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いい加減真面目で章1(スプリング編)認められなかった男

ガイアスの世界


 今回ありません

 

 いい加減真面目で章1(スプリング編) 認められなかった男




 男が意識を取り戻した時、そこは光の迷宮ダンジョンの最奥にあったあの隠し部屋では無くヒトクイで冒険者や戦闘職になった新米ルーキーが集うゴルルドの安宿の1つだった。

 新米ルーキーが挑むには最適な迷宮ダンジョンが近くにあるゴルルドには駆けだし冒険者や戦闘職を標的ターゲットにした安宿がいくつも存在する。当然安宿だけあって、部屋の作りは簡素でろくな手入れもされておらずただ体を休めるだけの空間である。しかしまだ稼ぐことができない新米冒険者や戦闘職にとってはとんなにボロくとも有難い場所である。


「また……か」


 そんな新米ルーキーが止まる安宿で目覚めた男は天井にいくつもある正体の分からない染みを見つめながら一体何度目だろうと男は、宿屋のベッドで意識を取り戻した自分の状況に嘆息を漏らした。


「ッ」


 だがそれと同時に湧き上がる大きな喪失感。


 今まで意識を取り戻した時、必ず自分へ声をかけてくれた存在がいた。しかしその声はもう無い。肌身離さずという言葉通り、今まで嫌になるほど常に近くいた存在の気配が無いことを男は実感した。


「……」


 安宿のベッドから上体を起した男はベッドの脇に置かれた剣の存在に気付いた。


「……ッ」


 見知らぬというにはあまりにも自然にベッドの脇に置かれたその剣を手にとる男。


「……」


 凝った作りでは無い装飾。柄を握った時の瞬時に馴染む感触。鞘から抜剣した時に生じる刃と鞘が擦れる音。軽く一振りした時の心地よいとさえ思う適度な重さ。そのどれもが男が思い描いた理想。かつて若手で一番『剣聖』に近いと呼ばれていた男が『剣聖』になった時、振るいたいと思い描いた剣。間違っても魔法使いが扱うロッドでもなければ突然喋り出したり、まるで呪いのように所有者の戦闘職を強制的に魔法使いへ変更してしまったりする代物ではない。そう所有者に遠回りや苦行を強いるような不良品ではなく、男が持つ力を最大限引き出してくれる理想を具現化したような剣だった。


「……」


 だが夢にまでみた理想の剣を前にしてその表情には一切の笑みがない。男の表情から喪失感が消えなかった。


「これが……詫びとでも言いたいのか?」


 その剣が彼らからの置き土産であることを男は何となく察した。


「……ッ!」


 光の迷宮ダンジョンの最奥にあった隠し部屋。どんな用途があるのか全く分からない代物が沢山並んでいたあの場所で意識が途切れる寸前に男が聞いた彼らの最後の会話。


 — スプリング=イライヤは……私が持つ真の力を発揮するには値しない人物です —


 彼が放った言葉。スプリングが最も近くで最も信頼していた者の言葉。それが彼のスプリングへ対しての評価だった。

 

「ぐぅッ!」


 一瞬にして怒りが頂点へと昇ったスプリングは剣を安宿の床へ叩きつけようと腕を振り上げた。しかし振り上げた所で腕の動きが止まる。


「……いや、あいつは悪くない……あいつの力を引き出せなかった俺に資格がなかっただけだ……」


 あれだけ色々と巻き込んでおいて、扱う資格が無いと簡単に切り捨てられたという事実に裏切られたという怒りが一瞬胸の中に込み上げたスプリング。しかしすぐにその考えは間違いであり、彼を、自我を持つ伝説の武器ポーンを扱いきれなかった自分が悪いのだと思い直したスプリングは、手に持つ剣を静かに鞘に納めた。



 剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス



 山岳地帯にある町ゴルルドの安宿で目覚めてから数日後。スプリングは日没が近いゴルルドを飛び出し首都ガウルドを目指していた。

 既に時刻は夜。ゴルルドからガウルドまで整備された一本道があるとはいえ、夜は夜行性で凶暴な魔物の活動が活発になる時間帯。新米ルーキー冒険者や戦闘職であれば例え整備された道であっても不意な夜の行動は危険が伴いお勧めはされない。

 しかしスプリングは新米ルーキーではない。仮にも一時期は若手で『剣聖』に一番近いと呼ばれていた男である。夜行性で凶暴な魔物が出てきたとしてもスプリングの実力ならば例えポーンがいなかったとしても問題は無い。

 獲物を狙い潜む魔物たちの気配など全く気にせずスプリングはガウルドへ続く夜の一本道を疾走していた。


 ガウルドへ向かわなければならないという半ば使命のようなものにスプリングが駆り立てられ突き動かされている要因は、ゴルルドで見たガウルドが『闇』に呑まれるという幻の光景にあった。

 突然湧き出すように現れた『闇』がガウルドを包み込む光景がスプリングには一瞬ではあるが見えたのだ。だがガウルドが『闇』に呑まれるという確証はない。しかしその光景を見てから胸騒ぎが止まらなくなった。しまいにはまるで幾人もの自分から、ガウルドへ行けと言われているような幻聴さえ聞こえてくる始末。湧き上がる不安を胸に気付けば日没が近いゴルルドをスプリングは飛び出していた。

 ゴルルドからガウルドへ続く一本道を疾走するスプリングの速度が更にあがる。その速さは夜行性の魔物が近寄ることすら許さない。一本道を駆け抜けるその姿はスプリングが『閃光』という二つ名で呼ばれていた頃、いやそれ以上だった。


「……」


 懐かしくも真新しい感触。それもポーンたちからの置き土産なのだろう。転職場で直接確認した訳ではなかったが、スプリングは体の動きや軽さから自分の戦闘職が上位剣士に戻っていることを確信していた。理想を具現化した剣も含め、ポーン達が持つ能力、技術ならばそれぐらい楽々とやってしまうことは可能だろうとスプリングは思う。

 そしてスプリングは気付く。既に自分の能力が『剣聖』への最低限の水準に達していると。それは思い上がりでもなければ誇張や見栄でも無い。それは純然たる事実。今までの経験が蓄積された結果だった。

 夢の1つが既に手に届く所にまで来ている。だがその事実を前にしても理想を具現化した剣を前にした時と同じようにスプリングの表情は浮かない。

 今そんなことを考えている場合ではないというのは当然ある。しかしその建前の奥底にあるスプリングの心が素直に『剣聖』になることを認めようとしない。


(そうか……俺はあいつに……ポーンから認められたかったんだ)


 ポーンに認められたい。スプリングの中にある本心は、そこにあった。


 自我を持つ伝説の武器ポーン。それはスプリングが求めた剣では無かった。そもそも剣ですら無かった。出会いは最悪と言っていい。まるで呪いのように上位剣士から魔法使いへ強制的に転職され、一時は『剣聖』への道が遠のいた。

 どれだけ経験を積んでも白紙にされるように、次々に転職させられ、一度としてポーンを武器として扱うことも出来なかった。だがそれでも幾度もの窮地を乗り越える中でスプリングはポーンに対して友情や戦友のような絆を抱いていた。しかしそれは自分の一方通行な想いだったのだとあの光の迷宮ダンジョンの最奥にある隠し部屋でスプリングは知った。


「くぅ……あああああッ!」


 湧き上がる様々な感情が滅茶苦茶に絡み合い爆発するスプリング。一本道の真ん中に現れた大熊ビッグベアへその行き場のない感情をぶつけるように抜剣したスプリングは、光のような速度で大熊ビッグベアを切り刻んだ。新米ルーキー冒険者や戦闘職ならば十人でやっと勝てる大熊ビッグベアを瞬殺したスプリングは晴れることのない感情のままその速度を緩めることなく夜となり静けさが広がるガウルドへ駆け抜けていくのであった。



 


ガイアスの世界


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