真面目で章 3 (アキ編) 子供と精霊
ガイアスの世界
ムウラガの魔物
ムウラガに生息する魔物の殆どは他の大陸でも見られる魔物ばかりだ。しかしその性質は他の大陸に比べ凶暴で強力だ。それ故に初めてムウラガに渡り魔物に対峙した冒険者や戦闘職の殆どが油断するという。ムウラガでの死因の殆どはその油断が絡んだものだと言う。
なぜ他の大陸に生息している魔物がムウラガの地にいるかは分かっていないが、もし魔物達にも人間のように強くなりたいという意思があるのであれば、海を渡りムウラガにやってくることもあるのかもしれない。
真面目で章 3 (アキ編) 守護者
剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス
アキは走った。行けど行けど行く手を阻むような巨大な木々を。まるで動き出すのでというぐらいに暗い森を走り抜ける全身漆黒、全身防具をその身に纏った男、アキ=フェイレス。
上陸する事も中々に困難であり上陸してからは常に危険と隣り合わせ、更には絶対に足を踏み入れてはならないとされる闇の森へと足を踏み入れていたアキは、その出口を探し暗く陰気な森を走り抜けていた。
「……長い……後どれくらいで森を抜けられるんだ」
自身の姿は漆黒に染まっているが、いい加減その身に太陽の光が恋しいアキ。終わりの見えない闇の森出口に文句を垂れる。
『マスター、闇の森の出口まで後少しだと思います』
アキをマスターと呼ぶ声。アキが身に纏っている全身防具、自我を持つ伝説の防具クイーンは、なんとも曖昧な言葉をアキに投げかけ励ました。しかし励ましているはずのクイーンの言葉にアキは顔を引きつらせる。その理由はクイーンがすでに同じ言葉を三回も繰り返しているからだ。
一度目はその言葉に希望を抱き、二度目の言葉で疑いを持ちつつも信じようと思い、三度目で疑いは確信に変わり希望も信頼も打ち砕かれたアキはその感情をこれでもかというぐらい表情に現したのだ。
「だぁぁぁぁぁ! お前適当な事言ってんじゃねぇ! さっきから同じこと言ってる割に出口は見えてこねぇぞおい!……しかも思いますよってなんだよ! 分からないなら素直に黙っとけ!」
しかしそれでだけ心の苛立ちが収まるわけも無く静かな闇の森にアキの怒りの声が響き渡る。
『心外です、私はマスターを励まそうと思って……』
「要らん気配りだ、クソッ!」
クイーンの言葉を遮ったアキは出口の見えない闇の森を黙々と走り続ける。
確かな距離は分からないが、アキは長い距離を走り続けている。普通の人間であればずに疲労困憊で立てなくなる距離だ。しかしアキの表情に精神的な疲労はあったとしても肉体的な疲労は伺えない。何処まででも走る事ができそうな程にアキに疲労は見えなかった。
それはアキが纏うクイーンが持つ能力の影響からくるものであった。クイーンを纏う事でアキの身体能力は大幅に補助され上昇しており、すでに身体能力は人のそれを超えている。例え一日走り続けても肉体的には何の問題も無いほどにアキの身体能力、心肺機能は強化されていた。しかし肉体は人を超えていてもアキの精神は人間である。周囲は殆ど変化せず長く続く道とは呼べない道を走り続けるアキの精神はここにきて疲労の色を濃くしていた。
「さっきの一撃が効いているのか、魔物が襲ってこないのが僅かな救いだ」
暗く陰気な闇の森は、森だというのに鳥や虫の声一つせず生命を感じさせない程に不気味に静まり返っていた。周囲から魔物の気配は感じるが攻撃というよりも警戒しているようでアキを襲う気配もない。
『大きな一撃の影響で周囲の魔物の殆どはマスターを闇の森の支配者と位置づけたようですね』
「支配者? 冗談じゃない何で俺がこんな陰気な森の支配者にならなきゃならんのだ」
クイーンが口にした支配者という言葉に全く喜びを感じられないアキ。確かにアキの事をこの森の支配者だと認めてはいるのだろう。しかし魔物達は隙を探しアキの寝首を狙っている。事実魔物達からの僅かな殺気は残っているのがその証拠であった。
闇の森は言わば魔物達の楽園。魔物達にとって闇の森は弱肉強食という掟を凝縮したような場所なのである。だからこそ闇の森の支配者は目まぐるしく変わる。支配者になった者はいつ何時、どんな状況で命が狙われるか分からない。しかし人間が知らぬ所でその状況に変化が起きていた。
黒竜の存在である。どの時期から現れたのかは定かでは無いが、闇の森の支配者になった黒竜は、その圧倒的な力で闇の森の魔物達を蹂躙した。魔物達は黒竜に近づけず黒竜の支配者時代は長く続いた。
しかしその時代が突如として終わりを告げた。その支配者時代に終わりを告げたのがアキとクイーンであった。絶対的支配者の陥落によって均衡が崩れた闇の森では新たな支配者争いが生まれる。当然、本人の意思とは関係無く黒竜を倒したとされるアキもその支配者争いに巻き込まれる形になった。
しかしそんな事は知らず、知っていたとしてもどうでもいいアキは周囲を見渡し魔物達の気配を探った。
「とりあえず警戒している感じか……」
先程に比べ全く手を出してこなくなった魔物達の気配を感じながらアキは出口へ向かっているのかも不確かな道なき道を進んで行く。
『マスター見てください!』
だが終わりは何事にもやってくる。アキ達が進む先に念願であった太陽の光が差していた。
『マスター! 念願の出口です!』
「ああ!」
太陽の光が見えるということはそこが出口であるという事。アキは太陽の光が差す場所へと急いで進む。
「出口だ!」
体中に浴びる久方ぶりの太陽の光。少し強い日差しですら懐かしく心地よく感じながらアキは、闇の森とは明らかに違う新鮮な空気を吸い込む。
「……草原か……」
アキは匂いを嗅ぎながら周囲を見渡す。そこには緑一色の草原が何処までも続いて広がっていた。
「てか、闇の森との境がえげつないな……」
草原と闇の森の境がくっきりと分かれている光景に驚くアキ。
『マスター闇の森は抜けました、これからどうしますか?』
「うーん……とりあえず海を目指そう」
今まで闇の森を抜ける事を考えていたアキは、クイーンの言葉に海を目指すと言った。
『海……ですか?』
「ああ、ムウラガから出るには舟が必要だ、浜辺に向かえば……持ち主を失った舟があるだろう」
ムウラガに上陸した者達の中で自身の故郷に帰れる者は少ない。よって持ち主を失った舟がゴロゴロしているはずだと考えるアキ。
『でしたらマスター、近くにある集落に向かってみてはどうでしようか?』
「ん? ……集落って、ムウラガの入口じゃなくてか?」
クイーンの言葉に少し驚いたような表情になるアキ。ムウラガの入口とはアキのようにムウラガにやってきた冒険者や戦闘職達が拠点にする場所の事であり小さな村のような場所であった。アキはムウラガの入口以外に人が居る場所かがある事に驚いていた。
『ええ、ムウラガの入口以外にも人が住む場所が数ヵ所存在します、そこには原住民が住んでいます』
「……原住民……こんな危険な場所に原住民がいるのか!」
命のやり取りが日常茶飯事におこなわれるムウラガという危険な大陸に人間が、しかも原住民と呼ばれる者達が存在している事に更に驚くアキ。
『正確には原住民と言えるほどの年月この場所で生活を続けている者達と言った方がいいですが』
細かく情報をアキに伝えるクイーン。
「……ん? どういうことだ?」
『彼らは……いえ、マスターが知る必要は無い事です、集落に向かいましょう』
「あ、ああ……」
ピタリと話を終わらせたクイーンに首を傾げるアキは、クイーンに言われた通りに何処までも続く草原を歩き出した。
「……それでだ、クイーン……その集落まではどのくらい何だ?」
『もう少し進んだ先の所ですね』
「あっ……そう……」
クイーンの言葉に既視感を抱かずにはいられないアキ。
『あのマスター、私の事疑ってます?』
自分を疑うような表情を浮かべるアキに問い詰めるクイーン。しかしアキは全く取り合わず草原を歩きだした。
何処まで続いているように思える程に広い草原を歩き続けるアキ。だがやはりと言うべきか、歩けど歩けどクイーンが言う集落は一向に見えてこない。
「……なぁクイーン、お前さっき何て言ったけか?」
ある意味期待を裏切らないと思いながらもアキは抑揚の無い声でクイーンに声をかける。
『あ、いや……その確かに人の気配が……』
「……!」
そんな時でたった。アキは魔物とは違う気配を感じ草原を見渡した。
「子供……?」
アキの視界に入った気配の正体、それは広大すぎる草原を小さな体で一生懸命に歩く見子供の姿であった。しかしアキは納得がいかないというような表情で子供を見つめる。
『子供ですねマスター、あの子に話を聞けば集落の場所も分かるでしょう』
「あ、ああ……」
心ここにあらずというような様子でクイーンの言葉に頷くアキ。
(なんだ……一瞬とんでもなく大きな気配を感じ気がしたが……)
しかしその大きな気配を追い視線を向けてみればそこにいたのは自分の体で抱えるのがやっとなバケツを持った小さな子供であった。
すでに大きな気配は感じられず子供からは小動物同様の小さな気配しか感じられない。自分の勘違いであったのかと首を傾げつつアキは自分を不思議そうな目で見つめる子供の元へと歩きだした。
「クイーン、兜を解け」
『了解ですマスター』
全身防具だけでも威圧があるというのにそれに加えて全身が恐怖を具現化したような漆黒の色。近づけば恐怖で逃げ出してしまうと考えたアキは、せめてとかぶっていた兜を解くようクイーンに指示を出した。自分の身なりも考慮し子供にできるだけ刺激を与えないようゆっくりと近づくアキ。
「……」
その効果があったのか子供はじっとアキの事を見つめながらも特に大きな動きを見せずバケツを抱えたままその場に立っていたる
「なぁ、ちょっと、いいかな?」
「ひぃ!」
細心の注意を払い慣れない笑顔を作り子供に話しかけるアキ。しかし近づいた事ではっきりとアキの姿を認識し恐怖を抱いたのか、それとも慣れない笑顔を向けた所為なのかそれは分からないがバケツを持った子供は肩を飛び上がらせ小さな悲鳴を上げた。
「あ、いや……そんなに怯えるなよ、怖くない怖くないぞ」
身振り手振りで自分が何も危害を加える気が無い事を子供に示すアキ。
「あっ……」
だがアキの行動も空しくバケツを抱えた子供は怯えた表情のまま逃げ出した。
『まるで魔王のような身振り手振りでしたね』
「ぐぅ……」
クイーンの言葉に苦虫を噛み潰したような表情になるアキ。逃げる子供がアキの事を魔王と思ったかはともかく、目の前に漆黒に染まった全身防具を纏った者が姿を現せば誰でも一瞬恐怖を感じるのは間違いない。しかもその全身防具にべっとりと血がついていれば尚更であった。
「追うぞ!」
バケツを持った子供を追いかけるのはアキからしてみれば容易い事である。しかしその光景は子供を狙う殺人鬼にしか見えない。すぐに距離を詰めたアキは子供の前に回りこむと両腕を広げ子供の行く手を阻んだ。
「うわぁあああああああ!」
目の前に現れるアキに驚き悲鳴をあげる子供。その拍子に子供は抱えていたバケツを地面に落してしまった。
「あっ……」
落ちたバケツからは零れた水は地面に吸い取られるようにあっという間に地面に染み込んでいく。その水を茫然と見つめる子供。
「わ、悪い!」
地面に転がり中身が空になったバケツを気まずそうな目で見ながらアキは拾うとすぐに子供に謝った。
「……これ大事な水だったんだよな」
場面に転がったバケツを拾ったアキは申し訳なさそうに子供に手渡した。空になったバケツを見つめる子供の目は何とも言えないもので今にも泣き出しそうであった。
「……」
広い草原にバケツを持った子供が一人。ただ遊ぶ為に水を汲んだ訳では無い事はアキでも理解できる。どうやらこの子供が住む集落には井戸が無いのだろう、近くの水源に毎日のように水を汲みに行っていると想像するアキ。
そこで一旦アキは周囲を見渡した。周囲に広がるのは何処までも続く草原。近くに水源らしき場所は見当たらない。
「もしかして水が汲める場所は遠いのか?」
少なくとも周囲には見当たらない。集落の場所の見当が使いないアキだったが、子供の様子からして中々に遠い場所から水を汲みに来ている事は容易に想像出来た。
アキが頭の中で色々と思考を巡らしている間に、アキからバケツを手をされた子供は歩き出していた。
「あ!」
慌てて後を追うアキ。
「いやその……水、本当に悪かったよ、俺にも水汲みを手伝わせてほしい、だから水を汲める場所を教えてくれないか?」
子供が大切に汲んだ水を落とし零してしまった原因が自分にあると自覚しているアキは罪悪感から水汲みを手伝わせてくれと頼む。しかし子供はアキの言葉に一切反応しない。
「……」
反応していないというよりは信用していないと言ったほうがいいのか。明らかに子供の表情は堅くアキに怯えているがどうしていいか分からずとりあえず自分に与えられた仕事をこなそうとしているという印象が見て取れる。それも当然かと思うアキ。見た目、不審者丸出しの相手に素直に心を開くなんてことは早々無い。
「……」
そんな子供の背を見つめるアキはなぜか子供の背に自分の幼い頃を重ねていた。
頼りない子供の背、自分があの背程の頃は周囲の者達全てが敵だと思っていた。その考えは今もあまり変わらないが当時に比べ利用する事を覚えた点で言えば子供だった時よりも賢く生きていると自覚するアキ。
「なぁ、俺だったらその場所まで直ぐに行く事ができるんだぜ」
あの頃、信じられる仲間や大人がいたら自分はどれだけ楽な生き方が出来ただろう、そんな事を頭の片隅に追いやりながら自分に背を向け黙々と歩き続ける子供に話しかけるアキ。
ピタリと子供の足が止まる。不安を残しつつもアキの言葉に興味を持った子供はゆっくりと振り返る。
「だから教えてくれないか?」
そう言いながらアキは子供に手を差し出した。戸惑いの表情を浮かべどうしていいのか分からない子供は差し出したアキの手を見つめる。ゆっくりと怯えながら子供は差し出された手を掴む。
「よし、交渉成立だ!」
「うわっ!」
そう言うとアキは子供の手を引っ張る。アキのその行動に驚き思わず目を瞑る子供。
「目を瞑っていたら水を汲める場所が分からないぞ」
アキの言葉に不安を残しながらもゆっくりと目をあける子供。
「うわぁー! たかい、たかいよ!」
子供の視界に広がったのは普段見る事が出来ない高い位置から見る草原の光景であった。アキは子供の手を引っ張るとそのまま自分の肩に乗せていた。
「さて、それじゃ水汲み場の場所を教えてくれるか?」
「うん!」
先程の怯えが嘘のようにアキの肩で大はしゃぎする子供は元気よく頷くと水汲み場のある方向を指差した。
「お、そっちに水が汲める場所があるのか!」
「うん」
子供が指を差した方向に視線を向けるアキ。
「よし、じゃあいくぞ……て、ああ……そういやまだ名乗ってなかったな俺はアキだ」
自分の肩に乗る子供に自分の名を告げるアキ。
「……テイチ」
それに続くようにアキの肩に乗ったテイチは少し恥ずかしそうに自分の名を口にした。
「よーしそれじゃ行くぞ、しっかり掴まってろテイチ」
「うん」
しっかりとテイチが掴まっている事を確認したアキはテイチの両足を軽く掴むと少し姿勢を前に倒す。次の瞬間今までの光景が彼方へと過ぎ去っていく。
「はやいはやい!」
アキが足を前に踏み出す度、凄い速度で流れていく景色を見てテイチは更に興奮し声をあげる。
もはや人間が出す速度では無い走りを見せるアキは、何処までも続く草原を爆走する。時に足を緩めながらテイチの道案内を受け走るという事をしばらく続けると目的の場所が突如として姿を現した。
草原に真ん中に突如として現れた大きな湖。
「すごいよおじさん! ここまでくるのにすごくじかんがかかるのにあっというまだった!」
目的地である湖を前にテイチは興奮の色を隠せないのかアキの肩の上で暴れまわる。
「あ、暴れるな、それと俺はおじさんじゃ無くてまだお兄さんな」
素直な子供の感想は時として人を傷つける事がある。その洗礼を否応なく味わうアキは、少し凹みながら自分の頭付近で暴れるテイチを諭した。だがアキは知らない今自分の顔がどういう状況になっているのかを。
「はぁ……こりゃ凄いな……他の大陸でも早々お目にかかれない場所だぞ」
興奮するテイチをなだめながらアキは周囲に広がる光景に驚きの声を上げた。
アキが目にした光景、その湖は兎に角大きく美しかった。湖の水の美しさもさることながらこの場所が殺伐としたムウラガなのかと疑ってしまう程、美しく綺麗な木々や草花が自生している。そこが聖域だと言われても疑う者はいないだろうと思うアキ。
(それにしてもこの場所につくまでにけっこうな距離があったな……)
今のアキならばたいした距離ではないが、子供一人がバケツを抱え向かう場所にしては、あまりにも遠いと思うアキ。それは大人でさえも遠いと感じる距離であった。
(……そしてだ……ここまでの道程で小動物や温厚な動物は見かけたが、魔物には一切出くわさなかった……なぜだ?)
子供が徒歩で向かう距離にしては遠いという事以上に、魔物の楽園とも言われるムウラガで魔物に一度も出くわさないというのが有り得るのかと自分達が通ってきた道程を不思議に思うアキ。もっと言えば闇の森から草原に辿り付いてから自分を追いかけていた魔物達の気配が一切無くなったという事もおかしな状況であった。たとえ生息地が闇の森の魔物であっても草原に出る事はできるはずで、なぜそうしなかったのかとアキは疑問に思った。
(クイーン、何か周辺に感じる事はないか?)
何かカラクリがあるのではないかと思ったアキは、クイーンは何か感じているかもしれないとテイチに聞かれないよう小声で聞いた。
『……いえ特には……』
(……そうか……)
気になる間をクイーンに感じたが、深くそこには触れず話を流すアキ。
「よし、じゃテイチさっさと水を汲んでお前の家に向かおう」
肩に乗っていたテイチを下ろすと、アキは周囲を見渡しながら湖に近づいていく。先客なのか湖には水を飲みに来た小動物がいた。
「おいおい、本当にここはムウラガか? こんなに動物が……こりゃ相当綺麗な湖だな」
魔物が跋扈するガイアスでは何の力ももたない小動物はただの餌でしかない。したがい警戒心が強い小動物は滅多に人間の前に姿を現さないものが多い。だがこの湖にいる小動物達は、魔物や人間という存在を知らないとでも言うように警戒心が低い。事実テイチは水を飲んでいた小動物と戯れている。
そんな緊張感の無い光景に魔物との戦いに明け暮れていたアキの心も和んだ。
「ん?」
小動物と戯れるテイチを横に湖の水面に視線を向けるアキ。
「あー確かにこりゃおじさんと言われても仕方ないな……」
湖の水面に映る自分の顔に苦笑いを浮かべるアキ。はっきりとした日にちはアキには分からないが黒竜戦闘で傷つき意識を失ってから今の今まで髭を剃る事はおろか顔すら洗っていなかったアキの顔は真っ黒に汚れていた。これではテイチが警戒しさらにはおじさんと言うのも分からない話では無い。
「どうしたのおじさん?」
小動物を撫でながら水面をじっと見つめるアキに首を傾げるテイチ。
「ちょっと待ってろ、俺がおじさんじゃ無い事を証明してやるからな」
そう言うとアキは湖の水を手ですくい顔を洗いだす。一通り顔を水で濡らすと今度は手甲の形状を変化させナイフのような形にすると器用に自分の髭を剃り始めた。
「よし、これでどうだ!」
アキは自身満々に自分の顔をテイチに見せつける。
「……おじ……お兄さん?」
「そうだテイチ! 俺はおじさんじゃ無くてお兄さんなんだ!」
よほどおじさんと言われた事がショックだったのかテイチの言葉に喜びを爆発させたアキ。しかしそこにテイチの姿は無い。アキがおじさんであろうがお兄さんであろうがテイチには関係無く、人懐っこい小動物と走り回っていた。
「……あ……」
思いっきりはしゃいでしまっていた自分が急に恥ずかしくなるアキ。
『このぐらいの子供は純粋故に時として残酷です、マスターが老けていようが若かろうが彼らにとっては大人でしないのです』
「ぐぅ……」
追い打ちをかけるようにクイーンの言葉が胸に刺さるアキ。
「はぁ……俺達はこの場所に何しにきたんだ? そう水を汲みに来たんだろ……」
自分の気持ちを保つようにこの場に来た本来の目的をブツブツと呟くアキ。
「テイチ! 遊んでないで、そろそろ水……」
少し遠くで小動物と戯れるテイチに本来の目的である水汲みの催促をしようとするアキ。しかしアキの言葉は途中で止まる。今まで一切感じる事の無かった魔物の気配を突然感じたからだ。
≪ギャャャャャャ!》
けたたましい魔物の鳴き声を合図に湖の雰囲気が一変する。のどかな雰囲気は一瞬にしてムウラガのそれと同じものに変わる。ここは間違いなくムウラガだと思い知らすように。
アキがまずとった行動は少し離れた所にいるテイチの様子をみる事だった。テイチと戯れていた小動物達はすでに異変に気付き四方に散らばって逃げだしている。そんな小動物達を追おうとするテイチ。
「テイチそこから動くな!」
慌ててテイチに声をかけるアキ。テイチはアキの声に素直に従い小動物を追うのを止めた。
アキはすぐさまテイチの下へ駆け寄ろうと走り出した。遠いと言っても100も200も離れた距離では無い。すぐさまテイチの下へ近づける、アキがそう思った矢先であった。
「……!」
閃光一閃とでも言えばいいのか、テイチの下へ駆け寄ろうとするアキの視界一杯に広がる真っ赤な液体。それが何であるか理解する事が出来ずアキは戸惑い足を止めてしまう。
テイチの背後に突如として現れたアキの二倍程の体格である魔物、アタックベアの爪がテイチの小さな背中を引き裂いていた。
テイチの背中から噴き出す血は突如として吹いた強風によってアキの視界に広がる。
「テイチィィィイイイイ!」
理解したくない状況を理解したアキは血をはくのではないかという勢いで叫ぶと一切加減の無い速度でテイチの背中を切りさいたアタックベアの間合いに入り込む。
『マスターだめです、ここで放っては!』
瞬時に左の手甲を弓へと変化させたアキは零距離からアタックベアの額に向けて黒竜の連想させる黒炎を纏った矢を放った。余韻など一切なく一瞬にして吹き飛ぶアタックベアの頭。貫通した黒炎を纏った矢は地面に突き刺さるとそのまま地面を溶かしながら爆発を起こす。
アキはその爆風に倒れているテイチが巻き込まれないよう自分の体を盾にする。
半球状に広がって行く爆発。しかしその爆発は突然巨大な水の球体に阻まれ霧散する。黒竜の力を纏った爆発を巨大な水の球体は相殺したのだった。
立ち込める濃い霧。その中でアキは息をしていないテイチを抱き抱え茫然とその場に立ち尽くしていた。自分の攻撃を相殺した力など今はどうでもよく、自分の腕の中で消えゆく命に計り知れない無力を抱いていた。
「くそ……くそぉぉぉぉ!」
アキの叫び声が霧に包まれた湖に響く。
「……くそ、なぜ気配に気付かなかった……なんであんな近くに魔物が現れたのに俺は気配を察知できなかった……」
本来ならばすぐに分かるはずの気配を感じ取れなかった自分に怒りを向けるアキ。
「クイーンお前もだ! なぜ魔物の気配にすぐに気付かなかった!」
その怒りは自分が纏う自我を持つ伝説の防具、全身防具クイーンにも向けられる。
『……申し訳ありません、私にもわかりません……』
自分も気配を感じ取る事が出来なかったと謝るクイーン。
『ですが、この湖には何か大きな力が存在しています……もしかするとその影響なのかもしれません』
「なぜそれを早く言わなかった!」
クイーンが口にした大きな力。それはアキにも身に覚えがあった。しかし冷静では無いアキにとってそんな事はどうでも良くなぜもっと早くにその事を言わなかったのかと責め立てる。
『その……その力自体に悪意は無く寧ろ我々を守っているような力だったので、改めて言う事でも無いと……』
自分が油断していたとそう続けるクイーン。
「くぅ……」
ムウラガだというのに静かでのどかな湖に自分も油断していたとクイーンの言葉に歯を噛みしめ後悔するアキ。
「悪い、クイーン、お前の所為じゃない……俺の所為だ」
クイーンに当たるのはお門違いだと考え直したアキは素直にクイーンに謝罪すると、晴れない霧の中、テイチを抱き抱え進んで行く。
「……クイーン、お前の能力でどうにかできないか?」
右も左も分からない霧の中でアキはクイーンが持つ力を思い出しそれでテイチをどうにか出来ないかと尋ねた。しかしクイーンからの返事は無い。それが答えだという事を理解したアキは、腕の中でどんどん冷たくなるテイチを見つめた。
「……強力な力を持っていても、人一人助けられないんだな……」
強力な力を持てば必ず人を救えるという訳では無い事を思い知らされたアキは、自分には破壊する事しか出来ないと小さくため息を吐いた。
「ふん、ただの力に善も悪もありはしない……それは力を持った者の心の有り様だよ人間」
「ッ!」
今の今まで全く気配を感じなかったはずのアキは、テイチと初めてであった時に感じた突大きな気配を感じる。
『マスター!』
「黙ってろ!」
何かを言いたげなクイーンであったがアキによって言葉を遮られる。
「……力に溺れるな人間、力はお前の味方をしてくれるが力に意思は無い、お前が間違った方向に行けば力もお前と共に間違った方向へと向かって行く」
その声はアキの近くから聞こえてくる。アキは信じられないという表情で自分の腕の中にいるテイチにゆっくりと視線を向ける。
「て、テイチ……?」
アキの腕の中には息絶えたはずのテイチが目を開けアキを見つめていた。
「……そうか、この娘はテイチというのか」
茫然とするアキを尻目に腕の中から飛び出し軽く準備運動をするテイチ。
『マスター、冷静に私の言葉を聞いてください、今テイチの体からは別の命の気配が感じられています』
クイーンに言われるまでも無くアキもその気配には気付いていた。黒竜程ではないにしろ、人間でここまでの大きな気配を持つ者をアキは知らない。
「何者だ……お前……?」
息を吹き返したはずのテイチにお前は誰だと言うアキ。今目の前にいる者がテイチには見えなかったからだ。
明らかにテイチが持つ幼い雰囲気とはかけ離れたものを持つそれはアキの問にニヤリと笑みを浮かべる。
「警戒するな人間、別にお前をとって喰らおうなどと思ってはいない」
テイチであった者はしゃがむと湖を見つめながら水面に手を入れる。
「私はこの湖を……いやこのムウラガにある草原を守護する精霊だ」
「精霊……」
精霊と名乗る者の口から発せられた言葉に警戒を解かないアキ。
「なるほど見た目に反して冷静だな……その身に纏う全身防具の影響か……アキとやら?」
「な、な!」
驚く事が何個もありすぎて言葉にならないアキ。
「なぜ……自分の名を……なぜ自分が身に纏っている防具の事をか? ……そんなのお前達が草原に姿を現した時から見ていたからに決まっているだろう、なにせ私はこのムウラガの草原を守護する者だからな」
テイチの姿をした精霊は腕を組みながらどうだという表情でアキを見つめる。
「そうかやっぱりお前あの時テイチの近くにいた大きな気配の正体か」
「そう、私もこの地を守護する者として突然闇の森から現れた者を見定めなければならなかったからな」
突然闇の森から現れた者、それは自分の事を差しているとすぐさま理解するアキ。
「それで、見定めた結果どうだったんだ?」
「どうだった? ふん、それ以降この場に来るまで魔物に襲われたか?」
ニヤニヤするテイチの姿をした精霊。
「いいや……」
顔を左右に振るアキは何となく理解した。
「……だろう、お前は危険な力を持っているが見込みのある人間だ、草原で一人、必至で水を運んでいたテイチを助けたのだからな」
「そ、そうだ! テイチはどうなったんだ!」
テイチの姿をした精霊の言葉にテイチはどうなったのかを聞くアキ。
「慌てるな、心配する必要は無い今は深い眠りについているだけだ」
「深い眠り?」
首を傾げるアキ。
「ふん、説明するとだな、私の力は水、水は癒しも司る、魔物によって殺されたテイチの肉体に私が宿る事によって傷ついた肉体はすぐさま癒した……しかし魂の方は肉体のようにすぐには癒せない、どうにか肉体に留める事は出来たが、いつ目覚めるとも分からん、だから深い眠りについたと表現した」
「兎に角テイチは無事なんだな」
「ふん、私の説明を台無しにする気か、まあ簡単に言えばそうだ」
テイチの姿をした精霊の言葉に安堵するアキ。
「ふむ……そのため息はなんのため息だ? ……この子を守れなかったという罪悪感から解放された安堵からくるものか?」
テイチの命が助かった事は素直に嬉しかったアキ。だがテイチの姿をした精霊に自分の心が持つもう一つの気持ちを見抜かれたアキは顔を曇らせた。
「どうやら図星のようだな……だがお前が気に病むことは無い、この湖に魔物を侵入させてしまったのは紛れも無く私の落ち度だ」
霧がかっていた湖がテイチの姿をした精霊を中心にして一瞬にして晴れていく。
「な!」
「ふむ、どうやらお前には話すよりも実路した方が、私が精霊だと認識させやすいようだな……」
今日一番の驚きを見せるアキにそう言うとテイチの姿をした精霊は、湖の水面から手を抜き、ゆっくりとアキへと近づいていく。
「お前達が浮かれていたように私もテイチ以外の人間の来客に浮かれていた、それが原因となり私が張っていた結界に綻びが生まれ魔物を呼び寄せてしまったようだ」
全てはこの草原を守護する自分に非があると説明するテイチの姿をした精霊の表情に後悔がみえる。
「お前……テイチの事を……」
「ああ、テイチがこの湖に初めて水を汲みにやってきた時から知っている……」
テイチの顔でテイチの事を語る精霊。
「テイチがこの湖に現れるまで私は喪失感を抱きながら漂っていた、それはまるで屍と言ってもいい……だがテイチがこの湖に現れた時から、私の心にあったその喪失感は消え失せた」
精霊が抱く喪失感とは何なのかそれは分からない。しかしテイチという存在が、精霊の心にあった喪失感を消し去ったのだという。
「私は私を喪失感から救ってくれた彼女を守りたいと思った、私は私の中にある全ての力を使ってテイチを守護する事を決めた」
『それが……あなたがこの草原を守護する動機だったのですね……』
「その通りだ、遠くて近い同胞よ」
アキに視線を向けるテイチの姿をした精霊。しかしその視線はアキの顔にでは無くアキか纏うクイーンに向けられていた。
『……ですが本来、精霊に自我は存在しません、なのにあなたには自我が存在する、それだけでは無く他者を慈しむ心、愛と言われる感情さえあなたの口ぶりからは感じられます』
冷静にテイチの姿をした精霊を分析するクイーンは疑問を持った口調で更に話を続ける。
『そして何より精霊一体の力でこの草原全域を守護する事など不可能……あなたは、あなたの正体は……』
「さあ、私にもよく分からん……だが前の私の契約者は私の事を上位精霊と呼んでいた」
『上位精霊……』
そう呟いていこうクイーンは何かを考え始めたのか黙り込んでしまった。
「さてアキよ何やらお前の相棒は考え込んでしまたようだ、これからどうする?」
「ど、どうするって……」
正直、精霊とクイーンのやり取りについて行けていなかったアキは、突然問われた質問に慌てる。
召喚師や魔法使い以外にとっては殆ど縁の無い存在である精霊。両職を経験した事の無いアキにとっては全くの範疇外と言ってもいい。しかしそんなアキでも上位精霊という言葉は耳にした事があった。
本来自我を持たないはずの精霊が自我持った存在、それが上位精霊。その力は精霊とは比べものにはならないと言われ、上位精霊を使役した者は天下をとるなんて噂もアキは聞いたことがあった。しかしそんな上位精霊が人前に現れることは滅多に無く会えただけで幸運だとも言われている程に遭遇率は低いと言う。
そんな存在が今自分の目の前にいるという事をはっきりと理解したアキが上位精霊にこれからどうすると問われ戸惑ってしまったとしてもおかしい話では無い。
戸惑いの表情をみせるアキを見てテイチの姿をした精霊改め上位精霊はニカリと笑う。
「ならば、一度テイチが住む集落に戻ろう……テイチの両親が心配するからな」
「あ、ああ……だけどどう説明するんだ? 上位精霊がテイチの体を乗っ取っているなんて説明したらそれこそテイチの両親は心配するんじゃないか?」
らしくない心配をするアキ。
「ふむ、その事なら心配ない、そしてテイチの両親に説明も不要だ、テイチが目覚めるまでは私がテイチになりすます」
「うぅぅ……本当に大丈夫か?」
「大丈夫ダヨアキオニイチャン」
「ああ……うん……凄く心配……」
上位精霊の演技に心配しか抱かないアキ。
「それでは向かおう」
そう言うと上位精霊はアキの体によじ登り肩に乗る。
「おい! 自分で歩け!」
「何を言う私は上位精霊だが、体はテイチなのだぞ、子供の体でここから集落まで向かうのは大変だ、だからお前の体を貸せ」
魂は精霊であるが体は幼い人間である故に歩く体力は無いと説明する上位精霊。
「うぅぅう……何か納得できない」
テイチを肩に乗せた時は全く嫌な気分では無かったはずなのになぜか上位精霊を肩に乗せていると気分が悪いアキ。認識が違うだけでこれほどまでに人の心というのは変化するのかとどうでもいい知識を学んだアキは仕方なく上位精霊が指差す方向へと歩き出すのであった。
「ああ、そういや、お前、名前はあるのか?」
精霊や上位精霊と言うのも面倒だと思ったアキは上位精霊に名前はあるのかと聞いた。
「名前か……あるぞ、私は水を司る上位精霊、ウルディネだ」
「ウルディネ……ふーん」
「な、何だその興味無さそうな態度は! お前が名前はと聞いてきたから答えたというのに!」
聞くだけ聞いて全く興味を示さないアキに対して水を司る上位精霊ウルディネは、手足をジタバタさせてアキの肩の上で暴れる。
「や、止めろ暴れるな!」
「ならば私に興味を持て、そして崇めろ! そうすれば私はお前の事をテイチの100分の1程には庇護してやる!」
「100分の1……うぐぅ!」
見た目がテイチである者にそう言われても説得力の欠片も無いと思うアキ。だが次の瞬間ウルディの腕がアキの首を絞める。
「わ、分かったウルディネ! お前に興味を持つ、お前を崇めるから首を絞めないでくれ!」
「分かればよろしい」
アキの言葉に納得したのかアキの首から腕を離すウルディネ。
「ああ……」
まさか自我を持つ伝説の防具クイーンにこんな弱点があるとはと自分の首を摩りながら冷汗を拭うアキ。
「さあ急げアキ、日が暮れる全速力で集落へ迎え!」
手をブンブンと振り回しまるで馬に合図を送るようにアキを蹴るウルディネ。
「止めろ、蹴るな!」
子供の肉体だというのに想像以上に鋭く放たれるウルディネの蹴りを防御しながら、アキはテイチが暮らす集落へと走り出すのであった。
ガイアスの世界
精霊
ガイアスの大気、空気には微量な精霊が含まれている。その為ガイアスに生きる生物は精霊を吸い込み生活しているといってもいい。体内に精霊を取り込むお蔭で人間は特殊な技や魔法を使う事ができると言われている。更に召喚士や精霊士は空気に紛れる精霊を抽出し呼び出して精霊から力を借りる。
空気に漂う精霊は一般的に下位精霊と呼ばれ自我は無い。その他に上位精霊と呼ばれる存在も確認されているが、滅多に人前に現れずその存在には謎が多い。
上位精霊ウルディネ
本来自我を持たないはずの精霊が自我を持った存在それが上位精霊と呼ばれている。そんな上位精霊がムウラガの湖とその周辺にある草原を守護している。それが水を司る上位精霊、ウルディネである。
ウルディネが守護した場所一帯には結界が展開され凶暴な魔物は寄せ付けない。結界内は穏やかな土地となり小動物や温厚な魔物達が伸び伸び生きる事ができる。ウルディネが守護している湖周辺は過酷と言われるムウラガ大陸では一番安全な場所といっても過言では無い。だがその理由がたった一人の人間の為という事を知る者は殆どいない。
上位精霊が守護する土地には様々な恩恵がもたらされる。ウルディネの場合は、守護している場所の水が決して汚れたり汚染されたりしないというものであり、綺麗な水ある所には豊かな自然が行きつく。そのためウルディネが守護する場は常に緑豊かであるという。
水を司る上位精霊ウルディネには、もう一つ司るものがある。それが癒しである。癒しを得意とするウルディネは、魔物によって殺されてしまったテイチの肉体を即座に癒し、離れそうになった魂を留める事に成功している。




