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そろそろ真面目で章15(スプリング編) 道標

ガイアスの世界


 今回はありません


 そろそろ真面目で章15(スプリング編) 道標




 剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




「……そんにゃ……」


 歩けど終わりが見えない螺旋階段と不安や恐怖を駆り立てる大穴に広がる暗闇は、ロンキを冷静ではいられなくさせていた。状況に耐えられず一度は半狂乱してしまったロンキ。それを落ち着かせたスプリングが目の前から消えた。突如として襲いかかってきた巨大な咢。その襲撃から庇うようにスプリングはロンキを突きとばすとその巨大な咢の突進を受け止めそのまま大穴に広がる暗闇の中へ落ちて行ったのだ。


「……」


 スプリングが大穴の暗闇へ落下した事実もそうだが、それ以上に自分を庇ってという所に大きく動揺するロンキ。自分の所為でスプリングが犠牲になったという事実が不安定ながら均衡を保っていたロンキの精神状態を揺さぶり思考を停止させてしまう。ロンキはただ茫然とスプリングが落下していった大穴の暗闇を見つめることしか出来なくなってしまった。


「……にゃ?」


 だがロンキに迫る状況が茫然とすることを許さない。


「ニャ、ニャ、ニャニァアアアア!」


 自身の体に激しい揺れを感じ悲鳴を上げるロンキ。底の見えない大穴で唯一の足場である螺旋階段がうねるようにして突如大きく左右に揺れ始めた。


「う、うううニャぁぁぁぁ!」


 その揺れの激しさに螺旋階段の手すりにしがみつくロンキ。


「……な、何にゃ……」


 地震による揺れではないことはその光景をみれば明らかだった。ロンキの視線に広がったのは、まるで蛇が体をくねらせ地面を這いつくばるような動きをする螺旋階段だった。


「くぅ……この嫌な音の正体は、螺旋階段が擦り合う音だったのかニャ」


 大穴の底まで続いているだろう螺旋階段を下り始めた時から聞こえていた音。人族であるスプリングの聴覚では聞こえていなかった微かな音。苛立ちや不安を煽る不快な音。その正体は暗闇が広がる大穴の底へ蛇が地面を這うようにして動き出した螺旋階段が擦り合うことで生じていた駆動音だったことに、目の前の光景を見てロンキは気付いた。


「……古代人形ロストゴーレムの亜種……」


 召喚士などが召喚する人形ゴーレムに似ていることから古代人形ロストゴーレムと名付けられたそれは、ガイアス各地に存在する迷宮ダンジョンで稀に残骸として発見されることがある。古代人形ロストゴーレムの役割は、召喚士が召喚する人形ゴーレムと同様、対象の警備と敵の迎撃、更には戦争に扱う兵器としての運用を主にしていたのではないかという仮説を立てている学者がいるが、実際の所どういう運用をされていたのかは分かっていない。

 しかし分かっていることもある。それはもし何処かの迷宮ダンジョンで未だ活動している古代人形ロストゴーレムが存在していたとすれば、それに遭遇した冒険者や戦闘職は絶対絶命ということだ。その理由は人形ゴーレムに使われている素材が関係している。

 召喚士が人形ゴーレムを召喚するうえで必要になる主な素材は土や泥。高位な召喚や極地的な召喚であれば鉄や氷といったものがある。だが古代人形ロストゴーレムを構成している素材は、ガイアスで一番の高度を持つと言われている鉱石、ガイアスに存在する半分以上の迷宮ダンジョンの壁や通路に使用されている月石ムーンロックである。その硬度の高さから月石ムーンロックは現在の技術では加工することは愚か、破壊することも不可能。どんなに腕に自信のある冒険者や戦闘職であっても月石ムーンロックを素材としている古代人形ロストゴーレムを倒すことは不可能なのである。

 そんな人型である古代人形ロストゴーレムとは似ても似つかない蛇のような動きをする螺旋階段を見て、ロンキはそれを古代人形ロストゴーレムの亜種であると無意識に口にしていた。

 だがロンキは知らない。自分が発したその言葉が自分の知識から出たものでは無く、自分の中に存在する創造主の魂の欠片、修復者リペアラーが持つ知識であることに。


「酷い音にゃ……月石ムーンロックでこんな音を響かせるなんて酷すぎるニャ!」


 だが今のロンキには自分が発した言葉が自分のものであろうが別の何かであろうがどうでもいいことだった。


「……ムムム! 世界一の鍛冶師の名に賭けて、この異音を放置しておけないニャ!」


 今のロンキの頭を支配しているのは、鍛冶師としてこの大穴に鳴り響く異音を止めることだけ。もしくはロンキの中に存在する修復者リペアラーがその異音を取り除きたいと思ったのかもしれない。


「……これだったら、この異音を取り除けるはずニャ!」


 先程までの不安と恐怖に支配されていた精神状態が嘘のように目を輝かせたロンキは、己が持つ能力、修復者リペアラーの恩恵でもある次元収納ディメンションストレージの中から、鎧猪アーマードボアが纏っていた月石ムーンロック製の鎧を素材として作り上げた鎚を取りだした。


「その異音、鍛え直してやるニャ!」


 目の前で蛇行を繰り返しながら大穴の底へと向かう螺旋階段へ向けそう言い放つロンキ。もはや鍛冶師として行き過ぎた情熱、本能とでも言うものが全面に押し出された今のロンキの精神状態は、不安定を通りこしぶっ壊れたと言える。しかし良くも悪くも鍛冶師魂に火が点いたことによって不安や恐怖から解き放たれたロンキは、不安定な足場に置いて力強く月石ムーンロック製の鎚を振う。

 その瞬間、不快にさせる異音の一部が浄化されたように澄んだ甲高い音となり暗闇の広がる大穴に響き渡った。


「ここも! そこも! 鍛え直し甲斐があるニャ!」


 蛇行することによて立つこともままならない状況にも関わらずロンキは猫獣人が持つずば抜けた身体能力と体幹を駆使し蛇行を続ける螺旋階段を器用に飛び回りながら不快な音を発する箇所を発見しては月石ムーンロック製の鎚で次々と鍛え直していく。その目は爛々と輝き、傍から見ればその姿は異常者のそれであった。しかしそれでよっかた。

 

「さあ、まだまだどんどん鍛え直すニャ!」


 そう言いながら拍子よく心地いい音を次々と響かせるロンキ。そしてその澄んだような音は大穴の底へ落下していたスプリングの耳にも届いていた。




「……はッ!」


 ロンキを庇い巨大な咢に押し出されるように大穴へと投げ出されたスプリング。落下の衝撃で意識を失っていたスプリングは、前の階層でも聞こえた大穴に響くその音で目を覚ました。


「……うおッ!」


 周囲を見渡し自分がまだ落下している最中であること気付いたスプリングはの視線を、大穴の入口があるだろう方向へと向ける。


「……俺達を襲ったのはお前だったのか……」


 そう口にしたスプリングの目の前には巨大な咢が迫る。しかしその巨大な咢から少しズレた位置に再びあの幻影が重なっていた。そしてスプリングの目に映る幻影には、自分と同様に巨大な咢に追われる男の姿もあった。


「まじかよ!」


 幻影に映る男と自分がほぼ同じ状況であることに思わず声を漏らしてしまうスプリング。しかし巨大な咢が迫るスプリングと男の置かれた状況には少し違いがあった。

 男は既に巨大な咢と接触寸前であるということだ。巨大な咢、明らかに生物ではない螺旋階段で形作られた大蛇はその巨大な咢で男を呑み込もうとしていたのだ。その幻影の男の姿はまるで少し先に待つスプリングの未来を映しているようでもあった。


「やっぱり同じか!」


 案の定、ロンキの眼前に迫る巨大な咢の正体は、幻影と同じく今まで自分たちが下っていた螺旋階段で形作られた異様な姿をした大蛇だった。


「おいおいどうすれば……」


 そう言いながらスプリングは、幻影の方の大蛇が男を呑み込む光景を見てしまった。


「ッ!」


 数秒後には自分もあの幻影の男と同じような結末を迎えるのかと身構えた瞬間。


「ん?」


スプリングに迫る螺旋階段で形作られた大蛇の動きが僅かに鈍った。

 既に数秒は過ぎていた。スプリングは螺旋階段で形作られた大蛇に呑み込まれたはずであった。しかしスプリングは呑み込まれていない。スプリングと同様に落下しているにも関わらず螺旋階段で形作られた大蛇は何故か一定の間隔で減速と加速を繰り返していた。


「……まさか!」


 その奇妙な大蛇の動きに、スプリングはあることに気付いた。


「……ロンキ! お前か!」


 一定の感覚で減速と加速を繰り返す螺旋階段で形作られた大蛇。その動きに合わせ、前の階層で聞いたあの心地よく響く音が大穴に響き渡っていたのだ。どういう原理なのかはまでは分からないが、ロンキが螺旋階段で形作られた大蛇の動きを不自然にしているのだと確信するスプリング。


「これなら……」


 そう言いながら意識を失ってもしっかりと握り続けていた槍の感触をスプリングは再度確認するように握り直した。

 本来なら既に螺旋階段で形作られた大蛇の腹にいるはずであったスプリング。だがロンキの行動が僅か数秒その状況を先延ばしにしたのである。時間にすれば僅か数秒。しかしその僅かな時間のお蔭でスプリングは、結末をみることが出来た。自分の数秒先の未来にいるような幻影の男がどうやって大穴の底へ落下する中、螺旋階段で形作られた大蛇を倒したのかという結末を。

 幻影に映る男は、落下状態のまま手に持つ剣を上段に構えていた。螺旋階段で形作られた大蛇に呑み込まれた瞬間、上段に構えていた剣の刃は何の抵抗も無くすんなりと月石ムーンロック製であるはずの螺旋階段で形作られた大蛇の背を切り裂いていた。


「……なら俺は……」


 幻影の男を真似るようにスプリングは手に持つ槍を構えた。しかし幻影の男とは違いスプリングが構えた槍の刃は上段では無く下段に構えられていた。


「腹開きだッ!」


幻影の男に対抗意識があるのか、スプリングは剣を上段で構え螺旋階段で形作られた大蛇を背開きにした幻影の男を完全に真似るのではなく、槍の刃を下段に構えることで螺旋階段で形作られた大蛇を腹開きにしようとしていた。

 だが眼前に迫るのはガイアス一の硬度を持つと言われる月石ムーンロック製の螺旋階段で形作られた大蛇。加工することも破壊することも出来ない月石ムーンロックをただの槍で切裂くことなど本来ならば不可能。しかし今のスプリングには言い表せない自信があった。幻影の男に出来て自分に出来ないはずがないという到底他人では理解できない確信があったのだ。

 そしてその自信は力となって現れる。スプリングの強い想いに呼応するように、スプリングが纏うロンキの作った月石ムーンロック製の軽防具ライトアーマーが光りだしたのだ。

 月石ムーンロックにはガイアス一の硬度の他にもう1つ巷では知られていない特性がある。それは想いを力に変えるというものである。

 月石ムーンロックで作られた軽防具ライトアーマーは、スプリングの想いに応えるように強い光を放ちつ。


「おりあああああああああ!」


 絶叫と共に螺旋階段で形作られた大蛇に呑み込まれていくスプリング。その瞬間、螺旋階段で形作られた大蛇の下顎が光の刃によって裂けていく。スプリングが持つ槍には強烈な光を放つ刃が宿っていた。そして幻影の男が持っていた剣と同じように月石ムーンロック製の螺旋階段で形作られた大蛇の喉を、首を、胴を、何の抵抗なく簡単に切裂いたのだった。



 スプリングに腹を引き裂かれた螺旋階段で形作られた大蛇からは突如強力な光が漏れ出した。その光はスプリングが纏う軽防具ライトアーマーが発したものと動揺の光。想いを力に変えた光であった。その光は爆発するかのようにして大穴に広がっていた暗闇を瞬時に消し飛ばしていく。


「くッ!」


 一瞬目の前が眩い閃光に包まれ何も見えなくなるスプリング。だが次の瞬間、今まで感じていた落下の感覚が突如とし失われその代わり足裏に地面を感じるスプリング。


「……うぅぅぅ……」


 じょじょに光が弱まり恐る恐る目を開くスプリング。


「……部屋……にゃ?」


 そこには階層主ボス部屋らしき空間を見渡すロンキの姿があった。


「す、スプリングちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!」


 周囲を見渡していたロンキはスプリングの存在に気付き歓喜の悲鳴を上げながら駆け寄ってきた。


まるで猫のソレのように両足で跳躍したロンキはスプリングに抱き付く。


「良かったニャ! 生きてたニャ! 私を庇って穴に落ちた時はもうダメかと思ったニャ!」


自分が思っていたことをまくし立てるロンキ。


「あ、ああ……お前のお蔭でどうにか助かったよ」


 もう話さないとでも言わんばかりに強く抱きしめてくるロンキに何とも言えない表情を浮かべるスプリング。この時スプリングは不覚にも自分に抱き付いて来た猫獣人ロンキの可愛さに一瞬でも心が揺れてしまった自分を捻り潰したい気持ちでいっぱいであった。


「……ここが階層主ボス部屋っで既に次の階層への扉が開いているってことは……あれが階層主ボスだったってことか……」


 自分が抱いた気持ちは何かの間違いだと心の奥底へと抑え込み、冷静に周囲の状況を確認するスプリング。その視線の先には既に次の階層へ向かう扉が開かれていた。即ちそれは階層主ボスを倒したということであり、その階層主ボスが螺旋階段で形作られた大蛇であったことを意味していた。


「はぁ……まあ兎に角、次の階層への道は開かれたみたいだ……次へ進もう」


 正直少し休みたいスプリングではあったが、未だ消えない幻影がその暇を与えてくれない。次の階層へ続く開かれた扉へと進む幻影の男を見つめながらスプリングは、抱き付いていたロンキを乱暴に引き剥がすとそう言って次の階層へ続く扉へと歩き出した。


「ま、待ってニャ!」


 乱暴に引き剥がされ地面に尻もちをついたロンキは慌てて立ち上がるとスプリングの後を追う。


「……あいつは……」


 自分達の少し先を行く幻影の男。自分たちの道標のような男が開かれた扉の先へ進んで行く姿を見ながら何かを想いスプリングはそう呟くのだった。




ガイアスの世界


 今回はありません

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