集合で章 3 偽りの招集
ガイアスの世界
異世界者
ガイアスに残る記録に異世界者が来たと思われる記述は残っていない。しかし記述が無いからと安易に今まで誰一人ガイアスに異世界者が来ていないという断定はできない。
歴史の節目に現れた者達の中には、どう考えてもガイアスに生きている者とは違った考えを持つ者もいたからだ。
それが彼ら自身の意思によって隠されたものなのか、それともガイアスという存在が異世界者という存在を隠したのかは分からない。だが確実に異世界者という存在はガイアスに存在していたのである。
集合で章 3 偽りの招集
剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス。
それはまるで夜空のようであるが、そこに地面は無く見渡す限りが暗黒と星の輝きが広がる世界。冷たく生命の気配を感じられないその世界は、ガイアスの遥か上空にある。ガイアスの人々はまさか自分達が見上げている空の先にそんな世界があること、自分達が生きているガイアスという世界が球体状であることを知らない。
だが存在すら知らないはずのその世界に漂う人類が手を付けたとしか思えない建造物が球体状のガイアスの周囲をまるで見守るように、見方を変えれば監視しているように回っている。
その建造物が一体何のために造られたのかは分からない。人類が存在すら知らず辿り付くことすら出来ないはずのその世界、その建造物の中である者達の集会が再び始まろうとしていた。
― 幻の大陸 ユウラギ 上空 ―
深い霧が広がるユウラギ大陸。空は常に太陽の光を遮るような分厚く黒い雲に覆われ、陰気な雰囲気が漂っている。そんな大陸の上空を高速で飛行する影。巨大な怪鳥は少年を背に乗せ目的の場所へと向かっていた。高速で飛行する怪鳥の背。普通ならば吹き飛ばされてもおかしくない怪鳥の背で少年、ユウトは平然とくつろいでいた。
「突然ですが坊ちゃん、これから少し席を外したいのですがよろしいですか?」
自我を持つ伝説の本ビショップは、くつろぐユウトに話しかける。
「……仲間の所?」
ビショップに坊ちゃんと呼ばれたユウトはささほど興味の無い霧が続くユウラギを眺めながらビショップの行き先を訪ねる。
『はい、どうやら坊ちゃんが探している竜の情報が得られそうなので』
「ふーん、そう」
興味無さそうに相槌を打つユウト。
《ふふふ……》
しかし表情は興味無さそうでも竜という言葉に体は抑えられなかったのかソワソワしているユウト。そんな反応をビショップは見逃すはずもなく心の中で笑いを堪えた。
『それでは、行ってきますね坊ちゃん、良い報告を期待してください』
「ん……」
表面上は気の無い返事を返すユウト。だがやはりその体は何処か落ち着きの無いものであった。
― 極寒の大陸フルード サイデリー王国 氷の宮殿内 王寝室 ―
王の寝室にある広い大きなベッドの片隅で小さな寝息をたてながら丸まっている少女、サイデリー王国の王ブリザラの姿があった。
『風邪を引かなければいいが……』
力尽きたようにベッドになだれ込んだのだろう、衣服は昨日着ていた物のまま眠るブリザラの姿を心配する自我を持つ伝説の盾キング。
ブリザラが眠るベッドの横に無造作に置かれたキングは、本来の役割を果たしていない毛布を見つめた。自我を持っていてもその体は盾。ブリザラに毛布をかけてあげることも出来ない自分が少し不甲斐無く感じるキング。
『……!』
ブリザラの身を案じていたキングは突然自分に起きた異変に声を押し殺した。
『どういうことだ? ……私にしか発動することができないはずの《絶対王命令》がなぜ発動している……』
キングに伝わる甲高い音。それは伝説の武具を総括する立場にあるキングにだけ与えられた能力、《絶対王命令》が発動した音であった。しかし本来発動する側であるキングにこの甲高い音が響くはずも無く、それは何かしらの異常が起こったと言って過言では無かった。
『……奴か……』
己の身に起こった異常、しかしキングはその異常の大本が何であるのかを理解する。
本来《絶対王命令》を扱えるのはキングのみ。ポーンもクイーンも扱うことは出来ない。しかし例外はある。
『……ジョブミラー……』
伝説の武具達が集う円卓の部屋。そこに空いた一つ空いた席。本来ならばキング達と肩を並べその席に座るはずの四つ目の伝説の武具の名を口にするキング。
『……確かめる他あるまい……』
未だ夢の中にいるブリザラの寝顔を一瞥したキングはそう呟くのであった。
― ムウラガからフルードへ向かう海路 ―
「あの……マスターお話が……」
重く黒い空から止めどなく降る雨。強風によって荒れ狂う海はまるでその道を閉ざすかのように海を進む舟を弄ぶ。上下左右に激しく揺れる舟の上で、自我を持つ伝説の防具クイーンはジブの所有者であるアキに申し訳なさそうに話しかける。
「な、なん……ぐぉ! ペッペッ……海水が口に……なんだクィーン!」
舟にかかる波をもろにうけたアキは口に入った海水を吐き出しながらクイーンの言葉に耳を傾けた。
正直、今のアキにクイーンの話を聞いている暇は無かった。自分達が乗る舟が今にも沈没しそうだからだ。
アキ達がムウラガからフルードへ向け出発した時までは快晴であった。しかし海に出て数時間が経過した頃、空は曇りポツリと雨が降り出したと思えばみるみるうちに海は大荒れになった。上下左右へと激しく揺れる舟。今にもひっくり返りそうな舟を安定させる為アキ舟の端から端へと右往左往さるさめになった。
「その……」
「だぁ! ちょ、ちょっと待ってくれ……ウルディネおいウルディネこの波をどうにかしてくれ!」
本題に入ろうとするクイーン。しかしアキはクイーンの言葉を遮ると舟のもう一人の乗員に声をかけた。そこにいたのは少女。一見その少女に大荒れの海をどうにか出来るような力は無いように見える。しかしその少女は少女であって少女では無い。少女の体には、水を司る上位精霊の魂が宿っているからだ。アキは水の上位精霊ウルディネならばこの状況を何とかしてくれると考えていた。
「……」
しかしその頼みの綱であるウルディネから返事はかえってこない。ウルディネはこんな大荒れの海の中、気持ちよさそうに眠っていた。
「寝てんじゃねぇよ、ウルディネ! ……海に出たら私に任せろって言ったのは何処のどいつだ!」
一瞬でも気を抜けばすぐさま海の藻屑と消える状況であるにも関わらず寝息をたてて眠っているウルディネに怒鳴り声を上げるアキ。しかし激しい雨と風にその声は本来の大きさに聞こえず眠るウルディネに届かない。全く役に立たない上位精霊に青筋をたてるアキ。すると目の前に再び大きな波が迫り舟に降り注いだ。
「モガッモガモガ!……」
波に紛れ何かがアキの顔を覆う。
「ぶっはぁ……な、なんだ前が見えない」
顔にへばりついた何かを引きはがすアキ。
「……タコ……?」
アキの顔にへばりついていたのはタコであった。こんな状況で無ければいい食料になるのだが、今のアキにそんなことを考える余裕は無い。アキがタコの名前を口にした瞬間、タコは口から墨を放ちアキの顔は真っ黒に染まった。
「こ、このやろぉぉぉ!」
目の前が墨によって真っ暗になったことに苛立ったアキは、荒れる波にタコを海に放り投げる。その瞬間また大きな波が舟に降り注ぐ。
「……だああああああああ! くそがぁああああああ!」
いつ終わるのかも分からない船旅。いつ止むのかも分からない大荒れの海に苛立ちを隠しきれないアキ。
「……あ、あのマスター」
話せる状況では無いことはクイーンも分かっていた。しかしこのままでは話せるタイミングを失うとクイーンは怒り狂うアキに再び声をかける。
「なんだよ!」
苛立ちをクイーンにぶつけるように返事を返すアキ。
「その……大変なところ本当に心苦しいのですが……呼び出しがかかりまして、少しの間この場から離れてもよろしいでしょうか?」
クイーンの言葉に鋭い目つきになるアキ。こんな状況の時にこの場から離れると言われれば誰でもアキのような鋭い目つきになってもおかしくは無い。アキの怒りを感じるクイーンは怒鳴られる準備をした。
「……離れるって……《絶対王命令ってやつか?」
「えっ! あ、はい……」
予想とは違いアキの冷静な口調に思わず驚きの声をあげるクイーン。
「……どんなことやつてるのかは知らないが、お前は《絶対王命令》って術には逆らえないんだろ? だったらしょうがない、この状況はどうにかするから行ってこい!」
想像以上に物分かりのいいアキにクイーンは、ムウラガで力を使い果たし眠りについていたアキに睡眠学習を施しておいて本当に良かったとあの時の自分を褒めたい気分になった。
「はい、ありがとうございます! すぐに戻ってきますから!」
アキの許可が下りた事で気が楽になったクイーンは気持ち良く返事をするとすぐに目的の場所へと向かう準備を始める。
「それでは行ってきます」
クイーンのその言葉を最後に、アキは常に感じていたクイーンの気配が無くなった事を感じ取った。なぜか少し不安を感じたアキではあったが、そんな事を考えている暇を与えない状況にその不安はかききえる。
次々に迫ってくる高い波を前にアキはどうやってこの状況を乗り切るか頭を切り替える。
「うわっ! クソ! こいつさえ起きていれば!」
頭から波を被ったアキは恨めしそうに寝ているウルディネに視線を向ける。そのウルディネは流石水を司る上位精霊、全く濡れた気配が無い。
「だぁああああああ! いい加減起きろ! 起きてどうにかしてくれぇえええええ!」
荒れ狂う海の上でアキの悲痛の叫びをあげる。だがしかしアキの悲痛な叫びも空しく荒れ狂う海の音にかき消されていく。当然その悲痛の叫びはウルディネの耳には届かず穏やかな寝息をたてるのであった。
― 小さな島 ヒトクイ 場所不明 ―
薄暗い小屋に人一人が入れるほどの得体の知れない球体がポツンと置かれていた。その大きな球体をじっと見つめ続けるのは自称義賊と謳う盗賊のソフィア。
ガウルドから少し離れた所にある旧戦死者墓地での活動死体や夜歩者との戦い、そしてその上位存在である闇歩者との戦いに敗れたソフィアは、戦意喪失のままその場から逃げるようにして自分の体格とほぼ同じ程の球体を運び今は使われていない旧戦死者墓地の用具が入っている小屋へ入り込んでいた。
自分の目の前で起こった事が未だに信じられないソフィアは仲間である人物が入っている球体をじっと見つめること以外何も出来ないでいた。
「私は……どうすればよかったんだろう……」
あの時自分には何が出来たのかとずっとソフィアは考えていた。次元の違う戦闘を目の当たりしたソフィア自分の無力さに落ち込んでいた。
だがソフィアが落ち込む理由はそれだけでは無い。ソフィアの心を落ち込ませた要因はソフィアと行動を共にしていた二人の仲間であった。
一人はその姿を人狼、聖狼に変え夜歩者との激しい戦いを繰り広げた。人間であった頃から化物のような強さを持っていたのにも関わらず、聖狼に姿を変え夜歩者を圧倒したその力はソフィアに戸惑いと衝撃を与えた。だがそんな力を持ってしても突然姿を現した夜歩者の上位存在である闇歩者には勝てず敗れた。何の気まぐれか命は助かったものの、意識を取り戻した聖狼は何も言わずソフィアの前から姿を消した。
そしてソフィアの目の前にある球体の中に居るもう一人の仲間。自我を持つ伝説の武器ポーンの所有者は夜歩者の振う刃によって倒れた。
その直後、自我を持つ伝説の武器ポーンは、ロッドであった己の形を球体に変化させ自分の所有者を取り込むとそれ以来ソフィアの問いかけにも一切答えることは無かった。仲間の安否も分からずポーンからの反応も無くソフィアはただ一人、ボロボロの小屋で事態が動くのを待つしか無かった。
― 場所不明 ―
ガイアスの空の更に上。夜の闇よりも暗いその場所に浮かぶ建造物。その建造物の中にある部屋。外の光景を一望することができる大きなガラスがはめ込まれた部屋があった。その部屋の中心には円卓と四つの椅子が置いてある。
するとどこからともなく姿を現した者達がすでに取り決められているのであろう自分の席の前に近づき腰を下ろしていく。
最初に席に腰を下ろしたのは、誰が見ても一目で王であるとイメージする風貌をした初老の男であった。それに続く艶めかしい服に身を包んだ女性。
「キング……私も暇では無いの、一体何事?」
開口一番、その豊満な双丘を上下に揺らしながら初老の男、キングに今回の目的を問う女性。何か急いでいるのか落ち着きが無い女性。
「クイーン……その事なんだが……今回《絶対王命令》を発動したのは私では無い」
健全な男ならばその双丘に目を奪われそうなものだが、キングは揺れる双丘に全く関心を向けること無く円卓に肘をついて落ち着きの無い女性、クイーンにそう告げる。
「……それって……」
キングの言葉で全てを悟ったのかクイーンの表情は一瞬で曇った。
「うむ……」
自分を見つめるクイーンに苦い顔を浮かべながら頷くキング。
「冗談でしょ、だって奴は!」
「冗談では無いのですよ、クイーン」
語気を強めるクイーンの声を遮るように、部屋の片隅、光の届かない場所から歩く足の音と共に二人とは違い陽気な声が響く。
「あなた!」
自分の名を口にされ視線を声がした方へと向けたクイーンは驚きの表情を浮かべる。キングはやはりそうかという表情でクイーンと同じ場所に視線を向けていた。
「今日はどうも私の《絶対王命令》によってお集まりいただきありがとうございます」
男はまるで道化師のように上に上げた右手をゆっくりと自分の胸に持っていき頭を下げながら二人に挨拶する。
「「ジョブ……ミラー」」
キングとブリザラの口から同時に発せられる男の名。しかしジョブミラーは人差し指を立て左右に揺らしながら心の無い笑みを浮かべる。
「今はあなた達に習って創造主から授かった名ビショップと名乗っております、以後その名で及び下さい」
ジョブミラー改めビショップは酷く不気味な笑みでキングとクイーンにそう告げた。
「あれ? そう言えば……ポーンは欠席ですか……流石にオリジナルの《絶対王命令》の用には行きませんかね……まあ彼は仲間はずれで拗ねるような人ではないですから今回は三人で話しを進めましょう」
ポーンが座るはずであったで空いた円卓の席を見ながらニタニタと笑みを浮かべた男は自分が座る席に腰掛ける。
「ビショップ何しにここに来たの!」
同じ席に座りたくないという意思表示なのか、にクイーンはビショップが席に腰掛けた瞬間、跳ね上がるように自分の席から立ち上がりビショップを怒鳴りつけた。
「何しにってクイーン、我々は仲間ではありませんか、私が復活したことと所有者が見つかったことをご報告に来たのですよ」
当然と言うようにクイーンに自分がこの場所に来た理由を告げるビショップ。しかしキングとクイーンはその言葉に納得した表情にはならない。
「……仲間? 冗談じゃないわ、あんたを仲間だなんて死んでも思わない……というかそんな事どうでもいいから早く私の目の前で滅びなさい!」
クイーンはまるで汚物でも見るような目で言葉を吐き捨てると右手をビショップに向ける。するとクイーンの手から凄まじい力が凝縮された球体が姿を現す。
「止めないかクイーン!」
すかさず横に立つクイーンを止めるキング。しかしその表情はクイーンと同様に怒りが籠っている。
「正直私もクイーンと同じ意見だ、ビショップ……お前という存在がこの世界から即座に消滅してくれることを願っているし出来るのならクイーンよりも先に私がやっている……しかしここは創造主の城……力を使うこと、争う事はご法度だ……そのことは理解して欲しい」
自分もお前を殺したくて仕方が無いと明らかな敵意をビショップに向けるキング。しかしそう言われても尚、ビシッョプはヘラヘラと心無い笑みを浮かべたままであった。
「それで……お前の本当の目的は何だ? 偽りの《絶対王命令》を発動してまで我々を集めた理由は?」
ただ自分が復活したことや所有者を得ただけでビショップが自分達に招集をかけるはずがない。そのことを理解していたキングは、本当の目的を口にするようビショップに問いかける。
「偽りって酷いな……これはれっきとした僕の能力なのに……」
「五月蠅い! 人真似が得意なだけの泥棒野郎がふざけたこと言ってるんじゃないわよ!」
キングに止められ少し落ち着きを取り戻していたクイーンであったが、ビショップの言葉に再び怒りのスイッチが入る。
「クイーン、怒ってばかりじゃ折角の美しい顔が台無しですよ」
「五月蠅い! あんたに言われても一ミリも嬉しくないわ! すぐに死になさい!」
この場で力を使ってはならないという事をしっかりと理解しているが故にクイーンは怒りを何処にぶつけていいのか分からずいつも以上に毒を撒き散らした。
「ビショップ、クイーンを挑発するのは止めろ……そして論点をずらすことも止めろ……私の質問に答えろ、なぜ私達をこの場に招集した?」
あくまで冷静にだがしっかりと敵意を持ったままキングは、再度ビショップが何故自分達をこの場に招集したのかを尋ねる。
「ここに来たらやることは一つですよ……自分の所有者の自慢をしに来たんです」
何ともふざけた回答に嫌悪感をはっきりと表に出すキングとクイーン。しかしビショップの言っていることに間違いは無い。この場に来る者達がすることと言えば自分の所有者の自慢話であるからだ。
「……この答えでも満足がいかないという表情をしてますね」
「当たり前よ! あんたは存在しているだけで災いなのよ……そんなあんたがただの自慢話をする為だけに私達をこの場に集めたりしない」
怒りを殺意を押し殺し冷静を保って言葉を口にするクイーン。
「私の真意……そんなこと話さなくてもお二人には分かってもらえると思いますがね……」
今までヘラヘラとしていたビショップから放たれる雰囲気が一瞬にして変わる。暗く重いその雰囲気を肌で感じるキングとクイーン。
「私はあなた方の能力を複製するだけが能力じゃない……所有者に選択させることで発動する力……《裁きの選択》がある……」
「なっ! お前……自分の所有者にそれを使ったのか?」
ビシッョプの言葉に思わず円卓の席から立ち上がるキング。
「何を驚いているのですか? 私が所有者を得たということはそう言うことでしょう……近い内にこの世界は生存か滅びかのどちらかに傾く……」
何が楽しいのか既に不気味な笑みに更に拍車のかかるビショップ。
「あんた……その能力で私達の創造主を殺しておいてまた同じことをするの!」
「ええ、それが我創造主の望みですから……」
以前にも同じような状況が起こりそれによって自分達の創造主の命が果てたことを口にしたクイーンに対してそれが創造主の意思だとすぐに返答したビシッョプ。
「……ならばビショップよ……場合によっては我々と敵対する覚悟があるという訳だな」
ビシッョプが支配していたその場の雰囲気を重く重低音のある声で覆すキング。
「……ええ、それは私の所有者の気持ち次第です」
迫力あるキングの雰囲気に全く物怖じすることなくそう言い放ったビショップはそう言うと円卓の席から立ち上がった。
「一つ情報を教えて差し上げます……私の所有者の心は無垢……今はまだどちらにも傾いては居ません、そして私はそんな所有者に対して一切どちらかに傾くような発言はしません……全て私の所有者が決めます……」
まるでそれが遊びだというようにビシッョプはこの場で初めて心の底からの笑みをキングとクイーンに向けた。
「だから……私の主の邪魔だけはしないでくださいね……」
笑みを浮かべ細めた目から僅かに見えるビショップの瞳に写る深い闇。それが警告であり絶対的なルールであることを即座に理解するキングとクイーン。
「それでは解散としましょう……私はこれから所有者の希望で強力な『竜』の後を追わなければならないので……」
やたに竜という言葉を強調したビショップはその言葉を残し円卓のある部屋から煙のように姿を消したのであった。
「竜だと?」
何の事かさっぱりであるキング。それに対して言葉が出ないというように口に手を当てるクイーン。
「どうしたクイーン?」
「はッ! ごめんなさいキング……私も帰るわ」
キングの言葉に我を取り戻したクイーンは別れの挨拶も早々にその場から姿を消した。
「……一体どうしたんだクイーン?」
明らかに慌てるようにして帰っていったクイーンの様子に首を傾げたキングは、そのまま深く考え込んだ。
「……手出し無用……だが奴の言葉を素直に受け取ってはならない……絶対に接触を試みてくるはずだ……用心せねば……」
まるで道化師のようなビショップの言葉を鵜呑みにしてはならないことを心に刻むキングは、自分以外誰も居なくなった円卓の部屋を一瞥するとその場から姿を消すのであった。
― 場所不明 ―
どことも分からぬその場所でビショップは笑いが止まらないのか笑い続けていた。
「ふふふふ……さて種は蒔きました……後は……彼らがどう動くか……そしてその行動が坊ちゃんにどういった影響を及ぼすか楽しみですね……そしてあの場に居なかったポーン……あなたはどう動きますか? ……アッハハハハ!」
― 小さな島 ヒトクイ 旧戦死者墓地 捨てされられた小屋 ―
命の危機であった所有者を取り込んだまま、それ以降一向に反応を見せない伝説の武器ポーンが形を変えた球体。その球体の側でじっと見つめ続けていたはずのソフィアの姿はそこにはなかった。
登場人物
ビショップ(人の姿) (真の名ジョブミラー)
常に笑った顔をしているのが特徴であり、その表情のせいか本心を掴み取るのは困難である。
性格は飄々としており、その表情とあいまって常に人をイラつかせる。本人はそれが面白いようである。
だが自分の所有者に対してはその性格が通じないことが分かっているようで、所有者に対してジョブミラーもといビシッヨプは素の表情を見せることが多い。
能力はビショップの真の名の通り複製能力である『万能鏡』どんな職業の技や魔法も所有者が耐えられる力であればコピーできる。ジョブシリーズの能力もコピーできることから、最強のジョブシリーズといっても過言では無い。だが能力はオリジナルよりも少し劣るようだがそれも些細なことでしかない。
しかしビショップの最大の能力は複製では無い。彼の最大の能力は《裁きの選択》(ジャッジメントセレクト》という能力にある。
能力の詳細は分からないが、ビシッョプが言うには、ガイアスの世界を生存させることも滅ぼすことも出来る能力だという。これを既に自分の所有者であるユウトに対して発動しているいう。これによりガイアスが生存するのか滅びるのかはユウトの選択にゆだねられたことになる。
そして遠い昔、ビショップは己の創造主にこの能力を使ったことが明らかにになっている。創造主はそれが原因で死んだとなっているがどういう死に方をしたのかは定かでは無い。
だがそれを契機に他のジョブシリーズとは深い溝が生まれたようだ。




