そろそろ真面目で章4 (スプリング編) 再会 前編
ガイアスの世界
今回は作者の私用によりお休みです。
そろそろ真面目で章4 (スプリング編) 再会前編
剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス
旧戦死者墓地で襲撃してきた夜歩者を難なく倒したスプリングは、その足をガウルドの大通りへと足を向ける。人気のない路地裏を抜け人が多い大通りへと出たスプリングは何かを探すように周囲を見渡した。
『……主殿、本当にあの毛玉の下へ行くのか?』
そうスプリングに弱々しく尋ねたのは、スプリングが背負う二本の槍の内の一本、熟練者が扱うような存在感のある方、自我を持つ伝説の武器ポーンであった。
「ああ……わざわざ引き返して来たのは、それが目的だからな、ロンキとの約束を果たさなきゃならない」
元々スプリングはポーンと初めて出会った場所、光の迷宮に向かっていた。その道中立ち寄った村でポーンにとって仇敵である自我を持つ伝説の本ビショップやその所有者であるユウトという少年に出会い、スプリングは自分が知りたがっていた情報を得ることが出来た。
そして様々な情報を得たスプリングに対してビショップは突然ロンキに会う事を勧めてきたのだ。ビショップのその言葉でスプリングはロンキとある約束をしていた事を思い出した。スプリングはその約束を果たすべく、光の迷宮へ向かうのを一時中断しロンキが居るガウルドへと戻ってきたという訳である。
『そ、そうか……』
スプリングの答えに納得できない様子であるポーン。しかしそれが自分の為であることも理解しているポーンは気落ちした様子で頷くような声を発した。
城下町を進み、先程とは違う裏路地へと入って行くスプリングは以前にも立ち寄ったことのあるロンキがいる日々平穏という防具屋を目指していた。
「あれ? ……おかしいな、確かこっちだと思ったんだが」
以前立ち寄った記憶を頼りに、ロンキが居る日々平穏本店へと続く道筋を辿って歩いていくスプリング。だがどれだけ歩いても一向にロンキが居る本店へたどり着くことが出来ない。日々平穏の本店でロンキに出会ったのは間違いない。しかしここまで見つからないと自分が見たものは幻だったんじゃないかとスプリングは自分の記憶を疑いそうになった。だがスプリングがそう思ってしまうのも仕方がないことであった。
ロンキの手によって日々平穏本店が創業したのは、統一戦争が終結し名の無かった島にヒトクイという名称がついてから数年後、統一戦争時、島の中では一番の大国であったガウルドの名をヒトクイの首都の町名とした城下町が戦争の傷跡から復興を始めた頃であった。しかし現在その本店の建物は存在していない。いや、正確に言えば本店は存在しているが視認できないようになっているというのが正しい。
なぜそんな事になっているかといえば、創業者であるロンキが自分の腕を求め押し寄せる客の多さに嫌気がさしたからだった。
ロンキの鍛冶師としての腕はガイアス一と言われる程に一流である。猫獣人でありながら人族や小人の多い鍛冶師業界に飛び込んだロンキは、種族の優劣を覆しすぐに鍛冶師としての頭角を現していった。その腕を聞きつけた冒険者や戦闘職の間で瞬く間に噂となったロンキ。毎日のように名指しで防具製作の指名が入るようになったのを機に独立し、自分の店、日々平穏を創業したロンキは、客の要望にあった防具を作り続けた。それが更に噂となり、ロンキは人気鍛冶師の道を上り詰めていく。
だが人気になれば、当然仕事量も増えてくる。最初こそ丁寧に客の要望に応えていたロンキであったが、次第にただ仕事をこなすだけの毎日に疑問を抱くようになっていった。いつの頃からか、客の要望に応える物しか作らず、自分が追い求める物を作れていないことにロンキは気付いたのだ。そのことに気付いたロンキは、自分が追い求める物を作る為に、日々平穏の経営を気心の知れた従業員に任せ、本店にある工房へと籠るようになったのだ。
だがロンキの状況を知らない客の足は当然だが減らない。毎日のように防具製作の依頼の為に店へとやって来る客を煩わしく思ったロンキは、鍛冶師になる前、冒険者として生活していた頃に習得した幻術を使い、自分の工房がある本店をその幻術で丸々隠したのである。こうしていつの間にか本店の場所を知る者は日々平穏の従業員の一部と限られた客だけとなり、日々平穏本店は幻の店として冒険者や戦闘職の間で都市伝説のようになっていった。その為、今でも最高の性能を持つ防具を求め、ロンキが居る本店を探す冒険者や戦闘職が後を絶たない。
そんな事情を知らないスプリングは当然、ロンキがいる本店を見つけられるはずがないのだ。
「はぁ……これじゃ、ポーンの機能不全の原因が分からないじゃないか……」
ロンキが居る店を見つけられないという状況に疲弊の色が顔に浮かぶスプリング。そもそも何故、スプリングはガイアス一と言われる鍛冶師ロンキの下へ向かおうとしているのか。それはポーンの機能不全の原因を探ってもらう為であった。
迷宮の最下層では、ごく稀に伝説の武具が発見される。それは古い時代に作られた物であり現在の鍛冶師の技術で再現できないものばかりだ。その為、鍛冶師にとって伝説の武具というのは自分達の技術を高める為の研究対象なのである。1つの目標となっている。それはガイアス一の腕を持つと言われているロンキであっても例外では無く、しかもその伝説の武器が自我を持ち喋るとなれば、何が何でも調べたい対象であった。そんな鍛冶師にとっては喉から手がでるほどに価値がある自我を持つ伝説の武器の所持者であるスプリングは、気が済むまで調べていいという条件の下、ポーンの機能不全の原因を探ってもらう約束をしていたのだ。
所有者と意思疎通がとれ、所有者の傷すら癒し、敵の索敵までこなすポーンの能力は今の状態でも人間一人が持つ武器としては過剰過ぎると言ってもいい。しかしそれがポーンの能力の全てかと言われれば、それは違う。
本来、ポーンには所有者の意思に応じて己の形状、武器に変化させる能力、武器変化が備わっている。この能力の発動と同時に転職という転職場を介さず所有者であるスプリングの戦闘職を変更することが出来る能力も発動する仕組みになっている。だが現在ポーンが機能不全である影響でスプリングはポーンの能力を1つとして自分の意思で発動することが出来ない状態にあるのだ。そればかりか機能不全の影響で能力が暴走することもあり、これまでスプリングは望まない転職を繰り返す羽目になっていたのである。
そんなはた迷惑な状況を解消する糸口を見つける為にもロンキに再び会うのはスプリングにとって急務と言えた。
しかしそのロンキを見つけることが出来ないという状況にスプリングは途方に暮れるしか無かった。
「はて? ……まさかこんな所であなたとは会うとは……」
途方に暮れるスプリングの耳に聞き覚えのある声が響く。その瞬間スプリングの表情が一気に警戒の色へと変わった。
「……お前は……」
そう言いながらスプリングが視線を向けた先には、笑った仮面を付けたような表情をした男が立っていた。
ガイアスの世界
今回は作者の私用によりお休みです。




