男は口で語らず左腕で示す
ガイアスの世界
今回ありません
男は口で語らず、左腕で示す?
剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス
ー ガウルド城 ー
誰もが寝静まる夜。本来なら夜間の警備の為、城内を巡回する兵たち以外の者達は寝静まっているはずなのだが、突如として鳴り響いた非常事態を告げる警笛が寝静まっていた者達を無理矢理起床させた。
外で鳴り響く警笛の音に城内の灯りが一斉に点灯し自室で寝ていた城の関係者たちが寝間着姿のまま何事かと次々と城内の廊下へ次々と飛び出していく。
「お騒がせしてまぁぁぁす!」
寝間着姿のまま自室から飛び出した城の関係者たちの横をそんな軽いノリで通り過ぎていくガイルズ。しかしその速度は速すぎて城の関係者たちは目の前で何が通り過ぎたのか理解できていない。
「止まれ!」
つむじ風のように通り過ぎて行ったガイルズの後をそう叫びながら追うヒトクイの兵たち。しかしガイルズの足に張り合える者などおらず、その距離はどんどん離され気付けばその姿を見失ってしまった。
「現在賊が城内に侵入しています、ただちに指示されている場所へ避難してください」
最後尾を走っていた兵の1人が、寝間着姿のまま茫然としている城の関係者へそう呼びかける。兵のその一言でただ事ではないことが起っていることを察した城の関係者たちは兵の言葉に速やかに従い指示されている場所へ避難を始めた。
「……見失いはしたが、賊が向かう場所はわかっている、我々も直ちに地下の牢獄へ向かうぞ」
外の門兵からの情報によって城内に侵入した賊が何処へ向かおうとしているのか把握していたこの場の指揮をしている兵がそう言うと他の兵たちが静かに頷く。
「……あの待ってください」
自分達の行動目的を共有し、いざ地下の牢獄へと向かおうとした兵たちの勢いを削ぐように呼び止める者が1人。
「あなたは……」
この場を指揮していた兵は声をかけてきた者の姿を見て直ぐにその者が誰であるのかを理解し背筋を伸ばした。
兵たちの行動を止めたのは王直属の部隊、聖騎士であることを示す装飾が施された純白の全身防具を纏った騎士だった。
「えーと、聖騎士部隊隊長からの緊急命令を今から伝えます」
王直属の言葉通り、聖騎士部隊の行動は王の意思が介在するものとして扱われ、他のどんな命令よりも優先され強い権限を持つ。それを理解している兵たちは聖騎士部隊の騎士の前で踵を揃え直立不動となった。
「現時点をもって全ての兵は賊の捜索を終了、その任務を聖騎士部隊が引き継ぐこととする……尚、現時点から終了宣言が行われるまでいかなる理由があろうと地下牢獄へ近づくことを禁止する、以上……ということなので皆さんは所定の持ち場へと戻ってください」
一般兵よりも遥かにその階級は上だというのにやけに腰の低い聖騎士部隊の騎士は、自分の言葉を直立不動で聞く兵たちへ賊の捜索終了を告げた。
「承りました……お前ら各自城内で混乱している者達を避難誘導しつつ所定の持ち場へ戻れ」
この場で指揮をとっていた兵は聖騎士部隊の騎士の命令に頷くと、周囲の兵たちへ次の指示を出していく。
「本当すみません、なんか横取りしたみたいで……」
やけに腰の低い聖騎士部隊の騎士は申し訳なさそうに、指揮をとる兵に頭を下げた。
「いえ、これは王の命ですらお気になさらず、それでは賊の捕縛の方、よろしくお願いします」
申し訳なさそうにしている聖騎士部隊の騎士へ気にしてはいない旨を伝えた兵は、そう言うと他の兵たちと共にその場から撤収していった。
「はぁ……隊長、本当にこれでいいんですか……」
撤収していく兵たちの後ろ姿を見つめながらやけに腰の低い聖騎士部隊の騎士ハイゼン=ピヨールは聖騎士部隊隊長の判断に一抹の不安を吐露するのであった。
— ガウルド城 地下牢獄へ続く扉前 —
「……着いたのはいいが……あの男……」
ガウルド城の城内でヒトクイ兵との逃走劇を続けた末、どうにか目的の場所へと辿りついたガイルズは、その目的の場所へと続く扉の前に立つ男の姿を見て物影に隠れながら首を傾げた。
「あの全身防具どっかでみた覚えが……なんだっけかな?」
一際目立つ純白の全身防具に独特の装飾。確かに何処かで見た覚えがあるのだが全く思い出せないガイルズ。
「……そこに隠れているのはわかっていますよ……『大喰らい』のガイルズさん」
「あれぇ? ……バレてます」
戦場での二つ名と共に自分の名を呼ばれたガイルズは隠れていた物影から顔を覗かせた。
「その凶悪な気配を隠そうともしないで白々しいですね」
地下の牢獄へと続く扉の前に陣取った純白の全身防具を纏った男は、ガイルズが発する気配をそう表現した。物影に隠れた所で、ガイルズが持つ強者の気配は隠しきれない。何より先程のスプリングとの戦闘が中途半端に終わったことで戦うことへの飢えが増したガイルズの気配は駄々漏れとなっていた。
「そんな凶悪な気配を纏いながらも城内で一切戦闘を行わなかった事、誰一人我国の兵に手を出さなかったことには感謝します」
もしガイルズが自分の欲望を抑えず誰彼構わずにその力を振っていたら今頃ガウルド城内で多くの犠牲者が出ていただろうとガイルズの実力を理解している純白の全身防具を纏った男は、侵入者で賊であるはずのガイルズに感謝し頭を下げた。
「ああ、まあそれは連れとの約束でしょうがなく……」
当然ガイルズ1人であれば、純白の全身防具を纏った男の想像通り、誰彼構わず暴れ回っていただろう。しかしガウルド城へ侵入する少し前、その道中でスプリングと約束をしていたガイルズは不満だというようにそう答えた。
「ここでお前が暴れたら取返しのつかないことになる、絶対に剣を抜くなってキツく言われたんだよ」
スプリングとの約束を思い出しながら名も知らぬ純白の全身防具を纏った男へそう言葉を続けるガイルズ。
「……そうでしたか、でしたらその連れの方にも感謝しなければなりませんね」
そう言いながら物影に隠れているガイルズから別の方向へ視線を向ける純白の全身防具を纏った男。
「あ、俺もバレてます?」
すると純白の全身防具を纏った男の視線の先にある物影から気まずそうにスプリングが顔を出した。
「はい、一応これでも王直属部隊、聖騎士の副隊長を務めていますので、気配の探知はそれなりにできます」
聖騎士部隊の副隊長と名乗った男は、物影に隠れているスプリングとガイルズを交互に見つめた。
「聖騎士部隊? ……ああ、お前インベルラの部下か」
聖騎士部隊副隊長のその言葉でようやく思い出せなかった記憶が蘇るガイルズ。副隊長が纏っている純白の全身防具は、聖騎士部隊部隊であることを示す物であった。
「あ、はい、そういえば名乗るのが遅れました、私はノーマット=マグワイヤーと言います」
そう名乗りながら侵入者であるはずのスプリングとガイルズに頭を下げるノーマット。
「……何だ、知り合いか?」
「いや、こいつのことは全く知らん、けど隊長とは知り合いだ」
スプリングの問に漂々と答えるガイルズ。物影から少し顔を出しながら話すスプリングとガイルズのその姿は本来であれば奇妙でおかしな光景であるのだが、ノーマットからすれば1つでも間違えば死と隣り合わせという猛獣を相手にするような緊張が続いていた。
王直属と言えば、ヒトクイの兵の中でも精鋭に位置する部隊のことを指している。ヒトクイの王であるヒラキ王や裏の王直属部隊である忍を除けば、ノーマットの実力は聖騎士部隊隊長インベルラの次に高い。だがそんな高い実力を持つノーマットですら、今のスプリングやガイルズの実力には及ばないのだ。それを実感しているからこそ自分が発する言葉1つで即座に死が待ち受けていることを理解するノーマットはこれまで慎重に言葉を選んでいた。
「えーと、それで副隊長のノーマット君は俺達を止めに来たのかい?」
ガイルズの体は物影に隠れて見えないが何処かの骨を鳴らす音がノーマットの耳に届く。
「い、いえいえ、私がここに来たのは隊長からの伝言を頼まれたためですッ!」
ガイルズのその言葉と骨の鳴る音に冷汗が一瞬にして体中から溢れだしてきたノーマットは慌て、この場にいた理由を説明した。
「インベルラからの伝言? そういやあいつがここにいないのはおかしいな」
幾度となくガイルズを聖騎士部隊へ勧誘してきたインベルラ。その行動はただガイルズを同僚として迎えるという意味だけに留まらず、同じ力を持つ同族として、そしてなにより男女としての関係の進展を思ってのことでもある。そんな複雑な乙女の気持ちを知ってか知らずか、ガイルズはインベルラがこの場に現れないことを疑問に思った。
「今インベルラ隊長は、姿を消した王を探しておられます」
「おいおい、それは本当か」
一国の王が行方不明といういきなりとんでもない重要機密を投下され驚き思わず物影から姿を現してしまうスプリング。
「ああ、あっははは……ご心配なさらず、王が行方不明になることは珍しくないので……」
「珍しくないって……お前らも苦労しているんだな」
ノーマットの疲れたような苦笑いにありもしない同情心が湧いてくるガイルズ。
「まあとはいえ今回はこれですから……」
そう言いながらノーマットは監獄へ続く扉に視線を向けた。
「我々の力では対処できない『闇』の気配……それを察したインベルラ隊長は……必ずあなたが現れると私に言いました……」
地下へと続く扉から視線を離し物影から半分だけ顔を出すガイルズを真剣な眼差しで見つめるノーマット。
「インベルラ隊長からの伝言をお伝えします……この国を守ってくれ……だそうです」
そう口にしたノーマットの目には自分たちでは対処できない悔しさと、ガイルズへと向けられる希望が複雑に入り混じっていた。
「……はぁ……国なんて知ったこっちゃねぇな」
「そんなッ!」
突き放すようなガイルズの言葉にノーマットの表情は不安と失望が入り混じる。
「俺はただ強い奴と戦うだけ、それだけだ」
いつのまにか物影から姿を現していたガイルズは、そう言いながらノーマットの肩を叩き、地下の牢獄へと続く扉を開いた。
「ガイルズさん」
扉を開いたことでより一層濃くむせ返るような『闇』の気配が流れてくる監獄へと続く階段を何の躊躇もなく下り始めるガイルズ。その背にノーマットは何故か頬を赤らめながら尊敬を宿した視線を向けた。
「ご、ご武運を!」
今できる最大限の言葉をガイルズへ送るノーマット。それに反応するようにまるで丸太のように太い左腕を上げて答えるガイルズ。
「……何が……「俺はただ強い奴と戦うだけ、それだけだ」……だよ」
左腕を上げ階段を格好つけて下って行くガイルズの後を追い同じく階段を下り始めたスプリングは、人を小ばかにしたような乾いた笑みを浮かべながらそう呟くのだった。
ガイアスの世界
今回ありません




