狭間で章12 悪意の申し子
ガイアスの世界
今回はありません
狭間で章12 悪意の申し子
命を奪うという点において、人類という生物はことさら他のどの生物よりも敏感で貪欲だ。他の生物が持たない素晴らしくも愚かすぎる知能を持つ人類は、その好奇心と探求によって、これまで命を奪う様々な道具や方法を作り出していった。そして命を奪うという行為は、他の生物だけでは無く同種族にも向けられる。いや、もはやそちらの方が主軸といっても過言では無いのかもしれない。
それほどまでに人類は望む望まないに限らず、争いを求めていた。そう、人類は大なり小なり争いの中にいなければその存在を保てない哀れな生物なのだ。
その要因の1つが、人類一人一人が持つ自我の存在、そしてその自我によって生み出される悪意、負の感情なのだろうと彼は思っていた。
木や石で作った武器を使い原始的な争いを行っていた頃の人類はまだ単純だった。この頃の人類は自分と他者の境界が曖昧であり、はっきりとした自我は存在せずそこに悪意は無く、生き残りたいという生存本能から来る争いだった。
しかし時代が進むことによって知能が発達し、様々なことが出来るようになった人類は、個人としての明確な自我が芽生え理性や知性によって自分と他者の境界をはっきりと認識するようになった。するとそこに生まれてくるのは、自分と他者の違い、差であった。
個人としてはっきりとした自我が芽生えた人類は、自分と他者を見比べることで、時に喜び時に悲しみ時に妬み時に怒ると言う様々な感情を抱くようになった。
特にその中でも悲しみや妬み、怒りと言った負の感情は他者との差と密接に繋がりっており、他者に勝る劣るという差が悪意を生み出しやすい環境を作り出した。
そして個々の差によって生じる大小様々な争いの果て、人類は史上最悪な武器の存在を知ってしまう。直接対峙しなくとも相手の命を奪うことができる方法を知ってしまったのだ。
言葉。それは人間が人間である証明、知能の象徴と言える。他者と自分の意思疎通を促す方法であり、本来言葉に人を殺す効果は無い。しかし人類は知ってしまった。悪意せた言葉で追い詰めることが出来れば、人間は直接手を下すことなく勝手に死ぬということを。
言葉で人を殺すことができることに人類が気付いたのは、世界中の人間と容易に繋がることの出来る仕組みが構築され己の言葉を比喩無く指一本で世界中へ広めることができるようになった時だった。その仕組みは世界との距離を縮めはしたが、それ以上に悪意を纏った言葉が世界中へ拡散するようになった。
人の善意すら捻じ曲げられ悪意が世界に蔓延し始めた時代。容易に言葉で何処の誰とも分からない他人の心を傷つけ追い込み自死させる時代。そんな人間を他人事のように見ながら楽しむ時代。
そんな人類の終末期の始まりの時代に彼は生まれた。
彼は生まれた瞬間からその身に悪意を浴びた。生まれたこと、生きていること、その存在自体を悪意だもって否定された彼。しかし彼には素質があった。生まれた時代が噛み合っていたといってもいい。彼には世界に蔓延する悪意と共存するという素質があったのだ。
まるで悪意と友人であるかのように彼は悪意を好み、そんな彼を悪意も好んだ。他者から悪意を向けられれば、彼はきそれを利用し悪意を向けたその相手に何倍にも増幅した悪意を返した。
彼の悪意の籠った言葉によって自死した者は数えきれない。まさに彼は人類の終末期を象徴する存在といっても過言ではなかった。、歴史に残るどの大量殺人者よりも、残虐な方法で国民を殺してきた独裁者たちよりも彼はその短い生涯の中で多くの人間をその悪意によって殺し続けたのだから。
人類は悪意と共に存在している、悪意が消える時、それは人類という存在が滅んだ時だ
これは死刑台の上で彼が最期に残した言葉だ。彼が残したこの言葉は、彼が死して百数十年後、証明されることになる。
そして彼のことをこうして語る私という存在は、創造主が彼を参考にして悪意を植え付け造り出した自我、最終的に危険であると判断されその存在が抹消された5番目の伝説武具だ。
生みの親である創造主は、抹消が決まった私にこう言った、君、底なしに性格悪いんだね、と。
— ガウルド城地下最下層 特別牢獄 —
『……あっはははははは!』
自分が望んでいた回答をソフィアから聞けず一瞬驚いた声をあげた自称、5番目の伝説武具ルークは、突然その場にいた者全員が何事かと驚く程の笑い声を上げた。
『……まさか縁もゆかりもないであろうお嬢様の口から創造主と同じ言葉を聞くことになろうとは……いや、これこそ、創造主にも予想出来ない運命なのかもしれませんね……』
心ゆくまで笑ったルークは次にブツブツとそう呟いた。
『……はい、いいでしょう、私が持つこの自慢の悪意に賭けて、お嬢様を含め、あなた方に私のこの強大な力を貸してさしあげようではありませんか!』
どういう思考をしているのか、何の脈絡も無く突然勝手に自己完結したルークは、芝居がかった口調でその場いる者達に自分の力を貸すことを宣言した。
『『「いるかッ!」』』
その突然の宣言に対して、ルークという存在を否定的に見ていた者達から一斉に怒号が飛び交うのだった。
ガイアスの世界
伝説の手甲(仮) ルーク3
ルークの元となった人物は、悪意を愛し愛された人物であるようだが、その人物についての情報はルークの中にしか残っていない。
悪意、負の感情を浄化する為の方法を試行錯誤していた創造主は、負の感情の情報を収集する為に、自分が造り出した伝説武具の1つであったルークに悪意を組み情報収集をしたようだ。
負の感情の情報を収集する中で、ルークが危険な存在であると判断した創造主は、負の感情の情報を取り終えた後、ルークの存在抹消を実行した。その為、他の伝説武具にはルークの記録が残っていない。
存在を抹消されたはずのルークがなぜ存在しているのかは現時点では不明。




