いい加減真面目に集合で章2(ブリザラ&アキ編) 女神
ガイアスの世界
今回はありません
いい加減真面目に集合で章2(ブリザラ&アキ編)女神
濃霧漂うその場所に咽び泣く少女の声が響く。片割れと言える存在を失った喪失感から咽び泣く一人の少女ソフィアの姿がそこにはあった。
細部の違いはあれど自分と同じ顔をしたもう一人の少女をその両腕で抱いていたソフィア。しかしその少女の姿はもう無い。ソフィアの両腕から零れ舞い上がる粒子の光となって濃霧の中へと溶け込むようにして両腕の中の少女は静かに消失したからだ。
相反した二人。
相反していてもその奥底にあるものは同じであった二人。
似ているからこそ互いを嫌悪し合った二人。
ソフィアにとって自分の両腕の中で消失した少女はそんな存在だった。失て初めて込み上げてくる喪失感と共に消失した少女が自分にとって大切な存在であったことを実感したソフィアは、悲しみを露わにする。
半身を失った喪失感の中咽び泣くソフィアの姿を、まるで自分の姿のようにその目に映す三人目の少女の姿があった。
相反し嫌悪を抱きながらもその心根では互いが互いを思い合っていた二人程には強い繋がりはないものの、同じ顔をしている別世界の同一体という本来素ならば有り得ない共通点を持つ少女ブリザラは、二人の別れを静かに見つめていた。
「……それで……これから私たちは何をすればいいのですか?」
今まで笑顔を絶やさなかった表情は既に無く、その視線を小刻みに震え泣きじゃくるソフィアの背に向けたままブリザラは、堅い椅子に座り同じくソフィアを見つめる女性フリーデにこれから自分達は何をすればいいのかと尋ねた。
「……何もする必要は無い、いや正直に言えばもう私が君達に何かしてあげるこは出来ないと言った方が正確だ」
「……それはどういうことですか?」
嗚咽を交えながら悲しみの淵を彷徨うソフィアの背中をジッと耐えるように見つめながらフリーデの言葉の真意を確かめようとするブリザラ。
「……今同じ世界に存在している君や彼女とは違い、私は私の世界から君達に接触している……別の世界に居る私では君達に直接的に何かをしてあげることは出来ないんだ……そんな私に出来ることと言えば、迫った脅威を君達に伝える伝言人になることだけだ」
ブリザラやソフィアとは違い別の世界にいる自分では直接的な介入が出来ず、出来ることと言えば伝言を伝えることだけだと自傷気味に口にするフリーデ。
「……これから起こる事は、君や彼女にとって更なる苦しみと絶望を与えることになるだろう……けれど君達は『女神の面影を持つ者』によってこの場に繋がった者同士だ、君達二人が目の前の脅威に対峙した時、真にその力に目覚め力を合わせればきっとその脅威に打ち勝つことが出来るはずだ」
そう言い終えたフリーデは何かに気付いたというように堅い椅子から立ち上がった。
「……私が君達に接触すると世界に大きな負荷がかかってしまう、どうやら限界のようだ、もうすぐこの世界は消失する」
突然今自分達が存在している世界は消失すると告げるフリーデ。
「だが安心してくれ、私が責任を持って君達を君達の世界へと送り届けよう」
消失までの限界が近いからなのか、まともな説明も無くブリザラとソフィアを元の世界へ戻そうとするフリーデ。
「ちょ、ちょと待ってくださいフリーデさん! あなたが言っている事私全く理解できてません!」
知りたい事の半分も理解できないままこの場から退場するよう促されたブリザラは、納得が出来ないと声を荒げた。
「……私達に迫る脅威って何ですか? 『女神の面影を持つ者』って一体何なんですか?」
何となく自分がこの場から弾き飛ばされそうな気配を感じるブリザラは、弾き飛ばされる前に自分が知りたい事を聞こうと早口でフリーデに尋ねた。
「……今は全てを理解しなくてもいい、ただ感じて私という存在がいることを知ってくれればそれでいい」
ブリザラの問には答えずそう言って微笑むフリーデは両手を合わせた。その瞬間ブリザラとソフィアの姿はその場から忽然と消えた。
「君達は……私のように独りにはならないでね」
音も無く崩れていく世界の中、独りとなったフリーデは独り言のようにそう呟くと、ゆっくりと目を閉じた。
剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス
— ガウルド城 地下階段 —
「……とまあ、ブリザラ王とあの者の関係はそんな所です」
薄暗く永遠に続くのではないかと思える程に長い階段を下りながらレーニは、自分の後方をついてくるアキに対して、今頃客間のベッドで眠りにつくブリザラと自分たちが下る長い階段の先にある牢獄に捕らえた者の間にある関係を自分が知る知識の範囲で説明した。
「……別の世界……同一個体?」
レーニから地下最下層にある牢獄に囚われた者は、このガイアスとは全く別の世界から来たブリザラであると説明を受けたアキ。しかしレーニが話すその内容はアキにとっては突拍子が無く荒唐無稽で、正直それが事実であるということを信じろと言われても納得が出来ない。
「……アキ殿が納得できないのは理解出来ます、正直実物を前にした私も信じられませんでした」
自分の背後にアキがいる為、表情は分からないがその声だけで納得していなことが伺えたレーニは信じられない、納得できない気持ちは同じだとその意を現した。
「……ですがブリザラ王はその信じられないようなことが出来る力を持っている……アキ殿はブリザラ王と一緒に旅をしていて何か違和感のようなものを感じたことはありませんか?」
「……違和感」
突然レーニにそう尋ねられ、首を傾げながら今までの事を振り返るアキ。
「……あのオウサマには違和感しかないが……」
自分と全く違う思考の持ち主であるブリザラに対して違和感以外別の感覚を抱くことが難しいと思うアキは素直にそれをレーニに告げた。
「ははは……」
その感覚は伝わったようで、苦笑いを浮かべるレーニ。
「ただ……」
レーニがそんな事を聞きたい訳ではないことを理解しているアキは、そう言葉を置くと考えるように少し黙った。
「あいつ……敵や魔物と戦っている時、少し先の未来が見えているんじゃないかと思う時がある」
それは些細な違和感。敵や魔物と対峙している時にブリザラが見せるほんの些細な動きから感じるものだった。
「ふふふ、ブリザラ王の事、良く見ていらっしゃいますね」
アキがブリザラに抱いた違和感に、茶化すような笑みを浮かべ何やら含みのある物言いをするレーニ。
「はぁ……一国の王の頭の中がお花畑だと知ったらこの国奴らはどうおもうかねぇ」
レーニが何を言わんとしているのか、手に取るように解るアキは呆れながら嫌味を口にした。
「これは手厳しい……ですがアキ殿が抱くその違和感は正しいと思います……ブリザラ王の目には未来……正確には幾つもの分岐した世界が見えているのではないでしょうか」
アキの手厳しい嫌味を素直に受け入れたレーニは、次の瞬間、真面目な表情になるとブリザラには未来が、分岐した世界が見えているのではないかと自分の推測を口にした。
「ブリザラ王は無意識に幾つも見えている分岐した世界の中から最善の選択をしている……考えてみてください……少し前まで戦うことすら知らなかった世間知らずでお人よしな彼女が、この数カ月間の間、色々な戦いに巻き込まれ、時には自分から挑んでいったというのに現在もこうして生きているというのは普通有り得ないことではないでしょうか……」
そう口にするレーニの口調は先程までの気の抜けたような様子とは違い、鋭い雰囲気を持っていた。
「ッ!」
レーニの言葉に思わず唖然とするアキ。
確かにブリザラはこれまで何度も厳しい戦いを生き抜いてきた。その戦いはどれも数カ月足らずの初心者が生き抜くには厳しい戦いであったことは一緒に戦ってきたアキが一番理解している。
「……いや、それは違う」
一瞬レーニが口にする考えは正しいのではないかと思うアキ。しかしアキは直ぐにレーニと傾きかけた自分の考えを否定した。
「あいつが今まで生き残れたのは、あいつが盾野郎の……キングの所有者だからだ」
アキは失念していた。ブリザラがただの初心者ではないことを。一度ブリザラと戦った時に黒竜の力を乗せた自分の攻撃が完全に防がれた事を。ブリザラがどんな攻撃をも完全に防ぐと自負する最強の盾、自我を持つ伝説の盾キングの所有者であることを。
「……確かに防御に特化した伝説武具の所有者であるブリザラ王なら今までの戦いを生き残る事も容易でしょう可……失礼、それなら少し角度を変えましょう……今までの幾度もの戦いの中でブリザラ王が傷を負った所をアキ殿は見たことがありますか?」
「ん?」
レーニそう問われ、再び今までの事を振り返るアキ。
記憶を辿りブリザラが傷を負った所をアキは思い出そうとする。しかしどれだけ記憶を辿ろうとアブリザラが戦いの中で傷を負った姿が思い浮かばなかった。
「ツ!」
その事実に気付き衝撃を受けるアキ。
「……いや、だがあの過保護すぎる盾野郎なら……」
どんな攻撃でも防ぎきるとそう口にしようとした瞬間、ある事に気付き言葉に詰まるアキ。
確かにキングの援護があれば、ブリザラが傷を負うことは無いはずだ。しかしそれはあくまでキングの援護があればの話。
ブリザラは今までの戦いの中でキングの不在の中戦ったことがあることをアキは思い出したのだ。だがその時もブリザラの体は、かすりきず傷1つ見当たらなかった。
「例え最強の盾を持っていたとしても、必ずしも万能では無い、最強の盾が本来の能力を発揮できないという不測の事態は起る……ですがそんな状況でもブリザラ王は傷1つ、かすり傷1つ負わなかったのではないですか? ……これはブリザラ王が無意識に……自分が傷を負わない未来を、分岐する世界を選択している……とは考えられませんか?」
まるで今までのブリザラの戦いを見ていたかのようにアキにそう尋ねたレーニは階段を下る足を止め振り返った。
「……」
レーニの推測に言葉が出ないアキ。
「ブリザラ王は分岐した世界を選択する能力を持っているかもしれない……その秘密の鍵を握っているのが、この扉の奥にいる者だと私は考えています」
レーニはそう言うと、背後にある扉を指差した。
「……まるでブリザラ王が持つその力は……数えきれない程の世界をその手で生み出したという創世の女神フリーデのようですね」
幾つもの階層を下り辿りついた地下最下層の扉の前で再びアキに視線を向けたレーニは、ガイアスの世界に伝わる神の名を口にするのだった。
ガイアスの世界
創世の女神フリーデ
ガイアスを創造したとされる女神ではあるが、名前以外の事は分かっていない。




