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夕闇で章29 約束された運命

ガイアスの世界


 バラライカたちがヒラキを演じる人物に感じた恐怖


ヒラキを演じる人物を一目みたたげで恐怖を抱いたバラライカたち。その恐怖の正体は人間の本能に刷り込まれたものからくるものである。

 バラライカたちはヒラキを演じている人物に、魔族の気配を感じていたようだ。



 夕闇で章29 約束された運命




 彼女と彼の間に双子の男の子が生まれたという知らせを私が耳にしたのは、あの日から三年後。彼女たちを監視していたヒトクイの暗部、忍一族からの報告によってだった。


 島の統一後、表面上では平和になったように見えるヒトクイ。でもまだ島の各所にはヒトクイに反発する火種は残っていた。表向きな交渉によってその反発が無くなれば何も問題は無いのだが、そう簡単にはいかない。

 自分たちの優位性を主張しまだ統一戦争は終わっていないと、ヒトクイへ攻め込もうとする者達は当然存在していた。これを武力で抑え込むのは簡単だった。ただその指示をヒトクイの王が直接下せば、新たな反発を生む可能性がある。そんな新たな火種を生まない為に、王の影として誰にも悟られないよう裏で動く実働部隊がヒトクイには必要であった。

 良く言えば、物事が大きくなる前に収束させる者達、悪く言えばヒトクイの王の印象を悪くさせない為、王の代わりに汚い仕事を任せる者達が必要だったのだ。

 そこで私が目を付けたのが忍一族だった。ガウルドから少し離れた山岳地帯を拠点としていた彼らは、一族全てが忍と呼ばれる特殊な戦闘職で構成されている偵察や暗殺に特化した一族だった。

 統一以前、彼らは島にある様々な小国から依頼される偵察や暗殺で生計を立てていた。ただ彼らには確固たる信念があり、ただ自分たちの下にやってくる依頼を全て受けていた訳では無い。

 彼ら忍一族の信念、一族の正義に反する依頼にはどれだけ高い報酬を積まれても首を縦には振らなかったという。

 そんな彼らの力が私には必要だった。だから私は彼らの力を必要とし忍一族の長に力をかしてはくれないかと交渉を持ちかけた。

 忍一族の信念と正義の先にあるのは島の平和。幸いにもヒトクイが目指す所と忍一族の考えには近しいと頃があり、忍一族の長は、更なる国の平和に貢献できるのならばと、ヒトクイ直属の私兵になることを引き受けてくれた。ただし、忍一族の長は最後にこう言った。


 もし少しでも我々の信念や正義に背く行動をした場合、容赦なくその命を頂戴しに参りますと。


 こうして忍一族は王直属の私兵部隊、ヒトクイの暗部として活動を始めることになった。



 彼らがヒトクイの王直属の私兵部隊となってからしばらくして、あの日を迎えた。私の下から彼女たちが去って行った。

 だが手放しに彼女たちを送りだすことは私には出来なかった。当時の私は、『彼』に恥ずかしくない王になることに必至で自覚しないようにしていたが、そこに寂しさが介在していたことは否めない。けれど、私個人の感情以前に、彼女と彼は大きな問題を背負っていた。それは彼女と一緒に旅だった彼の中には『魔王の種子』が存在しているということだった。

 私は彼が持つ『魔王の種子』に異変の兆候が現れればすぐに対応できるよう、忍び一族を使い彼女たちの行動の全てを監視させた。

 彼が持つ『魔王の種子』は、私の中に存在する『彼』が持つ力によって活動を停止はしていた。だが消滅した訳では無いのだ。

 外的要因を受ければ再び芽を生やす可能性は十分にある。そうなれば彼は再び『闇』に呑まれ魔王へと覚醒してしまうかもしれない。そうなればヒトクイは愚か、この世界に脅威が迫ることになる。そう考えた私は『魔王の種子』を刺激するような外的要因の排除と彼女たちの監視を忍一族に任せることにしたのだ。

 ただし忍一族は彼女たちが持つ問題を知らない。監獄を脱獄した二人の足取りを随時報告するという任務として監視を続けさせていた。


 本当ならば忍一族の監視を付けるような回りくどい事をせず、あの日、彼女たちと対峙した時に彼のことを殺しておけばその脅威を絶つことは出来た。それがヒトクイという国の為、世界の安定に繋がることは分かっていた。でもそうすることが私にはどうしても出来なかった。

 私の中に存在している『彼』が彼を殺すことを望まなかったからだ。それが何故なのか、彼女たちの間に双子の子供が誕生したという報告を聞くまで私には分からなかった。

 忍一族からのその報告は私にとって異常事態であった。私は彼女たちとの別れ際、『魔王の種子』を持つ彼に1つの呪いをかけていたのがその理由だ。

 その呪いとは本来ならば彼女たちがいずれ手にしただろう幸せを1つ奪うこと。二人の間に子供が誕生しないようにする呪いだった。

 『魔王の種子』は親から子へ引き継がれる。親から『魔王の種子』を引き継いだ子は、当然魔王へ覚醒する適正を生まれながらにして持つことになる。そうなれば再びこのヒトクイに、この世界に大きな脅威が誕生する可能性が出てくる。それを未然に防ぐために私は、『魔王の種子』を持つ彼にこの呪いをかけたのだ。

 けれど結果として二人の間には子供が誕生した。私が彼にかけた呪いは理由も分からないまま意味を成さず無効化されたのだ。

 何故彼にかけた呪いが無効化されたのか、私はその理由を探るため、忍を同行させ一度彼女たちが暮らす旧シーオカ領、現ヒトクイ領にある彼の実家に向かった。

 戦いから離れ、静かに、平穏に暮らしていた彼女たち家族の姿は、見ているだけで私の心を和やかな気持ちにさせた。それは一時だけでもヒトクイの王では無い、本来の私に戻ったかのような感覚すら抱かせる幸せな一時となった。だがその感覚は彼女が内包した力を感じ取った時、一瞬にして吹き飛んだ。

 静かに、平穏な暮らしをおくり母となった彼女の体からは、その暮らしには必要のない程の力が存内包されていたのだ。

 その力は、彼女が得意とする魔法とは違う、どちらかと言えば『彼』と1つになったことで私が得た浄化の力に近いもの、『聖』の力であった。母となった彼女の中には『聖』の力が生まれていたのだ。

 ただその『聖』の力は、聖職者たちが扱うものとは似て非なるものだった。私は彼女が背負った、いや背負わされた運命をそこでようやく知り理解した。そして私の中に存在する『彼』が何故、彼を殺さなかったのか、その意を知った。

 聖職者が持つ『聖』を遥かに越える『聖』をその身に宿していた彼女は、世界から加護を受け『聖の巫女』になっていたのだ。

 『聖の巫女』とは、『世界に望まれし子』を産むという約束された運命を背負った世界から加護を受けた者のことを言う。そして『世界に望まれし子』とは、このガイアスという世界に迫る脅威へ対抗する力であった。

 けれど本来この世界へ迫る脅威に対抗するのは『彼』の役目だった。『彼』はこの世界に迫る脅威へ対抗する為に、この世界とは別の世界からやってきた転移者と呼ばれる存在だった。

 でも『彼』はその役目を果たすことなく死んだ。『彼』は自分の役目を放棄し私と1つになることを望んでしまった。『彼』のその行動は世界にとって予想外なものだった。

 『彼』のその予想外の行動によって脅威へ対抗する力を失った世界は、『彼』の穴埋めをするべく直ぐに代役を立てなければならなかった。だがこの時、他世界にこの世界を救う条件を持った者は存在していなかった。

 他世界から転移者を呼び込むことが出来なかった世界は、最後手段を使った。それが『聖の巫女』であり、『正解に望まれし子』。そして世界は『聖の巫女』として彼女を選んだのであった。


 この世界のシステムを何故か理解していた『彼』は、自分が亡き後、自分の身勝手によって彼女がその運命を背負うことを知っていたようだった。

 彼女に運命を背負わせてしまうことに責任を感じていた『彼』は、せめて彼女が愛する者との間に子を成せるようにと、彼女が愛する者『魔王の種子』を内包する彼を生かす選択をしたのだ。

 『聖の巫女』として『世界に望まれし子』を産むという彼女の運命を妨げようとした私の呪いは、世界の加護によって消滅させられていたのだ。

 こうして『聖の巫女』となった彼女は『魔王の種子』を内包した彼との間に子を宿したのである。そして相反した2つの力は混ざり合うこと無く、双子という形でこの世界に誕生することになった。

 方や世界に望まれ、方や世界に疎まれ誕生したこの双子は、生まれた時から、いや生まれる前から刃を交える運命を背負わされることになったのだ。

 



 剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス



― 現在 ヒトクイ ガウルド城 客間 ―



「……もうここまで話せば私が何を言いたいか、分かりますねアキ殿……」


 過去に向けていた心を現在へ戻したように長い昔語りを終えたレーニは、客間の壁に背を預けるアキへ目を向けるとそう結論を委ねた。


「……その二人が俺の母親と父親……て、ことだろう?」


 話の途中辺りから、薄々ではあるが勘付いていたアキは、少し戸惑った表情をしながら自身が導き出した結論をレーニへ伝えた。


「はい……あなたはバラライカとリューの間に生まれた子です」


 正解というように頷いたレーニは、アキがバラライカとリューの間に生まれた子供であることをはっきりと告げた。


「ッ!」


そのレーニの言葉に声を失い驚きと戸惑いの表情を浮かべたのはブリザラだった。


「……そしてあなたは父親であるリューから『魔王の種子』を引き継いでしまった……」


 そうレーニが口にした瞬間、その場の空気が一瞬にして緊張感に包まれていく。


「……あんたは俺を殺すつもりなのか?」


 これまでの話からして、レーニは『魔王の種子』に対して敵意のようなものを持っている。即ちそれはアキを殺すと同義であるともいえる。そう思ったアキは意外にも冷静な様子でレーニに対してそのことを尋ねた。


「ダメです!」


 だがアキの問に声を上げたのはレーニでは無くブリザラだった。


「お前……」


 声を上げたブリザラはアキを守るように背負っていた特大盾、自我を持つ伝説の盾キングを構えるとレーニの前に立った。そんなブリザラの後ろ姿を見ながら驚きの表情を浮かべるアキ。


「お前、俺がどういう存在なのか、王様の話で理解してただろう?」


 常識的に考えてレーニの話を聞けば、アキがこの世界にとって脅威になることは誰にでも想像でき分かること。アキは自分を守ろうとするブリザラの行動を否定した。だがその反面、自分が背負う運命に対して抗おうとしてくれるブリザラの姿に、何か言い表すことの出来ない感情がせり上がってくるのを感じていた。


「アキさんがどんな存在であろうと関係ありません! アキさんは私の仲間です、もしアキさんを殺そうとするのなら、例えヒトクイの王であるあなたでも私は許しません!」


 ブリザラの発言は受け手が受け手ならばサイデリー王国がヒトクイに対して宣戦布告したと受け取られてもおかしくは無いものであった。


「この馬鹿! 相手を考えろヒトクイの王様だぞ!」


 ブリザラの危うい発言に、自分の運命などすっ飛んでしまったアキはそう声を荒げた。


「で、でも」


「はぁ……」


困った表情で自分を見つめてくるブリザラに呆れて言葉も出ないアキ。

 相変わらずのお人よしで世間知らずの箱入り娘。その割に人一倍正義感が強く一度そう思ったらテコでも動かない頑固な一面を持つブリザラ。だがアキはそんなブリザラの行動に救われていることに気付いた。


「ふ……ふふふふ……あははははは!」


 アキとブリザラのそんな掛け合いにこらえきれなくなったレーニは声を上げて笑う。


「……」「……」


 突然笑いだしたレーニにアキとブリザラは戸惑いの表情を見せた。


「ふふ……申し訳ない……あなたたちの掛け合いが、ふふ……どうにも面白くて……」


 そう言いながらどうにか笑いを収束させていくレーニ。


「ふぅ……」


 落ち着くように息を吐くレーニ。


「……現時点であなたをどうするか、まだ私は決めていません」


 一息ついたレーニは、二人を見つめながらヒトクイの王としての立場として今自分が抱いている気持ちを正直に口にする。


「……このままいけば、私はあなたを容赦なく殺すことになります……でもそれはヒトクイの王としての立場としての私の気持ちです……ですが、ヒトクイの王でもヒラキでもない私個人としては、あなたを殺したくはない……だから強くなりなさい……あなが内包している『魔王の種子』を御して世界の脅威でないことを私に証明してみせなさい!」


 今までに無く強い口調で、アキにそう告げたレーニは、そう言うと僅かに微笑んだ。


「……ああ」


 微笑むレーニに対して、何か思うことがあるのか、少し間をあけてアキは頷くのだった。




― ガウルド城 地下監獄最深部 ―




 ガウルド城の地下に存在する監獄の最深部には地下特有の湿った空気が漂っていた。


「ん……」


 そんな地下特有の何とも言えない湿った空気を肌で感じながら、一人の少女が目を覚ます。


「ここは……」


 周囲を見渡すが申し訳ない程度の灯りしか無い暗闇の中にいる少女は全く状況を理解できず狼狽えた。


「……ん? あれ? ……何で私鎖でつながれているの?」


 両腕の不自由さを感じ無理矢理動かした少女。すると金属の擦れる音が響いた。その音で自分が鎖に繋がれていることを把握した少女は、なぜ自分がこんな状況にあるのか分からず首を傾げた。


「確か私は……あれ? ……今まで私、どうしていたっけ……」


 自分が置かれた状況を少しでも理解しようと自分の頭の中にある記憶を遡ろうとする少女。だが少女は思い出せない。自分が今まで何をしていたのか、何をしようとしていたのか全く思い出せなかった。


「……ソフィア……これは私の名前……」


 ただ自分の名前はわかるのか、確認するように自分の名を呟くソフィア。


「……」


そしてもう1つ頭の中に浮かぶものがあった。


「……スプリング」


それが誰の名前なのか、ソフィアには分からない。ただその名前を呟いた途端、心に様々な感情が湧き出てくるのを感じるソフィアは、その名前を持つ人物が自分にとって特別で大切な存在であることだけは理解するのだった。




―  ヒトクイ ガウルド周辺の草原 ―




「……ん?」


 統一戦争時、武装組織ヒトクイとシーオカ国の最終決戦の地となった草原を歩いていた種類の違う槍を二本背負う青年は、誰かに呼ばれたようなに感じてその足を止め周囲を見渡した。


「んん? どうしたのニャ?」


 青年の後を着いて来ていた猫獣人は、足を止めた青年の奇妙な行動が気になり尋ねた。


「い、いや……」


 青年は何か不可思議な感覚に囚われていた。


「なら、早く光の迷宮ダンジョンへ向かうのニャ!」


足を止めた青年を急かすように猫獣人は目的地の名を口にしながら再び歩き出す。


「……あ、ああ……」


 気の所為で済ませられる程に僅かにしか感じず、直ぐに消失してしまった不可思議な感覚。青年は自分の前を歩く猫獣人の後を追うように再び歩き出すと目的地へと向かう為、広い草原を進んで行くのであった。


ガイアスの世界


 『聖の巫女』


 世界に脅威が迫った時、その脅威に対抗する為の力を持った存在『世界に望まれし子』、所謂、勇者や英雄と言った存在を生み出す為の母体、母親が『聖の巫女』である。

『聖の巫女』は世界からの加護を受け、どんな状況になろうとも『世界に望まれし子」を産むまでは死ぬことが無く、どんな力であっても『世界に望まれし子』の誕生を妨害することは出来ない。

 『聖の巫女』へとなる条件ははっきりと分かっていないが、母体となる存在自体が元々に強い力を持っていることが1つの条件になっているようだ。

 ただし、世界は脅威に対抗する手段を他にも持っているようで、そちらの手段の方が手っ取り早く、『聖の巫女』は最終手段のような位置付けとなっている。

 

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