そろそろ真面目で章10(スプリング編)隠し通路
ガイアスの世界
迷宮内特有の魔物の生態
閉鎖された迷宮に生息している魔物は、外で出現する同種の魔物よりも強いことが多い。その理由が餌が乏しい事にある。餌が乏しい為に、同じ種類での共食いが頻繁に行われることによって強い個体だけが残っていくからだ。
ただ光の迷宮に関しては何故かそれが出来ようされていない。理由は不明であり、迷宮を研究している学者もこのことに関して首を傾げている。
そろそろ真面目で章10 (スプリング編)隠し通路
彼は戦場にいた。
彼が居る場所は何処も戦場だった。
戦うことが彼の使命だった。
戦うことが彼の運命だった。
それは呪いのように。
それは祝福のように。
生が変わろうとも。
体が変わろうとも。
彼の生き様は変わらない。
例え魂の形が代わり、それを魂と呼べない存在になったとしても彼は戦いに生き、そして戦いで死ぬ使命、運命にある。
幾年幾百幾千の月日、幾人幾十の魂の変化を経てその記憶は失われようとも、彼は戦うことだけは忘れなかった。
骨にまで寒さが染みるその場所には雪が降り始めていた。朝とも昼とも夜とも言えない階調が続き太陽と月が並んで顔を出している空を見上げる黒い長髪の男。
チラリチラリと不規則な動きをしながら地面に落ち溶ける雪を見つめる黒い長髪の男は、自分の肌に落ち溶けていく雪の冷たさに懐かしさを感じ、その懐かしさを噛みしめるようにその視線を自分が向かうべき進行方向へ向けた。
男の視線の先に続くのは何も無い荒野。だが男が進むことを決め一度歩き出すと、そこには男の進むべき道が現れる。現れた道の脇に出現する木々や花は季節に関係無く咲き乱れ、そう思えば突然枯れ始め最後には土に還る。そしてその不可思議な現象は木々や花だけに留まらない。
男が進む先には何の前触れもなく村が現れた。そして村が現れたかと思えば、その村は早送りのように急速な発展を遂げ街へと変わる。その街は幾つもの争いを戦い抜き更なる発展を遂げ国となった。そして最後は炎と黒煙に包まれその国は滅び瓦礫だけが残り、その瓦礫すら跡形も無く消えた。
男が進む道程にはそんな光景が幾度も繰り返されていく。それはまるで男が一歩進むごとに時間が急速に経過しているようであった。
「……主殿……」
ふと立ち止まる男。その言葉は、一体誰に向けられたものなのか。急速に時間が流れていくような光景の中で男は自分の思いとは関係無くそう呟いていた。
するとまるでその言葉に導かれたように、男の前には一人の青年が現れた。
青年は口を開かない。声を発さない。言葉を語らない。ただ、目の前に立つ黒い長髪の男を見つめるだけ。
「そうか……ここは……」
自分を見つめる青年の姿に、男はここが何処なのか理解する。
「私の記憶が作りだした主殿に、何を言っても伝わらないだろうが……」
見つめるだけで何もしない青年に、少し笑みを浮かべながらそう話しかける男。
「これは……主殿の試練であると同時に、私の試練でもある……進む先にある光を決して見失わぬよう……強き心を……そして願わくば終着の地にて再び出会えることを……」
届かぬ思い。伝わらない言葉。だが男はそれでもよかった。青年に向けられたその言葉は、青年の為であると同時に己の覚悟を奮い立たせる為のものでもあったから。
男は言いたい事を言い終え一時の別れを告げるように道の真ん中に立つ青年とすれちがいその道を進みだす。
「…… …… ……」
「ッ!」
青年とのすれ違い様、男は青年に語り掛けられたような気がした。
「……ふふ……主殿らしい……」
それは単なる空耳だったのかもしれない。ただ男が青年にそう語り掛けて欲しかっただけかもしれない。自分の持つ記憶が作りだした幻聴だったかもしれない。だが男にとってはそれはどうでもいいことであった。自分が知る青年ならば、自分に対してそう語り掛けてくるはずだと、男はもう一度笑みを零した。
「……ふぅ……さあ、私に課された試練を片付けよう……」
ひとしきり笑い終えた男は僅かに緩んだ顔を引き締め、腰に差していた剣を鞘から抜く。
「……環境整備独立支援……うーん何か違うな……」
男は何やら呪文のような言葉を唱え始めたかと思えば、しっくりこない様子で首を傾げ途中で唱えるのを止めた。
「……うむ……今の私にはやはりこれか」
少し考え納得した表情を浮かべる男。
「伝説武具ポーン! 油断せず参る!」
すれ違い様、青年から贈られたその言葉を織り交ぜ、男はそう名乗りをあげると、現実味の無いその世界を切り裂くように颯爽に駆けだしていった。
― 何処かの迷宮 ―
剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス
「はっ!」
出来なかった息が突然出来るようになったような、そんな声を上げながらスプリングは目を覚ました。
「はぁはぁはぁ……」
誰に何か言われたような気がしたがはっきりと思い出せないスプリングは、荒い息を整えながら周囲を見渡す。
「……ロンキ!」
現在の状況は把握できていないものの今自分の居る場所が危険であることだけは直ぐに思い出したスプリングはその場から飛び起きると同行者であるロンキの名を呼び周囲を見渡しながら警戒を始めた。
「むふふふ……むふふふ……むふふふふふふふふふ!」
「ん? この気味の悪い音はなんだ?」
長い通路に響き渡る今までに聞いたことが無い異様な音。
「……魔物か?」
気味の悪いその音をこの場所に生息する魔物の鳴き声と判断したスプリングは、更に警戒を強めた。
「……どこだ」
長い通路に反響して何処から聞こえてくるのか分からない気味の悪い鳴き声。その鳴き声の主を探し出そうとスプリングは自分の視線をあちこちに向ける。
「むふふふふふふ! えふえふ、むふふふふふふ!」
興奮しているのか、先程よりもその鳴き声が大きくなる。
「……ッ! そこか……」
反響するその鳴き声を辿りつつ視界が捉えた僅かな違和感に視線を向けたスプリングは、手に持った槍の先を突きつける。
「……猪」
スプリングの視線の先には、先程ギリギリで倒した巨大な猪、鎧猪の屍が横たわっていた。
「……まだ生きているのか」
その屍は、屍だというのに一定の間隔で小刻みに揺れていた。
「むふッ! むふむふッ! むふむふむふむッふむふむふむッ!」
そしてその揺れはあの気味の悪い鳴き声と動きが連動している。
(……まさかあの猪……寄生されていたのか?)
巨大な魔物を宿主として寄生する魔物は幾つか存在している。その宿主が死ぬと寄生している魔物は、その宿主の肉体を奪い自分のものにするのが一般的だ。生きている時よりも凶暴になり死を恐れない寄生された魔物は厄介極まりないことを知っているスプリングは、鎧猪に寄生している魔物に気付かれないよう距離を縮めていった。
(まだ完全に自分の物にできていない……なら今が好機!)
寄生する魔物は死んだ宿主の肉体を完全に自分の物にするまでに時間がかかる。そのことを理解していたスプリングは、寄生している魔物はまだ完全に鎧猪の肉体を自分のものにしていないと判断すると、手に持つ槍を振り上げた。
(狙うは、小刻みに揺れている……そこ!)
寄生する魔物は不完全であっても外からの衝撃を受ければ危険を感じ宿主の肉体を無理矢理動かし暴れ出す恐れがある。生前でも倒すことに苦労した鎧猪。万全の状態では無い今の自分では一人で倒すには中々に骨が折れる。そう思ったスプリングは集中して小刻みに揺れる鎧猪の急所があった場所に向けて渾身の一撃を放った。
「にゃああああああ!」
すると驚き慌てるような猫の声がその場に響き渡った。
「……にゃあ?」
その猫のような声に聞き覚えがあるスプリングは、槍で渾身の一撃を放った場所をよく見つめた。
「に、にゃあ……にゃあぁぁぁぁ……」
スプリングが放った槍の先には紙一重で槍を避け子猫のように震えながら鳴くロンキの姿があった。不気味な鳴き声や鎧猪の屍が小刻みに揺れていたその正体は寄生する魔物では無くロンキであった。
「い、いきなりなにするニャ!」
突然自分に攻撃してきたスプリングに泣きながら抗議するロンキ。
「お前こそそんな所で何をしているんだ?」
俺の渾身の突きを紙一重で避けるななんて流石、身体能力がずば抜けている猫獣人などと考えながらスプリングは、ロンキの抗議を無視してなぜそんな所にいるのか尋ねた。
「私に攻撃したことに対しての謝罪は無しかニャ!」
攻撃に対する謝罪は愚か自分の抗議も無視するスプリングの態度に怒りを爆発させるロンキ。
「あー悪い、なんか気味の悪い鳴き声が響いていたから魔物かと思って」
ロンキの命を狩りかねない一撃を放ったというのにスプリングの謝罪は軽い。
「なんだその謝罪! 全く心が籠ってないニャ!」
スプリングの心の籠っていない謝罪に猫らしい可愛い両手を何度も付き上げながら更に怒りを露わにするロンキ。
「……?」
しかしその見た目の所為なのかロンキの怒りが伝わらないスプリング。
「うぅぅぅぅ……もういいにゃ……」
諦めたようにきつ出した両腕を引っ込めるロンキ。
「……それで、お前は一体、この馬鹿デカい猪の急所近くで何をやっていたんだ?」
何かを諦めた様子のロンキを見て、スプリングはもう一度、何をしていたのか尋ねた。
「……この猪の調査、正確には纏っていた鎧を調べていたにゃ」
「鎧を?」
鍛冶師であるロンキらしいといえばロンキらしいその理由を知り頷くスプリング。
「うんにゃ」
スプリングの言葉に頷くロンキ。
「鎧というのは、人類が自分の身を守る為に作りだした装備にゃ……元は人間である活動死体や小鬼みたいな道具を使うぐらいの知性を持った魔物が鎧を纏っているというのならわかるけど……身を守るという概念や知性も無いしかも獣系の魔物が鎧を纏っているというのは見たこともないし聞いたことが無いニャ……」
「確かに……」
確かに活動死体は生前人間だった頃の装備を身に纏っていることが多いし、小鬼はある程度知性があり、近くにいた人間の姿を見て学習する個体は多くいる。だがそれは例外中の例外であり、その他の殆どの魔物は何かを身に着けるという概念や知性は持ち合わせていない。そんなロンキの説明に頷くスプリング。
「……ということはにゃ、この猪は鎧を身に着ける概念、知性を持っていた……もしくはこの猪に鎧を着させた何者かがいるってことにゃ」
「……」
今まで興味半分で話を聞いていたスプリングは、確信に迫ったロンキの言葉に表情を引き締めた。
「だからスプリングちゃんが寝ている間に、調べていたにゃ」
「それで……何がわかった?」
自分が意識を失っている間、よく魔物に襲われなかったなと思いつつ、スプリングはロンキの調査結果に期待を抱きながら尋ねた。
「まず、この猪に鎧を纏う概念や知性は無いにゃ……そもそも四足歩行の魔物が自分で鎧を纏うこと事体不可能にゃ」
最初に挙げた可能性を当然の理由で却下するロンキ。
「……残るは何者かが、この猪に鎧を纏わせた可能性だがにゃ……正直よくわからないにゃ」
「ああ?」
ロンキの結論に思わず聞き直すスプリング。
「まあ慌てるなにゃ……むふふ……何でこの猪が鎧を纏っていたかについては分からなかったけど、別のことで大事なことが分かったにゃ」
何処か勿体ぶるようにロンキは、鎧猪を調べている時に発していた気味の悪い声をあげた。
「……何だよ……」
期待できるのか出来ないのかも分からないロンキの言葉と、その気味の悪い声に顔を僅かに引きつらせるスプリング。
「まず、この猪が纏っていた鎧の素材、金属は月石にゃ」
「……月石って……」
ロンキの口から発せられたその単語に聞き覚えがあるスプリング。
「そう、ポーンちゃんに使われている金属にゃ」
ガイアスにある鉱石、金属の中で一番の強度を誇ると言われている月石。しかしその採掘場所は愚かその頑強な強度の為、現在の技術では加工することが不可能。そんな金属を用いて作られた自我を持つ伝説の武器であるポーンは現在の人類にとってその能力と共に製作面においても技術過多と言えるな代物であった。
「だから、あんなに硬かったのか……」
異常なまでの鎧猪の堅さの理由が月石製の鎧であることを知り納得するスプリング。
「そしてここからがもっとも重要にゃ……このガイアスに存在する迷宮の八割はが何でできているか、スプリングちゃんはしっているかにゃ?」
そう言いながら自分達が今いる長い通路の壁を拳で軽くロンキ。
「……月石だろ」
ガイアス中に存在する迷宮は人の手で破壊することが出来ない。それは迷宮を攻略する冒険者や戦闘職の中では常識であった。
迷宮攻略をする中で、迷路のような複雑な道に迷う者や罠に引っかかりその場から動けなくなる者がいる。そんな危機的状況に陥った時、その状況から脱したいと思うのは当然のことではある。そんな思考の中で、目の前にあるる壁を壊せばこの状況から脱することができるのではないかという思考に向かったとしても何らおかしいことでは無い。
だがそんな人間の思考を嘲笑うかのように、迷宮の壁は恐ろしい程に堅牢であった。迷宮は何か堅い物で叩いたり強力な魔法を放っても傷は愚か跡すら残らない。しかしそれは当然であった。ガイアスに存在する約八割の迷宮を構成している素材の殆どは現在の人類の技術では加工は愚か破壊も出来ないと言われている月石で出来ているからだ。
「その通りにゃ!」
スプリングの回答に話が早いと満足気な表情を浮かべるロンキ。
「それで?」
だがそんなロンキの満足気な表情を冷めた目で見つめるスプリングはその力説の結果を求めた。
「それでって……まあいいにゃ……むふふ……聞いて驚くニャ! 光の迷宮で使われている月石とこの迷宮に使われている月石は同じ年代のものが使われているニャ! 即ち……この迷宮は地続きになっている、光の迷宮の隠し通路ということにニャ!」
スプリングの圧のある言葉に少し動揺しながらもロンキは今自分たちがいる場所が既に調べ尽されゴミすら残っていないと揶揄されている光の迷宮に隠されていた通路があったと力強く告げた。
迷宮には隠し通路や隠し部屋というものが存在する場合がある。そう言った場所の奥には、新たな宝物庫がある場合があり、そこには他の宝物庫よりも更に良い物、それこそ伝説などと呼ばれる武具が存在している可能性が高い。その為、冒険者や戦闘職は例え調べ尽されたとされる迷宮であっても、隠し通路や隠し部屋を求め再度、攻略済みの迷宮攻略することがある。
「……」
「……え? 何にゃ死んだ魚のような目をしてどうしたにゃ?」
今までに数えきれない冒険者や戦闘職が攻略し尽し既に塵すら残っていないと揶揄されていた光の迷宮。そんな残りカスすら残っていない迷宮に隠し通路があったという事実は、冒険者や戦闘職界隈を震撼させる偉業といえる。そんな隠し通路の発見にスプリングも拍手喝采大万歳、一緒に喜んでくれるものと思っていたロンキ。だがその想像とは違いスプリングの反応は何とも言いようののないものであった。
「はぁ……」
一人大騒ぎするロンキを前に落胆のため息を吐くスプリング。
現在の技術よりも遥かに技術過多な代物である自我を持つ伝説の武器ポーンの不調を解消することが出来る場所がこの迷宮の何処かにあると言われたからスプリングたちは既に希望も無いと揶揄されている光の迷宮へわざわざ来ているのだ。
今更隠し通路や隠し部屋の1つや2つ存在していたとしても驚くことは無いし、むしろ存在していない方が驚きであるとさえスプリングは思う。
「期待した俺が馬鹿だった……」
だからこそ、ロンキから別の何か、もっと有益な情報が聞けると期待していたスプリング。だがスプリングの期待は見事に砕け散った。
「ガビーンニャ!」
期待するのを諦めたように落胆するスプリングのその言葉に、何処か古臭い反応で衝撃を受けるロンキ。
「はぁ……」
想像以上にロンキがポンコツであることを知り、頭を抱えたい気持ちになるスプリング。
「もういい……兎に角、先に進もう」
ここで実りの無い話を続けても時間の無駄だと思ったたスプリングは、先に進むことをロンキに提案する。
「ま、待つニャ! ……この先、この猪のような強力な魔物が沢山現れるニャ!」
「そんな分かりきったことを今更言うなよ」
強力な魔物がこの先ゴロゴロ現れることなど分かりきったこと、そんな事を一々言われなくても既に覚悟は決まっているとスプリングはロンキに告げる。
「……この猪一体と戦っただけでスプリングちゃんは既にボロボロだにゃ……そんな状態で本当にこの先の戦いを生き抜けるのかにゃ?」
先程までの騒がしい口調が嘘のように、静かに、だがスプリングを挑発するような物言いでこの先の戦いについて尋ねるロンキ。
「……」
ロンキの言うとおりスプリングの肉体は、先の鎧猪との戦いでボロボロであった。意識を失ったことで僅かに休め少しばかり体力は持ち直したが、それでもこの先、鎧猪のような魔物を何体も相手にしなければならないとなれば、不安が残るというのが本音である。それに加えいつ何時であっても常時ポーンから得られていた能力上昇や治癒効果が今は得られていないことが更にその不安を大きくする。だがそれでも先に進まなければならない。そう自分に言い聞かせスプリングは心に抱く不安を吹き飛ばそうとする。
「……どうなのにゃ?」
ポーンがもたらす効果もひっくるめて、ロンキはこの迷宮を生き抜けるのかとスプリングにもう一度尋ねた。
「……」
目前の猫獣人に全てを見透かされているような気分になるスプリングは、ロンキの問に何も言い返せない。
冷静に考えて今の自分ではこれからこの隠し通路の先に待つ、得体の知れない魔物を相手にすることは出来ないとそう判断するスプリング。
「冷静になるにゃ……迷宮内で無理は厳禁にゃ……これは迷宮を攻略するうえでまず新米が習う初歩的なものにゃ」
「うぐぅ!」
冒険者や戦闘職では無い鍛冶師に、先程まで勝手に大興奮していたロンキに冷静になれと諭され、迷宮を攻略するうえでの基礎中の基礎の教えを言われ、何とも言えない複雑な表情を浮かべるスプリング。
「幸いにも何故かここは、この猪以降、魔物が出現しなくなって安全空間になっているにゃ……今は体を休めて体力を出来るだけ回復させるにゃ、スプリングちゃんが体を休めているその間に、私がとっておきなものを用意しておくにゃ……」
「……とっておき?」
含みのあるロンキのその言葉に首を傾げるスプリング。
「……むふふふ……ただ隠し通路を発見して大喜びしていただけではないことを教えてやるにゃ、期待しておくといいにゃ」
例の気味の悪い鳴き声を発しながらロンキはニャニャした表情でスプリングにそう言うと、再び屍とかした鎧猪へ向かって行く。
「……本当かよ……」
鎧猪の所でなにやら作業を始めたその期待できない小さな背中を見つめながらぼやくスプリングは、ロンキに言われたように隠し通路の壁にもたれかかり座り込み体を休めるのだった。
ガイアスの世界
迷宮内に存在する隠し通路、隠し部屋。
迷宮の中には、隠し通路や隠し部屋が存在する。一見落とし穴に見えるような場所を下って行くとそこに新たな通路があったり、ボタンを押したら突然新たな道が開けるなど、発見の仕方は様々で、その奥には新たな通路や部屋、更には新たな階層があったりすることもある。
そういった場所を探索していくと新たな宝物庫があり、そこから手に入る品は所謂、伝説と呼ばれる武具であることが多い言う。
ちなみにではあるが、スプリングは光の迷宮へ向かった際、気付かずに隠し通路へ入り、気付かずに隠し部屋に入り、気付かずにその先にある宝物庫に辿りつきそこでポーンと出会った。




