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番外編 聖夜で章 愛する者へ捧げる内緒話 

ガイアスの世界


 今回はありません




 番外編 聖夜で章 愛する者へ捧げる内緒話 



 12月24日、街の光景は夜だと言うのに眩しかった。街の至る所には世界的に有名な聖人の誕生を祝う為の装飾が目立っていた。それと比例するように人々の雰囲気もソワソワしているようだった。

 でも人々の大多数は別にその聖人の誕生祭を祝いたい訳じゃない。煌びやかな電飾イルミネーションが醸し出す雰囲気に酔い知れ楽しみたいというのが大半の人々の本心だった。

 当然、例に漏れる事無く当時俺が生活していた地方都市『人杭ヒトクイ』も様々な装飾や電飾イルミネーションで煌びやかに飾られ、街を行き交う家族連れや恋人たちはそれに目を奪われ心を躍らせていた。

 しかも雪も降り始めたことでその年は白い生誕祭、ホワイトクリスマスとか言われていた。とりわけ街を行き交う恋人たちにとってそれは、ロマンチックな光景、いい思い出になる。まだ恋人未満な関係の男女にとってみれば、恋人へと関係を進める為の絶好的な状況となっただろう。

 けれどクリスマスとは本来、家族が一緒に過ごすというのが正しいらしくて、恋人とイチャイチャちちくりあう日ではないそうだ。

 まあどちらだとしても当時、愛を囁き合う相手も居なければ、一緒に過ごす家族もいない俺にとっては関係のない話だったけど。

 でもだからとって俺はクリスマスが嫌いな訳じゃない。街に綺麗な装飾が施されるのは見ていて悪い気分では無いし、それに心をソワソワしている人々の姿を見ているのも何だか楽しかった。

 けど俺がクリスマスを嫌いでは無い一番の理由は、伝説上の人物とされるプレゼント配りおじさん、通称サンタクロースの存在だ。

 聖夜、子供のいる家に忍び込んでは、寝ている子供の枕元にプレゼントを置いていくという妙な不法侵入者、それがサンタクロース。

 どうにも昔から俺はこの妙な不法侵入者サンタクロースが気になったんだ。その存在に一種の憧れのようなものすら持っていたと思う。

 けれどまさかバイトとはいえ、自分がサンタクロースの衣裳に袖を通す日が来ようとは夢にも思わなかった。


 街の問題を解決する何でも屋。当時俺は、その何でも屋でバイトをしていた。その何でも屋ではサンタクロースの衣裳を制服として採用していたんだ。

 何故何でも屋の制服がサンタクロースの衣裳なのか、それはクリスマスとサンタクロースをこよなく愛する何でも屋の社長の趣味だった。そしてサンタクロースの衣裳を制服とした理由がもう1つある。それは人目を引きつけ目立つからという安直な宣伝効果を狙っていたからだった。これは良くも悪くも社長の思惑通りだった。

 12月の時期、サンタクロースの衣裳は街の風景の1つとして溶け込んでしまいあまり目立たない。でもそれ以外の時期、サンタクロースの制服は季節違い、違和感として人目に目立つんだ。

 その効果もあってか、サンタクロースの制服を着た何でも屋は、あの街では知名度が高く依頼もそれなりに飛び込んできていた。

 何でも屋の仕事内容は、ペット探しから人探し、隣人の素行調査や夫や妻の浮気調査に至るまで何でも屋の名に恥じないものばかりだった。

 でも流石に素行調査や浮気調査みたいな人目から隠れて行う依頼の場合は私服だった。でもそれ以外の依頼の時は、夏場でもサンタクロースの制服を脱ぐことは許されなかった。それが何でも屋の決まりだったんだ。


 

「ニコさん!」


 街の中心部である駅前へ続く横断歩道を制服であるサンタクロースの姿で渡った俺は、通行人たちの目を奪う巨大なクリスマスツリーの下にいたサンタクロース、もといバイト先の先輩であるニコさんに声をかけた。


「おう、飛良泉ヒライズミ


 ニコさんは俺の名を呼ぶと右手を気怠そうにヒラヒラと振った。俺と同じくサンタクロースの制服に身を包むニコさんは、時期的に周囲の光景に何の違和感も無く溶け込んでいてもいいはずなのだが、周囲から漂う幸せオーラに当てられたようで死んだ魚のような目をしていた。


「けっ! 何がクリスマスだよな飛良泉!」


 幸せオーラ全開の人々になどお構いなく、俺と合流して早々クリスマスに対して悪態をつくニコさん。その体から周囲を不幸に陥れようとするオーラが漂っているように俺には見えた。


「……ええと、馴鹿ジュンロクさんは……」


 合流して早々、ご機嫌斜めな様子のニコさんから逃げるように俺は、周囲を見渡しもう一人のバイトの先輩の姿を探した。


「ここにいる」


「あ、馴鹿さん、おはようございます」


 まるで忍者のようにニコさんの背後から気配も無く姿を現したバイト先のもう一人の先輩、馴鹿さんに俺は挨拶した。

 ニコさんと馴鹿さんは俺とは違い何でも屋の正式な社員だ。特に馴鹿さんは社長の秘書のような立場にあり、実働部隊であるニコさんやバイトである俺に依頼内容の説明や様々な方向からのバックアップを主な仕事としている。その為、馴鹿さんはサンタクロースの制服は着ておらず高そうなスーツを着ていた。

 

「……それで……今日の依頼は何なんですか?」


 ニコさんたちと合流した俺は早速今日の依頼内容を尋ねた。


「……今日から飛良泉にも裏の依頼に参加してもらうことになった」


 依頼内容が入っている電子端末に目を落としながら馴鹿さんはそう言った。


「おい、こいつが裏の依頼に参加すること、俺は認めてないぞ」


 馴鹿さんのその言葉にニコさんは反発した。それが意地悪でも何でも無い、俺を思うが故のニコさんなりの優しさであることは理解していた。

 俺やニコさんたちがしている何でも屋は人探しや浮気調査、果ては犬の散歩に至るまで幅広い依頼をこなす。でもそれはあくまで表の顔であり、この何でも屋には裏の顔というのが存在する。

 裏というだけあってその内容は違法のオンパレードで人の生き死にも関係してくる危険な内容ばかり。一歩足を踏み入れればもう今までの日常へ戻ることが出来なくなる。それがこの何でも屋の裏の顔、裏の依頼だった。

 

「ニコ、それはお前が決めることじゃない……決めるのは彼だ……それでどうする? 今ならまだ引き返すことができるぞ……まあ君が引き返すと言ったら、この場で君の記憶を消去させてもらうがな」


 正直、そんなに都合よく人間の記憶を消すことが出来るのかと疑問に思ったが、出来てしまうと思わせてくる不思議な説得力が馴鹿さんにはあった。


「はい、その為に今日まで訓練してきましたから」


 俺は一切の躊躇無く馴鹿さんの言葉に頷いた。

 話が長くなるからどういう経緯でというのは省くけど、俺はこの二人やこの何でも屋の社長に救われた身だったんだ。その恩を返せるなら別に裏の世界に足を踏み入れても構わないと思っていたし覚悟を決めていた。その為に日頃から辛い訓練も続けてきた。だから、そこに迷いは無かった。


「はぁ……そうか……お前の気持ちは分かった、それじゃ今日からお前も俺と同じく平社員だ」


 裏の依頼へ参加することを反対していたニコさんからもう少し何か言われると思ったが、意外にも直ぐに俺の気持ちを汲み取ってくれたみたいだった。


「さて、お前も今日から俺と同じ平社員だ……平社員には偽名が必要になる」



「……偽名?」


 やけに平社員を強調するニコさんは、悪巧みしているような表情で妙な事を言い始めた。俺はよくわからず首を傾げた。


「そう偽名だ、かっこよく言えばコードネームだ」


「これからお前は裏の世界に顔を突っ込むことになる、そこで本名を口にすれば、直ぐに身元がバレる。そうならない為の偽名だ」


「ああなるほど」


 偽名が必要な理由を聞かされ俺はなるほどと納得した。

 裏の依頼は当然、表では解決できない厄介事を相手にする。当然そうなれば警察や裏の社会の人間とも顔を合わせることもある訳で、そこで身元がバレると後々面倒になる。そうならない為の予防策として裏の依頼をこなす時は、偽名を使うことが何でも屋でのルールとなっていたんだ。


「あの、それで俺の……偽名は?」


 今思えば何で二人に偽名を委ねてしまったのか後悔してる。でもこの時は何故か一体どんな偽名を付けられるのか、かっこいいのがいいなと期待しながら俺は二人に尋ねたんだ。


「うーん……ヒラキでいいんじゃない」


 そう、この後自分で名乗ればと凄く後悔した。期待は一瞬で崩れたんだ。


「ええーなんですかヒラキって?」


 微妙なその偽名に俺はあからさまに拒否反応を示した。


「何って、お前の苗字の二文字と名前の一文字をとってヒラキだ、簡単だろ」


「……飛良泉のヒラと光輝のキで……ヒラキ……ええ、何か安直すぎません? もっとこうかっこいい偽名はないんですか?」


 雑な偽名の作り方を聞き更に拒否反応を起こした俺は、納得できずニコさんに偽名の改善要求を申し出た。


「うるせぇな、後輩が先輩に生意気言うんじゃねぇよ……お前は今日からヒラキ、決まりだ」


 しかし俺の改善要求は先輩という立場を利用したパワハラによってよって却下された。


「馴鹿さんも何か言ってくださいよ」


 ニコさんよりも立場が上である馴鹿さんなら、公正な判断をしてくれる。そう思った俺は馴鹿さんに助けを求めた。


「……ヒラキで登録……ん? 何か言ったか?」


 でもその期待も瞬時に崩れ去った。馴鹿さんは既に電子端末に俺の偽名を登録してしまっていたんだ。


「……いいえ……何でもないです」


 バイトから正社員になった途端、社会の厳しさに絶望した俺は、諦め頷くことしか出来なかった。


「……あの所でお二人の偽名はどういった由来からきているんですか?」


 バイトから正社員になった証として不服な偽名を手にした俺は、純粋な気持ちから目の前にいる二人の偽名の由来が気になって尋ねたんだ。


 

「……俺はトナカイの和名からだ」


「ん? トナカイ?」


 すると俺の質問に馴鹿さんは、意外にもあっさり偽名の由来を話してくれたんだ。でも偽名の由来を聞いてなぜ偽名の由来がトナカイなのか更に気になったんだ。


「わかるだろう……社長の趣味……サンタクロースのソリを引くトナカイ、赤鼻のルドルフっているだろう、そこからだ……以上」


 クリスマスの度定番な歌にも出てくる赤鼻のトナカイ、ルドルフが自分の偽名の由来になっていることを教えてくれた馴鹿さんの表情は険しかった。どうやら馴鹿さんも俺と同様、強制的に偽名を付けられた側の人間らしい。何故その赤鼻のトナカイ、ルドルフが偽名の由来になっているのかとか、まだ追及したい気持ちはあったけど馴鹿さんの言葉や態度からそれ以上立ち入っちゃいけないと思って詮索するのを止めたんだ。


「えーとそれで……ニコさんは?」


 馴鹿さんの偽名を聞いたのだから、当然ニコさんにも聞かねばならないと思った俺は、そうニコさんに偽名の由来を尋ねた。


「……」


 けど返ってきたのは黙秘だった。俺が偽名の由来を尋ねた途端、ニコさんは大人げなくだんまりを決め込んだんだ。その反応から馴鹿さんと同じ、ニコさんも自分の偽名に何かしらの不満があることは簡単に想像できた。


「ニコの呼び名は、サンタクロースの別名、聖ニコラスから来ている」


 黙秘を続けるニコさんの代わりにとでも言うように馴鹿さんはニコさんの偽名の由来を口にした。


「ん? ……お、おい、馬鹿! 言うなよ!」


 不意を突かれた形で自分の偽名の由来をバラされたニコさんは大慌てで馴鹿さんに詰め寄っていた。


 よくよく話しを聞けば二人とも社長にクリスマスやサンタクロースに関連した偽名を付けられていて、その偽名に不満を持っていたみたいなんだ。それなら俺の偽名の事をもう少し考えてくれてもいいんじゃないかとそう心の片隅で思いながら俺は、仲裁にはいることもせず二人の言い合いが終わるのを待つことにした。


「……それで、今日の依頼はどんな内容だ?」


 二人の言い合いは五分続いた。結局決着はつかないまま話が依頼の内容へ移った。


「今日二人に行ってもらう依頼の内容は……」


 ここからは依頼者との守秘義務というのが発生するから詳しくは話せない。触りだけ話すと、このある美術館に飾られているとある絵の奪取、もしくは破壊というのがこの依頼の内容だった。内容的にはあまり褒められたものじゃない。でもこう言ってはなんだけど正直、今まで二人から聞いていた裏の依頼に比べれば危険度は低いなと、実際にその絵と対峙するまでは思っていた。

 現場に到着してからが怒涛だったんだ。まさかその美術館で通称、仮面の男と言われるあの街の都市伝説と出くわすことになるとは思わなかったし、更に言えばその仮面の男とニコさんが漫画やアニメのような戦いをするとも思っていなかった。

 俺はあの街の本当の裏側を知らなかったんだ。あの街には人智を越えた得体の知れない異形の何かが確実に存在していた。あの日、俺は都市伝説や怪異が溢れかえる地方都市『人杭ヒトクイ』の本当の姿の一部をその身で実際に感じ取ったんだ。


「はぁ……凄いものをみたな……」


 あまりにも現実離れした光景を目の当たりにした帰り道、俺は恐怖と高揚感という相反する感情を整理することも出来ず浮足だった状態で自分が住むポロアパートへ向かっていた。

 正直、あんなものたちとこれから渡り合っていくのかと考えると、自分はあとどれだけ生きていられるのかと考えてしまった。だけどそれと同時に俺の中に存在していた好奇心というやつが膨らんでいることも分かった。


「まあ、死んだら死んだだ……」


 死への恐怖が無いと言えば嘘になる。けれど今から死ぬ瞬間のことを考えてもしょうがない。今はとりあえず目の前の事を1つ1つこなしていくしかないのだからと、そんなことを考えながらようやく自分の中で暴れていた感情を落ち着かせた時、俺の視界は突然真っ白になった。


 突然だけど、あの街には都市伝説が多く存在する。それこそ誰もが知っている有名なものから、殆ど知られていないもの、この街にのみ存在するものと、その種類は様々だ。そんな都市伝説の1つに、トラックに轢かれると異世界へ旅立つというものがあった。

 漫画やアニメや小説、特にライトノベルと言われる中高生の中で人気のある小説に登場する主人公が、異世界へ転移や転生して旅立つ時、導入部分としてトラックに轢かれるという描写が多くある。

 多感な時期の中高生の中には、この都市伝説を信じる者が多くいて、そしてその都市伝説を信じて自らトラックに飛び込む者達が続出して当時問題にもなったらしい。

 なんで突然こんな話をしたかというと、あの時まさに俺の目の前にはトラックが迫っていたからだ。

 迫るトラックの走行音とけたたましいクラクションの音。強烈な光を発するベッドライトに俺の視界は真っ白になった。

 ああ、死ぬんだと思った瞬間、トラックの走行音とクラクションの音は忽然と消え、ただ白い世界だけが俺の前に広がった。それからどれだけの時間が経過したのか、次に俺が自分の目でみたものは雪が降る見知らぬ土地だった。

 こうして俺は、俺の世界で聖なる夜と呼ばれたあの日、人生の中で一番濃密な経験をしたあの日、トラックに轢かれてこの世界へやってきたんだ。



 どうもお久しぶりです山田二郎です。


 今回のこの番外編が多分今年最後の更新になると思うのでこの一年の総括的な後書きを少々。


 いや~今年も辛い一年でした。逃げて逃げて逃げ回ったことで、物語の展開が無駄に大きくなり、訳の分からない設定を加えたことでそれが後の自分の首を絞めることになる状況が続出しました。もぉぉ本当に過去の自分をぶっ飛ばしたいですね。

 さてそんな訳で来年は出来るだけシンプルにしていきたいとは思っている訳ですが、まあそうならないことも既に分かっている訳で……。

 まあ、兎に角頑張ります。うん……頑張ります。


 一年間、読んでくれた方、今回初めて読んくださった方、山田二郎は山田二郎なりに来年も頑張りますので、是非生暖かい目で見守って下さると幸いです。

 それではまた来年お会いしましょう! 山田二郎でした。(もしかしたらもう一回更新するかもしれません……しません?……)


  2022年12月23日 某英雄たちと共に戦うゲームの新章を心待ちにしながら。

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