表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
204/512

狭間で章4 目覚める狂気

ガイアスの世界


 ヒトクイ統一前のヒラキと統一後のヒラキ



 現在のヒラキ王は温和な性格であるというのがヒトクイの人々の中での共通認識ではあるが、ヒトクイ統一以前のヒラキとは少し性格が違うという話がある。

 ヒトクイ統一以前のヒラキは敵を前に誰よりも一番に敵の軍勢の中に飛び込んでいくような猪突猛進だったというのだ。

 そんなヒラキがヒトクイを統一しその玉座に座ってしばらくは変化は無かったようだが、ある日を境に猪突猛進な正確は消え現在のような性格に変わったらしい。

 周りからは王としての自覚を持ったからだと言われているのだが……



合間で章4 目覚める狂気




 少女は目の前の光景に絶句した。


 夜になり眠くなったから寝台に横になり眠る。人間として生物としての生理現象に従い普段通り眠りについた少女。そして目覚めればそこには彼女にとっての日常の光景が広がるはずだった。だがそうはならなかった。少女が目を覚ました時、そこは自分が知る場所では無かったからだ。

 少女は何が起こったのかも分からずただ立ち尽くしこれは夢だと自身の頬をつねった。しかし頬には確かに鈍い痛みが走る。少女はこれが夢ではないと理解すると慌てて周囲を見渡した。だが視界に入る光景はどれもが少女が知る物とは異なっており、痛みを感じて尚、これが現実だと受け入れることが出来ない。

人々が行きかう大通り。その大通りの端には背の低い建物や露店が並ぶ。どうやら自分がいる場所が町であることを少女は理解したが、どの光景も自分が見知った町の光景とは違っていた。そこには首を痛めるのではと思う程に背の高い建物も無ければ、息が詰まる程の雑踏も耳を塞ぎたくなるような騒音も少女が知っている光景は無い。

 そしてこの町を行き交いする人々の顔も少女にとっては見知らぬ人種の者達ばかりだった。肌が白い者、黒い者、黄色い者、様々な人種の者達が行き来するその場所は少女からすれば別の国にいるような感覚、そればかりか肌の色が緑や赤と言った者たちもいる。更にはどう見ても人間とは思えない生物が二足で歩き平然と他の者達と少女が理解できる言語で会話し物の売り買いさえしている。その光景に少女は、否応なく今いるこの場所が自分の知る世界とは全く違う場所であるという事実を突きつけられることになった。

 だが理解する事と納得する事は別物である。自分が置かれた状況は何となく理解したもののどうしてこんな場所に自分がいるのか納得は出来ない少女。

ただ普段通り日課を終え家に戻り寝台で横になり眠りについたはずなのに、どうして目覚めたらこんな場所に立っていたのか自分が持つ知識だけでは理解できない状況に少女は混乱することしか出来ない。

 状況は理解できても自身の思考は未だ追い付かず混乱する少女は眩暈を感じながらフラフラとおぼつかない足取りで大通りを歩き始めた。歩いても歩いても慣れない環境。自分だけが異物であるような感覚に気分が悪くなってくる少女は何処か休める場所、静かな場所は無いかと大通りを見渡す。すると大通りから枝分かれした裏路地があることを発見した少女は、吸い込まれるようにしてその裏路地へと足を進めていく。見るからに表とは違う治安の悪そうな雰囲気。だが少女はその雰囲気に安堵を覚えた。自分がいた世界と同じ匂いさえ感じていた。

 路地裏の建物に背をあずけながら座りこんだ少女は荒れた呼吸を整える。ゆっくりと裏路地に漂う雰囲気を吸い込むように息を吸い吐いた。

 裏路地に漂う陰気な空気を吸い込むことで僅かに気分が良くなった少女は、再び自分がなぜこんな場所に居るのかを思考する。だが先程と同様にどう考えてもその答えは見つからない。

 悪い夢ならすぐにでも覚めてほしい、自分が見知った場所へ帰りたいと元いた世界に郷愁を抱く少女。

そんな時だった。少女の前に二人の男が現れた。見るからに素行が悪いことを感じさせる風貌の二人組の男は、座り悩む少女を見下ろしながら見事な程に下衆な笑みを浮かべた。

 薄暗く雰囲気の悪い裏路地に少女一人。そこにやって来る素行の悪い二人組の男。この先に待つ少女の運命、そして二人組の男が考えていることは容易に想像が出来る。

 下衆から醜悪な笑みへと変わった二人組の男の一人が少女の腕を乱暴に掴み強引に引っ張る。力無く腕を引っ張られた少女は力無くその場に立ち上がった。

 俯く少女の顔を覗きこみ値踏みする男は、少女の腕を握る手とは逆の手で器用に履いていた自分のズボンを下ろした。どうやら男は自分の下半身を少女に見せつけその反応を楽しみたいようであった。だが男の下半身が露わになったというのに、少女は声一つ表情一つ変えない。

少女の反応が面白くなかったのかその様子を見ていたもう一人の男は容赦なく少女の頬を拳で殴りつけた。

 裏路地の奥へと吹き飛んだ少女は声も上げず力無くその場に倒れたままであった。その少女の姿に興奮したのか、少女の腕を掴んでいた男は飛びつくようにして少女の上に覆いかぶさった。

 男の下衆で醜悪な笑いが裏路地に響く。だが少女にとってその笑い声は恐怖の対象にはならない。なぜなら少女にとってそれは元いた世界の時と何ら変わらない状況、普通のことだったからだ。

 路地裏に漂う陰気な雰囲気も、素行の悪い男の姿も、そしてその男が自分に向ける性的な感情もその全てが少女にとっては日常だった。だからこそ、少女はこの世界で目覚めてから一番落ち着き冷静だった。

例え世界が変わろうとも変わらない場所がある事に安堵すら感じていた少女の表情には笑みが浮かぶ。

馬乗りになっていた男はその少女の笑みに不気味さを感じ一瞬たじろいだ。その瞬間だった。少女に馬乗りになっていた男の目が突然見開くと次に口の端から赤い液体が伝って来る。

 少女は男が腰に携えていたナイフを引き抜くと目にも止まらぬ速さで男の脇腹をそのナイフで刺していた。

 吐血する男の顔を見ながら恍惚な表情を浮かべた少女は男の脇腹に刺していたナイフを引き抜くとそのまま男の右目を突き刺した。

 人を殺すということに対して躊躇の無い彼女のその動きは、少女とは思えないものであった。

こと切れ自分に覆いかぶさる男を邪魔だと言わんばかりに除けた少女は立ち上がると唖然としているもう一人の男を暗い瞳で見つめる。

 得体の知れないものを見るように少女を見つめていた男は、次は自分の番だと悟りその目は恐怖に染まる。ナイフにへばりついた血を払い落しながら少女は獲物を捉えたようにして恐怖に染まった男にゆっくりと近づいていく。

 少女の姿に恐怖が最高潮に達した男はその場にいることが耐えられず情けない声を上げながら表の大通りに逃げようと背を向ける。しかし背を向けたが最後、少女は急接近すると声が表の大通りに響かないように男の口を手で塞ぐともう片方の手に握られたナイフで男の背中を突き刺したのだった。


 裏路地に転がる二つの死体を見下ろしていた少女はこの時初めて自分の腰に何かがぶら下がっている事を知った。

 腰にぶら下がったそれを握る少女。それはまるで自分の手足のようにしっくりと馴染み次にどうすればいいのか直感で分かった。少女は握ったそれを勢いよく引き抜いた。すると裏路地という薄暗い場所でも鮮やかに輝く刃物が姿を現した。

 男達に突き刺したナイフとは違い細く長い刀身をしているそれに少女は身に覚えがあった。少女が引き抜いたそれは人を殺傷する為に作られた刃物。少女が今までいた世界では様々な理由から普通は手にすることが出来ない代物であり、その刃物を見て少女は刀に酷似していると思った。

 手にした刀を見る限り、この世界は自分がいた世界よりも、遥かに人を殺すことに寛容であると少女は思う。そしてこの世界は自分が自分らしくいられる世界だと思う少女、フユカは断片的に脳裏を過る自分のものでは無い記憶とその持ち主の存在を自分の中に感じるのだった。

 



― 現在  ヒトクイ ガウルド 大通り ―

 


「もうー! なんなのあの力! 私と離れていた間に一体何があったのよ!」


旧戦死者墓地で遭遇した全身防具(フルアーマー)の男の強さに捨て台詞を吐きながら脱兎の如く逃げ出したフードを深く被る女剣士フユカはそう激怒しながらガウルドの町を駆け抜けてく。彼女が駆け抜けた通りには突然の突風が吹き、その場にいた人々は何事かと目を丸くしていた。


「……でも……そんな所も好き! 強くなってて……やっぱり格好いい! ……好き!」


つい数秒前まで漆黒の全身防具(フルアーマー)を纏った男に対して怒りの感情を向けていたはずのフユカはそう言いながら自分の顔を覆っているフードから覗く頬を僅かに赤らませ恋慕の感情を躊躇なく口にした。その様子は情緒が不安定と言うにはあまりにも別人と思えるほどの手のひら返しであった。


― 違う ―


自身の恋慕の感情に身もだえながら器用に人々の間をすり抜けガウルドの町を疾走するフユカの脳裏に突然声が響く。


― 違う……あの人は、彼じゃない ……じゃない……もう止めて ―


「ああ、もう、うるさい! 彼はどこからどう見ても彼じゃない! 少しワイルドになっていたけど、強くなって私の下に帰って来たじゃない!」


傍から見ればそれはただの独り言にしか見えないし聞こえないだろう。しかフユカの脳裏には確かに幻聴では無い確固たる意思を持った自我を持つ声が響いていた。


「……私を愛する為に彼は帰ってきた! だからもうあんたは黙って!」


 自分の意見と食い違うその自我を黙らせる為に声を荒げるフユカ。


― ……もう彼は帰ってこない……とどうしてそれが分からないの?  ―


自分の意見を聞かず突き進もうとするフユカに弱々しく訴える声。


「ああ、本当にうるさい、もうこの体は私のものなの、だから私がどうしようと私の勝手!あんたはもう出てこないで! 私の邪魔をしないでソフィア!」


自分の脳裏に響く声をソフィアと呼んだフユカは、そのソフィアという自分の中にある存在を否定する。


― …… ―


フユカの圧に抑え込まれるようにして沈黙するソフィア。


「……そう、それでいいの……所詮あんたは私の紛い物……記憶を失っていた時の私……人一人殺せない弱い私……そんな私はいらない……」


断片的にフユカの脳裏に流れる記憶。それが自分のものでは無くソフィアのものである事を理解しているフユカは、沈黙したソフィアに言い聞かせるようにフユカは、町中を疾走するその勢いのまま、建物を駆けあがった。


「……さあ……彼と愛し合って殺し合う為に、私はまだまだ強くならなきゃいけない……だから探すの、私の力を高めてくれる者を……まだいるでしょ? 私を強くしてくれる人……」


愛し合い殺し合う為に強くなるという歪み切った愛を口にしたフユカは、駆けあがった建物の上からが強者の気配を感じとろうとガウルドの町を見渡した。


「……ふふ、見つけた……」


笑みを浮かべたフユカは視線を止めた。その視線の先にはヒトクイの象徴にして王が住まう場所、ガウルド城があった。


「ふふ……あのお城から強い気配を感じる……しかも複数……それに僅かに黒い気配も感じる」


元いた世界でも人の気配を感じることが得意だったフユカは、この世界で目覚めてからはより鋭く人の気配を感じ取れるようになっていた。


「たのしみだな……」


ガウルド城から感じる強い気配にフユカはフードから覗く口元をニヤリと吊り上げる。


「……お城だもの、当然、盗賊なんかより強い人が沢山いるよね……」


これから楽しいことが起るというように声を弾ませながらフユカは建物を駆けおりるとガウルド城を目指し疾走を再開するのだった。


 


ガイアスの世界


 フユカ


 別の世界から転生という形でこのガイアスの世界にやってきた女性。どうやらソフィアと体を共有しているようで、今の主導権はフユカにあるようだ。

 元の世界にいた頃の彼女の経歴は現時点では殆ど分かっていないが、平凡な暮らしとは程遠い環境にあったようだ。

 フユカは死んでこの世界にやってきたこと理解しておらず、寝たらこの世界に来ていたと思っているようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ