理にでも振り払うスプリング。伝説武具ジョブシリーズの所有者では無くなり、今はその残りカスのような力を持つだけの存在になり果てはしたが、それでもまだ『絶対悪』の残滓を止めることができる可能性、力を持っている以上、進むほかないと覚悟を決めたスプリングはガイルズに続く。

 先程までとは明らかに違う臨戦態勢でスプリングとガイルズは巨大な『闇』、『絶対悪』の残滓が存在する特別監獄へと続く階段を下り始めるのだった。




 ピシィピシィと音がする。何かが砕ける音がする。数多の道を進んで来た者を追うように、新たな道を指し示すように、ピシィピシィと数ある道の1つへ向けて音を鳴らす。



ガイアスの世界


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