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そろそろ真面目で章13(スプリング編) 頼りない確信

 ガイアスの世界


 ポーンが持つ自我の原形オリジナルとなった人物について


 ポーンの原形オリジナルだけあって、正義感が強く、たまに強すぎて少し融通が利かない所があり不器用な印象がある。

 彼は名のある戦士(戦士と呼べる職種)に就いており、当時は創造主を護衛する立場にあったようだ。

 これは余談ではあるが、彼の魂は戦いという運命に縛られているようでどの時代に生まれかわったとしても戦いの道へ進むことになり、それはガイアスの理からは外れたものである


 

 




 そろそろ真面目で章13(スプリング編) 頼りない確信




 剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




 階層主ボス部屋から下層へと伸びる螺旋階段。足を踏み入れた者たちが最初に見る光景は、何もかもを飲みこんでしまうような暗闇。螺旋階段が伸びるその空間には何処までも続いているように見える暗闇が広がっている。その為、その空間が広いのか狭いのか肉眼で捉えることが出来ない。

 救いなのは一定間隔で螺旋階段に備えつけられた光源。この光源が無ければ螺旋階段すら肉眼では捉えることが出来ない。それほどまでにこの空間に広がる暗闇は深い。

 しかし螺旋階段に備えられた光源は弱く、周囲の暗闇に影響を与えることは出来ない。精々螺旋階段を下る者の足元を照らす程度であった。

 足元のみ光源が確保されている以外は、全て暗闇に支配されたその空間は、時間の感覚さえ麻痺させ失わせる。そして下る者がどれだけ下ってきたのかも分からなくさせていく。曖昧になった感覚を唯一現実へ繋ぎ止めるのは、階層主ボス部屋から繋がる自分たちが歩く螺旋状の階段のみ。

 だが一息つき、今まで下ってきた螺旋階段を見上げたとしても、そこには暗闇に呑み込まれていく光源が点々としているのみ。遠くになればなるほど、離れれば離れるほど、その儚い光源は肉眼では確認できなくなっていく。これから下る道は愚か、来た道すらまるで消えていくように暗闇に呑まれていくのである。


「……」


 常人ならば既に精神崩壊手前に陥りそうな空間を下るスプリングとロンキ。常人よりも精神耐性が高いとはいえ、永遠とも思える状況に二人の精神、特にロンキの精神状態は擦り切れ始めていた。階層主ボスの部屋で喜々として月石ムーンロックを叩いていたロンキの表情は既に無く、あるのは不安や疲労から顔色の悪さだった。そしてもう1つ、ロンキの精神を摩耗させるものがあった。


「……さっきから鉄が擦り合うような音……一体なんなんにゃ」


 鉄同士擦り合うような音が暗闇の中で小さく響いているのである。それは常人ならば生理的に受け付けない不快な音。一見、日々様々な鉱石や金属を相手にするロンキならば、鉄同士が擦り合う音程度、慣れているように思えるがそれは違う。鍛冶師として優秀であるが故に、ロンキは鍛冶作業をする際、一切不快な音を立てることは無い。それはまるで一流の音楽家の正確で美しい演奏のように、ロンキが扱う鉱石や金属からは常に美しい音しか響かないのだ。だからこそ、暗闇に響く不協和音はロンキにとって耐えがたい苦痛を与えていた。そして更にロンキに追い打ちをかけたのが自身の種族の持つ身体能力だ。

 猫獣人は人間種に比べ聴覚が鋭い。暗闇に小さく響き渡る鉄同士が擦り合うような音は、人間種であるスプリングの耳には届くか届かないかだが、聴覚が鋭いロンキには至近距離で鳴り響いているように感じるのだ。


「……はぁああああああ」


 ピンと立った両耳を両手で押さえつけ僅かでも不快な音を遮断しようとするロンキの口から疲労の籠った重く長いため息が出る。


「……一体どれだけ下れば、次の階層に辿りつくのニャ」


 自分が置かれた地獄のような状況から力無くそう呟くロンキの視線は前を歩くスプリングの背中から自然と螺旋階段が続く真下へと向けられる。


「……」


 だが何処を見ても変わらない。あるのは終わりの見えない螺旋状に下へ続く階段と暗闇。


「……これ、本当に次の階層へ続いているのかにゃ? ……もしかして私達、トラップに引っかかっていないかにゃ?」


 無限に続く螺旋階段。精神をゆっくりと細切れにされていくような不快な音。それらの理由からロンキは自分たちが迷宮ダンジョンに設置されているトラップに引っかかっている可能性を示唆する。

 迷宮ダンジョンにとって冒険者や戦闘職は異物な存在である。そんな異物である侵入者の進入を阻む為に、迷宮ダンジョンには様々なトラップが設置されていることが多くある。

 最も多く目にするトラップは直接侵入者の命を奪う物で、底に剣山が敷き詰められた落とし穴や、迫りくる壁などといった物。

 続いて多いのが毒など生物の肉体に異常を起こす物を使用して嬲り殺すように命を奪う物。侵入者を部屋に閉じ込めた後、そこに毒を撒くものや神経麻痺させる床などがある。

 そんな様々なトラップの中には、侵入者の精神を削る物も存在する。これらのトラップは性質上、侵入者がトラップに引っかかったと自覚するのが遅れることが多く対処できずにそのまま死に至ることが多い。場合によっては自分がトラップに引っかかっていることを自覚しないまま苦しんで死んでいく者もいるという。

 地味ではあるが最も対処するのが困難で生存率が低いと言われ、苦手とする冒険者や戦闘職は多い。


「……うん、間違いないニャ! これはトラップニャ! 早く解除方法を探さなきゃニャ!」


 同じような状況に遭遇した者ならば、誰もが安易に考えてしまうだろう最悪な状態。自分たちが置かれた状況からして何等かのトラップに引っかかったと確信するロンキは、そのトラップが精神を擦り減らす類のものであるならば、早々に対処しなればと慌て始めた。


「落ち着けロンキ……そうやって慌てるとこの迷宮ダンジョンの思うツボだ……冷静になれ」


 自分たちがトラップに引っかかったと慌てるロンキに対して冷静になれと諭すスプリング。


「で、でも! それじゃどうするニャ! 何かこのトラップを抜け出す方法があるのかニャ?」


 自分たちがトラップに引っかかったと確信するロンキは、冷静になったからと言って発動中のトラップがどうにかなる訳では無い事を理解している。だがそんな状況でもやけに落ち着きを払ったスプリングに対して何か打開策があるのかと尋ねた。


「……よく考えろ、低難易度の迷宮ダンジョンなら対処のしようもある……解除方法もあるかもしれない……けどポーン曰く、ここはガイアス一を誇る最高難易度な迷宮ダンジョン……そんな所に設置されたトラップに解除方法なんて生易しい代物が存在する訳ないだろ……」


 迷宮ダンジョントラップが設置されている意味は、侵入者の進行を妨げその命を奪う為、それ以外の理由は存在しない。しかし低難易度と呼ばれる迷宮ダンジョンに設置されたトラップには解除方法という穴が存在していることが多くある。

 確実に侵入者を殺す為のトラップに解除方法という穴が存在する矛盾について、迷宮ダンジョンを研究している有識者たちは、その迷宮ダンジョントラップを製作、設置した何者かの技術が未熟であったのではないかとという見解をしている。迷宮ダンジョントラップを作った者たちの間に未熟や熟練といったものが存在するのは定かではないが、結局見解の域は越えず、本当の理由は迷宮ダンジョンを作り、トラップを設置した本人にしか分からない。

 だが今スプリングたちが居る場所は、ポーン曰くガイアスでも最高難易度である迷宮ダンジョン。そんな場所に設置されたトラップが不完全である訳も無く、解除方法はないとロンキの僅かに残っていたであろう希望を叩き潰すスプリング。


「なぁ! じゃ何でスプリングちゃんはそんな冷静でいられるニャ!」


 トラップを解除する方法は無いという絶望の中、やけに落ち着き冷静な様子のスプリングに疑問を抱くロンキは半狂乱になりかけながらそう訪ねた。


「……いや、別に冷静な訳じゃない十分焦っている」


 なぜ冷静なのかと尋ねられ、自分も冷静ではないと冷静な口調で答えるスプリング。


「どこがニャぁぁぁぁぁ! 物凄く冷静ニャぁぁぁぁぁぁ!」


 どう見ても冷静にしか見えないスプリングに対して半狂乱が加速していくロンキ。


「……そ、そうか……冷静に見えるのか……」


 心ではロンキと同様に焦りを感じてはいるのだが、どうやらそれが表に出ないことを指摘され自覚するスプリング。


「……何だろうな……確かに焦りはあるんだ……けど何か確信のようなものがある」


 その理由を自分の中で探るスプリングは、とても曖昧で頼りない答えに行きついた。


「……確信? ……確信てなんにゃぁぁぁぁぁぁ! そんな曖昧な言葉で冷静にならないで欲しいニャぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 スプリングのその言葉に、一瞬ロンキは冷静さを取り戻す。しかし次の瞬間には意味が分からないと再び半狂乱に戻るロンキ。


 確信。そう口にしたスプリングすら、なぜそう思うのかは分からない。それほどまでに現状において、確信という言葉は何の後ろ盾も無く頼り無いものだった。


「ま、まあ……兎に角落ち着け……騒いでも体力を失うだけだ」


 スプリングの中に満ちる確信。それは単なる気のせいである確率が高い。しかし自らの手で切り抜ける方法がない以上、その確信を信じこの永遠と続く螺旋階段を下り続けるほかないスプリングは、混乱するロンキへ再び落ち着けと諭すしかなかった。


「……信じてくれ……いや、信じられないのは十分理解している……けどそれでも信じて欲しい……」


 それは混乱するロンキを諭そうとする中で出た言葉。そう口にしたスプリングの表情は疑問に染まる。スプリングの脳裏にはそう口にした瞬間、見知らぬ男の顔が浮かんでいたからだ。

 男の表情は険しく苦しそうでもあった。しかし希望を捨てず困難に立ち向かい前へ進む。そしてその男には親近感すらあるスプリング。


「あいつの……ことを……」


 あいつと口にした男が一体何処の誰なのかはスプリングにも分からない。だがスプリングは脳裏に浮かんだ男と自分の中に満ちている確信には、何かがあると思った。細くすぐにでも切れそうな糸。そんな頼りない繋がりをスプリングは信じることにした。


「あいつって誰のことニャぁぁぁぁぁぁぁぁ! 名前はなんていうニャぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 半狂乱となったロンキの支離滅裂気味な叫びは、静寂が広がる暗闇に響き渡る。だがその裏で刻々とあの鉄の擦り合わせたような音は大きくなり、スプリングたちの下へ迫っていた。




ガイアスの世界


 次の階層へと続く暗闇の空間と螺旋階段


 鎧猪アーマードボアがいた階層から次の階層へと繋がる階段。しかしこの空間には螺旋階段以外何も存在しない。というよりも暗闇が広がっており肉眼ではその空間に何があるのか分からない。

 螺旋階段には一定の間隔で光源が設置されているが、その光は足元しか照らすことしか出来ない程弱く、周囲の暗闇を晴らすことが出来ない。

 暗闇からは鉄同士を擦り合わせたような不快な音が響いている。その音は小さく人間種の聴覚では殆ど捉えられず聞こえない。

 何かしらの仕掛けが施されているようだが、その全容は今はまだ分かっていない。

 


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