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そろそろ真面目で章(アキ編)2 盗賊狩りとの邂逅

ガイアスの世界


盗賊狩りを模倣する者達


 それは最初、正義の為であった。今まで散々悪事を働いて来た盗賊たちへの正義の鉄槌であった。だが何時しかその力は正義とはかけ離れたただの暴力に成り果て疑わしい行動をとった者を容赦なく罰する力に変わってしまった。その姿は今まで悪事を働いていた盗賊たちと同じであった。




 そろそろ真面目で章(アキ編)2 盗賊狩りとの邂逅




 剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




 陽が傾き周囲が暗くなり始めた頃、ゴルルドとガウルドの合間にある平原をとんでもない速度で土や草花をまき上げながら何かが疾走していく。魔物でもなければ馬でも無いそれは漆黒の全身防具フルアーマーを纏った人間、アキだった。だが平原を疾走するアキの姿は二つの意味で異常と言える。


 一つ目はアキが全身に纏う防具。全身防具フルアーマーと呼ばれるその防具はその名の通り、全身に防具を纏う装備である。普通の防具よりも更に身を守ることを追及した全身防具フルアーマーは、その殆どが金属で構成されている。強度のある鉱石を鍛え上げて作られた全身防具フルアーマーの重量は重く、成人男性を一人、鉱石の種類によっては二人分の重量になることもある。当然、重量が増せば機動力が損なわれる。機動力が問われる戦場や魔物との戦いにおいてこれは致命的であり、それが理由で全身防具フルアーマーは冒険者にも戦闘職にも人気が無い防具となっている。

 しかし戦闘面において致命的である機動力の低下という致命的問題を持つ全身防具フルアーマーだがアキはそれを纏っても尚、機動力を損なわずに平原を疾走している。これが平原を走るアキが異常とれさる理由の一つ。

 そして二つ目は速度。全身防具フルアーマーを纏って走ることが出来るという時点で異常であるにも関わらず、平原を走るアキの速度は馬が走る速度を超えていた。それは当然、常人ならば有り得ないことで仮に全身防具フルアーマーを着こなすことが出来る強者達であってもアキのその光景を目にすれば異常だと口を揃えて言うだろう。それほどまでに全身防具フルアーマーを纏ったアキは人として規格外な存在であった。

 ならばなぜアキは重量のある全身防具フルアーマーを纏いながらも馬よりも速く走ることが出来るのか。それはアキが纏っている漆黒の全身防具フルアーマーに答えがある。


 ガイアスには伝説と呼ばれる武具が存在する。暗黒の時代、現在では再現することが出来ないとされる技術で作られたそれらは、物によっては手にするだけで常人でも一騎当千の力を得ることが出来ると言われている。事実、伝説と名の付く武具を持った者の多くは歴史に名前を刻んでいる者が多く、伝説の武具は事実として今なお、探し求めている者は後を絶たない。伝説と名の付く武具は、冒険者や戦闘職にとって一度は憧れ欲する物なのである。そしてアキは冒険者や戦闘職が欲するその伝説の武具を所有している。それが身に纏っている全身防具フルアーマーだった。

 しかもアキが纏うその全身防具フルアーマーは、暗黒時代の技術を持ってしても再現することが出来なかったとされる、現在ガイアスに存在する伝説の武具の大本オリジナルとなったものの一つ、伝説武具ジョブシリーズと呼ばれる代物だった。 

 そして伝説の武具には無い特出した点を伝説武具ジョブシリーズは持っている。


『マスター、ガウルドへの入口が見えてきました』


それが自我だった。伝説武具ジョブシリーズには所有者を援護サポートする為の自我が備わっているのだ。アキが全身防具フルアーマーを纏いながらも馬よりも速く走れる理由は、伝説武具ジョブシリーズと呼ばれる自我を持つ伝説の防具クイーン、彼女の援護サポートのお蔭であった。


『……ん? おかしいです……旧戦死者墓地に向かうと言っていたのに、なぜかキングたちはガウルド城に向かっています』


クイーンは既にガウルドへ到着しているだろう自分の同胞の反応を捉え疑問を口にする。同胞である自我を持つ伝説の盾キングの話によれば、その所有者であるブリザラとお付兼護衛の役目を持つピーランは、ガウルドの旧戦死者墓地に向かうと言っていたはずだった。しかしその言葉とは違い、ブリザラたちは何故かヒトクイの首都ガウルドにある王が住まう居城、ガウルド城に向かっているようであった。


「はぁ? 何でそんな面倒な所に向かっているんだ?」


ガウルド城に居るヒトクイの王ヒラキと顔を合わせたことがあるアキは、クイーンのその報告にあからさまに嫌な表情を浮かべた。


『……話を聞いてみます』


ガウルド城に向かっているその理由を尋ねようとクイーンはキングに連絡を取る為に黙りこんだ。


「……あのクソメイドの元仲間に会いに行くのが目的じゃないのか?」


クイーンやキングにかけられた機能不全を解消するという自分たちの目的を放り出し、ピーランが昔所属していた盗賊団の元仲間を助けに行くと突然ゴルルドを離れたブリザラがなぜ目的地であるはずの旧戦死者墓地に向かわずガウルド城に向かっているのか理解できないアキは、眼前に迫ったガウルドへの入口である門を見て足を止めた。


「……あの列で待っていたら日が暮れる……なら」


門の前に並ぶ商人や冒険者、戦闘職の長蛇の列を見てすぐにはガウルドに入れないことを悟ったアキは周囲を見渡した。


「まあ、これが一番速いな」


アキが視界に捉えたのはガウルドへの入口である門から横に広がった壁。魔物の侵入や許可無くガウルドへ入ろうとする者を防ぐための壁の上だった。


「あそこを飛び越えるとしよう」


そう言いながらそびえる壁の前に向かうアキ。

 ブリザラの故郷であるサイデリー王国にある壁程ではないにしろ、常人では上ることすら出来ない高い壁を飛び越えると言ったアキは眼前にそびえる壁を見つめながら飛んだ。僅かに足に力を入れて飛んだだけでアキの体はガウルドの壁を悠遊と飛び越えていく。


「よっと……ここは……」


難なく着地に成功したアキは周囲を見渡した。そこは人気が無く陰湿な雰囲気が広がっている墓地だった。


「……なるほど、ここが旧戦死者墓地か……」


アキの目の前に広がるのは今は別の場所に移設されその機能を失った墓地。そこは本来ならブリザラたちが向かうはずであった旧戦死者墓地だった。


「……ここが闇帝国ダークキングダムの元、本拠地アジトねぇ……」


旧戦死者墓地が盗賊の本拠地アジトになっていたという話を聞いていたアキ木は、なるほど確かに人気が無く近寄りがたい雰囲気を持つ場所であり、盗賊団の本拠地アジトとしてはうってつけだと思った。


「これかどうするか……オウサマ達と合流する為にガウルド城に行く……それは無いな……俺がオウサマの後を追ってガウルドに来たことがあのクソメイドに知れればあれこれと喚くはず、それは面倒だ」


このままガウルド城へ向かいブリザラたちに合流するのは簡単ではあった。しかし自分が後を追ってガウルドに来たことはブリザラ達に、特にピーランに知られるのは癇に障ると思ったアキは、合流することを諦めた。


「おい、クイーン、盾野郎と連絡はとれたのか?」


しばらく黙り続けているクイーンに対してキングと連絡は取れたのかと催促するアキ。


「……はぁ……ここでお前たちお得意のだんまりが発動か……」


しかしクインからの反応は無く、アキはため息をつきながらそう嫌味を零した。


「……とりあえず何かクイーンに都合が悪いことが起きた……と考えるべきか……」


自分たちに不都合なことが起ると口を閉ざし黙りこむ傾向にあるクイーンたち伝説武具ジョブシリーズ。それを痛いほど理解しているアキは、クイーンに、もしくはクイーンたちの身に何か不都合なことが起きたとそう解釈すると誰もいない旧戦死者墓地を見渡した。

 既にその用途を終え遺体すら残っていない旧戦死者墓地から放たれる雰囲気は独特なものがある。悪霊でも現れればその雰囲気にもっと説得力がでるだろうなどと全く関係ないことを考えながらアキはとりあえず旧戦死者墓地を出る為に出入り口に向かって歩き出した。


「……」


旧戦死者墓地の出入り口までの距離はアキの足で数十秒と言った所にある。この墓地が出来た当初はしっかりと舗装されていただろうボロボロになった出入り口へ続く道を進むアキは、歩くにつれて旧戦死者墓地に漂う雰囲気とは違うものを感じるようになった。

 不確定な気配。それこそ幽霊や悪霊のような気配を感じ始めるアキ。幽霊ならば問題無いが、それが悪霊ならばそれなりの対処をする必要があると考えたアキは、僅かに体に力を籠めいつでも戦えるように備えた。


「……ング……」


すると出入り口に向かい歩くアキの背後から誰かの名前を呼ぶ声が聞こえた。その声は小さくアキは上手く聞き取れない。


「ス……グ?」


出入り口へと進むアキの背後で誰かの名を呼び続けるその声はどんどん遠のいて行く。


「……ただの幽霊か……」


この世で一番怖いものは幽霊でも悪霊でも無く生身の人間であることを生きてた経験で学んでいたアキは、突然聞こえてきたその声に全く動じることなく旧戦死者墓地の出入り口を目指した。


「見つけた!」


その時だった、今まで背後からか細く聞こえていたその声は突如としてアキの目の前で破裂するように旧戦死者墓地に響き渡った。


「……剣士?」


アキの目の前にはフードを深く被り顔を隠した人物の姿があった。その人物は腰に細身の剣を携帯しており、アキはそこから目の前の人物が剣士である事を認識する。


「俺に何か用か?」


旧戦死者墓地の入口を塞ぐように陣取る剣士に対してその目的を尋ねるアキ。


「やっと……会えた……」


しかしアキの問に剣士は答えずその状況とは全く脈略の無い言葉を発する。その声色や背丈からまだ年端もいかない子供、もしくは女性であると推測するアキは首を傾げた。その剣士の言葉に前に何処かで会ったことがあるのかと考えたアキは、今までに出会ったことのある人物を思い浮かべる。


「……多分、いや、絶対にお前とは初めましてだな……」


今まで出会ったことのある人物の中で最も目の前の剣士に体型が近いのはブリザラだった。だがブリザラは今、ガウルド城に居るはずであり、ここにはいない。そもそもブリザラは剣士でも無い。更に言えばブリザラは自分に対してそんな不気味な雰囲気で話しかけてきたりはしないとなぜか笑顔のブリザラを思い浮かべるアキ。


「……お前、もしかして……」


頭の中に浮かぶ笑顔のブリザラをかき消しながら、アキはある一つの答えに辿りついた。


「本物の盗賊狩りか?」


光のダンジョンの隠し部屋を探していた間、拠点としていたゴルルドの町でガウルドの噂を幾つか耳にしていたアキは、盗賊狩りという噂があったことを思い出した。

 盗賊団、闇帝国ダークキングダムの残党だけを狙う謎の人物。当初はガウルドに現れた正義の味方として歓迎されていたが、その行為を模倣する者が現れ、次第に盗賊とは関係ない者までが被害を受けるようになり、今では忌み嫌われている者の名称であった。


「なぜ俺を狙う?」


 その風貌から盗賊として間違われても仕方がない風貌はしているものの盗賊では無いアキはなぜ自分が本物の可能性が高い盗賊狩りに狙われているか分からすその真意を目の前の剣士に尋ねた。


「やっと……会えたねぇ……スプリング……」


「誰だよ!」


しかしアキが求めていた答えは返ってこなかった。剣士が口にしたのは恋い焦がれる乙女が発する甘い言葉と知らない人物の名前であった。


「誰だよ! お前俺と誰かを勘違いして……ッ!」


剣士が何か勘違いしている事をアキが指摘しようとした瞬間、ユラユラと不規則に体を動かした剣士は次の瞬間、目にも止まらぬ速さでアキの懐に飛び込むのであった。


後書き


 どうもお久しぶりです山田です。今回のこの話で200話に到達しました(正確には二度目)


 この物語を書き始めたのが2014年の十月、そこから一度完結しのたが2018年の二月。書き始めてから約七年、書き直し始めてから約三年が経ちましたね……うわぁ恐ろしい……歳をとる訳だ……。

 書き始めた頃よりも確実に老いて体力も勢いも無くなっている山田ですが、小説の腕は一向に上がっておりません、すみません。

 正直もういいかなと未完のまま終わらせることを何度か考えたこともありましたが、どうにか200話まで書き続けてこれたのはこんな駄文にお付き合いくださる心温かい方々、あなた! がいてくれたおかげです。

 完結するのはまだ先で時間はかかりそうですが、どうか一緒に完走してくれるとありがたいです。


それではまた!



2021年 12月24日(金) 今年の12月24日25日の予定は某英霊召喚ゲームのレイド戦ですと切ない笑みを浮かべながら


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