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真面目で章 3 (ブリザラ編) 成長

 

 ガイアスの世界


 ガイアスでの王ととい存在


 基本的には誰もが想像する王と同じものである。だが違う所もある。ガイアスでは女性が国のトップになった場合でも女王では無く王という名称で呼ばれるということである。そこに理由は特にないらしい。

 そして基本王でも戦闘職に就くことは可能で、ガイアスには武闘派な王が多い。


 真面目で章 3  (ブリザラ編) 成長



 剣と魔法が渦巻く世界、世界ガイアス





 一年の大半が雪と氷に支配され、厳しい寒さの中にある極寒の大陸フルード。しかし一年の大半が雪と氷に支配されているとはいえ、四季が無い訳では無い。僅かな時間フルードにも四季の変化は起こる。

 その中でも春の訪れはフルードの大地で生きる人々にとって希望の象徴ともいえる季節である。



 ― 氷の宮殿 敷地内 ―



「……さて、そろそろ交代の時間だ、壁門に向かおう……」


「ああ」


 氷の宮殿敷地内を歩く彼ら盾士達は、サイデリーを守る為にそびえる巨大な壁、東西南北に一つずつある壁門へ向かい歩き出した。彼らの任務である壁門での門番をする為であった。


「ここ数年、異常気象が続いているが……やっぱり今年も春の式典は行われないのかねぇ」


 ここ数年、異常気象が続くフルードには春が訪れていない。巨大な壁に施された魔術術式によって外に比べれば居住区などは温かいのだが壁の外に一歩でも出ればそこは極寒の地、フルード大陸にある他の大陸との行き来は中々に困難であった。そして何より春が訪れないという事実は人々の心も少しずつ暗くしていく。

 僅かな期間でしかないもののフルード大陸に住む人々は久しく訪れていない春が来るのを待ち望んでいるのだ。それはどんな厳しい環境でも壁門の門番という任務を任されている盾士達も同じ思いであった。


「……春の訪れは、宮殿の庭にある神木に花が咲くのが合図……確かこの辺に……」


 そう言った盾士の一人はその場に立ち止まり周囲をキョロキョロとする。すると何かを見つけたのか盾士の視線はピタリと止まり目を大きく見開いた。


「おい、どうした?」


 もう一人の盾士が立ち止まった盾士に声をかける。


「あ、あれ……あれを見ろ!」


 目を見開いた盾士は指を差してもう一人の盾士に必至でそれを見るように促した。


「なんだよ突然慌て……て! ああああ!」


 盾士達の視線の先、そこには先程二人が話していた春の訪れを告げる神木が花を咲かせていた。




 ― 氷の宮殿 同・会議室 ―



「……という報告が上位盾士から入っています……こちらで確認した所、たしかに神木に花が咲いていました」


 今朝、上位盾士が壁門の門番の任務に向かう道中で、氷の宮殿にある庭の神木に花が咲いたことをサイデリーの王を中心として座るサイデリーの家臣達に報告する上位盾士長の男。


「それはめでたい報告だ……ならば早急に春の式典の準備を始めなければならないな」


 家臣達の一人、サイデリーの王の横に座っていた初老の男、最上級盾士にしてこの会議を取り仕切る男、ガリデウスは春の式典の準備を開始することをその場の者達に告げる。この場を取り仕切るガリデウスの言葉にその場にいた者達は頷いた。勿論その場に同席していたサイデリーの王、ブリザラも大きく頷き目を輝かせていた。


『春の式典……久々に開催か』


「そうだよ、凄く楽しみだよ!」


 会議を後にしたブリザラは自室に戻ると自我を持つ伝説の盾キングに興奮した面持ちで春の式典の開催を嬉しがった。

 ここ最近、何処に行くにも―—勿論先程の会議にもキングを同席させていたブリザラの事は当然宮殿中で噂になっていた。そもそも一国の王が常に盾を所持していること事体、おかしなことなのだが、それ以上にその大きさに宮殿中の者達は目を丸くした。なんせブリザラを覆い隠す程巨大であったからだ。

 盾を扱う盾士でもキング程の大盾を持つ者はいない。理由は単純で重くて持ち上がらないからだ。もし持ち上げられたとしても満足に動くことは出来ない時点で戦闘には使えない。しかし見た目重い大盾キングを一国の王でありまだ少女と言っていいブリザラは軽々持ち運ぶ。その光景を目の当たりにして宮殿の者達が噂をしないわけが無い。

 しかし宮殿の者達はブリザラに大盾のことを聞こうとする者はいない。ブリザラが持つ大盾に関して触れることをガリデウスが禁じていたからであった。


『だが王よ、今回の春の式典は遊んではいられないぞ』


「え?」


 自分と同じ程の大きさを持つキングを軽々とブリザラはベッドの横に立てかけながら首を傾げる。


『ガリデウス殿の話を聞いていなかったのか? 王はサイデリーの王当然遊んでいる暇など無いぞ』


「……そんな……」


 今まで春の式典の開催に心ときめかせ目を輝かせていたブリザラは一瞬にして意気消沈したように暗い表情になる。

 春の式典とは、極寒の大地であるフルードに僅かに訪れる春に国を挙げて感謝の祈りを捧げる行事である。しかし蓋を開ければそれは国を挙げての祭りであり子供からすれば普段は無い出店などに心躍らせるものであった。当然まだ子供という位置にいるブリザラも春の式典では遊び倒す算段をしていた。しかし今のブリザラの立場はサイデリーの王。町に並ぶ出店で遊び倒す時間も暇もありはしなかった。


『これから人々の前での演説の練習、各所への挨拶回りの段取り……そして盾士としての訓練……やることは多い』


 ダメ押しというように当日ブリザラが王として行う仕事内容を口にするキング。


「いやあああああ!」


 絶望に堕ちたような表情になるブリザラの叫びが氷の宮殿に響くのであった。


 春の式典の開催はその日の内に国中、国外と広がった。人々は春の式典の開催に大喜びし、大急ぎでその準備を開始した。そんな人々の手伝いをする為に手の空いている盾士達は借り出されサイデリーは春の式典開催という事実に浮足立つのであった。


 町のあちらこちらから春の式典の準備の音が微かに聞こえる王の寝室。盾士としての修練、春の式典の準備でヘトヘトになったブリザラは着がえる気力も無くそのままベッドへと倒れ眠っていた。

 そんなブリザラの部屋に突然姿を現す黒い影。その影は足音を立てずゆっくりとブリザラが寝ているベッドへと近づいていく。黒い影は寝ているブリザラに近づくと手に持っていたナイフを振りかぶりブリザラへと振り下ろした。


「っ!」


 振り下ろされた瞬間、寝ていたブリザラは目を覚まし間一髪の所で黒い影が振り下ろしたナイフを避けるとそのままころがりながらベッドの横に立てかけてあったキングを手に取る。


「……」


 ベッドに突き刺さったナイフを抜いた黒い影、全身黒ずくめの襲撃者は何も言わずブリザラにそのナイフを向ける。


「……な……?」


 正直今自分が置かれている状況が夢なのか現実なのか判断がつかないブリザラは、キングを手にしたもののこれからどうすればいいのか混乱していた。ジリジリと距離を詰めてくる黒ずくめの襲撃者に一歩また一歩と下がるブリザラ。しかしここは寝室、自分の体が壁に当たりこれ以上下がることが出来ない。


「キング……どうしようキング」


 いつもなら一目散に何か言って来るはずのキングが今は沈黙したまま、ブリザラの呼びかけにも答えない。


「……」


 なぜキングが呼びかけに応じてくれないのかそれは分からなかったが、ブリザラはこの状況を自分一人で切り抜けなければならないと悟るとキングを握り直しここ数日習っていた盾士の構えをとった。


(盾をしっかりと前で構え、自分の体勢を低く保つ)


 頭で反復しながらブリザラは新米盾士ハルデリアから習った盾士の初段の構えを実戦すると黒ずくめの襲撃者を見つめる。

 それが人間の動きなのかと思う程にぎこちなくユラリユラリと不規則な動きとる黒ずくめの襲撃者。見たことも無い動きにブリザラはどうすればいいか困惑する。これが初めての戦闘であるブリザラにとって黒ずくめの者の動きは理解し難いものであった。

 しかしそれでもブリザラがまだ冷静を保っていられるのは、キングが自分を覆い隠す程の大盾だったからだ。通常ならば持ちあげることも困難な大盾。それ故にナイフ程度の攻撃ならば後ろをとられない限り防げる。今ブリザラは寝室の壁に背をつけている為に不意に後ろをとられることも無い。偶然とキングという大盾、そして盾士としての修練を受けていたという三拍子が揃っていたことにより今のブリザラは鉄壁に等しかった。しかしあくまで黒ずくめの襲撃者がナイフのみで攻撃を仕掛けてきた場合はという限定的なもの。もし黒ずくめの襲撃者が他の攻撃に切り替えた場合、それこそ魔法を扱いでもすれば話しは変わってくる。


(来るっ!)


 淡く赤く滲むブリザラの目。黒ずくめの襲撃者の動きを捉えられなかったはずのブリザラは、攻撃へ移行する予備動作へ入った黒ずくめの襲撃者の動きを捉え今だというように前へ出た。

 黒ずくめの襲撃者は前に出たブリザラによって完全に自分のタイミングを失い合わせその攻撃は中途半端にブリザラが持つキングに弾かれる結果となった。

 寝室内にキングと黒ずくめの襲撃者のナイフがぶつかる鈍い音が響く。


『な、何が起こった!』


 金属がぶつかり合う鈍い音で眠りから覚めたようにキングは、目の前で起こっている状況に声を上げた。


「キング!」


 キングの声に、今にも泣き出しそうな声でキングの名を口にするブリザラ。

 攻撃を防がれた黒ずくめの襲撃者は後方にバックステップしブリザラとキングから距離をとる。


『すまない私が少し離れている間にこんな状況になっているとは……』


 そう謝りながらキングはブリザラを守るように己の形状を変化させていく。


「キング?」


『今の王の戦い方だと私の形はこれがベストな形態だ』


 盾士としての修練で今のブリザラの動きを頭の中に叩き込んでいたキングは、ブリザラの癖や動きに最も適した形状に変化していた。それは通常時の大盾のキングよりも幾分か小さくなっていたが、どこからでもブリザラを守れる形状であった。


『今までより多少面積は小さいが心配することは無い、どんなことがあろうと私が必ずあの襲撃者からの攻撃を防ぐ、王よ私を信頼して欲しい!』


「う、うん!」


 絶対的な信頼、そんなこと言われなくてもしているというように強く頷くブリザラ。しかし思わぬ場所、思わぬタイミングで初戦闘を迎えることになったブリザラの表情からは緊張と恐怖が隠しきれていなかった。

 何処から現れたのか、そして何者なのかも分からない黒い襲撃者は、更に攻めにくくなったブリザラとキングを前に、それでも容赦なく攻撃を仕掛けてくる。先程よりも速度をました攻撃は、もう油断はしないと言っているかのように容赦なくブリザラを攻め立てた。しかしサイデリーを守る壁門のように鉄壁を誇るキングの前では全ての攻撃が弾かれ無意味となる。


『宮殿の者達は何をしている!』


 呼吸をしていないのではと思う程に一切休みの無い黒ずくめの襲撃者による連撃。全く休む暇も隙も無いその攻撃を全て己の体で弾きながらキングは、この騒ぎに誰も駆けつけない状況を疑問に思った。だがその疑問は直ぐに解消される。


『……くぅそうか春の式典の準備の影響か!』


 夜も深いというのに窓の外から聞こえる騒がしい音。その騒がしい音は春の式典の準備をする人々や盾士達の作業する音であった。

 今朝、春の式典の開催が国中に広がってから人々や盾士達はその準備に大忙しになっていた。その為サイデリーでは珍しく警備は手薄になっていた。もしかすると現在宮殿内に盾士は数える程しかいないかもしれない。その為ブリザラが襲撃されていることに気付いていない可能性が高いとキングは瞬時に悟った。



 《この襲撃者……もしかするとビショップの手の者か……》


 その計画的な行動にキングは一つの可能性を思い浮かべる。


 《だが……春の式典の開催が発表されてからまだ一日も経っていないというのに……まさか既にスパイを送り込んでいた……いやそれは無い、怪しい気配は直ぐにでも私が反応出来る……それが無い……》


 情報の速さに身内を疑うキング。しかしそれは直ぐに自分によって否定される。ブリザラという所有者を守る事が第一のキングにとって周囲の警戒は万全でありその中で怪しい者など今までいなかった。


 《だとすると……何者かによる遠隔操作……そうだとすればこの襲撃者の動きにも納得がいく》


 黒ずくめの襲撃者の背後に誰がいるのかまでは分からないが、黒ずくめの襲撃者本人が何者であるかを導き出したキング。


『王よ私を突きだせ!』


 ブリザラは言われるがまま、キングを前に突き出す。するとその瞬間キングの形状は再び変化させる。今度は盾にあるまじき形とでも言えばいいのか、まるでハリネズミのように鋭い棘を出現させたキングは突き出された力を利用しそのまま黒ずくめの襲撃者を串刺しにする。


『ただ防いでいるだけの盾だと思うな傀儡よ』


「……」


 串刺しにされたというのに苦悶の声一つ上げない黒ずくめの襲撃者は、力を失ったようにその場に崩れ落ちる。


「……人形?」


 ブリザラを襲った黒ずくめの襲撃者の正体は、木で作られた人形、傀儡の類であった。


『距離までは分からないが離れた所からこの傀儡を操り何者かが王を襲ったのだろう』


「そ、そんな……私にも悪いことしてないのに……」


『……』


 王とはその存在が良くも悪くもその命を狙われる。ブリザラが悪いことをしなくてもその命は狙われるのである。そう思いつつも本来ならば王として自覚が無いブリザラの発言を咎めることが出来ないキング。それは今回に限って命を狙っているのが国という概念を持つ者ではないからであった。しかしその存在をブリザラに話して良いものかとキングは未だ答えを出せずにいた。 


「……ねぇキング? 何か人形が光出しているのだけど?」


『なっ! 不味い!』


 床に倒れていた人形が突然光出したことに気付くブリザラ。その言葉を聞きキングはブリザラを守るように瞬時に形を変化させる。すると光を放っていた傀儡は瞬時に爆発を起こし吹き飛んだ。

 ブリザラの寝室を半壊させる程の爆発。見た目程威力は無いがそれでも人一人を確実に死に追いやることのできる威力。それはブリザラを確実に殺そうとしていたという何者かによる意思表示であった。


「ゴホゴホ……」


 爆風の煙で咳き込むブリザラ。


『王よ、無事か?』


 ブリザラに覆いかぶさったままその形状を元に戻さないキングは、周囲を警戒しながらブリザラに無事を確認する。


「う、うん、私は大丈夫、キングは?」


 問題無いと返事をかえしたブリザラは自分の身を守ってくれたキングは大丈夫かと尋ねる。


『ああ、この程度の爆発で私は傷一つつかない』


 そうキングは傷一つついていなかった。だがそれがキングの思考を混乱させる。自我を持つ伝説の盾であるキング。その防御力は、ガイアス一と言っていいだろう。それはキングがこの襲撃の黒幕だと踏んでいるビショップも知っているはずである。そう知っているはずなのだ、あの程度の爆発でキングに傷一つつけることが出来ずその所有者であるブリザラには何の被害が出ないことも。

 もしこの襲撃にビショップが関与しているのだとしたら、傀儡には氷の宮殿が一瞬にして灰になる程の威力を持った爆発を仕込むはずだと考えるキング。それでもキングの身に傷一つつかないであろうが、所有者であるブリザラには精神的な傷を負わせることができるだろう。だがそうはしなかった。そう傀儡の裏に居る黒幕はキングの存在を知らないのだ。


 《この襲撃にビショップは関与していないのか……だとしたら……一体誰が……》


 ビショップ以外でブリザラを襲撃しそうな存在に見当がつかないキングは混乱する。


「王! 大丈夫ですか王!」

 ブリザラの寝室の爆発によって、ようやく王に問題が発生したことに気付いた盾士達が吹き飛んだ寝室の扉跡から寝室の様子を覗きこむ。

 今の状況で自分は邪魔になると思いキングは普段の大盾の形に戻りブリザラの膝の上に収まった。

 急に視界が開けたブリザラは自分の部屋の惨状に目を丸くした。


「王、大丈夫ですか? 一体何があったのですか!」


 部屋を覗き込む盾士を払いのけ寝室に入り込んでいくガリデウス。大穴が開いた寝室には外の冷気が容赦なく入り込む部屋に一人茫然とした表情で座り込んでいるブリザラを抱き抱えるガリデウス。


「兎に角まずは安全な場所へ……お前達この部屋の応急処置をすぐに始めろ」


 盾士達に指示を出しながら抱きかかえたブリザラを寝室から移動させるガリデウス。


「ま、まって! 一人で歩けるから」


 ガリデウスの腕を強引に引き剥がしたブリザラは直ぐさま寝室に戻り取り残されたキングを手にするとガリデウスが待つ廊下へと出ていった。



 ― 氷の宮殿 同・会議室 ―



 ブリザラを連れ会議室へ移動したガリデウスは既に席についている家臣達を一瞥すると自分の定位置である席に腰を下ろした。ブリザラはガリデウスや家臣達が座る席から離れたソファに腰を下ろしキングを抱える。夜も深い時間、今朝から続く怒涛のような一日にブリザラはこと切れたようにガリデウスや家臣達が座る席から離れたソファでキングを抱えながら眠りについていた。


「……このタイミングでの王の命を狙った襲撃……」


 疲れ果て眠りについたブリザラの寝顔を見つめながら口を開くガリデウス。

 春の式典の開催が決定した矢先に起こった王の命を狙った襲撃。この事実にガリデウス達の表情は重い。


「疑いたくは無いが、国の中に王の命を狙う者が……」


「いや……他国の者による暗殺ではないのか?」


 既にキングが考えつき切り捨てた可能性を口にする家臣達。しかし国の中で反乱を企てている輩がいるという情報は一切無く、周辺の国でサイデリーの王の命を奪う理由のある国も無く全く話は進ず謎の襲撃者に困惑するしかないガリデウス達。


「兎に角だ、この件はサイデリー王国にとって数百年ぶりの危機である、警備を厳重に特に王の警備は最も強固にするしかない、それと今回の春の式典は王の命の安全を考え中止としよう」


 何も情報が得られないまま一時間が経過し、結局決まったことと言えば警備の強化と春の式典の開催中止であった。ガリデウスの言葉に頷く家臣一同。


「ダメっ!」


 満場一致でガリデウスの結論が通ると思われた矢先、ガリデウスの結論に異議を申し立てる者がいた。


「王……」


 ガリデウスの結論に異議を唱えたのは今まで寝ていたブリザラであった。


「ですがお命を狙われているのは王なのですぞ」


 家臣の一人がブリザラの意義に反論する。だがブリザラの目は揺るがなかった。


「……中止にしちゃダメ……春の式典は国の人々が望んでいた行事だから中止にしちゃダメ!」


 しっかり眠れていないのか目の下にははっきりと分かるクマがあり、少し熱もあるのか顔が赤いブリザラは春の式典を中止にすることを拒む。そんなブリザラの姿に一瞬驚いた表情になるガリデウスと家臣達。


「……王の命がかかっていること……その異議は通りませんぞ王」


 しかし普段ブリザラを叱る時よりも更に厳しい表情でガリデウスはブリザラの異議を却下する。 


「だったらこれは王の命令です、このまま春の式典の開催を進めてください!」


 だがブリザラも引き下がらない。普段、王という立場を一切振ってこなかったブリザラはここぞとばかりに王という立場を利用し自分の意見を押し通そうする。その姿に更に驚く家臣達。

 これまでにここまで意見を主張したことの無かったブリザラが強い意思を持って自らの意見を口にすることに感動を覚える家臣も中にはいた。


「王よ、それはみずからの命を落とす覚悟があると思ったよろしいのですな……王が命を落とした後の人々の責任を取れるということでよろしいのですな?」


 だがガリデウスはブリザラの突然の成長を嬉しく思いながらもその言葉に責任をとれるのかと冷たく引き離す。


「そ、それは……」


 責任というガリデウスの言葉に、今の自分に国の人々の責任を背負うだけの力があるのかと思い悩み言葉を失うブリザラ。

 決してブリザラは安易に春の式典が中止になることを嫌がり異議を申し出た訳では無い。ここ数年の異常気象の所為で表には出さないが、サイデリーの人々の気持ちが暗くなっていることをブリザラは知っていた。それでも常に明るく国を輝かせていたのはサイデリーに生きる人々だという事をブリザラは知っている。国の人々のその努力にその頑張りになんとか答えることは出来ないかとブリザラはここ最近で思うようになっていた。

 その考えの変化を起こしたのは紛れも無く常に近くにいたキングとここ最近修練を始めた盾士があってこそであった。

 キングは王とは何たるかを常日ごろブリザラに言い聞かせていた。正直宮殿で受ける勉強よりも分かりやすくためになる話をキングはブリザラにしていた。

 そして盾士という戦闘職に触れることによってブリザラはいかに自分が恵まれた環境で生きてきたのかを痛感したのだ。

 ガリデウス達の知らぬ所でしっかりと王として成長を始めたブリザラは、春の式典が開催されると聞いた時、表では王の職務が忙しいことに悲鳴を上げたが、その裏では常に明るく国を輝かせていた人々に何かする事ができるのではないかと思ったのだ。だからこそこの春の式典を中止にすることは絶対に認めてはならないことであった。だからこそ普段は嫌う王という立場を利用してまで春の式典の開催を決行するようブリザラは異議を申し立てたのであった。

 どんな経緯でブリザラが自分の意見をここまで強く主張するようになったのか見当もつかないが、ブリザラの成長を嬉しく思うガリデウス達。

 しかしブリザラはただの少女では無い。一国の王なのである。王の命が危険と分かっていて春の式典を開催する程ガリデウス達はブリザラの命を軽視していない。


「……私の問に答えられない以上、王の命令は無効とします……」


 折角自分の意思を主張したのにも関わらずその意思を砕かなくてはならないとはと心苦しくありながらもガリデウスは、ブリザラの王としての命令を無効にした。


『申し訳ないが、私にも意見をさせて貰っていいだろうか?』


 ガリデウスの言葉に何も言い返すことが出来ずブリザラが諦めようとした瞬間、その声は会議室に唐突に響いた。


「キング?」


 今まで厄介事を引き起こさないよう常に人前ではただの大盾であり続けていたキングが、突如としてその口を開いたのであった。

 全く何者かも分からない声に、しかしやけに威厳のあるその声にブリザラとガリデウスを除いた家臣達はその声の主を目で探す。


「な、何者だ!」


「ど、どこから?」


 自分達の中に声の主が居ない事を理解すると家臣達はどこからともなく聞こえる声に警戒し、席を立つ者もいた。


『突然驚かせたこと申し訳ない、私は王が所有する盾キングという』


 キングの言葉に誘導されるように、ブリザラが抱えていた大盾に一斉に視線を向ける家臣達。


「盾?」


「キング?」


 しかし理解できないのか家臣達は皆首を傾げた。しかしその中でガリデウスだけはキングをしっかりと見つめる。


「……伝説の盾……」


 キングに語り掛けるように、しかし周囲の家臣達にも分かる声でそう呟くガリデウス。


「で、伝説の盾……」


「な、なぜ伝説の盾が王の手に」


 伝説の盾という代物がガイアスのどこかに存在している事はその場にいた家臣達の誰もが知っていた。しかしそれは伝説のことである。真実とも虚構とも分からない物が本当に存在しているという事に、そして自分達の王がそれを所持しているという事に動揺と驚きを隠しきれない家臣達。


「王が持つ盾のことに触れることを禁じたのは、王が持つ伝説の盾の話が広まることを避ける為だ」


 ブリザラが突然持つようになった大盾のことについて触れることを一切禁じていた理由を口にするガリデウス。


『なるほどガリデウス殿は、私の存在に気付いておられたか』


 それも知っていたというような含みを持たせた口調でガリデウスに話しかけるキング。


「ええ、あれほど王には宝物庫に入ることを禁じていたにも関わらず頻繁に出入りしていたことに気付いていましたから……」


 そう言いながらガリデウスは厳しい目つきでブリザラを見る。ブリザラは震えあがりながらキングを盾にしてその視線から逃れようとする。


「……ある日を境に王は自分と同じ程の巨大な盾を肌身離さず所持するようになりましたのでこれはと思っておりましたよ」


 ブリザラの行動は全てガリデウスにはお見通しであったようでキングを盾にしたままブリザラは体を震わせた。


「しかしまさかその伝説の盾が自我を持っているとは思いませんでした」


『先代の王から話は聞いてなかったのですかな?』


「……ええ宝物庫に伝説の盾が保管されているとだけ」


 ブリザラの父親である先代の王がキングという伝説の盾の存在を知っていたという二人の会話に耳を傾けるブリザラ。


「お父様は、キングのことを知っていたの?」


『ああ、彼は私を扱うことは出来なかったが、古い友人だ』


 ブリザラの問に優しく答えるキング。


「そうなんだ! なんか嬉しいな!」


 自分の父親の話をもっと聞きたいという表情で目を輝かせるブリザラ。


「ゴホン! 王よ、今はその話は控えてください」


「あ! ……はい……」


 ガリデウスの鋭い眼光にキングから少し顔を出していたブリザラは返事をすると亀のように再び顔をキングの後ろに引っ込めた。


「それでキング殿……あなたの意見とは何ですかな?」


 キングの登場に未だ騒然としている家臣達の中でガリデウスは本題であるキングの意見について聞いた。 


『……意見の場をくれたことにまずは感謝を……さて私の意見だが……私は王の意見に賛同したい……』


 キングが口にした言葉に驚くブリザラ。


「それは……春の式典の開催を決行したいということですかな?」


『ああ、その通りだ、私は王が望む春の式典を開催して欲しいと言っている』


 キングの言葉に更に騒然とする家臣達。


「わざわざ王を危険に目に合わせるというのか?」


「そうだそうだ! 王の命を危険に晒す通りが無い!」


 家臣の一人からキングの意見を批判する言葉が飛び交う。


『ならば問おう 今回の襲撃、いち早く王の危機に感づいた者はいるか?』


「……」「……」


 キングの言葉に批判を口にした家臣の言葉が止まる。


『そう誰もいなかった……春の式典の準備にかまけ、警備が手薄になっていたあなた方の目を掻い潜り襲撃者は王を襲ったのだ』


 淡々と事実を述べるキング。


「手厳しい……確かにこの事態は我々の甘さによるもの……だがたからこそ王が公の場にでることを控える為に春の式典の開催は中止にするべきはずでは?」


 キングが何を言いたいのか分からないガリデウスはブリザラに降りかかる危険を回避する為にやはり春の式典は中止にするべきだと主張する。


『……現状襲撃者と戦闘を交えた私からすると、春の式典を中止し厳重な警備を敷いた所で、結果は変わらない……再び襲撃を許すことになる』


 キングの言葉に再び騒然とする家臣達。


『……だが相手も馬鹿では無い、私という存在を知った以上迂闊な行動はとれないはずだ……よって春の式典での襲撃は無いと私は考える』


 襲撃者の素性は分からない。しかし襲撃者もブリザラの下に伝説の盾がいたという事は知らなかった。ブリザラの命を狙うことが困難と分かればそれ相応の準備の為にすぐさま襲撃することは無いとキングは続けた。


「……」


 黙り込むガリデウス。確かにキングの言っていることは筋が通っていた。そして何よりあの爆発からブリザラを守ったのはキングだという事をガリデウスは気付いていた。


『当然警備を厳重にしておくことは当たり前だが、春の式典を中止にする程のことでは無い……それにもし春の式典という公の場で襲撃者が王を狙ってくのなら、私が全力で王を守る事を誓う』


 キングの重みのある言葉に家臣達は、既に判断をガリデウスに投げていた。家臣達の目が一斉にガリデウスの返答に向かう。


『まだ、悩んでいるのかガリデウス殿? それでは……最後に肩を押してやろう……今回の襲撃の話はどう足掻いても他の国に漏れることになるだろう……そうなれば難攻不落というイメージがついていたサイデリーはどう思われる?』


「なっ!」


 それは明らかなキングの挑発であった。


『我々でも攻め落とせるのではないか? ……と思う輩が現れてもおかしくは無い……そうなれば、平和の続いたサイデリーに無駄な争いが起こるかもしれない……』


 挑発を続けるキング。


『ならば、春の式典でその輩たちにこの国がどれほどに難攻不落な国であるかを証明するのが早いのではないか?』


 キングは、春の式典を開催することでサイデリーという国が難攻不落であるという事を見せつけるべきではないかとガリデウスに提案した。


「……はぁ……わかりました、キング殿……それだけ挑発されながらそれを受けないのは失礼、王の望みである春の式典の開催を了承しましょう」


 キングの挑発に折れたガリデウスは一つため息を吐きながら春の式典の開催を承諾したのであった。


「やったああああ! ありがとうキング!」


『うむ、礼はいい王は王として自分の職務を全うするのだ』


「ええ……」


 嬉しがったのも束の間、キングに釘を刺され一気に気分が落ちるブリザラ。


「キング殿の言う通り、開催が決定した今、王にはしっかりと職務を全うしていただきますからそのつもりで」


 追い打ちをかけるようにガリデウスは更にブリザラに釘を刺す。ブリザラはガリデウスかの言葉に何か言いしえぬ不安を感じて体を震わせた。


「……さてキング殿……まだ私や王に隠し事があるようだが……今はその事についてはあえて聞きません、しかしこれだけは誓ってください……どんなことがあろうと王をその命に賭けてお守りください……もし王の期待を裏切るようなことがあれば……」


『ふふふ、分かり切ったことを……』


 ガリデウスの最後の言葉を本気と捉えたキングは軽くあしらうように笑みを声に出す。そんな二人のやり取りを見ていたブリザラは、見たことも無いガリデウスの表情をみた気がするのであった。

 騒然とした会議が幕を閉じ自分の寝室が使えない為に、来客用の部屋へと入ったブリザラとキング。


「ありがとう、キング……」


 ベッドに横になったブリザラは、自分の枕元に立てかけたキングに礼を述べた。


『先程も言ったが礼はいい……王は自分の職務を全うするのだ』


 先程と同じようにブリザラに釘を刺すキング。しかしブリザラの表情は先程とは違い暗くはならずニコニコと笑みを浮かべていた。


「ねぇキング? 本当は春の式典を開催するの……反対……だったんでしょう?」


 ブリザラは自分の命が危険に晒されるかもしれない春の式典が開催されることをキングが本当は反対していたことに気付いていた。


「ああ、本当は反対だ……だがそれでは解決しないのだ……これから起こる……」


 と言いかけたキングは途中で喋るのを止めた。隣からブリザラの寝息が聞こえたてきたからだ。

 春の式典開催という話から始まった今日の一連の騒動。まだ少女と言っていいブリザラにとっては大変だった一日に違い無い。しかしその中でキングは確かなブリザラの成長を見た。それは王として、また自分を扱う所有者としての成長であった。

 だがそれは裏を返せばこれから始まる激しい戦いの幕開けなのだとも思うキング。嬉しさ半分、不安半分と言った心でキングは自分の横で安心して眠るブリザラの寝顔を見つめるのであった。



 あとがき


変なところで章が変わり〆の言葉を書くのを忘れていたのでここであとがきなどを。


 伝説の武器が装備できませんを書いている山田二郎と申します。


伝説の武器が装備できませんをここまで読んでいただきありがとうございます。感謝感謝です。

 文章の表現などまだまだド下手で誤字脱字、辻褄が合わないことや回収できていない複線なども沢山あると思いますが、これから生暖かい目で見守ってもらえるとありがたいです(笑

 それではまた次のあとがきで(設定を楽しみにしていた方々、本当にすいません)


 2015 3月30日(月)


あとがきのあとがき


どうもお久しぶりです山田二郎です。


この章をかき終えたのが2015年 3月30日ですか……約三年前……何か恐ろしいものを感じますね(苦笑

 さてという訳であとがきのあとがきな訳ですが、こうして自分が書いた物を読み返すと浮かぶ言葉は…酷いのただ一つ……もう書き直したくなりますね本当(笑

まあその酷さを少しても和らげる為にこうして修正して時には全く新しく書き直している訳ですが、結局計画性がないのは変わらずでまた良からぬ方向へと向かって行きそうで怖い。

 どうにかして辻褄合わせだけでもしたいのですが、合わせると違う所に綻びが生まれてそこに気付かない己がいるといった昨今であります。

 まあ兎に角これからも修正&編集を続けていくのでお時間がある方はまた覗きにきていただけると嬉しいです。

 誤字脱字、辻褄が合わないとい所には生暖かい目でみていただけると幸いです(それを修正しているのではないかと言われると何も言えません(汗)


2018年 8月17日 終わりが近づく夏休みに絶望しながら

 

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