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夕闇で章23 夕闇を歩く者

 ガイアスの世界


 『大喰らい』の真の力 『全特攻オールバイト


 暗黒時代に作られたとされる伝説の武器。武器の中では最強の1つに数えられる『大喰らい』は『全特攻オールバイト』という能力を持っている。

 『全特攻オールバイト』は一度でも斬ること、喰らうことが出来た生物や無機物であれば次に同じ生物、同じ種族、同じ無機物と戦いになった時でも確実に斬る、喰らうことが出来るという能力。

 しかし『大喰らい』が認めた者でなければその力は発揮されない。さこにはまるで意思が介在しているようにも思える。

 『大喰らい』から伝説武具ジョブシリーズを再現しようという当時の鍛冶師の想いのような物が感じられる。 




 夕闇で章23 夕闇を歩者



 

 私が自分の異変に気付いたのは『絶対悪』の残滓に呑まれ人では無くなったバン=デンダの気配をはっきりと感じとった時だった。

 当時まだ『絶対悪』の残滓という存在の事を知らなかった私は、肥大化した『闇』が禍々しく醜く形を成したようなその姿を目にした時、大きなくくりで言えば同族となったバン=デンダに対して怒りと共に強い嫌悪感を抱いた。

 最初、自分がそう抱いた感情は、作られた存在である私にも『闇』の眷属としての美意識が存在していたのだと思わせた。人間の底知れぬ欲によって変貌し曲解され肥大化した『闇』を私の中にある『闇』の眷属としての美意識が許さなかかったのだと思った。けれどそれは半分アタリで半分ハズレだった。

 確かに『闇』の眷属としての美意識は私にも存在していたと思う。けれどそれとは別に、自分の中には別の価値観が誕生していた。

 今思えばあの時、私の中に流れ始めていた、あの人から分け与えられた力が、『闇』へ変貌したバン=デンダに対して拒絶反応を起こしていたのだと思う。

 バン=デンダが放つ醜悪な『闇』の気配を感じ取り強い嫌悪を抱いた瞬間、それが引き金となって私の中に今までになかった力が流れているのを感じた。

 それは本来、『闇』が嫌悪を抱かなければならないはずの力、『闇』の存在を消し去る為の力。それにも関わらず、自分の体を巡り始めたその力の存在を知った時、私は抱かれているような暖かみを感じていた。それはきっと、流れ始めたその力にあの人の面影を感じたからだ。

 この日、私は『闇』としての私は半分死んだ。その半分を補うように新たな私が誕生したのだと思う。

 良く言えば中立者、悪く言えば半端者。私は陽の下を歩く訳でも、月の下を歩く訳でも無く、太陽と月が肩を並べる時間、夕闇の下で歩く様な存在、夜歩者ダークウォーカーでも人類でも無い夕闇歩者ハーフウォーカーになったのだ。



 夕闇へ染まる小さな島



 バン=デンダの四本の腕が絡み合い1つとなった巨大な手から極限にまで肥大化した黒い球体がガウルドへと放たれた瞬間、その光景を直視していたインセントは最期を覚悟した。

 それは彼らしくない考えではあったが、目の間で直視する現実はインセントにそう思わせてしまう程の絶望だった。

 絶望が質量を持って迫ってくる。まるでゆっくりと時が進むように目の前に迫る肥大化した黒い球体を目で追うインセント。それは自分を狙ったものでは無く背後にある数千人という人々が暮らすガウルドへ向けられたもの。そこに待つのは確実な死。


「ぬらあぁぁぁ!」


 だがインセントは諦めが悪い。確かに自分の最期を覚悟はしたが、ただこのまま指をくわえて終わりを迎える事を諦めの悪いインセントは良しとしなかった。その足掻きがどれほどの効果をもたらすのかは分からない。無駄になる可能性の方が高いのだろう。だが何もしないで命を散らすよりはと、最後に残った力をかき力を振り絞るインセントは、特大剣『大喰らい』を片腕で掲げ、喉がはち切れんばかりの声を上げながら迫りくる絶望を迎え撃とうとした。


「……」


 だがインセントの最期の足掻きは無駄に終わる。いや、足掻く必要が無くなったというのが正しい。覚悟を決め、掲げた大喰らいを最期の力を振り絞って振り下ろそうとした瞬間、インセントの視線の先には、この場に似つかわしくない小さな少女の背があった。そして、次の瞬間、自分の目の前に迫ったいたはずの黒い球体は元々そんなもの存在しなかったというように忽然と姿を消した。


「……」


その光景にインセントは言葉を失い、かき集めた最期の力は霧散し膝を地面に落とした。


「……」


 そして言葉を失ったのはインセントだけでは無く、肥大化した黒い球を放ったバン=デンダも同じであった。ガウルドを一瞬にして灰にする程の力を込めて放ったはずの黒い球体が忽然と消失してしまったという状況をバン=デンダは理解出来ず、鼻を鳴らすことも忘れその場を茫然と見つめてしまう。


「はぁはぁ……間に合った……」


 気付けば草原の土が緩む程の大雨が上がり、ガウルド上空に居すわっていた厚く黒い雨雲が引いていく。引いた雨雲の隙間から覗く太陽は既に傾きかけオレンジの鮮やかな光放つ。夜へと向かう狭間、僅かな時間、インセントとバン=デンダの前には、まるで遅刻しそうになり慌ててやってきたというような様子で少し息を切らした少女、レーニの姿があった。


「……レーニ!」


 全身から力が抜け、その場で意識を保っているのがやっとであるインセントは、思わず少女の名を叫んでいた。


「こ、これは……お前、一体何をした?」


 インセントが持つ知識量では到底理解できない状況。しかし目の前に突然現れたレーニがこれに関与していることは明白。インセントは、間髪入れずにその疑問を背中を向けるレーニに尋ねた。


「……よくここまで頑張ったな、あとは私に任せろ」


 その可憐な見た目に反して大人び少し乱暴な言葉使いをするレーニは背を向けたまま、今まで戦い抜いたインセントを労い、そして任せろと言った。


「……お、おう……」


 その発言があまりにも自然過ぎて、全く状況を理解できないまま、流れで頷いてしまうインセント。


「ぶひぃ……お前……ヒラキの周りをウロチョロしていた子供だな……」


 そんな二人のやり取りをみて、ようやく我を取り戻したバン=デンダはインセントに腕を切り落とされた時とは違い、気持ち悪い程に落ち着いた様子で対峙するレーニに話しかけた。


「……豚の癖に記憶力がいいな」


 そう挑発しながらバン=デンダへ向けるレーニの視線は冷視を通り越し無。巨大な生物が小さな生物を観測出来ないというような、二人の肉体の大きさから言えば立場が逆なはずの視線をレーニはバン=デンダに向けていた。


 「ぶびぃ……ぶひぃぶひぃ! ……今なら分かるぞ……お前私と同族だな……!」


 本来少女が持ち合わせていないはずの力をレーニから感じ取ったバン=デンダは、同族との遭遇を嬉しそうに叫んだ。


 「ぶひぃぶひぃ私と同じ力を持つ者……なるほど……私の為に敵側へと潜入して今まで働いていたくれたのだな!」


 同族ではあるが、あくまでも自分の方が立場は上であると考えるバン=デンダは、レーニという存在を都合のいいように解釈して勝手に納得し始めた。

 

「潜入? 働く? ……豚の癖に頭の中は花畑か? 私は豚の下で働いていたことなど一度も無いぞ」


 インセントと会話した時とは違い、全く熱を感じさせないレーニの言葉。自分よりも遥かに巨大な存在であるバン=デンダに対して、一切怖気や恐怖が感じられないレーニは言葉の端々に挑発を織り交ぜていく。


「なぁ! ぶひぃ……私の為にヒラキの懐に潜り込んで内情を探っていたのではないのか?」


「はぁ……どう考えれば、そういう話になる?」


 未だ自分の事を部下か何かだと勘違いしているバン=デンダに呆れ、挑発することも忘れてしまうレーニ。


「……大丈夫だとは思うがインセント……この豚の話を信じてなどいないだろうな?」


 自分がバン=デンダの密偵では無い事はその行動で明らかであるが、もしもの事があると面倒だと背後で膝をつくインセントに念を押すように尋ねるレーニ。


「あ、ああ……」


 だがインセント自身、二人の会話を聞いているだけの余裕は無い。ガウルド1つを消滅できるだけの威力を持った黒い球体を、どんな力を使ったのかは分からないがレーニがかき消したという事実を未だ受け入れられないインセントはその問に生返事することしか出来なかった。


「はぁ……」


 インセントのその態度に自分の問が上手く伝わっていないと感じ少し呆れたように息を漏らすレーニ。だがその表情は仲間を救えたという想いから少し嬉しそうであった。


「兎に角……ここからは私がお前の相手だ、覚悟しろ糞豚……この世に塵1つ残さず滅却してやる」


 そう言い放ったレーニの眼光は鋭く、バン=デンダを目力だけで射抜く勢いだった。


「ぶひぃ!」


 レーニの圧に気圧されたバン=デンダからは思わず情けない声が漏れる。


「……ぶ、ぶひぃ……ぶひぃぶひぃぶひぃ! その男ならずこんな少女まで私をコケにするとは……私は……私は魔王だぞ! この島を、いいや、この世界すらこの手にする力を持つ私に対してその態度……ゆる、許せん!」


 レーニの迫力に気圧され漏らした情けない声を誤魔化すように怒鳴りたてるバン=デンダ。


「魔王……? ……ならば私は神だな」


 バン=デンダが口にした魔王という言葉が引っかかったレーニは、まるで子供の言い合いの如く、自分は神だと主張する。だがこれはただの虚勢では無い。

 レーニは自分の力がバン=デンダを凌駕していることを自覚していた。それはバン=デンダがインセントへ向け、放った最大にまで肥大化した黒い球体をかき消せた時点で実感していた。それ故に、自分とバン=デンダの力の差を示す為にレーニは神と表現したのだ。


「神? ……神だと!  ぶひぃぶひぃ! ならばかかってくるがいい! 私がお前を捻り……りぃぃぃぃぃい!」


 自分を神だと自称する少女に対してかかってこいと勢いよく言い放った瞬間、黒い球体を放ったバン=デンダの巨大な腕が音も無く切断される宙を舞う。


「かかっていったぞ……」


 そう口にしたレーニはその場から動いていない。膝をついたインセントを背にしたままその場から一切動いていなかった。


「な、ぶひぃ! 何をしたぁぁぁぁぁぁ!」


 それにも関わらず、自分の巨大な腕が両断されたという事実に、混乱し発狂するバン=デンダ。


「……お前が放ったあの鼻くそを消滅させた原理と一緒だ……お前という存在を滅却する力をお前が感知できない速度で斬撃として放った」


「なぶぷぎゅぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 そう説明するレーニの視線の先で、幾つもの斬撃がバン=デンダの醜悪な程に肥大化した躯体を無数の細切れへと変えていく。レーニはその言葉通り、バンい=デンダに力の差を思い知らせたのだった。

 絶命する豚の嘶きと共に細切れとなった肉片から大量に黒く濁った液体がそこら中にぶちまけられていく。しかし次の瞬間には青い光と共にそれらは全て蒸発して夜へと姿を変えつつある草原の空へと昇り消えていった。


「ふぅ……大丈夫か?」


 バン=デンダの消滅を確認したレーニは周囲を見渡す。そこには次々と倒れ込むシーオカ国の兵達の姿があった。それは大本の力であるバン=デンダが消滅したことで、シーオカ国の兵たちにかけられていた呪いにも似た力が解けた証拠、光景であった。


「ふぅ……大丈夫か?」


周囲の安全を確認したレーニはバン=デンダと対峙中、一度も振り返ることが無かったその顔をインセントに向けてそう尋ねた。


「……大丈夫な……訳あるか……」


 心底疲れたような声を漏らすインセント。


「……だがそれよりなによりも……お前のその力は何だ?」


 以前からレーニが強力な力を持っていることは知っていた。だがどう考えてもレーニが今使った力はそれとは別物、力の性質が根本的に違うと思うインセント。その確信に迫ろうとインセントはレーニに言葉で詰め寄った。


「……ッ!」


 だがインセントの問に答えようとする前にレーニはその視線を別の場所へと向けた。


「はぁぁぁぁぁ……」


 その様子で全てを悟るインセントは大きく息を吐く。


「ああああ、分かった、それに答えるのは後でいい……」


 仲間として一緒に過ごした時期はそれほど長く無いが、その態度や行動、その言動に至るまで見て聞いていれば、少女が誰の事を一番に優先しているのかインセントにも理解できる。


「俺の事はいいから、直ぐにあいつの下へ向かえ」


インセントは気怠そうに右手で払う仕草をしながらレーニを送りだそうとする。


「だが……」


 しかし瀕死の仲間を置いていく訳にはいかないというように言いよどむレーニ。


「気にするな、俺はただ疲れただけだ、見た目程へばっちゃいねぇよ……それよりお前は王子様……いや、俺達の王様の下へと行け!」


 力を使い果たし既に腕一本指一本すら動かすのも辛いはずのインセントは、それを悟られないよう普段からよく見せる悪戯小僧のような表情を浮かべて再度レーニに行けと言った。


「……うん……分かった……ありがとう!」


 レーニはそう言うと、一目散でその場から離れ直ぐにインセントの視界から消えた。


「ん? ……そういや……あいつから礼を言われたことなんて無かったな……」


そう呟いたインセントの体は力無く草原へと倒れ込んだ。


「ふはは、それに……可愛い笑い方するじゃねぇか……」


 ぬかるんだ草原の土を体で感じながらインセントはレーニが去り際一瞬見せたその表情に、何処か満ち足りた気持ちになった。


「……後は……まかせたぞ……」


 薄れゆく意識中、掠れた声でレーニに全てを託したインセントはゆっりと目を閉じた。


 ……

 …………

 ………………


「……ぶひぃ……」



ガイアスの世界


 浄化の力の使い方の違い


 

『絶対悪』の残滓を宿した『闇』を浄化する為にヒラキは、浄化の力を放出するように使っていた。それに対し、レーニは浄化の力を斬撃として使用していた。二人の戦い方の違いは単純な浄化の力の総量の違いに起因している。

 潤沢な総量を持つヒラキに対して、浄化の力に目覚めたばかりのレーニの総量は多く無く、それ故レーニは力を節約する為に斬撃という形をとった。

 ちなみにヒラキも浄化の力を斬撃として使うことは可能。だが元々チマチマ戦うことを嫌うヒラキの性格上、斬撃よりも放出を好む傾向にある。

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