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もう少し真面目で章(スプリング編)19 真意

ガイアスの世界



 部分的な獣化


 聖狼セイントウルフに変身することが出来るかガイルズは、任意で体の一部を獣化することも出来る。

 傭兵時代ガイルズはこの部分的な獣化を良く多用していたが、現在では殆ど使わなくなった。本人曰く使わなくなった理由は中途半端だからだそうだ。だが実際は行動を共にするスプリングに自分が聖狼セイントウルフであることを隠すために使わなくなったようだ。

 




 もう少し真面目で章(スプリング編)19 真意




剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




― 現在 ユモ村 村長屋敷 寝室 ―




 周囲からすればそれは僅か数秒のことであった。だが呆然と床を見つめ続けていたスプリングの頭の中では数週間分の時間が激流のように流れ込んでいた。それは今の今までスプリングが忘れていた時間、記憶だった。


「……なぜ俺は、忘れていた……?」


 確かにゴッゾを討ち取ったのはスプリング自身だった。様々な場所に忍び込み金品を盗む小悪党。それが今までスプリングが認識していたゴッゾの素性だった。

 アカリフ大陸でガイルズと共に消息を絶って以降、ムハード大陸に辿りついたスプリングは底を付き始めていた路銀を稼ぐ為に、懸賞首になっていたゴッゾを対象にして行動を始めた。

 上位剣士であり戦場では閃光という二つ名を持つスプリングの実力であれば、金品を盗むただの小悪党ゴッゾを追い詰めるのはそこまで難しい事では無かった。事実、行動を開始して一日も経たずにスプリングはゴッゾを追い詰めることに成功した。しかしそこで事故が起きた。

 言い訳をするならこの時スプリングの精神は普段に比べ冷静さを欠いていたといえる。剣の師であるインセントから貰った長剣ロングソードをガイルズに砕かれそして敗北した事で少し自暴自棄になり心に迷いが生じていた。その迷いが普段ならば絶対にしないだろうミスを呼び込んだのだ。

 依頼者からは生け捕りと指示を受けていたにも関わらず、スプリングは誤ってゴッゾを殺めてしまったのだ。

 しかしこの業界で懸賞首を誤って殺してしまうことは別段珍しいことでも無い。追われる側は捕まる訳にはいかず必至に逃げる。逃げることが出来なくなれば抵抗してくる。その抵抗を捌き切れず殺めてしまった何て話は良くあることだ。

 だがこの時のスプリングは何故か良くある話とゴッゾを殺めた事を割り切ることが出来なかった。傭兵として戦場に出て、今まで幾人もの命を奪ってきたはずなのにも関わらずスプリングは、ゴッゾという人物を殺めたことに深い罪悪感を抱いていていたのだ。


 という自分の記憶の殆どが偽りであったことにスプリングは気付いてしまった。


『……思い出したようですね……そう、それが本来の記憶、あの場所であなたが見聞きした真実です』


 突然流れ込んで来た記憶に困惑を隠せないスプリングにそう声をかけたのは、寝室のテーブルに置かれた一冊の分厚い本、自我を持つ伝説の本ビショップであった。

 ビショップは同じ記憶、光景をまるで一緒に見ていたかのようにスプリングが取り戻した記憶について言及した。


「ど、どういうことだ……」


同時に存在する二つの記憶に戸惑いを見せるスプリングは、そう言いながらテーブルに置かれたビショップに視線を向けた。


『……あの日、『絶対悪』の残滓が持つ力によってあの場に流れていた時間は巻き戻り何も無かったことにされたのです』


「……無かったこと……」


ビショップに説明を受けて尚、理解が追い付かないスプリングは首を傾げる。


『はい、あの場所だけが時間の流れを逆行し過去の姿に戻ったのです……その影響であの場所に存在していた国は愚か、そこで生活をしていた人々の時間まで巻き戻ることになり存在していないことになった』


あの時、スプリングとガイアスを呑み込んだ黒い何か、『絶対悪』の残滓はあの場所に流れていた時間を逆行させることで、そこに存在していた国やその国で生活していた人々の時間をも逆行させ、その存在自体を無かったことにしたのだとビショップは説明した。


「まて……もしお前のその話が本当だとしたら、なぜ俺やガイルズは今ここにいる? 『絶対悪』の残滓のよくわからない力に俺達も巻き込まれたんだ、俺達も存在自体が無かったことにされるはずじゃないのか?」


ビショップが語った説明が本当だとすれば、あの場所にあったはずの国や人々と同じように自分たちも存在そのものが無かったことになるのではないかとビショップに意見するスプリング。


『『絶対悪』の残滓が巻き戻したのはあくまであの場所に流れる時間だけです。あの場所が無かったことにされたからと言って、あなたやご友人の人生に影響はありますか? それがあなたとご友人が無かったことにされなかった理由です』


あの場所が無かったことにされ消滅しても、これまであの場所との接点が無かったスプリングやガイルズの人生に影響は及ばないとスプリングの疑問に答えるビショップ。


『ただし、あなたとご友人があの場所に滞在していた期間だけは別です、あの場所に関わった時間だけは『絶対悪』の残滓の力によって巻き戻された……だからあなたはあの場所の事を今の今まで思い出すことが出来できず、記憶の帳尻を合わせる為に偽りの記憶に書き換えられたのです』


「……ん?」


ビショップの説明を聞き、何となく自分の中に二つの記憶が存在している理由を理解したスプリングはある事に気付いた。


「待て……その理屈で行けば俺が殺したゴッゾはどうなる? 俺達よりも長い時間あの場所にはいたが、その理屈が通るならゴッゾも……」


ビショップが言う理屈が本当ならば、自分たちと同じく別の場所からあの場所へやってきたゴッゾも、自分たちと同様に記憶を書き換えられて何処かで生きているのではないかという可能性を口にするスプリング。


『……残念ですが、あの者の死は覆りません……』


「な、何でだ!」


可能性を否定されたスプリングは思わず声を荒げた。


『……主殿!』


「……ッ!」


取り乱すスプリングを一喝したのは、寝室の壁に立て掛けられた槍、自我を持つ伝説の武器ポーンだった。ポーンの言葉に我に返ったような表情を浮かべたスプリングの視線は寝室の窓ガラスに向いた。そこには自分が犯した罪から逃れようとする醜い表情をした自分の姿が映っていた。


「……わ、悪い……」


生きていて欲しいという思いに嘘偽りは無い。ただそれ以上にスプリングは自分が犯してしまった罪が無かったことになるのではないかとそう考えてしまっていた。そんな罪から逃れようとする思いが窓ガラスに映る自分の顔を醜く歪ませていることに気付いたスプリングは、消え入るような声でポーンに謝ると寝室のベッドに腰を下ろした。


「……どうしてだ……戦場で数えきれない程……殺して来た……死の間際俺に恨みを吐いて死んだ奴何て沢山いた……なのにどうして……ゴッゾの最期の言葉は耳から離れないんだ!」


過去、傭兵として戦場で沢山の命を奪ってきたスプリング。殺された者の中にはスプリングに対して恨みを吐いて死んでいった者も多くいる。しかしスプリングは死んでいった者たちの恨みの言葉など気になどしてはいなかった。いや正確には気にしないようにしていたというのが正しい。

 戦場という環境に置いて死の間際の者が口にする言葉は呪いに等しい。まともにその言葉を取り合えばそれは本当の呪いとして己の足かせとなってしまうからだ。だからスプリングは心を閉ざした。対峙する相手に何の感情も抱かないように己の心を頑丈な何かで覆ったのだ。

 だが真実の記憶を取り戻したスプリングの耳には死の間際に発したゴッゾの言葉がまるで呪いのように離れなくなっていた。


「……かた……じけ……ないって……どういう意味なんだ?」


スプリングはたどたどしく自分が発したその言葉にどんな意味があるのか、誰かにすがるように独り言を吐いた。

 スプリングがたどたどしく口にした言葉は、ゴッゾが死の間際に発した言葉であった。だがその言葉は現在ガイアス全土に普及している共通語には存在しない。共通語しか知識が無いスプリングにはその言葉の意味が伝わらずゴッゾの真意が分からなかった。


「……かたじけない……その言葉の意味は……感謝……」


誰かに聞いて欲しい訳では無い、だが誰かに聞いて欲しいという矛盾した思いに答えるように今まで静かに沈黙していたユウトは、その言葉の意味をスプリングに教えた。


「……感謝? 感謝だと……何でゴッゾが俺に感謝なんかするんだ? 俺は……俺は奴の首を刎ねたんだぞ!」


恨み辛みを吐くならまだしも殺した相手に感謝の言葉を口にするなんてありえないとスプリングはその言葉の意味を伝えたユウトに対して語気を荒げた。


「……それは、お兄さんがその人の最期の思いを叶えたからじゃないの?」


語気を荒げたスプリングに対して一切動じていない様子のユウトはそう言葉を続けた。


「……思い?」


「きっとその人は自分ではもうどうすることも出来なかったんだよ、だから誰かに自分を止めて欲しかった……」


感情無く淡々とまるで自分もその光景を見ていたかのようにそう語るユウト。


『……スプリング君、私の観測によれば、ゴッゾという人物は、『絶対悪』の残滓に憑かれていたようです』


何処か抽象的な物言いをするユウトに代わり、あの時ゴッゾに何が起こっていたのかを説明するビショップ。


「ゴッゾは憑つかれていた? 『絶対悪』の残滓に?」


 そう口にしたスプリングは同時のあの場所で記憶を思い返した。確かに今思えば、あの時のゴッゾには黒い何かが纏わりついていたように思うスプリング。


『ええ、『絶対悪』の残滓は人の感情に惹かれ憑つく性質を持っています、それによって憑つかれた者は凶暴化します』


ビショップが言うようにあの時のゴッゾは何の脈略も無く突然近くに居た人を刺殺した。それ以降、『絶対悪』の残滓を思わせる黒い物体で次々と人々を殺害していった。


「……あの時、ゴッゾは抗っていたのか……『絶対悪』の残滓に」


「……」


当時の事を思い返しながらそう口にしたスプリングに対してユウトは静かに頷いた。

 実際の所、ゴッゾが本当はどう思っていたのかは、もう誰にも分からない。だがもしユウトの言うように自分を止めて欲しいとゴッゾが望んでたのだとしたら、その願いをしっかりと果たす事がてきたのだろうかと思うスプリング。


「……その……声を荒げてごめんな……そしてありがとう」


ユウトがいなければスプリングはゴッゾの最期の言葉の意味を知ることが出来なかった。そんなユウトに対して怒鳴ってしまった事を詫びると同時にスプリングは、かたじけないという言葉の意味を教えてくれたことに感謝した。


「……」


普段感情が表情に出ないユウトはスプリングの感謝の言葉に微かに頬を緩めた。


《……坊ちゃんが笑っている……やはりこの男、危険な存在だ》


ユウトのその表情が笑みと呼べるものなのかそれは分からない。だがこれまで行動を共にしてきたビショップにはユウトが笑っているように見えていた。そしてユウトが笑みを浮かべたスプリングに対してビショップは今まで以上の激しい嫉妬心を抱くのだった。


『はぁ……さて、そろそろお開きにしましょう、私も坊ちゃんも色々と忙しいですから』


そう言いながらビショップは何故か慌てるように体である本を閉じるとフワフワと浮きユウトの腕の中に納まった。


『スプリング君とポーンもこんな場所で油を売っている暇はありませんよ、早く創造主が課したもう一つの課題をクリアする為にガウルドに向かってください』


「もう一つの課題? ガウルド?」


『うぅぅ……』


ビショップの言葉を受けスプリングは首を傾げたが、ポーンには思い当たる節があるようであった。


『それでは坊ちゃん、私たちは行きましょう』


ビショップは自分を抱えるユウトにこの場から去る事を提案する。


「うん……」


ビショップの言葉に素直に頷いたユウトは、寝室を後にしようと扉へと向かう。


『いいですか、ガウルドです、ガウルドで約束を果たしてください』


『いいからさっさと立ち去れ!』


スプリングに念を押すようにそう告げるビショップにこれ以上色々と言われたくないのかポーンは声を荒げた。


『……ああ、そうだ、最後にもう一つ……』


ビショップがそう言うと、扉のノブに手をかけたユウトの動きが止まる。


『何だ! 余計な事ならもう言わなくていいぞ! さっさと立ち去れ!』


何かまた余計な事をビショップが言うのではないかと思ったポーンは更に声を荒げた。


『……スプリング君、あなたのご両親を殺害した者についてです』


ビショップがそう口にした瞬間、寝室に緊張が走った。


「……どういうことだ? 俺の両親を殺したのはゴッゾだったんじゃないのか?」


そう口にしたものの、ゴッゾは自分の両親を殺していないのではないかという疑念がスプリングの中には浮かんでいた。


『……今までの私のお話を聞いていれば大体の見当は付くと思いますが……』


スプリングが既に勘付いている事を察しているビショップはそう前置きをする。


『……ゴッゾという人物は『絶対悪』の残滓……正確にはそれに酷似したものが憑ついていました……それは本来の『絶対悪』の残滓とは違い、人為的に作られたものです……』


「なッ!」


『絶対悪』の残滓とは人の負の感情が集まることで生まれ出るものであり、その膨大な力は本来、人の手に負えるものでは無く意図的に作りだすことは不可能である。


『……それでは、またお会いしましょう』


ビショップのその言葉を合図にしてノブに手をかけていたユウトは扉を開けると寝室を後にする。


「おい! それってどういうことだ!」


肝心な所は伝えず寝室を後にしたユウトとビショップの後を追い寝室を飛び足すスプリング。しかし既にそこにユウトとビショップの姿は無かった。


「……」


ビショップの口ぶりから、『絶対悪』の残滓を作りだすことが出来る何者かが居る事を知ったスプリングはその何者かがゴッゾを操り自分の両親を殺した黒幕なのだと理解する。


「……はぁ……」


自分以外誰もいない廊下を見つめ、一つため息を吐いたスプリングはポーンがいる寝室へと戻った。


『……主殿……』


ここしばらく情緒が安定していないスプリングに心配そうに声をかけるポーン。


「大丈夫だ……」


気を使われていることが痛い程分かったスプリングは笑みを浮かべると壁に立て掛けられたポーンを手に取った。


「さて、俺達もここから出よう……このまま光のダンジョンに行きたい所だが、まずはガウルドだ……ガウルドでロンキとの約束を果たすぞ」


次の目的地を決めたスプリングはガウルドに居る自称世界一の鍛冶師、猫獣人のロンキの下に向かい、そのロンキと以前した約束を果たす事をポーンに告げた。


『あ、主殿! いつその事を思い出したのだ!』


そう告げられたポーンは、動揺し慌てた様子でそう尋ねた。


「へへへ……さっき思い出した……」


ポーンを担いだスプリングは悪戯な笑みを浮かべながらそう答えると寝室を後にするのであった。



後書きのようなもの


どうもお久しぶりです山田二郎です。


 ようやくスプリング編を一旦終わることができました。何だよ過去編って。あんなに長くやるつもり無かったよ。話数だけでいったら2クールぐらいあるよこの野郎(話数多いくせに内容薄すぎる問題がありますね)

 えー今、深夜も深夜、既に朝方のテンションでこれを欠いているので正直次にこの後書きみたら顔から火を噴いて倒れると思います。

 さてそんな訳でいつものように大風呂敷を広げて全く回収できず、自分で作ったちゃんと役割を果たしているのかも分からない伏線に苦しめられと今回も苦しい日々でした。そして文章力やらなにやらが全く成長してませんでした、本当にすみません(汗)

 そんな訳で辻褄が合わないことが多々あると思いますが、どうか、どうか生暖かい目でこれからも見てもらえるとありがたいです。(もう一度最初から書き直したいな……)

 山田二郎でした! それではまた!



 2021年 10月29日(金) 某 鋼の祭典30周年作品がやりたくて仕方がないと思いながら 



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