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そろそろ真面目で章(ブリザラ編)2 暗雲立ち込める都

ガイアスの世界


 貸馬


 町から町への移動手段の一つである貸馬。町から町への移動を素早く行える為、急ぎの場合は重宝するが、値段が高く金を持たない冒険者や戦闘職は中々かりることが出来ない。

 貸馬には窃盗を防止する魔法がかけられており、盗まれたとしてもすぐにその馬が何処にいるのかが分かるようになっている。





 そろそろ真面目で章(ブリザラ編)2 暗雲立ち込める都




 剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




 ― ヒトクイ ガウルド 入口 ―




 自分に懐いた馬と別れ厩舎を出たブリザラはピーランと共に厩舎から少し離れた場所にあるガウルドの入口の一つへと向かっていた。


「うあぁぁぁ」


二人が門の付近まで到着するとそこにはガウルドへ入ろうとする冒険者や戦闘職、商人が列となって並んでいた。


「……どうやら、まだ騒ぎが静まっていないようだ……ですね」


 今までは殆ど周囲に人もおらず人の目を気にする必要がなかった為、友達口調だったが門から続く長蛇の列を前に誰が見ているか分からないと警戒したピーランは、その口調を本来の立場である王と仕える者の関係へと正した。


「……騒ぎ、何かあったの?」


私用と仕事で言葉使いを切り替えたピーランに動じること無く普段通りに接するブリザラは、何があったのかを尋ねた。


「……現在ガウルドでは盗賊狩りと名乗る者があちらこちらで騒ぎを起こしているようです、どうやら複数犯のようで日ごとにその被害が増えており、その影響でガウルドの出入りが制限されているようです」


そう言うとピーランは自分がゴルルドで仕入れていたガウルドの状況をブリザラに話始めた。

 二カ月程前、突如としてガウルドを襲撃した魔物たちの騒動と時を同じくして、突如としてガウルドの地下にある巨大な洞窟を本拠地アジトとしていた盗賊組織、闇帝国ダークキングダムが壊滅した。裏社会を牛耳っていたと噂されるその盗賊団の壊滅の知らせは本拠地アジトになっていたガウルドの者達を、いやガイアス中の人々を安堵させた。それからしばらくして、安堵と歓喜に沸くガウルドの人々の耳にある噂が広がり始めた。

 その噂とは闇帝国ダークキングダムの残党と思われる盗賊が数名、死体としてガウルドの町の一角で発見されたというものだった。

 本来、闇帝国ダークキングダムの残党の取り締まりを行うのは国の兵士たちの役目なのだが、町の復興などに労力を割いていた兵士たちの動きは鈍く、闇帝国ダークキングダムの取り締まりまでは手が回らない状況だった。ガウルドの大半の者達もその事情は知っていたが、一部では一向に進まない闇帝国ダークキングダムの残党の取り締まりに不満を抱いている者はいた。

 そんな中、散々自分達を苦しめてきた悪党が何者かによって成敗されたという噂に、その一部の者達は溜まっていた溜飲を下げそして成敗を成し遂げていく者を指示するようになった。やがてその声

は大きく広がって行き結果として取り締まりが進まない兵士たちに代わり盗賊の残党を成敗して回るその人物の行動は大きく指示されるようになった。

 次々と闇帝国ダークキングダムの残党を成敗していく姿形も分からない正義の味方は、いつの頃からかガウルドの人々に盗賊狩りと呼ばれるようになっていた。

 しかし盗賊狩りの噂が広がるにつれ、これは積年の恨みを晴らすチャンスと盗賊狩りを模倣する者達が現れるようになった。

 今まで自分たちが虐げられてきた思いを晴らすかのように盗賊狩りを模倣する者たちは身分を隠し町で息を潜める闇帝国ダークキングダムの残党を引きずりだすと自分たちの行動は正義だと主張しながら力による制裁を残党の盗賊たちに加えていった。

最初こそ、正義と叫んでいたがしだいに模倣犯たちの行動は過激に、その目的は正義からただ力を振うことに代わり、怪しい行動をとった者達は即座に制裁を受けるようになっていった。当然、制裁を受けた者の中には盗賊では無い、何の罪もない者たちもいた。

 現在でも過激になった模倣犯たちの行動は続いている。気付けば正義の味方として広まった盗賊狩りと言うその名は、恐怖の象徴に塗り替わっていた。

 この事態を重く思ったヒトクイは、闇帝国ダークキングダムの取り締まり及び、盗賊狩りの捜査を始めた。

 ヒトクイのその行動によって一定の成果は得られたもののしかしそれでも盗賊狩りを模倣する者達は後を絶たない。未だ盗賊狩りの模倣犯は増え続けており、ガウルドは現在非常に危険な状態にあった。

 その為現在、ヒトクイは外からやって来る者に被害が及ばないようにとガウルドへ入る事を制限している。それが門の前に並ぶ長蛇の列の理由であった。


「……そんな事が……」


ピーランから一通りの説明を受け、ガウルドが緊急事態である事を知ったブリザラは深刻な表情を浮かべた。

 ブリザラの母国であるサイデリー王国は、これまで一貫して他国と争うこと、他国を侵略することを嫌ってきた国である。当然、サイデリーの兵士たちにも国の意思は徹底して伝わっており、その振る舞いから国の人々も争うことを嫌い、この数百年平和を保ってきた。そして形は少し違うがヒトクイも同じ志を持つ国であると認識していたブリザラは、ガウルドの現状に心が痛んだ。


「……」


今までのブリザラならば、心を痛めたまま何も出来ずにいただろう。だがサイデリーを出て様々な場所を旅し、ムハードという目を背けたくなる現状であった国に足を踏み入れ自身や仲間と共にその問題に対峙し解決した今のブリザラは違う。


「なんとかしないと……」


そして生来の好奇心と同じく、底が抜けるほどまでにお人よしでお節介なブリザラは、他国である現状のガウルドをどうにかしなければと考えていた。


「……この現状にヒラキ王は何か対策を考えているのかな?」


ムハードの時とは違い、一国の王が国の状況を悪くしている訳では無い事を理解するブリザラは、まだガウルドが盗賊狩りによって荒れる前、一度顔を合わせたヒトクイの王の顔を思い浮かべた。


「……私はそれを疑問に思っていたました、あれ程の王ならばこの状況を即座に解決に導くと思っていたのですが……」


ブリザラと出会うよりも前、そして盗賊に堕ちる前まで、ヒトクイの影の部分を任されていた忍の一族としてヒラキ王に仕えていたピーランはヒラキがどれほど優秀な王なのかをその肌で知っている。そんな優秀なヒラキ王にしては対処が遅すぎるとピーランは疑問を口にして首を傾げた。


『……どうやら、その盗賊狩りという存在だけがガウルドの人々の心を惑わせているだけではないようだ』


現在のガウルドについて話すブリザラとピーランにそう声をかけたのは、ブリザラが背負う大盾、自我を持つ伝説の盾キングだった。


「どういうこと?」


キングの言葉に聞き返すブリザラ。


『……町の中から嫌な気配を複数探知した……これはムハードの王が纏っていたものと同種のものだ』


「それって!」


一人の王が恐怖で支配していたムハード国。その正体は負の感情に取り込まれ自身の感情を増大させた一人の王による力の支配。キングの言葉にブリザラはその時の事を思いだした。


『ああ、ガウルドはあの時のムハードのようになりつつあるのかもしれない』


力無き者が恐怖によって搾取され続けられる支配。それがガウルドに迫っていると口にするキング。


「そんなの、あんな状況になるのは駄目……どうにかしないと……」


ムハードの現状をその目で見てきたブリザラは、ガウルドが同じ状況になることを避けなければと声を上げる。


「……はい、私もそう思います、ガウルドをあのムハードのような状態にしてはならない」


そのブリザラの言葉に同意し頷くピーラン。


「……あ……」


自分に同意してくれたピーランを見て何かに気付くブリザラ。

 本来、ブリザラたちがガウルドに来た目的は、ピーランの元盗賊仲間の安否を確認、場合によっては救出することにあった。


「……多分、私の仲間は……もう……」


ガウルドの現状を話す中で、ある結論に達していたピーランは同じ結論に達しただろうブリザラに歯切れ悪くそう言うと僅かに顔を俯いた。


「……ふぅ……兎に角、今はガウルドに入ることを最優先にしましょう」


俯いた顔を上げたピーランは、何事も無かったように自分達の前に連なる長い列を見つめながらそう口にする。


「……ピーラン」


何事もなかったように振る舞うピーランを見つめながらブリザラは自分の事のように心を痛めることしか出来なかった。




「ああ、いたいた、ブリザラさんですね?」


全く動く気配の無い列の中でその時を待っていたブリザラとピーランの元に突然ヒトクイの若い兵士が近づき小声で話しかけてきた。


「は、はい、そうですが」


突然ヒトクイの若い兵士に話しかけられ何事かと思うブリザラ。


「我王がお呼びです、僕……あ、いや、私について来てもらえますか?」


若い兵士は不慣れな言葉使いでヒラキ王が呼んでいるとブリザラに声をかけた理由を説明した。


「ヒラキ王が?」


ヒラキ王が自分達を呼んでいる。そのことに驚くブリザラ。


「待て、ヒラキ王がブリザラ様を呼ばれたという証拠を見せて貰おう」


ブリザラと若き兵士の間に割って入ったピーランは、そう言うと若き兵士を鋭い視線で疑いを持って見つめた。それほどまでにこの若き兵士の登場は自分達にとって都合が良すぎたからだ。

 サイデリーの王であるブリザラが他国に入る場合、通常ならば様々な手続きをとらなければならない。しかし今のブリザラはお忍びという形で自分の身分を隠してこのヒトクイに入国している。その事実を知るのはヒトクイ側ではヒラキ王と僅かな側近だけである。

 しかし今ブリザラの前に現れた若き兵士は王を前にして行わなければならない所作は殆ど省いているものの、ブリザラを様と呼び明らかに事情を知っている様子であった。

 一兵士がしかもまだ新米である目の前の若き男がブリザラの素性を知っているというのは本来ならば有り得ないことである。それに気付いたピーランは、目の前に現れた若き兵士を警戒していた。


「あ、いや……その……ええと……」


疑われていることなどつゆほどにも思わずただただ目の前の圧倒的な力量を持つピーランの鋭い眼光にたじろぐ若き兵士は腰にしまっていた羊皮紙をとりだした。


「失礼しました、これが王からの書状になります」


そう言うとヒラキ王からの書状だと言う羊皮紙をピーランに手渡す若き兵士。


「……」


羊皮紙を開き中に書かれた内容に一通り目を通したピーランは、それをブリザラに渡した。


「……至急の要件あり、ただちに城へ来られたし」


ピーランから渡された羊皮紙に書かれた文面を小さな声で音読したブリザラはピーランの顔を見た。


「……ヒラキ王のもので間違いないかと」


そう言うと若き兵士に対して鋭い眼光を向けていたピーランは警戒を解いた。


「は、はぁぁぁぁぁ……」


解放されたように安堵の息を漏らす若き兵士。


《……私から見てもそれは、ヒラキ王の直筆でも違いない……彼に着いて行って問題はないと思う》


ピーランの言葉を後押しするようにキングはブリザラにだけ分かる声でそう告げた。


「わ、分かりました……それじゃ」


羊皮紙を若き兵士に返したブリザラは着いていくことに同意した。


「それではこちらに……」


その若き兵士に誘われるようにしてブリザラたちは門まで続く長蛇の列から外れていく。


(……あの兵士……単に胆力が高いのか? ……それとも道化を演じているのか?)


新米の兵士ならば今のピーランなら一睨みで行動不能にすることも出来る。だが自分のその眼光にあの若き兵士はたじろぐだけに留まった。それが単に胆力が強かっただけなのか、それとも強さを偽っているのか、警戒は解いたものの自分たちを先導しようと前を歩く若き兵士にピーランは疑問を抱くのだった。



ガイアスの世界


 盗賊狩り


 闇帝国ダークキングダムの残党を成敗したことで一躍、ガウルドのヒーローとなった盗賊狩り。しかしその素性は何も分かっていない。

 盗賊狩りを追っているヒトクイの兵士は盗賊狩りを追って調査を始めたが、未だ何一つ有力な情報は無いようだ。

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