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そろそろ真面目で章(ブリザラ編)3 初耳

 ガイアスの世界


 黒竜ダークドラゴンによる精神汚染


 黒竜ダークドラゴンの力が日ごとに増しているアキの精神は徐々に侵食されつつある。

 破壊衝動が強くなり、全てを滅したいという欲望にかられる。それを解き放つことなく押せ込めているのは、側にいてくれる仲間やクイーンのお蔭なのだが精神汚染の影響なのか、破壊衝動と共にそのことをアキは忘れつつあるようだ。




 そろそろ真面目で章(ブリザラ編)3 初耳




 剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




 ― ガウルド城内 ―



 ヒラキ王からの使いだと言う若いヒトクイの兵士の後に着いて行くブリザラ達は、町へ入ろうとガウルドの入口の一つの門に列をなしていた商人や冒険者、戦闘職を横目にヒトクイ兵士しか入れない専用の入口を抜け、そのままガウルド城へと入城していた。


「そ、それでは……えーと……ここで少しお待ちください」


 若さからくる初々しさとそれに伴い発生する要領の悪さを感じさせながら若い兵士は城内に入ったブリザラ達にそう言うと、慌てながら何処かへと走り去って行った。


「……慌ただしいみたいだね」


 右から左へ上から下へとてんてこ舞いのヒトクイの兵士達の姿にそうポロリと呟くブリザラ。ヒトクイの兵士達が忙しくしているその原因は、魔物襲撃による被害の復興と連日続く盗賊狩りの対処の為であり、そんな彼らの目には一国の王であるブリザラやピーランの姿は目に入らなかった。


「……所でキング殿……私達をここまで連れてきたあの兵士に何か違和感を抱かなかったか?」


慌ただしい周囲を他所にブリザラの身を護るようにして一歩後ろに立つピーランは、その視線をブリザラが背負う大盾、キングに向けるとそう尋ねた。


『……ふむ、別段怪しい所は無かったが……何か気になることでもあったのか?』


自分達をここまで案内してくれた若い兵士に何か違和感を抱かなかったとピーランに尋ねられたキングは、少し考え込んでそう答えた。


「そうか……」


 知識をその身で体現しているような自我を持つ本程ではないにしろ、その知恵と数々の能力から、人間の機微や動向を鋭く見抜く洞察力を持っている。その洞察力を信頼していたピーランは、自分が若い兵士に対して抱いた違和感をキングも抱いてはいないかと思っていたのだが、キングから返ってきたその答えに納得するように表面上では素直に頷いた。


「……ピーラン、あの兵士さんから何か感じたの?」


自分の背後でコソコソと話す二人の会話を聞いていたブリザラは、ピーランの方に振り返ると若い兵士から何か感じたのかと聞いた。


「……いえ……少しばかり違和感を抱いたものですから……」


澄んだ瞳で真っ直ぐ見つめてくるブリザラに最初は無表情であったピーランの顔が困ったというように崩れた。

 ピーランは元盗賊であるが、それ以前はヒトクイで忍という特殊な戦闘職に就いていた。ヒトクイにしか存在しない国専属職とも呼ばれている忍は諜報活動を主とし、時には暗殺などを行う戦闘職である。その特性上忍は、存在自体が秘匿とされており他国は愚か、自国ですら知る者は少ない。秘匿とされる戦闘職な為、一般的な戦闘職のように転職場で就くことが出来ず、忍になれるのはヒトクイの何処かにあるとされる隠れ里に住むとある一族だけであった。

 忍に求められる能力は多く接敵した場合の戦闘の為に必要な身体能力や武器の扱いは勿論、諜報活動で忍び込んだ敵地で必要となる知識の習得など数え出せばキリがない。

 忍になる為の訓練は厳しく時には死人がでる程である。その中でも特に忍に必要とされる能力が感情制御であり、どんな状況に陥っても的確な判断を下す冷静さが必要とされる忍にとっては必須能力である。

 普段ブリザラと接しているその様子からはピーランが感情制御を得意としているようには思えないかもしれないが、それは彼女がもう忍でいる必要がないからだった。だが今でもその能力はしっかりと体に染みついており、いつでも感情を消すことは可能だとピーランは思っている。

 だがしかし目の前に立つまだ少女を脱し女性への階段を上がり始めたばかりのブリザラにだけは感情の制御がピーランは上手く出来ない。感情が表に出ないようにと無表情を作っても、ブリザラにだけはどうしても心内が筒抜けになってしまうのである。

 自身が抱いている若い兵士に対しての違和感もブリザラに不安や戸惑いを抱かせない為にピーランは話さず口を閉ざそうとしていた。だがブリザラの真っ直ぐに澄んだ瞳を前にするとピーランの口は開いてしまう。

 ブリザラに対してだけは自身の感情が筒抜けになってしまうその理由の一つはピーランがブリザラに抱いている感情にあった。それはピーランがブリザラに対して君主と臣下、友人という関係以上の感情を抱いているからである。その事はピーラン自身も自覚していた。

 だが訓練を受け感情を抑制する技術を学んでいるはずのピーランがブリザラの前では丸裸にされたように素直になってしまうのは、単に君主と臣下や友人以上の個人的な感情を抱いているからだけでは無い。ピーランの感情云々よりも更に大きな原因となっているのはブリザラの瞳が持つ力が関係していた。

 その力はブリザラ自身も自覚していないもので、その存在をはっきりと知っているのはキングだけであった。

 ブリザラの瞳に宿るその力の片鱗がブリザラが持つ高い洞察力でありそしてピーランを丸裸にしてしまう人心の掌握である。ブリザラが持つのその瞳の力をキングは王の証明と考えていた。

 キングが考える王とはブリザラの祖国であるサイデリー王国の王と言う意味ではなく、この世界そのものの王になりえるという意味であった。完全に扱うことが出来ればこの世界を支配することさえ出来るとキングはブリザラの瞳に宿る力にその可能性を感じているのだ。

 だがブリザラ自身がその力を自覚していない為にその力は不完全なままであった。いつかその力が真に目覚めることになるのか、それともこのまま目覚めぬままになるのかはそれはブリザラしだいだが、完全に扱うことが出来るようになれば、宿敵である自我を持つ伝説の本ビショップやその所有者の能力さえ凌駕することが出来るとキングは考えていた。



「あの兵士には悪いですが、彼は弱い……ですが彼は私が発した圧に動揺こそしましたが、耐えたんです」


自身にそんな力が宿っているなどとは知らないブリザラはピーランの話を聞いていた。ピーランの言い分によれば、若い兵士は自分が発した圧に動揺こそしたが、耐えたというのだ。

 技量が低い者が強者と対峙した時に何も出来ずに無力になることはよくあることである。それは強者が発する圧が相手の戦意を削ぐからだ。強者が一睨みすればそこに戦いは生まれず弱者は膝を折る。それは無駄な争いを生まない為の強者の力の一つであり、ピーランと若い兵士にはそれほどの力量の差があったはずであった。だがそれにも関わらずピーランが発した圧に対して若い兵士は動揺こそしたが屈すること無く膝を折ることは無かった。そこに違和感を抱いたのだとピーランは言う。


「……うわぁ……ピーラン、そんな事をしていたの……」


自分が気付かない所で弱い者いじめをしていたのだと僅かに軽蔑した目でピーランを見つめるブリザラ。


「あ、いや、それは……あくまで王を……ブリザラを危険から守る為であって……」


ピーランの言葉に嘘偽りは無い。ブリザラを思っての行動であることを必至で訴えるピーラン。


「ふふふ、分かってるよ」


ピーランが若い兵士に対して圧をかけたのは、自分を守る為であるとわかっているブリザラは、冗談だと言うように笑みを浮かべながら笑う。


「……ッ!」


瑞々しい果実が弾けるようなブリザラの笑みに頬を紅潮させたピーランは、その表情を隠すように片腕で顔を隠した。


「お二方、準備が整いました、こちらにお越しください」


「あ、ああ……さ、さあ、ブリザラ様、行きましょう」


自身の動揺を隠せず表情にまで表してしまったピーランは、少し離れた階段の踊り場から声をかけてきた若き兵士のその言葉に助けられたと思いながらブリザラにヒラキ王の下へと行く事を促した。


「……? うん」


自身の言葉や表情によって一人の女性が胸を苦しめ動揺しているなどとは一切思っていないブリザラは、ピーランの様子に首を傾げながらも頷くと、若き兵士が待つ階段の踊り場へと向かい歩き出した。


「……むぅ……すぅーはぁー……」


僅かにブリザラと距離が離れた事を確認したピーランは、冷静さを取り戻す為深呼吸をして心を落ち着ける。


「よ、よし……」


深呼吸をしてどうにか冷静さを取り戻したピーランは、階段の踊り場で自分の事を待つブリザラの後を追いかけて行った。




― ガウルド城 王の間 ―




 人二人分ほどの高さを持つ大きな扉が衛兵の手によって開かれるとまず目に入るのは大きな円柱の柱。その広い部屋の奥へと導くようにずらりと並ぶ二列の円柱の柱の間を歩いていくと、そこにはブリザラたちをここまで呼びつけたヒラキ王の姿があった。しかしその場にはヒラキ王だけでなく、見慣れぬ黒装束に身を包んだ老人と初老を過ぎた男の姿があった。


「……ッ!」


ヒラキが座る王座の横に並ぶ老人と初老の男性の姿に表情を凍らせるピーラン。


「……王、お二人をお連れしました」


片膝をつき頭を下げてヒラキ王にブリザラ達を連れてきたことを報告する若き兵士。


「ご苦労」


「ハッ!」


ヒラキの労いの言葉にハキハキと返事をした若き兵士は素早く立ち上がると、ブリザラ達に会釈をしながら王の間を後にした。


「……それではムゲン長老、ジゴロウ殿、話した通りに事を進めてくれ」


何やら老人と初老の男二人と話しの途中であったヒラキ王は、若き兵士から視線を彼らに戻すとそう話しを締めくくった。


「ハッ」「ハッ」


若き兵士と同じく、ヒラキの言葉に返事した二人は踵を返し王の間を去ろうとブリザラたちの方へと歩き出した。


「……後で話しがある」


初老の男はブリザラたちとすれ違う瞬間、ピーランの耳元でそう小さく呟くと老人の男と共に王の間を後にした。


「……ッ」


初老の男に耳元でそう呟かれたピーランの顔色は酷く青ざめていた。


「お待たせしましたブリザラ王」


「……あ、はい……」


明らかに様子がおかしいピーランが気になるが、ヒラキ王に話しかけられたブリザラはその視線を目の前にいるヒトクイの王に向けた。


「急なお呼び出し申し訳ない」


ヒトクイを統一して既に数十年、国の統一へ導いた立役者であるヒラキ王は、その年月を感じさせない若々しい表情を緩ませると突然この場にブリザラたちを呼びつけたしまった非礼を詫び、頭を下げた。


「そんな、気にしないでください」


自身の非礼を詫びるヒラキ王に対して慌てて首を横に振るブリザラ。


「あの……それでどういったご用件で私をお呼びになったのですかヒラキ王?」


公務では無いにしろ一国の王が二人顔を合わせた時点で本人達にその意思が無くとも政治的な空気がその場には生まれてしまう。国力や大きさ歴史の長さではヒトクイよりも立場が上であるサイデリー国、しかし王としての器や力量、経験ではヒラキ王に劣っていると自覚しているブリザラは、心の中で背筋を上すとサイデリー王国の王としての振る舞いを心掛け、自身をここへ呼び出したその意図を尋ねた。


「……うむ、では早速本題に入らせて貰おう……」


ブリザラの言葉に一つ頷いたヒラキ王の表情は真剣なものへと変わる。一国の王だけあってその場に存在するだけで威厳が漂ってはいたが、話の本題に入ると自ら口火を切った瞬間、周囲の空気は緊張感に包まれた。


「突然だがブリザラ王……負の感情という言葉に聞き覚えはあるか?」


「……はい」


 ムハードで見て感じ対峙したもの。今ガウルドに蔓延している嫌な気配。自国であるサイデリー王国では一切感じることの無かった人が持つ悪意などから発生する現象、それが負の感情であると認識しているブリザラは、唐突なヒラキ王の質問に頷き短く返事をした。


「……やはり、知っていたか……」


負の感情という言葉をブリザラが知っていたことにさほど驚きを見せないヒラキ王は納得した表情で話を続けた。


「今その負の感情がガウルドに広がっている……そして負の感情が広がった原因は盗賊狩りにある」


負の感情がガウルドに広がった原因は盗賊狩りにあると断言するヒラキ王。

 負の感情とは人が持つ恐怖や悲しみ、怒りや憎しみといったものから発生、誕生する現象で自然災害に近いものである。

 だが負の感情が発生、誕生するには多くの強い恐怖や悲しみ、怒りや憎しみが必要になる為、簡単には負の感情は発生、誕生しないと言われている。

その為、今まで闇帝国ダークキングダムに対してガウルドの人々は様々な感情を抱いてはいたが負の感情が発生、誕生することは無かった。

 だがそれは盗賊狩りの存在によって状況は一変することになった。


「盗賊狩りの登場で闇帝国ダークキングダムの残党に抱いていた国民の感情が敵意として纏め上げられたことによって、負の感情が誕生、それが国民の心に染み込んでしまった……」


盗賊狩りの登場、活躍の影響で、今まで闇帝国ダークキングダムやその残党にガウルドの人々が抱いていた恐怖や悲しみ、怒りや憎しみは消え去り、その全ては敵意へと変わったことによって纏まってしまったことで、負の感情が発生、誕生し人々の心の中に入りこみ広がってしまったとガウルドの人々が暴徒化した理由を語るヒラキ王。


「……」


ヒラキ王の説明を聞いていたブリザラはムハード大陸にあるムハード国を思い出していた。ムハード国ではムハード王の恐怖による支配によって人々の心は恐怖と悲しみに染まっていた。そしてムハードの人々の恐怖や悲しみから発生、誕生した負の感情をムハード王は力の源としていたのだ。

負の感情の行きつく先が個人か町中かの違いはあれ、現在のガウルドはあの時のムハードと状況はほぼ同じであると思うブリザラ。


「……あの、ヒラキ王、質問なのですが、王が私をこの場に呼んだことと負の感情に何か関係があるのですか?」


自分と負の感情に関係があるかないかで言えばブリザラには関係がある。負の感情に支配され自国の国民を恐怖に陥れたムハード王をブリザラ達は倒したという実績があるからだ。しかしそれはムハード国内だけに留まったものであり、その事実を遠く離れた島国ヒトクイの王であるヒラキが耳にすることは無いはず。自分と負の感情に関係する繋がりを知るはずの無いヒラキ王が、この場に自分を呼び負の感情について話すことに疑問を抱いたブリザラはそう尋ねた。


「ん? ……負の感情の存在は知っているのだろう? だったら、ブリザラ王が持つ伝説の盾には役目、使命があることも知っているのではないか?」


「……役目、使命?」


確かにキングには役目や使命みたいなものがあることは何となく理解していたブリザラ。しかしヒラキ王の口ぶりからすれば、その役目、使命は負の感情に関係しているようであった。だがムハード国で負の感情に呑まれたムハード王を前にした時ですら、そんな事をキングは一度も口にすることは無かった。ブリザラはヒラキ王のその言葉の真実を確かめようと背負っていたキングを自分の視線の前に移動させた。


「キング、どういうこと? 負の感情に関わる使命って何?」


ブリザラは負の感情に関係する使命についてそれを知っているだろうキングに呼びかけた。


『……』


しかしヒラキ王や他の者達の人目を気にしているからなのか、それとも都合が悪い時に伝説武具ジョブシリーズがよく使うだんまりを決め込んでいるのか、キングは沈黙したままブリザラの声に反応を示さない。


「……ふむ、負の感情についての知識はあるが、ブリザラ王は、自身に与えられた使命、そしてその伝説の盾が持つ役目をまだしにないということか……」


沈黙を続けるキングに必至に呼びかけるブリザラを見つめ何やら考え込むようにヒラキ王はそう呟くのだった。



ガイアスの世界


 ガウルド城 王の間にある円柱の柱


 ガウルド城の王の間、玉座を中心にして両サイドに等間隔で配置されている円柱の柱には意味がある。

 賊の襲撃や突如他国から攻め込まれ王の間にまで侵攻してきた場合に王がその円柱の柱を利用して自身の身を守りながら戦う為である。

 しかしこの円柱の柱はガウルド城の元々の持ち主(当時の王)が危機に対しての備えとして設計したものであり、現在所有しているヒラキ王には全く関係のないものである。

 

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