円卓で章1 新たな家族
今回のガイアスの世界はお休みです。
円卓で章1 新たな家族
夜空に酷似しながらも何処か冷たく吸い込まれそう雰囲気を持つその世界は、生物には辿りつくことが出来ない空より遥か上にある宇宙と呼ばれる場所。そこに漂う巨大な球体こそ、幾億もの生物が生きる命の星、惑星ガイアスである。
その惑星ガイアスの周囲を漂う物体がある。それは明らかに人工的に造られた建造物であった。建造物である以上、誰かが造りだした訳だが生物が生きられない環境である宇宙にある以上、ガイアスで生きる人類や魔族にその建造物を造ることは出来ない。
それが出来るのはガイアスで神と呼ばれる存在だけである。
「……今回のこの気まぐれな招集もあなたがしでかした事なのかしら?」
惑星ガイアスの周囲を漂う建造物の内部にある一室である大広間の中央には大きな円卓が置かれている。十人は軽く囲うことが出来る大きさでありながら円卓に置かれた席は四つしか無い。しかもその内の一つの席は現在空席となっていた。
円卓の席には三人の男女が座っていた。一人は見た瞬間、誰もが頭の中に王をイメージする姿をした初老の男。そしてもう一人の男はいかにも武人といった雰囲気を持つ長髪の男。そして最後の一人は胸元が大きく開いた真っ黒いドレスに身を包んだ女性だった。
宇宙に漂う建造物の内部にある大広間で円卓を囲う彼らの正体は、創造主が造りだした武具に宿った自我、伝説武具であった。
人間と酷似した姿をしているが人間では無く生物ですら無い彼らがこの場に集う理由、それは情報交換という名の単なる自慢話であった。
伝説武具と呼ばれる彼らはガイアスでは自我を持つ伝説の武具と呼ばれている。そんな彼らが人間を模した姿で自身の所有者の優秀な行いを自慢する場所、それが宇宙に漂う建造物の内部にあるこの円卓であった。
だが普段ならば我先にと己の所有者の自慢話を始めるはずの円卓を囲む三人は口を開こうとしない。そればかりか三人とも表情は険しく皆同じ方向を見つめながら殺気立っていた。
円卓より少し離れた場所に立つ一人の男。円卓を囲う彼らから一斉に殺気を纏った視線を向けられるこの男こそ、この場に流れる重々しく殺気だった空気を作りだしている張本人だった。
「……今回のこの気まぐれな招集もあなたがしでかした事なのかしら?」
重々しく殺気立った空気の中、最初に口を開いたのは妖艶な黒いいドレスを身に纏った女性であった。
「ビショップ……よくまたこの場所に顔を出せたものね」
苛立ちを隠せないのか、それとも隠していないのか、女性は男の名を口にすると嫌悪を含んだ高圧的な態度をとった。
「ははは、ご期待に添えなくて申し訳ないクイーン……残念ながら今回は私ではありません」
良く言えば人当たりの良い、悪く言えば軽く軽率な態度で妖艶な黒いドレスを身に纏った女性の名を口にしたビショップは自分がこの集まりを催した訳では無いことを告げる。
「あんたじゃ無ければキング以外に誰が私達をこの場に強制的に集めることが出来るって言うのよ!」
普段、所有者やその周囲の者達に見せる態度とは違い、この場では気が強い態度とるクイーンはビショップのその様子に激昂した。
「怒らないでよ、袂は別れているけれど、元は同じ伝説武具、仲間、いやいや家族みたいなものじゃない」
そう言いながらビショップは円卓にある空席、元は自分が座っていた席へと腰を下ろそうとする。
「お前がその席に座ることは私が許さん」
ビショップが円卓の席に座るのを止めたのは今まで二人のやり取りを黙って聞いていた円卓に座る初老の男だった。
「……はぁ……あーはいはい、失礼しました……王様の命令は絶対……従いますよキング」
円卓の席に座りかけていた腰を上げ両手をヒラヒラさせながら円卓かせら距離をとるビショップは自分の事を鋭い眼光で睨みつける初老の男をキングと呼んだ。
「……それで、お前が絶対王命令でこの集いを催したのでなければ一体誰が我々をここに呼んだのだ?」
キングには絶対王命令という能力がある。その能力の効果は、伝説武具同士が繋がっている情報網を使い、他の伝説武具の行動を一方的に制御するというものである。簡単に言えばその能力が発動すれば他の伝説武具はキングに逆らえなくなるというものである。なぜキングにだけそのような権限、能力が備わっているのか、それはキングが伝説武具の安全装置の役割を担っているからだ。
伝説武具が持つ能力はどれも国一つ軽く滅ぼすことが出来る程に強力である。もし他の伝説武具が所有者の人選を間違い、その強力な力を良からぬ方向へ向ければ、もし伝説武具自身が、その自我を悪に染めて所有者と共に世界を巻き込んだ悪事に手を染めたならば、それを止める者が必要となってくる。そう言った所有者や伝説武具の暴走を止める為の安全装置という役目を持ってキングは造られたのだ。
しかしこれには例外がある。それがビショップだ。伝説武具の中で最後に造られたビショップには元々、惑星ガイアスの全てを管理、記録するという役割があった。管理、記録をする上で様々な状況を想定、適応、検証する為にビショップにはあらゆる力を複製する能力が備わっていた。その能力は強力でキングしか持ち得なかった権限、能力である絶対王命令すら複製し発動することが可能だったのだ。
だが複製である以上、本家であるキングの絶対王命令に比べればその強制力は弱い。しかしこの場に伝説武具を強引に集める程度のことは可能であった。
「……さぁ、一体誰でしょうね……」
クイーンと同様に再度同じ問をするキングに対して事情を知っている上でとぼけた態度をとるビショップ。
「……」
そのビショップの態度に苛立ちを隠しきれないキングは怒りを噛み殺すように険しい表情を浮かべた。
キングやクイーンがビショップに対してあからさまに嫌悪や苛立ちを現すのは彼が親殺しだらだ。ビショップは自分達を造りだした生みの親である創造主を彼らの目の前で殺害したのだ。それ以降キング達にとってビショップは仇となった。
「ははは、冗談です、冗談ですよ……我々をこの場に集めた者が誰なのか……お教えしましょう」
キングやクイーンから発せられる怒りを肌で感じながらも己の態度を改めようともせずビショップは漂々とそう言うと大広間の出入り口である扉に向かった。
「さあ、入ってくるんだ」
扉の外に居る者を呼び込むビショップ。その言葉に反応するように扉がゆっくりと開いた。
「ご紹介しましょう、我々の新たな家族、新たな妹……その名はナイトです!」
芝居がかった大げさな口調で大広間へ入ってきた者を紹介するビショップ。
「……王?」「……ブリザラ?」
ビショップにナイトと呼ばれ大広間に入ってきたのは少女だった。だがその少女の顔は見てキングとクイーンは驚きの表情を浮かべた。なぜならその少女の顔はキングやクイーンがよく知る少女と瓜二つであったからだ。
「……ソフィア……殿……」
ナイトのその顔に驚き思わず自分達がよく知る少女の名を口にしてしまったキングとクイーン。だがナイトの顔を見て驚いていたのはキングとクイーンだけでは無い。今まで三人の会話を黙って聞いていた武人の雰囲気を持つ長髪の男もポーンもまたナイトの顔を見て驚きの表情を浮かべていたのだった。
ガイアスの世界
伝説武具が集う円卓
円卓を造ったのは彼ら伝説武具を造りだした創造主で、円卓を造った理由は、伝説武具たち同士によるコミュニケーションを促す為であった。現在では単なる自慢話……もとい情報交換の場所になっている。
十人程が軽々と座れる程の大きさがある円卓ではあるが、席は四つしかない。その内の一つは現在空席となっている。




