狼と『閃光』の想い
ガイアスの世界
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狼と『閃光』の想い
男が幼少のころ手に入れた獣の力。聖職者よりも強い輝きを放つ『聖』を持つ獣の力。この力によって男は人外の力を手に入れた。人並み外れた獣の如き身体能力。深手を負っても即座に傷が治っていく再生能力。そして獣へと姿を変える変身能力。そのどれもが人と呼ぶにはあまりにもかけ離れたものであった。
その力に悩まなかった訳では無い。だが男は前向きで能天気だった。その力を恐れるのではなく利用することを考えた。何故自分がそんな力を手にしたなどは考えない。その力の意味も考えない。ただその力を利用してこの世界を生き抜く。聖職者であった親に半ば捨てられた男は、自分に与えられたその力でこの世界を生き抜くことを考えた。
気付けば男の名は戦場で轟く程になっていた。それが元々の気質だったのか、それとも内包する獣の本能なのかそれはわからない。自分の名が売れ、誰もが自分を強者だと称えるようになった頃、この世界を生き抜くという男の目標は、強者と戦いたいに変化していた。
男は内から湧き出す欲求を解消するように戦場を巡り強者と呼ばれる者達と幾度も剣を交えた。手に持つ特大剣の印象も強く目立つため、戦場では男の首を狩ろうとする者はごまんと湧き、戦いが途切れることは無かった。
しかし巷でどれだけ強者と呼ばれる者を相手にしても男の中に湧き上がる渇きは満たされない。内包する力は強者と呼ばれる者たちを強者とは認めなかった。
それもそのはずだ。男の中に存在する力は人外を相手にするもの。人を対象としていない。人からかけ離れた力、人外の力を持つ男が人の争いで生じる戦の中でその欲望を満たすことなど不可能だったのだ。
同じ時代を生き、同じ戦場で戦う者達では相手にならない。もはや戦や冒険が今よりも盛んだった前時代の英雄と呼ばれる強者でしか自分の中にある渇きは満たされないと考えた男は、現在強者と呼ばれる者たちに見切りをつけ、戦場から去ろうと考え始めた頃、それは『閃光』の如き速さを持って戦場に現れた。
剣の道を進む者ならば誰もが一度は憧れる存在『剣聖』。若手で、いや近年でいえば一番『剣聖』の領域に近いと噂されていたその人物は男と同様に各地の戦場で暴れ回っていた。
ただの人でありながら、自分をも凌ぐ戦場での戦果と知名度を轟かせたその人物に、当然男は興味を持った。だが興味を持ったのは男だけでは無い。周囲の者達も両者が戦場で対峙しらたどちらが強いのかと噂する程だった。そして男や周囲が持つその興味は直ぐ実現することになった。
戦場で対峙する男と『閃光』。最初で最後のその戦いは近寄る事も出来ない激闘であったと、後に周囲で戦っていた者達は語っている。
男は戦いの中で『閃光』を強者と認めた。だが残念なことにそれはやはり人の枠を超えることは無かった。しかしそれでも男は『閃光』に対して興味を失う事は無かった。まだ人の枠を超えてはいないが、必ず近い内に『閃光』はその人の枠を超える存在だと感じたからだ。それほどの可能性を『閃光』と呼ばれている人物は持っていた。そして男の期待を証明するように『閃光』は驚く程の速度でその実力を高めていった。
それからしばらくしてのある日、『閃光』は珍しい代物を手に入れたと同時に見て分かる程に弱体化していた。『閃光』が手に入れた物、それは巷で伝説と呼ばれる代物であった。しかも自我を持ち、会話すらできるという伝説と呼ばれる物の中でも聞いたことが無い代物だった。
『閃光』はその代物の影響で、望まない転職をさせられ本来の力を失ったという。それは伝説では無く呪いなのではないかと絶望すらしていた。しかしそれでも男の中から『閃光』が持つ可能性は消えなかった。それは何故か。『閃光』が絶望の最中でも『剣聖』への道を諦めていなかったからだ。
— 主は才能ある者に時として大きな試練を与える —
まるで自分を捨てた親が言いそうな言葉だとそう思いながらもこれは人の枠すら超える才能を持った『閃光』への試練なのだと男は心の中で苦笑いを浮かべた。
しかしそれから数カ月後。男は久方ぶりに再会した『閃光』に失望していた。己が持つ力の意味を知り、更に強さを求めた男は、別れてから数カ月の間で更に強くなった。だが『閃光』はどうだ。確かにあの頃に比べれば強くはなった。大きな試練を乗り越えたのかもしれない。しかし男の期待に応えられる程では無かった。所詮は人の域を超えていない。そう思った男は『閃光』に対して失望の感情を抱いた。
だが今の男にとって『閃光』に対する失望など些細なことでしかなく、もはや興味を向ける対象ですら無かった。何故なら男は圧倒的強者と出会ってしまったから。内包する力が本来牙と爪を向ける相手を見つけてしまったからだ。
内包する力の本来の役目、『闇』の抹殺。『闇』を持つ絶対的強者との出会いが目の前の所詮人でしかない『閃光』への興味を霧散させていたのである。
だが後に、それが間違いであることを男は知る。目先の獲物に気を取られ近くに本当の強者がいることに気付かず目が曇っていたことを男は後悔することとなる。
常に感じていた圧迫感。それが自分への期待であることを何となく男は理解していた。常に強者に飢える狼は、男が強者になることを望み期待していた。
男は強くならなければならなかった。復讐を果たす為に。両親を殺した存在へ復讐を果たす為に。だから狼から発せられる期待の籠った圧迫感を以外にも男は嫌ってはいなかった。むしろ『剣聖』への道を進む男にとってその期待は有難くもあったし、いずれ近いうちに期待を後悔へ変えてやるというやる気にもつながっていた。
そう男にとって狼は好敵手だった。
しかし男が向けていたその想いが崩れたのは、狼が人外の力を持っていたことを知った時だった。別に狼が人外の力を持っていたという事実が問題だった訳では無い。それを狼が打ち明けてくれなかったことが、今まで本当の力を見せず手加減していたという事実が男には許せなかった。そしてなにより狼の本当の力に気付かないまま勝手に好敵手だと思っていた自分のことが男は許せなかった。その想いをぶつける暇も無く姿を消した狼に対して怒りを抱いだくこともあった。だが久方の再会を果たした狼を前に男の感情は怒りでは無く安堵していた。
— 嗚呼、今なら好敵手として向かい合うことが出来る —
男は狼の好敵手でいられることに安堵していたのだ。もう一人の戦友、相棒を失い失意の中にあった男は、これ以上自分の中から何かが崩れていくことが怖かった。
だが自分に人外のような力を与えてくれた相棒を失っても、それでも今の自分は成長し狼と対等に向き合える好敵手でいられるのだと対峙する狼を前に男はそう実感し安堵したのである。
だが後に、男は母親から散々言われてきた「油断してはならない」という言葉を思い出し狼の好敵手でいられると安堵してしまった自分に後悔することとなる。
剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス
遺体は愚か弔う魂すら今は無くただ不気味な雰囲気だけが漂い残り続ける旧戦死者墓地。本来ならば再会するには適さないであろう場所で久方ぶりの再会を果たしたスプリングとガイルズに流れる数秒の間。そこには何とも言えない空気が流れていた。
ガイアスの世界
あとがき
という訳で年末ですね、どうも山田二郎です。
こないだ後書きを書いたばかりですが、年末、今年最後のUP? 投稿ということでそのご挨拶を。
今年も『伝説の武器が装備できません』にお付き合いいただきありがとうございます。
もう何年前なのかも定かではありませんが、一度完結した作品をもう一度最初から書き直すという体で始まったこの物語ですが、何とも全く終わりが見えず気付けば内容も全く違うものになってしまったという状況(当初は新規エピソードはなるべく抑えて修正をメインでいく予定でした)。
現在の物語と繋がっていない内容になっているお話覗いてくれて読んでくださっている方々には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。
さて、そんな訳で反省しても全く変わらず来年も同じようなペースになると思うので一体完結するのはいつになるかわかりませんが、お付き合いいただけると本当にありがたいです。
毎度のこになりますが、誤字脱字、特に辻褄が合わない等々は生暖かい目とお気持ちででスルーしていただけると大変助かります(汗
それでは皆さんにとって来年が良い年でありますように。山田二郎でした。
あっ次回の投稿は一週お休みするかもしれなません(汗
2023年12月28日 某スマホゲームのクリスマスイベント周回に悪戦苦闘しながら




