そろそろ真面目で章14(スプリング編)独占欲
ガイアスの世界
伝説武具とその所有者に課された試練
伝説武具の性能は封印が掛かった状態であったとしても巷にある伝説と呼ばれる武具などとは比べものにならない程の性能を持っている。
強力な力を扱う者にはそれ相応の責任が伴うと言うように、伝説武具を扱う者にはその力を扱う責任が伴うのである。そして伝説武具が真の性能を発揮するとなればその責任は更に重くのしかかる。
その責任を背負うに値する者であるかを試す場が試練である。
その試練は所有者だけに留まらず、伝説武具自身にも課されるものである。
そろそろ真面目で章14(スプリング編) 独占欲
剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス
大穴に広がる暗闇。下れど一向に終わりの見えない螺旋階段。そんな状況の中で半狂乱になりかけたロンキを何とか落ち着かせることが出来たスプリングは、まだ底が見えない螺旋階段を下りながらロンキを落ち着かせるために自分が口にした発言について考えていた。
(……ロンキの言う通りだ……あいつって一体だれだ?)
ロンキが半狂乱になりかけた時、咄嗟に出たあいつという言葉。その言葉が一体誰をさしていたのかは分からない。ただ1つわかったことがあるとすればその言葉と同時に脳裏に映った見知らぬ男の顔。
それが誰であるのか名前や素性すら分からない男を信じろと言い切ったその時の自分の思考が今は理解できないスプリング。だがなぜであろうか、スプリングは見知らぬはずの男の顔に、信じるに値する程の親近感のような感情を抱いていたのだ。
「……?」
脳裏に映った見知らぬ男が何者であるのか考えにふけり自然と自分の足元へ視線が向かっていたスプリングは、特に理由も無くふとその視線を上げ前を見た。
「ッ!」
その視線に映った光景が、スプリングの精神を揺さぶる。思わず叫び声を上げそうになるスプリング。だがこれ以上今のロンキの精神状態を悪化させてはならないと口から出そうになる叫びを堪えた。
(……な、なんだ……これ?)
叫びを堪えたスプリングはその光景を前に心の中で思わずそう呟いてしまう。
(なんで、螺旋階段が……二重に見える……?)
スプリングの視線の先には、自分が下る螺旋階段に重なるようにもう1つの螺旋階段があった。自分の目がおかしくなったのかと目頭を押さえてからスプリングはもう一度視線を同じ場所に向けた
しかしその行動も空しく、スプリングの視線の先には自分達が下っているものとは別の螺旋階段があった。
「な、なぁ……ろ……」
自分が見ているものが本当に存在しているのか、確かめようと後ろを歩くロンキに声をかけようとするスプリング。だがスプリングは自らその言葉を遮った。
「ど、どうしたのにゃ?」
だが一度出た言葉を取り消すことは出来ない。不明瞭となったスプリングの声に反応したロンキは不安気な声で答えた。
「あ、いや……何処か調子が悪い所とかないか?」
咄嗟にそう言ってロンキに声をかけたことを誤魔化すスプリング。
「う、うん……とりあえず今は大丈夫にゃ」
月石にはしゃいでいた時が嘘のように明らかに元気の無い声でロンキはスプリングの問にそう答えた。
(ダメだ……もし今俺が見えている物が幻覚や幻影の類なら……ロンキの不安を煽るだけ……)
受け答えはできるものの、何処か怯えや不安があるロンキの様子にスプリングはもう1つの螺旋階段のことを尋ねるのは危険だと感じた。
ロンキとの当たり障りない会話を終えたスプリングは前を向き、未だ消える事無く目の前に存在しているもう1つの螺旋階段を見つめた。
(はぁ……気付かないうちに俺もこの暗闇と螺旋階段に精神をやられ始めたのか……)
先程まで影や形も無かったものが突然目の前に現れる。それは幻覚や幻影の類だなのではないかと、思わず自分もロンキのようにこの暗闇や終わりの見えない螺旋階段の影響で心がやられ始めたかと思うスプリング。
(……ッ!)
しかし次に目にした光景によって今の自分の精神がどんな状態かなどスプリングの中からはすっ飛んでしまう。
(……人? ……がいる……)
スプリングの視線の先には、もう1つの螺旋階段を下る人らしき者の姿があった。
(男か……)
幻覚とも幻影とも思えるもう1つの螺旋階段を下る人らしき者は男であった。その男は大穴に広がる暗闇とは異なる色、漆黒の長髪をなびかせ何処までも続く螺旋階段を下っている。
その表情は険しく苦しそうであったが、しかし何故か男の表情には希望が見える。細身で長身の体型ではあるがその男の姿にひ弱な印象は無い。そればかりか男からは武人を纏ったような雰囲気すら感じる。そして何よりスプリングはその男に何故か親近感のような感情を抱いていた。
そう、もう1つの螺旋階段を下る男とは、スプリングの脳裏に映りこんだ男であったのだ。
(……冒険者か戦闘職……)
その風貌、腰に携えた剣がその男の素性を物語っている。何より見ただけで強者だと分かる雰囲気を男は持っていた。スプリングはその男が自分と同じようにこの場所へ挑んだ冒険者か戦闘職ではないのか、そして今自分が見ているそれは、その男の残留思念、もしくは死して尚この場所に留まり続ける亡霊なのではないかと考えた。
(……いや……違う)
だが直ぐにありえないと自分のその考えを否定するスプリング。
(この場所はポーンがいなければ行けない特別な場所だ……俺とロンキ以外この場所に到達した者は他にいないはず……)
冒険者や戦闘職たちによって探索され尽くした光の迷宮。しかしその迷宮の最奥、宝物庫には隠し通路が存在した。だがその隠し通路へ向かう為には自我を持つ伝説の武器であるポーンを鍵とする必要があった。即ち、ポーンが自分の所有者と認めた者、その同行者しかその隠し通路へ進むことは出来ないようになっている。本来スプリングたち以外にあの隠し通路を進みこの大穴へと到達した者はいないはずなのである。
(でも……もし……俺以外にポーンの所有者がいたとすれば……)
もしスプリング以外に、ポーンの所有者になった者が過去にいたとすれば話は変わってくる。ポーンの所有者が過去に居たとすれば、あの隠し通路を通りこの大穴へたどり着いた者がいたとしても不思議な話ではない。
(……けど、俺はそんな話ポーンから聞いたことが無い)
出会ってからこれまで先代の所有者がいたなどという話をポーンから聞いたことが無かったスプリング。だが考えてみればポーンは自我を持ってはいるが武器である。当然武器である以上、誰かに扱われる為にその存在はある。その考えからすればスプリングより前にポーンの所有者となる人物がいたとしてもおかしくは無い。そして今のスプリングと同じく、ポーンの不調を直す為にこの場所へ向かった者がいたとしても不思議では無いのだ。
(……くぅ)
何処かでポーンの所有者は自分しかいない。自分は特別、唯一無二だと思い上がっていたスプリングは、自分以外にポーンの所有者がいたかもしれないという可能性に動揺が隠しきれない。
最初、出会った頃は、自分が想像していた物とは程遠いポーンのことをハズレだとスプリングは思っていた。自我を持ち喋りかけてくる武器など気味が悪いとさえ思っていた。だが多くの死線を共に乗り越え気付けばポーンという武器は、武器という存在を超越する存在となっていたことにスプリングは気付いたのだ。
(チィ……気持ち悪いな俺……)
自分の中にこれほどまでの独占欲が生まれていたことに気付かされたスプリングは、そんな自分を心の中で自傷気味に罵るとその心を戒めるように両手で両頬を思いっきり叩いた。
「んニャ!」
突然、鳴り響く破裂音に情けない悲鳴をあげるロンキ。
「……ど、どうしたのにゃ?」
おろおろと動揺しながらロンキは不安気な表情でスプリングのその奇行について尋ねた。
「あ、ああ、すまん驚かせたな……いや、ちょっと自分の馬鹿さ加減に苛っただけ……」
動揺するロンキを安心させようと振り返るスプリング。
「……ッ!」
しかし振り返った瞬間、スプリングの時が止まる。そして突然スプリングの耳に鉄同士を擦り合わせたような不快な異音が鳴り響く。
「なぁ……」
一瞬の硬直から解き放たれたスプリングの口から漏れる戸惑いの声。
「ロンキッ!」
何故今まで気付かず、そして聞こえなかったのか。疑問に思う程にその鉄同士を擦り合わせたような異音は、大きくなりスプリングの耳に不快感を与える。一度気付けば、そこから感じるのは獲物をかる狩人の気配。生物のそれのように狙いを定める正体不明の何かは、時は来たと言わんばかりにその巨大な咢を開き背後からロンキに襲いかかる。不快な異音だけを漂わせ飛び出したそれに対し目の前のロンキを突きとばしたスプリングは槍で巨大な咢から覗く鋭い牙を防いだ。
「ぐぅ!」
しかし不快な異音と共に突如姿を現した巨大な咢はその質量と勢いでスプリングを軽々と螺旋階段から弾き飛ばした。
「スプリングちゃん!」
巨大な咢による奇襲によって暗闇が広がる空間へ吹き飛ばされたスプリングの姿をその目で追うロンキは叫んだ。だがその叫びも空しくスプリングの姿は暗闇の中に消えていく。そして巨大な咢を持つそれはスプリングの後を追うように大穴に広がる暗闇の中へとあの不快な音を鳴り響かせながら急降下していくのであった。
ガイアスの世界
今回はありません




