愛を否定し世界を呪う者
ガイアスの世界
今回はありません
愛を否定し世界を呪う者
剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス
ヒトクイが統一される前。ガウルドが首都の名では無く1つの強国として呼ばれ小さな島の中で恐れられていた頃。ガウルド国の王は現在ヒトクイの象徴でもあるガウルド城の地下にある監獄のある階層の下に新たな階層を造らせその場所を特別監獄と命名した。
当時の特別監獄は、現在のように危険な力を持った存在を隔離する為の場所では無く、国に対して不利益な企てをしていた者や実際に実行した者たちといった政治的な意味で危険な人物を収容する場所であった。
極度の人間不信に陥っていたガウルド国の王は国や自分へ不満を抱く者、歯向かう者を片っ端から特別監獄へと送っていった。それは家族や身近な側近も例外では無く、人間不信に陥っていた王の琴線に触れれば容赦なく特別監獄送りになっていた。
当然特別監獄へと送られた者の中には無実であった者も多くいた。
人間不信によるガウルド王の独裁支配による特別監獄送りは、ヒラキ率いる武装組織によって王が討たれ、国が亡びるするまで続いた。
ガウルド国滅亡後、ヒラキたちの手によって政治犯や反逆者として特別監獄に収監されていた者たちの解放が行われたが、生きていた者は少なくその殆どが特別監獄で息絶えていた。その中には女子供もいたという。
彼ら彼女らのガウルド王に対しての恨み憎しみは消えることなく未だ特別監獄の中で残り続け漂っていた。
統一前から残り続ける特別監獄送りとなった者達の恨み憎み。それは負の感情という形で特別監獄の中を漂う。そんな漂う負の感情いとは少し毛色の違う気配が特別監獄の最果てにある小さな部屋で蠢いていた。
— ……騒が……しい —
その小さな部屋から何者かの声が響く。全てに絶望しているような声。しかしその声は全てに絶望するには早すぎるぐらいに幼い。
— そうか…… —
何かに気付いたというように囁く幼い声。
幼すぎるその声の正体は黒く光る石。小さな部屋の中央に置かれた黒い石から聞こえてくるものだった。石自体は少し高価な宝石ではあるが特に珍しい物では無い。しかし問題なのは石に宿る意思。そしてその意思に宿る意思が発する負の感情であった。何十もの厳重な封印術式が施された黒い石は、その姿だけで危険な代物であることがわかる。
— 姉さんもここに来ているんだ —
特別監獄内に漂う負の感情を支配しているようなドス黒い輝きを放つ石は、特別監獄内の騒がしさの中に見知った人物の気配があることを感じ取っていた。
— 既に恨み憎しみを向ける相手はおらず、ただ漂うことしか出来ない家畜共の残した食料……僕が残さず平らげて利用してあげるよ —
黒い石に宿る意思がそう言葉にした瞬間、これまで特別監獄内に漂っていた負の感情が吸い寄せられるように小さな部屋へと集まり始めた。
— 姉さんの失敗は、あの家畜と一緒にいたこと……僕を封じる為の儀式をあの家畜に邪魔されたたからだ…… —
集まる負の感情の濃さに耐えられず1つまた1つと黒い石に施されていた封印術式が壊れていく。
— そして強大な負の感情を宿す何かをこの場所に招き入れてしまったこと —
次々と解かれていく封印術式。それに比例するように黒い石から放たれる光は強く暗い輝きを増していく。
— さあ、起きる時間だよ、また僕の手足となってくれ……愛しのギル —
黒い石に宿る意思が愛を囁くようにそうギルと名前を発すると、部屋の中が全て負の感情で覆い尽くされる。黒い空間となったその場所からまるで生えてくるように一本の柱が姿を現す。
「ああ……ああああああああ!」
黒い空間から生えた柱は、粘土のように人の形を作ると卵の殻を破るようにして柱は砕け散るとその中から女性が歓喜のような産声を上げ姿を現した。
「ああ、ああああ……またあなたに会えるなんて……」
生まれた姿のまま女性は、黒い石に宿る意思に対して歓喜の声をあげる。
— 闇歩者である僕が存在している限り、眷属である君は死なないよギル —
黒い石に宿った意思は、己が『闇』の眷属、闇歩者であることを告げると、目の前で再会の感動に酔いしれる自分の眷属、夜歩者ギル=レイチェルバトラーにそう語りかけた。
— ああ、うふ……あん……ああ……スビア……私の愛するスビア……ああ —
目の前の黒い石に宿った意思をスビアと呼ぶギルのその声には、もう二度会えないと思っていた者と再会できたという感動と自慰の時に発せられるような艶めかしいものが混じり合っていた。
— ……さあギル……仕事の時間だ……僕の為にまた働いてくれ —
生まれたままの姿で再会への感動と性的快楽の中にいるギルへそう告げる黒い石に宿る意思。
「ああああああああああ!」
意思に宿る意思のその言葉が引き金となったのか、絶頂を向かえるギル。
「はぁはぁはぁ……はい!」
絶頂しその余韻を残しながらギルは黒い石に宿る意思の言葉に頷くと、生まれたままの自分の肉体に『闇』を纏う。すると『闇』はまるで喪服のような給仕服へと形を変えた。
— これから君がやることは、僕がこの石から解き放たれ完全に復活するまでの間、この場所にいる家畜の相手をしてほしい…… —
黒い石に宿る意思はギルへ自分が復活するまでの間、特別監獄に居る者達の相手をすること命じた。
「はい、仰せのままに……」
仕事状態になったギルは凛とした姿で給仕服の長いスカートを綺麗に翻しながら黒い石に宿る意思の前に跪き頷いた。
「……1つよろしいでしょうか」
黒い石に宿る意思の前に跪いていたギルは顔を上げると、今から1つ尋ねることへの許し求めた。
— 姉さんのことだね ー
ギルが自分に何を尋ねようとしているのか理解している黒い石に宿る意思は、先回りするようにそう答えた。
「……はい、力が増幅したとはいえどう足掻いても私ではあのお方を抑えることはできません……どうすれば……」
以前よりも力が増幅していることを実感するギル。しかしその力をもってしてもあのお方と呼ぶ人物を抑えることは出来ないとギルは黒い石に宿る意思に意見を求めた。
— 大丈夫……彼女は……姉さんは僕の気配を感じて一直線にやって来る…… ギル、君は気にせず家畜たちの相手をすればいい —
「はい……それでは行ってきます」
黒い石に宿る意思の言葉を聞き、問題が解消したギルは頷くと、家畜の相手という自分の仕事をこなすべく己の体を『闇』へと変化させその場から姿を消した。
— ……もう僕は騙されない……愛なんて知らない……僕は、僕を生み出したこのクソみたいな世界を滅ぼすよ……レーニ姉さん —
寸前まで自分の眷属であるギルに対して愛を囁いていたはずの黒い石に宿る意思、『闇』の眷属、夜歩者の完全上位存在である闇歩者スビアは、愛を囁いたその声のまま愛を否定し自分を生み出したこの世界を呪うのであった。
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