突き動かされる衝動
ガイアスの世界
今回ありません
突き動かされる衝動
剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス
王直属部隊である聖騎士の副隊長ノーマットと別れ、地下の監獄へと続く階段を下るスプリングとガイルズ。扉を開ける前から感じていた『闇』の気配は、扉を開けたことで激流のように溢れ出し獲物を見つけたと言わんばかりに階段を下り監獄へ進むスプリングとガイルズへ纏わりついた。
常人ならば僅かに障るだけでも、精神や体調に異常をきたす『闇』。障り続ければ発狂し破壊衝動に精神が支配されてしまう。今の監獄は人類にとって危険な場所でしかない。しかしそんな危険な場所であるにもかかわらずスプリングとガイルズは一切表情を変えず平然と階段を下って行く。
そんな2人の背中を見送ったノーマットは、監獄から溢れだした『闇』が城内に流れだし広がらないよう直ぐにその扉を閉じた。扉を閉めたノーマットの表情は苦悶に満ちていた。
『聖』を力とし『闇』からヒトクイを守る為に存在する王直属部隊、聖騎士。当然彼らは常人よりも高い『闇』に対しての耐性を備えている。しかしそんな聖騎士部隊の副隊長を務めるノーマットですらその表情を歪めてしまう程に、監獄に漂う『闇』は濃密でおぞましく危険なものであったのだ。
濃く危険な『闇』に纏わりつかれているというのにスプリングとガイルズが平然としていられる理由、それはこの二人が持つ『闇』への耐性がノーマット以上に高く、そして特殊であったからだ。
(……)
階段を下り終え、独特な気配を放つ監獄を進むスプリングとガイルズ。その道程でスプリングはあることに気付いた。
(……この気配……何処かで)
監獄内に充満する『闇』。それに混じってもう1つ『闇』が存在することをスプリングは感じ取った。その『闇』は監獄内に充満する『闇』と同じものではあるのだが、何かが違う。スプリングはその違いを上手く言い表せないが、それでもわかることはある。どちらの『闇』も強大でおぞましいということだ。
「……まだいやがるな……」
スプリングと同様に、監獄内に充満する『闇』の他に『闇』を感じ取るガイルズ。
「数は……2つ、いや3つ……あと混じっているのが1つ? ……ふふ」
自身が持つ聖狼が持つ高い嗅覚によって『闇』の数を感知することが出来るガイルズは、想定していた数よりも多い『闇』の気配に口の端を吊り上げた。
(……ッ)
監獄内に存在する『闇』の気配の数に心を躍らせるガイルズの隣でスプリングは自分に起った異変に気付いた。
(……視界が歪む……)
突然の眩暈。世界がひっくり返るような大きな視界の歪みに襲われるスプリング。
(……精神に異常はない……『闇』の影響は受けていない……)
精神に異常は見られず視界の歪みが『闇』からの影響では無いとスプリングは冷静に自分の状況を分析した。
(……何だ、この感覚……まるであの幻を見た後のような……)
ゴルルドの宿屋で見た幻。その後に湧き上がってきた衝動と同じものが自分の体を支配していくのを感じるスプリング。
(……くぅ)
歪みは大きくなり限界を迎えたスプリングの視界は一度暗転した。
「……ッ!」
それは瞬きのような一瞬。
「ここは……何処だ?」
次にスプリングが目を開くと、そこは暗く独特な空気が漂う監獄では無く晴天の広がる何処かであった。
「川……?」
何故か川岸で仰向けに倒れていたスプリングは体を起こし周囲を見渡す。
「……?」
何処かで見たことのあるような既視感を抱きつつも結局この場所がとこなのか全く思い出せないスプリングは立ち上がった。
「何だ……体が重い……まるで自分の体じゃないみたいだ」
視界の歪みは消えたが、僅かに体に圧し掛かる重みに首を傾げるスプリング。
「ここはオアシス……なのか?」
スプリングが立つ川岸の周囲には草木が生い茂っていた。しかし一度その視線を遠くに伸ばすと、そこには広大な砂漠と砂丘が広がっていた。
「……ここはヒトクイじゃないのか?」
スプリングが知る限りヒトクイに砂漠は存在しない。
「ムハードか……でも何で……」
今自分がいる場所がヒトクイでは無く、砂漠の大陸ムハードである可能性が高いという所までは何とか理解したスプリング。だがそもそもガウルド城の地下にいたはずの自分が何故今こんな場所にいるのかが理解できずスプリングは混乱していた。
「ッ!」
状況が掴めず混乱するスプリングの耳に突然響く何かが爆発したような音。その爆発音の方向へ視界を向けると、少し遠くに生えている太い木が次々なぎ倒されていく光景がスプリングの視界に映った。
「……戦っているのか?」
今まで様々な状況や場所で戦ってきた経験の蓄積によって、木々が次々と倒れて行くその光景を見て即座にそれが自然現象によるものではなく戦いによる影響だと察するスプリング。
「……ッ! ……『闇』」
そしてそれを更に決定付けたのは、大きな爆発音と共に次々と木々が倒れて行く場所から感じる『闇』の気配だった。
「……監獄で感じたものと同じだ」
戦闘が行われているだろう場所から感じる『闇』が監獄で感じた『闇』と同じものだと感じ取るスプリング。
「何か……嫌な感じがする」
『闇』の気配がこの場に漂う以上、スプリングが感じているその感覚は正しいと言える。だがスプリングが抱く嫌な感じとは、それだけを指している訳ではない。
ゴルルドの宿屋で見た幻。ガウルドが『闇』に覆われたあの幻を見た後に感じた誰かに突き動かされるようなあの衝動に似ているのだ。
「くぅッ!」
誰かに突き動かされるようなこの感覚に従わなければ後悔すると思ったスプリングは、その衝動に躊躇無く身を委ね、『闇』の気配がする方へ飛び出していった。
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