夕闇で章11 統一への道7
※前回のガイアスの世界後半で、ダオ=ノーブルについて記載しましたが、設定を変更した為に内容も変更しました。
ガイアスの世界
ガウルド国で暗躍していた男
王の間でダオ=ノーブルの傍らにいた謎の男。その姿や性格から、節目の場所で何やら暗躍しているとある人物に似ているが同一人物であるのかは現段階では不明。
しかし男の言動からして『闇』や『絶対悪』に深い関わりがある事は明白のようだ。
夕闇で章11 統一への道7
戦乱吹き荒れる小さき島
自我を持ち感情を持つ生物ならば誰もが持つ負の感情。当然、他の者と違わず人間であったダオ=ノーブルにもそれはあった。だが人一倍負の感情が多かったかと言われればそんな事は無い。ダオ=ノーブルも他の者達と同様に内包する負の感情はごく平均的なものであった。ならば何故、国を巻き込む程の『絶対悪』の残滓が反応しダオ=ノーブルの身に魔王級の『闇』が内包することになったのか。それはダオ=ノーブルの生い立ちが影響していた。
前ガウルド王と第四王女という立場的には全く影響力の無い母親の間に生まれたダオ=ノーブル。当然王位継承権も一番下にあり、本来ならば将来王になる腹違いの兄たちを助ける立場にあった。だがそんな第四王女とダオ=ノーブルを前ガウルド王は愛し寵愛した。
王女の中で第四王女を一番愛した理由、その想いは前ガウルド王本人にしか分からないことだが、育ちが平民あがりであった第四王女は他の王女の比べ上昇意識や自分の立場にそこまで興味が無かったと言われており、そこが前ガウルド王には新鮮で好印象であったのではと言われている。そして第四王女の間に生まれた子供であるダオ=ノーブルも他の兄弟、兄達以上にその愛を注いだと言う。
しかし当然その状況を他の王女と兄たちは面白く思ってはいなかった。だがここまでは僅かな軋轢を生んだだけで王女たち、そしてその子供たちはまだ平穏を保ってていた。前ガウルド王が王位継承権の変更を口にするまでは。
ダオ=ノーブルの誕生から二年が経ったある日、前ガウルド王は第一王位継承権の位置にあった第一王女の子供王位を変更口すると宣言したのである。そしてあろうことか王位継承権最下位にあったダオ=ノーブルを第一王位継承対象としたのだ。第四王女とダオ=ノーブルに向けられた尽きることの無い前ガウルド王の愛情は、王位継承権の順位さすら変更させてしまったのだ。
この発言を発端に自分達の立場が危うくなった第一王女とその子供は今まで毛ほどにも思っていなかった第四王女とダオ=ノーブルに憎しみを抱くようになっていった。利害関係にあった他の王女とその子供たちと結託した第一王女とその子供は第四王女とダオ=ノーブルを暗殺することを決意。自分たちの立場を復活させる為に行動を開始した。だが当然王女たちやその子供たちがおおびらに行動を起こすことは出来ない。あくまで王女たちやその子供たちは静かに水面下で暗殺を決行した。
まず狙われたのは第四王女だった。第四王女は時間をかけて毒殺されたのである。誰にも気付かれないまま毒が進行し体調を崩した第四王女はダオ=ノーブルが四歳の時に流行り病と診断され死んだ。当然この時に立ちあった医師は王女たちの息がかかっているものであった。
医師の診断の下、流行り病と診断された前ガウルド王は第四王女の死を不審に思うことは無くそのまま葬儀が行われた。
第四王女の死に塞ぎこんだ前ガウルド王は彼女の忘れ形見となったダオ=ノーブルをより一層溺愛するようになっていった。
第四王女の死からしばらくして、王女とその子供たちはダオ=ノーブルの暗殺に乗り出した。最も身近にいた母親を失い守ってくれる者が殆どいないといってもいいダオ=ノーブルの暗殺は最初容易なものだと王女やその子供たちは思っていた。しかし一体どうしたことか、仕掛けた暗殺は全て失敗に終わったのだ。
度重なる暗殺に対して強運に守られたダオ=ノーブルをどうすれば暗殺できるのか表面上では仲良くしていた兄達は笑顔の裏で考える日々が続いた。そうこうしているうちに月日は流れていった。
第四王女暗殺から六年後、10歳となっていたダオ=ノーブルは幾度も暗殺されそうになった自分の状況がおかしいことに気付いた。そしてある日、気付き理解してしまう。母親は病死したのではなく殺された事、その犯人が身内にいることを。そしてその首謀者は敬愛していた兄たちやその母親であるということを。
ダオ=ノーブルは母親を失った自分に優しく接してくれていた兄達を本当に尊敬し敬愛していた。だがそんな兄達が自分の王位を狙って命を奪おうとしているという事実を知った時、ダオ=ノーブルの中に生まれた感情は裏切りへの悲しみでも失望でも無く兄達や王女たちが抱いていものと同じ憎しみという感情だった。
王位継承という自分ではどうすることも出来ない事に対しての理不尽、そして母親が殺されたという事実はダオ=ノーブルに人一倍の憎しみを生んだ。そしてその憎しみの矛先が最初に向いたのは自分の父親である前ガウルド王であった。
前ガウルド王が第一王位継承権を自分に移すなどと言わなければ、母親は殺されること無く、そして自分も命を狙われることは無かった。全ての元凶は父親あるという考えに至ったダオ=ノーブルは王女やその子供たちと同様に前ガウルド王を暗殺した。前ガウルド王が向ける最大の愛情に対して暗殺という最大の憎しみで答えたのだった。それはダオ=ノーブル14歳の時であった。
若干14歳にして王位継承権の変更により、ガウルド国の玉座に腰を据えることになったダオ=ノーブルがその権力を使ってまず取り組んだのは、王の死に悲しむ王女たちと子供たちを捕らえることだった。
あらゆる手段を使い暗殺の証拠を集めたダオ=ノーブルは暗殺計画に関わっていた兄達や王女たちにその証拠を突きつけて見事捕らえることに成功した。
自分は無実だ、そそのかされたのだと見苦しい言い訳を放つ兄たち。王とは言えまだ十四歳の子供に対して色仕掛けで命を繋ごうとする下品な王女たちの姿を見ながらダオ=ノーブルは一切の表情を変えず処刑を言い渡した。
14歳の新王の衝撃的な最初の仕事に国の人々は怯えた。だがこれ以降、ダオ=ノーブルの狂気は一旦影を潜めることとなる。王族の処刑以降、若いながら国で起った数々の問題事を解決していったダオ=ノーブルは良き王としてそして戦の才を持った軍神として人々の前に立ち続けたのである。
だがダオ=ノーブルの狂気は一切消えていなかった。良き王、軍神としての顔はあくまで表の顔であった事を国の人々は知らない。
処刑されたとされていた王女たちやその子供である兄達は実際は処刑されてはおらず、ガウルド城の地下に存在する牢獄に幽閉されていた。
ダオ=ノーブルが王女たちやその子供である兄達を処刑しなかったのは、己の中に存在する憎しみという感情を失わない為の戒めであった。
王女たちとその子供である兄たちを幽閉以降、ダオ=ノーブルは日課が出来た。それは一日の内数十分の間、牢獄に繋がれた兄達や王女たちを殺さない程度に拷問することだった。そうすることで自分の中にある憎しみを絶やさないようにしたのである。
故にダオ=ノーブルは人一倍憎しみという感情を強くその心に内包していた。それが『闇』を引きつけたのは必然と言えただろう。
― ガウルド城内 王の間 ―
ただの人ならば即座に自我を失い破滅するだろう『闇』の濃度が高まるガウルド城内王の間。その影響は生物だけに留まらず王の間の壁や床すらも黒く侵食していく。明らかに生物が生きていていい場所では無くなったその場所に『闇』の眷属、夜歩者レーニと己の憎しみを糧に人間を捨てその身を『闇』へと変えたダオ=ノーブルの姿があった。
『闇』を糧にする存在である両者にとって『闇』が充満する王の間は己が持つ『闇』を最も発揮できる場所でありそれを証明するように両者の『闇』の力は恐ろしい程に高まっていた。
しかし『闇』という力を使うこの両者の間には根本的に違うことがある。それは両者の種族だ。純粋な『闇』の眷属であるレーニに対し元は人間であるダオ=ノーブル。魔王級と称される程に膨大な『闇』を内包する元人間であるダオ=ノーブルの精神はそれに耐えられず既に自我は奪われ人間性は失われていた。もはや『闇』の傀儡と化したダオ=ノーブルの自我は殆ど無く、その姿も元は人間だったとは思えない程に変質していた。辛うじて人間の形を保つ頭部だけが、元は人間であった事を証明していはいるが、逆に化物と化した肉体と乖離がその異様さを醸し出していた。
「……ぐぐぐグググ愚愚愚」
化物と化した肉体の影響で人間の発声器官を失っているダオ=ノーブルの口から発せられた憎しみが纏わりつく不快な響きを持った咆哮は、王の間の高い天井近くで浮かぶレーニ向けられていた。
放出した『闇』を翼に変化させ王の間の天井付近に浮かぶレーニのその姿が気に喰わないのかダオ=ノーブルは、ヒラキを追い詰めた巨大な『闇』の手を掴むと己の背中に突き刺した。すると巨大な『闇』の手の指は形状を変え歪な翼を形成していく。
「かかかカカカ禍禍禍!」
どうだと言わんばかりに不気味に笑ったような咆哮をあげたダオ=ノーブルはその翼を羽ばたかせ宙に浮きレーニと同じ目線に位置した。
「……ふん、それがどうした、その程度で私が怯むと思うなよ」
同じ土俵に立ったダオ=ノーブルに対して鼻で笑ってみせるレーニ。相手は魔王級という膨大な『闇』を内包しているダオ=ノーブル。本来のレーニの力であれば到底太刀打ちできるはずもなく挑発できるような相手では無い。だがそんな相手を挑発する程にレーニの表情には余裕があった。
「さあ、後一分二十秒、相手をしてやる」
ヒラキとの約束から十秒が経過した事を口にしたレーニは『闇』の怪物と化したダオ=ノーブルを前に戦闘態勢をとった。
本当に時間稼ぎをする気があるのかと疑いたくなる程に自信に満ちたレーニのその行動と言動。本来ならば太刀打ちできない相手に対してそのような行動や言動が取れる理由がレーニにはあった。それがダオ=ノーブルが王の間に充満させた『闇』である。
『闇』の眷属は他の『闇』の眷属が放つ『闇』の影響を受け、己の力を向上させるという性質を持っている。しかしそれは微々たるものであり、多くても二倍程度が上限である。しかし『闇』の眷属が持つその性質を遥かに逸脱するようにしてレーニが内包する『闇』の力は高まり続けていた。
レーニは他の『闇』の眷属よりも他者から『闇』を効率よく吸収でき、逆に自身が放つ『闇』は他者の『闇』の眷属には影響を与えないという性質を持っていた。どこまでも自分に都合がいいその性質はまるで強大な力を持つ『闇』の眷属を抑え込む為に誰かが造りだしたものではと思ってしまう程に『闇』の眷属に対して相性の良い性質の持ち主であった。そう『闇』の眷属にとってレーニという存在は偶然生まれた異質過ぎる存在だったのである。
魔族と人間の争いの時代。最も人間に対してその力を振っていた『闇』の眷属、夜歩者は突如として戦場に現れた『聖』の力を宿した人狼に対して成す術無く敗北していた。この状況を打破する為に夜歩者は人間が造りだした膨大な『聖』を持つ人狼に対し反撃となる兵器を作りだそうと考え研究を始めた。そして数カ月の研究末、誕生した失敗作、それがレーニであった。
自分たちの存在を危ぶませる力を持つレーニのその力は、夜歩者から危険視された。しかし造りだしたはいいが自分たちの力では殺すことも出来ないと判断した夜歩者達は完成したが間に合わず一度も戦場に出ることが無かった兵器と共にレーニを封印したのだった。
夜歩者自らが偶然にもが造りだしてしまった対『闇』兵器。その力は魔王級の『闇』の力を持つダオ=ノーブルに対しても絶大であった。
「ごごごゴゴゴ誤誤誤!」
大振りに繰り出されるダオ=ノーブルの『闇』を纏った攻撃に対してレーニは自身に生えた翼を上手く使い華麗に躱すとそのまま右腕の拳を放った。その見た目には威力が感じられないレーニの拳。だがその拳に怪物のように巨大なダオ=ノーブルの体は、くの字のように曲がる。その衝撃はと止まることなくダオ=ノーブルの巨体を王の間の壁へと吹き飛ばした。
「……おいおい……これじゃ俺いらないじゃないか?」
レーニの圧倒的な制圧力を前に浄化の力を溜めていたヒラキは呆れた表情を浮かべた。
「馬鹿を言え! 私はあくまで奴を殺すことができるだけだ、私が殺しただけではこの国に充満した『闇』は消えない! トドメはお前が刺さないと意味が無いんだ!」
『闇』の眷属は死ぬと内包していた『闇』を放出する。しかしその『闇』は消えることは無い。ある時は近くにいた他の『闇』の眷属に吸収され、またある時は同じように死んで漂う『闇』と混ざり合い『絶対悪』に吸収される。今回の場合ヒラキがダオ=ノーブルの『闇』を浄化させなければ霧散したその『闇』は王都ガウルドに漂うことになり周囲にいる人間に更なる影響を与えることになる。そんな説明をしている暇も無いレーニはヒラキがトドメを刺さなければならないと簡単に説明すると王の間に埋もれたダオ=ノーブルに追撃を加える為その場から飛び出していった。
「……後50十秒……死なない程度に相手してもらうぞこの肉達磨!」
自分の中で正確に刻まれる秒数を感じながら壁に埋まるダオ=ノーブルにそう叫ぶレーニ。内包する『闇』の力が高まった影響なのか、普段よりも言葉が荒くなっているレーニは、壁に埋もれるダオ=ノーブルを容赦なく殴り続ける。反撃の隙も与えないその必要以上な拳による連打はダオ=ノーブルの『闇』で出来た脂肪を波打たせていた。
「後三十秒!」
息継ぎすることなく連打を続けダオ=ノーブルの行動を封じるレーニはヒラキに聞こえるようにそう叫んだ。
「……」
レーニのその叫びに静かに頷くヒラキ。その手に持つ剣からは先程とは比べものにならない浄化の光が輝きを放っていた。
「ぎぎぎギギギ疑疑疑!」
レーニという存在がいなければこの島や、もしかしたらこの世界すらも自らの手にできたかもしれないダオ=ノーブル。魔王級の力を持ちながらその力を最大限に発揮することが出来ず成す術も無くレーニに殴り続けられるダオ=ノーブルの口からは憎しみと苦痛に満ちた雄叫びが王の間に響き渡った。
ガイアスの世界
失敗作のレーニ。
魔族と人間の間で起った大きな戦。最初の百年は人間が追い込まれる形となっていたが、百年を過ぎた頃、人間は強大な『聖』の力を持った人狼の姿をした兵器を大量投入した。その人狼の活躍により戦況は大きく変化、気付けば人類側が優勢となった。
この状況に危機感を覚えた魔族、夜歩者は自分たちの種族をベースとした新たな魔族を造りだし、人狼に対抗しようとする。
その研究の中で誕生した一体がレーニであった。しかしその能力は夜歩者が望むものとは大きくかけ離れており失敗作の烙印を押され後に完成品であるもう一体と共に研究していた場所に封印されたようだ。




