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そろそろ真面目で章5 (スプリング編) 再会 後編

ガイアスの世界


 世界進出した日々平穏の立役者


 日々平穏の創業者であるロンキがまだ一人前になって防具鍛冶師としてその頭角を現し始めた頃、とある人物から防具の依頼を受けた。

 その人物はロンキが製作した防具をいたく気に入り、自分の仲間にも勧めるようになった。気付けばその人物から大量の防具の発注を受けるようになったロンキは、彼の想いに応えるように必至で防具を作った。

 そんなある日、防具を製作するロンキの傍らでその人物はある事を口にする。


「俺が王様になったら、是非防具屋を開業してくれ、そしたら国を挙げてあんたの防具屋を世界中に広めてやる」


まだ今のように客を選べるような立場に無かったロンキは、


「是非、あんたが王様になったらよろしく頼むニャ」


と、その人物の夢や幻とも分からない戯言を冗談半分に聞いていた。

 それから数カ月後、その人物は夢や幻とも分からない戯言を現実にして島の王となった。それから更に数カ月後、防具屋、日々平穏を開業したロンキは猫の手も借りたい程の忙しさに見舞われることになった。



 そろそろ真面目で章5 (スプリング編) 再会 後編




 剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス



 ガウルドの大通りから少し外れた裏路地。普段から人通りが少なく、そこには城下町とは思えない静寂が広がっている。だがそれでも普段であれば大通りから人々の営みの喧騒は僅かだが漏れ聞こえてくる。それは以前この場所へ来た時にスプリングは聞いていた。しかし今スプリングの耳に大通りから漏れ出るような喧騒は無く一切の無音。異様と言える程の静けさが裏路地に広がっていた。まるで分厚い何かに遮断されているように、この場だけが別の場所に切り離されたような、そんな感覚をスプリングは感じながら目の前に突然現れた感情の籠っていない無機質な笑みを浮かべる男を見つめていた。

 一見ただの人間に見える男。少し前であればスプリングも男に対して抱く印象は少し不気味に思う程度だったかもしれない。だが今は違う。浄化という力を得たスプリングの目に映る男は、潜在的な嫌悪を感じさせる異様な雰囲気が漂っているように見えていた。そしてその雰囲気を漂わせているという事は、男がただの人間では無いということをスプリングに確信させる。


《……主殿……あの男……》


 スプリングが男に感じるその雰囲気、気配は、自我を持つ伝説の武器ポーンにも感じとれていた。男が放つ異様な気配を感じ取ったポーンは相手に聞こえない声でスプリングに声をかけた。


「……ああ」


 スプリングは男に対して共通した感覚を抱くポーンが何を言わんとしているのか理解しそれを肯定するように短く頷くと背中に背負っていた二本ある槍の内の一本、ポーンでは無い方の槍を抜くとその矛先を男に向けた。


《待て主殿! これは不味い想定外だ、今の我々ではこの量の『絶対悪』の残滓は対処できない!》


 異様な気配を放つ男に対して槍の矛先を向けるという予想だにしなかったスプリングの動きにポーンは慌てて相手に聞こえない声で警告する。男にスプリングとポーンが感じていたその気配。その正体とは感情を持つ生物が放つ負の感情を養分としてその力を高める『絶対悪』の残滓。しかも男が放つ『絶対悪』の残滓は、今のスプリングやポーンでは対処が出来ない程に強大で高濃度なものであった。


「……」


 だがスプリングはポーンの警告を聞かず男に明確な敵意を向け続ける。


「……再会して早々刃を向けられるとは……以前私を取り逃がしたのが悔しかったのですか?」


 スプリングに矛先と明確な敵意を向けられて尚、全く意に介さないと言った感じで男はただそのままの姿勢で無感情な笑みを向け、まるで久々に会った旧友と話すような雰囲気でそう尋ねた。


「……再会? ……取り逃がした……だと?」


 男の言動が理解でき無いというように首を傾げるスプリング。


《主殿!》


 男が放つ『絶対悪』の残滓は今の自分達ではどうすることも出来ない、これ以上の男との会話は危険であると判断したポーンは再度相手には聞こえない声でスプリングに警告する。


「……何を訳の分からない事を言っている、あんたとは初対面のはずだが?」


 だがそれでもスプリングはポーンの言葉を聞かない。スプリング自身、男が放つ『絶対悪』の残滓の強大さを理解していないはずはない。しかしそれでも男との会話を止めないスプリングは、以前に何処かであったかのような口ぶりで話しを進める男に対して初対面である事を断言した。


《主殿……》


 自分の警告を聞かず男との会話を進めるスプリングに困惑するポーン。


「ん? ……あれ?」


 対峙するスプリングと話しが噛み合わず僅かに狼狽えた様子を見せる男。だがやはりその表情は一切変わっていない。表情と見合わないその動きは滑稽にさえ映り、それ故、男の動きや言動は何処か芝居ぽく胡散臭く見える。


「ああ! ……なるほど……」


 すると突然何かに気付いたというように右手を握り開いた左の掌を叩く男。だがその動きを含めてやはり何処か芝居がかっていると感じるスプリングは、男の事を信用できず更に警戒を強めた。


「……確かに言われてみれば、あなたからすれば私は初対面ですね……」


 まるで張り付いたように無感情な笑みのままスプリングをまじまじと見つめた男は、初対面だというスプリングの意見に対して勝手に一人で自己完結し納得した。


「……俺からすればってどういう意味だ?」


 訳の分からない事を言いながら会話の内容を散らかし煙に巻く。この手の輩の使う手段だと思うスプリング。だが男が持つ性質を理解しながらもそれでもその言動が気になるスプリングは、実入りが無い事を承知でその言葉の真意を尋ねた。


「……いえ、お気になさらず……あなたはあなた……私が一方的に知っているだけです」


 スプリングの予想通り、男は実入りのある答えを述べること無く話しを終わらせた。


「……」


 男のその言葉にスプリングは沈黙する。それは男に対して真実を述べろという無言の圧であった。


「……ああ、自己紹介がまだでしたね」


 だが男はスプリングの無言の圧に一切屈しない。そればかりか白々しくわざとらしく思い出したというようにそう言うと男は、道化師が客に向けて挨拶するように右腕を大きく振りかぶりながらその腕を胸元に当て首を垂れた。


「私の名は、笑男スマイリーマン……しがない武器商人をしております」


「……武器商人? 道化師か舞台役者の間違いじゃないのか?」


 男の名が偽名であることはすぐに分かったスプリングは、男の立ち振る舞いから嫌味を口にする。


「ふふふ……お得意様からもよくそう言われます」


 乾いた笑いを発しながら笑男スマイリーマンはスプリングの嫌味を軽やかに躱した。


「……なら、これはどうだ?」


 男に嫌味が通用しない事を理解したスプリングはそう言うと次の一手を口にする。


「……あんた、人間じゃないだろう?」


《主殿ッ!》


 このままであればまだただの雑談で終わったかもしれない。そうであればこの場を切り抜けられるかもしれないと思っていたポーンは、その状況を自ら破壊する言葉を発したスプリングに卒倒した。


「あら? ……なるほどなるほど……私を見てそう感じるという事は、……あなた、力を持っていますね」


 スプリングが持つ力が何であるのか理解しているという様子の笑男スマイリーマンは、そう口にした次の瞬間、自身が放っていた『絶対悪』の残滓をより鮮明なものとして裏路地に現した。すると世界の色が変わってしまったかのように裏路地は色を失っていく。笑男スマイリーマンが放つ『絶対悪』の残滓は、その場の色を奪うと『闇』へと染め上げていった。


「ぐぐぅぅ」


 色濃くその姿を現した『絶対悪』の残滓、負の感情は圧となってスプリングを襲う。


「ぐぁぁぁ……」


 その圧に耐えられずスプリングは片膝をついた。


「ああ! これはこれは申し訳ありません、うれしくて張り切りすぎました」


 片膝をついたスプリングの様子を見て慌てた素振りを見せる笑男スマイリーマンは自分から放たれた『絶対悪』の残滓、高濃度の負の感情を抑え込み回収していく。


「どうやらまだ力に目覚めたばかりだったようですね……力を計り切れず、本当に申し訳ありませんでした」


 口では詫びているが、その表情は先程と変わらずの笑み。しかし力の差を見せつけられた今、スプリングの瞳に映る笑男スマイリーマンの笑みは、強者としてのソレにしか見えず、更には不気味さも増しているように見える。


《主殿! 逃げるのだ今すぐ!》


 状況は既に絶望的である。しかしそれでもポーンは叫ぶ。


「……所有者が持つ力を高め、『絶対悪』の残滓を浄化する事を手伝う役目にあるあなたが、そんな逃げの姿勢でどうするのですか……自我を持つ伝説の武器……いや、伝説武具ジョブシリーズのポーンさん」


『なッ!』


 ここに至るまで自身の存在を笑男スマイリーマンから隠していたポーンは、突然前触れも無く自分の名前を呼ばれ驚きが声となって漏れ出てしまった。


「ふふふ……不完全……不備……機能不全……あなたはそんな状態で所有者である彼を援護することができるのですか? ……残念です、非常に残念です……完全な浄化の力で持って私が作りだす『絶対悪』の残滓……いや、武具と戦って欲しかったのですが……」


『……何だと!』


笑男スマイリーマンの明らかな挑発に乗ってしまい声を荒げるポーン。


「……なるほど……それがあんたの目的か……」


 未だ笑男スマイリーマンから受けた『絶対悪』の残滓の圧から逃れられないでいるスプリングは、耐えるようにしてついていた片膝を上げ、よろけながらも立ち上がった。


「……ほほう、頼りない武器に比べて、所有者のあなたには気概のようなものを感じますね」


 笑男スマイリーマンはそう言いながら頼りなくも立ち上がったスプリングの姿に拍手を送る。


「クソつまらない嫌味をありがとうよ、三流道化師」


 立っているのもやっとであるスプリングは、笑男スマイリーマンをそう煽りながら再び槍を向けた。


「ふふふ、この状況でまだ私に挑発するその気持ちの強さ、いいですね……ですが先程もいいましたように私は道化師では無く、武器商人……そこを御間違いなさらぬよう……」


 自分は道化師では無く武器商人であるとスプリングの間違いを訂正する笑男スマイリーマンはおもむろに右腕を振り上げそして振り下ろした。


「ぐはぁ!」


 するとスプリングの体に先程よりも重い『絶対悪』の残滓による圧がのし掛かる。


「へへへ……ちゃんと……嫌味が通じるじゃないか……」


 しかし先程よりも強い笑男スマイリーマンが放つ『絶対悪』の残滓による圧を受けても、今度は膝を突かないスプリングは、そう言いながら口元を吊り上げた。


「……なるほど、まだ微弱であろうとも、その本質は浄化の力を得た者という訳ですね」


「……」


 笑男スマイリーマンの笑みは先程と寸分違わず変わらない。だがその言葉を発した笑男スマイリーマンの表情がスプリングには歪んでいたように見えた。


「まあいいでしょう……今日の所はその強大な力に屈しない強き心を持つあなたに免じて見逃してあげます……精々この世界で神の顔をしてのさばっているあの無能な創造主の力でも借りて、その無能な武器を直してもらうといいでしょう」


 スプリングの挫けない心に打たれたのか、それともただ興が逸れただけなのか、笑男スマイリーマンは発していた『絶対悪』の残滓を完全にかき消すと今にも倒れそうなスプリングにそう告げた。


「それでは……あなた方が今日よりも強くなって出会えることを、心よりお祈り申し上げますよ……浄化の力を手にし理を外れし者……」


 何とも不明瞭な言葉を残しながら舞台の終焉とでも言うように、笑男スマイリーマンは道化師が客に向けてするような挨拶をスプリングに向けて再び行うと、『絶対悪』の残滓が晴れ普段通りとなった裏路地の影へとその体を溶けこませ姿を消した。


「……やっぱり……道化師……じゃないか……」


 影に溶け込み姿を消す笑男スマイリーマンを見ながらそう呟いたスプリングは力を使い果たしたというようにその場に倒れ込んだ。


『主殿! 主殿ぉぉぉぉぉぉ!』


 大通りから聞こえる喧騒を横に、静けさが広がる裏路地には倒れたスプリングを呼びかけるポーンの叫びが響き渡るのであった。

ガイアスの世界


 ガウルドの裏路地


 ガウルドへの入口からガウルド城へまで続く大通り。巨木のように伸びるガウルドの大通りはいくつもの小さな道が枝分かれしている。その枝分かれした道を進んで行くとそこに裏路地と呼ばれる場所が幾つも存在している。

 聞こえは悪いが、ガウルドの裏路地は基本住宅街になっており、大通りの喧騒から少し離れた立地のよい場所ばかりである。

 過去には治安の悪かった裏路地も存在していたが、闇帝国ダークキングダムが壊滅した今はそこも治安が良くなっている。


 



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