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いい加減真面目に集合で章5 内側の想い、外側の想い

ガイアスの世界


 今回ありません

 


 いい加減真面目に集合で章5 内側の想い、外側の想い




  — 場所不明 —



 濃霧漂うその場所は世界を創造する女神によって数奇な運命を辿る少女たちが集められた空間に酷似していた。だがそこに『女神の面影』を持つ少女たちの姿はない。

 彼女たちの代わりその場にいたのは、一目見ただけで誰もが王という印象を抱くだろう姿、そしてその姿に負けない雰囲気を持つ初老の男と地面につく程の長い髪をなびかせる女性だけだった。

 何処か数奇な運命を辿る少女の一人と酷似した顔をしている女性を前に膝を地につけてかがむ初老の男。


「……」


 家臣や側近がそうするように女性を前にして跪く初老の男。本来、どんなことがあろうと国の長であり国を統べる王が誰かに膝を折り跪くことは許されない。だがもしそんな存在がいるとすれば、それは人という理、人智を越えた存在である神だけである。

 

「……顔を上げなさい」


 神を前にして人が持つ立場や道理は通じず、残されたものは人類という存在のみ。初老の男の前に立つ女性は紛れも無く王よりも高位な存在である女神であった。


「……」


 人智を越えた存在、女神に顔を上げることを許されゆっくりと顔をあげる初老の男。


「……久しぶりですねキング、息災そうでなによりです」


 以前から面識があるのか、顔を上げた初老の男を見た女神は、懐かしむように男の名を口にし微笑を零した。


「ハッ」


 人の姿をした自我を持つ伝説の盾、伝説武具ジョブシリーズの一人キングは、女神の微笑に一切表情を変えること無く返事をした。


「この世界においての私の肉体、彼女をこれまでよく守り続けてくれましたね、感謝します」


 キングの存在意義である所有者の守護。守りを司る盾としての役目、自分がこのガイアスで受肉する為の肉体を守り続けてきたキングへ労いと感謝の言葉をかける女神。


「……ハッ」


 女神の労いに対して少し間を開けたキングは再度短く返事をした。


「……自分のこれまでの行動、役目に何か不満でもありますか?」


 女神の御前、もちろん己の心境を表情に出すような愚かなことはしないキング。しかし女神の目は僅かに揺らいでいたキングが持つ本心を見逃さない。


「……いえ、そんなことはありません」


 人智を越えた存在である女神を前にして嘘は通用しない。それを理解していて尚、キングは揺らぐ己の心を隠しそれを否定した。


「……女神フリーデの肉体をお守りできたこと、光栄に思います」


 これ以上、己の心を見透かされぬよう淡々と粛々に、御前の女神へ自分の役目を全う出来たことを光栄に思っていると言葉を続けるキング。


「……そうですか……」


 神を前に嘘を貫くキングを前に笑みを浮かべたまま短く頷く女神フリーデ。


「……では、そういうことにしておきましょう」


 本心が言葉に宿っていないことを理解したうえで、あえてキングの嘘を咎めることをしない女神フリーデ。


「……これから私は、この世界の破壊を始めます」


 慈愛に満ちた表情のまま、跪くキングへ己がこの世界で受肉した神意を告げる女神フリーデ。一切淀みの無いその言葉は、世界を生み出した創造を司る女神、この世界の母と言っていい女神フリーデの慈愛に満ちた表情から発せられたとは思えない程に真逆のものであった。

 それは何度世界を創造しても、滅びから逃れることが出来ないことに疲弊し、その心を『闇』へ堕した女神の末路。世界を創造するという立場でありながら、破壊という答えを導き出した女神の狂気。


「……キング、あなたの……いえ、あなた達の力を貸していただけますか」


 それはお願いでは無く、女神による神託。抗える者など本来存在しない。


「……ハッ」


 己の存在意義、盾としての使命を全うする為、いや、違う。全ては自分の所有者である少女を守る為。『闇』に堕ちて尚、己の使命、理想を実現しようとする破壊へと堕ちた女神フリーデを前に、キングはもはや呪いであるその言葉に己の心を見失わないよう抗いながらも偽り頷くのだった。




 剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス




 全ての接触を拒絶する絶対防御をキングが展開したことで、ブリザラの姿をした女神フリーデの動きが止まったことで、時間の猶予が生まれたアキたちはその僅かな時間を使い、この状況を突破する方法があるというルークと作戦会議を始めた。それから数分。


「……とりあえず、盾野郎が俺達を敵視しているわけじゃないってことは何となく理解できた……」


 現在の自分たちが置かれた状況の説明をルークから聞き、キングが自分たちを敵視して絶対防御を展開した訳では無いことを理解するアキ。

 一見展開した絶対防御は外側からの接触に対して反応していたよう思えるが、その本当の目的は内部にいる女神フリーデと名乗る存在の行動を制限する為だとルークはキングの行動を推測していた。


『……でもあの状態は長く続かないはずです……何度も言いますが内部にいる者が持つ力はそれほどに強大……いつキングの絶対防御が解かれてもおかしくは無いと思ってい……』


「ああ、それはもういい、分かった……」


 先程から同じ無い内容を何度も繰り返し念入りに説明するルークの言葉を遮るアキの表情は不満げであった。


「……それより俺は納得できないことがある、絶対防御が解除された後、なぜ俺を突っ込ませない? ……どう考えたって俺の方がお前やそこの女より強いだろう」


 ルークから一通りの作戦概要を聞いたアキは、絶対防御が解除された後の自分の役割に納得が出来ず不満を零した。確かに絶対防御が解除された後、女神フリーデへ攻撃を仕掛けるという点に置いて、成果を上げられる可能性があるのはアキだけであった。


「……それに……その、何だ……ええと、な、何で俺があのオウサマに話しかけ続けなきゃならないんだ?」


 しかしルークは女神フリーデへ攻撃を仕掛ける役目をアキでは無くソフィアに委ねた。そして攻撃を仕掛ける役目から外されたアキにルークが与えた役目は、ブリザラへ呼びかけ続けることであった。

 だが攻撃を仕掛ける役目を外されたということよりも、その代わりに与えられたブリザラへ呼びかけ続けるという役目の方が納得できないアキ。その言葉は何処か歯切れが悪く、普段血色の悪いアキの顔は何故か赤みがかっていた。


「むふふふ……それはねぇ」


 そんな突然様子がおかしくなったアキの姿をみて悪戯な笑みを浮かべるソフィアは、この作戦を立案したルークへ意味ありげな同意を求めた。


「えええ……むふふふ」


「おい、なんだその気味の悪い笑みは! お前ら俺に喧嘩を売っているのか?」


 自称、伝説武具ジョブシリーズであるルークに顔は存在しないが、そんなルークがソフィアと共に自分を見つめ人を苛つかせるような笑みを浮かべているというような想像勝手にしてしまったアキは、喧嘩なら買うぞという勢いで拳を鳴らした。


『ま、まってください、ちゃんとした理由ならあります……』


 今にも内包する黒竜ダークドラゴンの力を解放しそうな勢いのアキを慌てて止めるルーク。


『……この国の王も仰っていましたが、まずこの狭い空間であなたの力はあまりにも強大で不安定だ……』


 アキやソフィアが今居る場所はヒトクイの首都、ガウルドの象徴であるガウルド城の地下に存在する特別監獄である。周辺を簡単に焼土と化す黒竜ダークドラゴンの力を持ち、その制御もままならないアキが狭く閉鎖されたこの場所で戦い始めれば、この特別監獄が潰れるのは明白。そればかりか地上にある城やその周辺にまで被害が及びかねないというのは、特別監獄で夜歩者ナイトウォーカーとの戦闘になった時、ヒトクイの王であるレーニから事前に注意されていたことであった。


『先程突然現れた大男とのど突きあいなんて正直ハラハラしましたよ』


 そして突如として乱入してきたガイルズとのど突きあいにはハラハラしたと感想を付け足すルーク。


「……」


 そのことについては何か思うことがあるのか反論しないアキ。


『ですが、あなたをこの役目にした一番の理由は、あの少女との関係値です……何故か姫とあの少女はこの短時間で友人と言っていい親しい間柄になりましたが、あなたとあの少女の間にあるのは友人や仲間のものではなくもっと深い関係……』


 今までの会話から何となく、野暮な説明はしない方がいいと判断したルークはそう言って言葉を濁した。


「深い関係って何だ?」


 想像通りというかルークの言葉を察することが出来ないアキは首を傾げる。


「兎も角、我々よりもあの少女と都会関係値にあるあなたには、少女の意識を表へ浮上させるために、呼びかけ続けてほしいのです」


 ブリザラが女神フリーデに乗っ取られてからアキがずっと呼びかけ続けていたことを見ていたルークは二人の間に当人たちも気付いているのか分からない強い絆があることを理解した。そしてその強い絆こそがこの状況を突破する鍵であると踏んだルークは、ブリザラへ呼びかけるという役目を任せるとアキに説明した。


「そうだよ……だからブリザラへの熱烈な呼びかけ期待してるよ鎧の人」


 ルークがそう説明する中、横でニヤニヤした表情を続けていたソフィアは、深い関係と何なのか理解できず首を傾げるアキの肩をそう言いながら軽く叩いた。


「熱烈? チィ……何の事だ、ニヤケやがって……」


 何か意味ありげな言葉とその表情の真意を理解することが出来ないアキは気に喰わないという表情をソフィアに向けた。


「それに俺は鎧の人じゃない、アキだ」


 鎧の人と呼ぶソフィアに対して苛ついた表情で名乗るアキ。


「そう、私はソフィアよろしくアキ!」


 どれだけ不機嫌で苛ついた表情を向けようとも、一向にニヤケ顔が戻らないソフィアは、アキの手を無理矢理掴むと握手した。


「……」


 握手するソフィアの表情にブリザラの顔が重なるアキ。


「友情より愛情、乙女のハートを射抜けよ色男イケメン! 状況によっては抱きしめてチューしちゃえ!」


 折角ルークが濁したいたことをはっきりと口にしてしまったソフィアはアキと握手していない方の手の親指を立てると人を苛つかせる笑みをもう一度浮かべた。


「なっ! 馬鹿野郎!」


 何故二人がニヤケていたのか、そして何を言いたかったのかようやく理解したアキは思わずソフィアの手を払いのけ怒鳴りつけた。


「アッハハハハ!」


 恥ずかしがっているような、そんな自分に戸惑っているようなアキを見ながら感情を爆発させたように大声で笑うソフィア。


「……お、お前なんかさっきと性格が違い過ぎないか?」


 先程とはまるで別人のようにはしゃぐソフィアのその姿に怒りを通り越し呆れるアキは、一瞬ソフィアの顔に重なったブリザラの顔の所為で動揺が隠しきれない。


《……そうか、これが年相応……本当の姫の姿なのですね)


 どうみても戦いを前にしている状況とは思えない気の抜けた空気感の中、ルークは自分の所有者がみせる年相応の心からの笑みに、本来あるべき彼女の姿を見たような気がした。


 

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