最初の『 』
ガイアスの世界
今回ありません
最初の『 』
剣と魔法の力渦巻く世界ガイア
あの日何の前触れも無く突然ガウルド城の地下から吹き出した『闇』は一瞬にしてガウルドの町とそこに生きる者たちを飲みこんでいった。肉眼でもはっきりとわかる『闇』。その性質を知らない者は、町の中にいる家族や恋人、友人の安否を心配し城壁のように町を覆った『闇』に不用意に近づき呑まれていった。
この前代未聞の非常事態に対処する為、唯一『闇』に対抗できると言われていたヒトクイ随一の聖職者たちが集まりこの非常事態の対処に乗り出した。しかし数百年という時の流れの中で徐々に『聖』が衰退していた聖職者たちの力ではガウルドを呑み込んだ『闇』を対処することが出来なかった。逆に『闇』の影響で心を蝕まれ聖職者たちはその心を負の感情に染め上げられ絶命、全滅することになった。
まるでそれを見計らっていたように数百年前の間、不気味なほど大人しくしていた魔族たちが活動を再開。突如現れた『闇』に引き寄せられるように魔族たちはガウルドに集まり出した。
強大な『闇』によって力が活性化した魔族。『聖』という『闇』への対抗手段を失ったヒトクイの人々。その差はあまりにも大きく、小さな島国ヒトクイは一カ月も経たないうちに魔族によって支配された。
ヒトクイの一部に雪がちらつき始めた初冬。希望を失い魔族からの蹂躙を受け入れるしか無く希望を失っていた人々の耳にこんな噂が広がりだした。
ヒトクイ各地にいる魔族を次々に倒している者がいる。
その噂は希望を失っていた人々に僅かな光を与えた。そしてその噂は真実だった。各地で暴れる魔族を目にもとまらぬ動きで切り伏せていくその人物は『閃光』と呼ばれ人々の心に光を灯した。
当然、この噂は魔族たちの耳にも入っていた。唯一自分たちに対抗できる存在、それは魔族にとって邪魔な存在であると同時に自分の名を上げる絶好の好機でもあった。
人々の心へ灯った僅かな希望の光を潰す為、己の名を上げる為、下級や中級と呼ばれている魔族たちは自分たちに歯向かっている『閃光』討伐へと乗り出した。しかし『閃光』の力は噂以上に強く、討伐に出た魔族たちのその殆どは返り討ちにされた。
噂が真実となり人々は『閃光』を救世主、或いは勇者と呼ぶようになった。人々の心に再び希望の光を灯した『閃光』の快進撃は凄まじく、初春を待たずしてその歩みは魔族によって最初に支配されたガウルドへと辿りついた。
例え魔族の返り血を受けても穢れることのない純白に染まった全身防具を纏い、己の身の丈ほどもある巨大な盾を軽々と振い、あらゆる武器へと変化させることが出来る剣を持った『閃光』がガウルドへ到着した時、待ち受けていたのは数千を越える魔族の大群。そのうち百人は一人いれば国を支配出来ると言われている上級魔族たち。だがそんな上級魔族たちを相手にしても『閃光』の強さは圧倒的だった。
『閃光』へ向けられた上級魔族の攻撃や魔法は身に纏う全身防具と巨大な盾で全て無効化し、様々な武器へと形を変える剣によって魔族たちは屠られていった。もはやその戦い方は人間では無く戦の神と言っていい。『閃光』の圧倒的な戦いを前に、上級魔族ですら戦意を喪失する程だった。圧倒的な力を前に魔族との戦いは『閃光』の勝利で終わるかに見えた。だがそうはならなかった。
あの日、ガウルドが『闇』に呑み込まれた時、同時にその産声をあげた存在。人々にとっての救世主、勇者である『閃光』が存在するように、魔族を統べる者、魔王がその姿を現したのだ。
白と黒。『聖』と『闇』。その色と性質以外、対峙する二人の姿はあまりにも酷似していた。二人は瞬時に互いを理解し、その心が交わらないと悟り剣を交えた。
その剣戟は島国を越え、世界全土に鳴り響き戦いは七日続いた。そしてその戦いに世界は耐えきれず壊れた。
『閃光』と『魔王』による七日続いた戦いは世界全土の人々の心に悪意、負の感情を植え付けた。世界全土から放たれる『闇』は、ガウルドを覆っていた『闇』を更に膨張させた。
人が発する悪意を吸い上げ続けた『闇』は際限なく膨れ上がり何もかも飲み込んで行った。人の悪意によって膨れ上がる『闇』を止める術は無く、その膨張は世界にまで及ぶ。そして女神が創造した最初の世界は暗闇だけが広がる破滅の世界となった。
剣と魔法のち~渦巻く世界ガイアス
— ヒトクイ 新米の町ゴルルド —
「何だ……あれ?」
近くに新米冒険者でも簡単に踏破することが出来る光の迷宮があることから、新米の町とも呼ばれるゴルルド。首都ガウルド近くにある山岳地帯ということもあり晴れている日は、ガウルドの全体を見おろすことが出来る。
「……ん? あれ?」
宿屋の窓から覗く光景に男は混乱していた。
「黒い壁が無い……」
男が見ていたのはガウルドが黒い壁に覆われた光景。しかしそれが幻であったというように今男の目に映るガウルドは普段と何ら変わらない日常の姿をしていた。
「……何だ……胸騒ぎがする」
突然襲って来る逃れることのできない悪寒。直ぐにでも行動を起さなければ取り返しのつかないことになるという危機感と説得力が男の体を震わせる。
「……行けば……いいのか……ガウルドへ」
確証はない。だがまるで幾人もの自分がそこへ迎えと言っているように男は突き動かされた。
(でも……今の俺に何が出来る……もう俺には何もないのに……)
ゴルルドの宿屋を飛び出した男は自分の腰に吊るされた剣を一瞬見つめるとすぐさま視線を前に戻し走り出した。
(もう……こいつの声が聞こえない……何も答えてくれない、答えられなかった俺に何が出来るというんだ)
力を失いただの上位剣士へと戻った男は、自分の無力さを痛感しながら、それでも追い詰められたように一見平然としているガウルドへ向かうのだった。
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