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隙間で章15 消える記憶

ガイアスの世界



 ガイルズの嗅覚


 狼がベースとなっている聖狼セイントウルフの嗅覚は鋭い。その中でも特に闇の力に対してその嗅覚は敏感である。これは即座に滅ぼす対象である闇の力を持つ存在、魔族を見つけ出す為に重宝される能力である。

 その為、ガイルズの前で闇の力を持つ存在がその身を偽ることは殆ど出来ない。だが現在では人類と共存する魔族も存在する為、敵だと誤認することも多く数百年の魔族との戦争当時に比べると扱うのが難しい能力になっている。

 その他、魔族以外にも臭いで様々な事を判別することができる。




隙間で章15 消える記憶




「……恐ろしい……かすっただけでもひとたまりもありませんねぇ」


 ガイルズの特大剣大喰らいによる一撃を見てそう評価した武具商人は全く口にした言葉とはそぐわない不気味な笑みを浮かべたまま周囲にある森にその身を隠した。


「森に逃げ込んだか……」


 一般的に特大剣は広い場所などで使用されることが多く、逆に狭い場所や遮蔽物などがある場所ではその大きさの影響で思い通りに振うことが出来ないという弱点がある。そこに目をつけた武具商人は、ガイルズの攻撃を封じる為に遮蔽物の多い森へと逃げ込んだ。


「流石武具商人、特大剣の弱点は理解しているな」


森へと逃げ込んだ武具商人の魂胆を見抜くガイルズは、そう言いながら自ら不利な場所へと足を踏み入れていく。


「だがそんな小細工、俺には通用しねぇよ!」


視界を覆い尽くす程の木々。そこは特大剣が最も動き辛い場所である。しかしそれはあくまで特大剣の一般的な使用者の感想、弱点であり、全てが規格外であるガイルズにとってはそれほどの問題では無かった。


「ようは、戦場のようにぶん回せばいいだけぇ!」


そう言いながら大喰らいを横に一閃するガイルズ。するとガイルズの進路を妨害していた木々は見事に横一閃に切り倒されていく。


「ははッ! そこか!」


一気に視界が広がったガイルズは逃げる武具商人の姿を見つけるとその後を追う。

 ぶん回せばいいと本人は簡単に言ってはいたが、ガイルズがいる森に生える木々はどれも成長度合いが良く、人が三人か四人手を繋いで円を作った程の太さがある。例え破壊力が高い特大剣であってもこの太さの木をましてや複数同時に切り落とすのは常人にとっては不可能なことである。しかし規格外の身体能力を持つガイルズには可能だった。

 まるで自分の周りにを取り囲んだ敵を一掃するのと同じようにガイルズは自分の進行を邪魔する木々をあっさり切り倒し武具商人との距離を縮めていく。


「……闇を滅ぼす為とはいえあれほどの力を作りだすとは……」


森に生えた木々にその身を隠しながら移動する武具商人は、次々と木々を切り倒すガイルズのその身体能力を見ながらそう言葉を零した。


「……ふふ、やはり人間の業とは何処までも深い……」


その口ぶりからガイルズが内に秘めている力を武具商人は知っている様子であった。


「おら! お前は逃げることしか出来ないのか?」


進路の邪魔となる木々を全てきり倒しながら進むガイルズはただ逃げ回るだけで全く攻撃をしようとする気配が感じられない武具商人をそう言って挑発する。


「……私は武具商人ですよ、あなたとまともに戦って勝てる訳がない」


ガイルズの挑発に一切乗らない姿勢の武具商人はそう言いながら更に森の奥へと進んでいく。だがその言葉とは裏腹に、やはりその表情は不気味な笑みを浮かべたまま。武具商人の表情に不安や恐怖は無い。

 

(逃げてばかりで攻撃してこない……一体何が目的だ……)


追う側にあるガイルズは武具商人の背しか見えずその表情を確認することは出来ない。しかし武具商人の武具商人らしからぬ身のこなしから何か企んでいる事を察するガイルズ。


(……こいつからは嫌な臭いがする……なのに何で逃げるだけで攻撃してこない?)


内に秘める聖狼セイントウルフの力によって犬や狼と同等、もしくはそれ以上の嗅覚を持つガイルズ。それは臭いという表面的なものだけに留まらずその臭いから湧き出る相手の素性もある程度知ることが出来る。そしてガイルズが言う嫌な臭いとは人類の宿敵とされた闇の力を持つ存在、魔族のことである。

 数百年前に起った人類と魔族の戦い。その中で劣勢状態にあった人類を救ったのがガイルズの内に秘められた力、聖狼セイントウルフであった。

 聖狼セイントウルフの力の根源は人類の誰しもが持つ聖の力にある。しかし人一人のその力は微弱であり、聖職と呼ばれる戦闘職の者達以外には棒にも箸にもかからない力である。しかしその微弱であるはずのその力は集まることで強大な力となる。それは闇を滅ぼす光となった。

 一人の森人エルフの力を借りることで、聖の力を集約することに成功した人類は、聖狼セイントウルフという闇を滅ぼす力、いや兵器を作りだしたのだ。

 その後の事は、歴史が語っている通り人類の勝利に終わった。しかしその歴史に聖狼セイントウルフとなった者達の名は無い。その力が強力過ぎるが故に、聖狼セイントウルフを指揮していた者達はいずれその牙が自分たちに向く事を恐れそうなる前に歴史から聖狼セイントウルフを抹消したからだ。

 それ故に現在、聖狼セイントウルフというものが存在していた事を知る者はこのガイアスには殆どいない。そして今も尚、その力が存在している事も知らないのである。

 ある意味で呪いとも言えるその力を後天的に手にしたガイルズは、聖狼セイントウルフにそんな暗い歴史があることなど知らず、その力を力としてしか認識していない。

 そんな聖狼セイントウルフの力の一端である嗅覚によって武具商人が人間では無く魔族、もしくは闇の力を持つ者である事を感じ取っていたガイルズ。しかしだからこそ武具商人の行動はガイルズにとって疑問でしか無かった。

 魔族は人類よりも遥かに高い身体能力や魔法を扱うことが出来る。それは数百年前の人類と魔族の戦いでも明らかだ。現在では魔族の力は衰えたとは言え、それでも戦いに身を置く魔族の力はかなり高いはずだ。そしてガイルズの嗅覚は武具商人を強者と認めている。ガイルズの嗅覚が認める程の力を持つ武具商人がただ逃げに徹しているというのはガイルズにとっては何とも違和感のあることだった。


(……それにこの臭い……)


武具商人の行動の他にもう一つガイルズには違和感があった。それが武具商人から発せられるもう一つの臭いだった。


(あいつから……あの巨人やおっさんが発していた臭いがする)


武具商人から発せられるもう一つの臭い。それは何故かガイルズが名前を思い出すことが出来ない国で戦ったニダルマスやゴッゾが放っていたものと酷似ていたのだ。


(チィ……どうも臭いの所為で今日は考え過ぎる所があるな……どうせ考えても分かる訳がねぇんだ……今は兎に角、ちょこまかと動く奴の動きを止める)


 この場所で目覚めてから柄にもなく色々と考え込むことが多くなっていたガイルズ。それが武具商人から放たれる臭いの所為なのか、それとも対峙してからずっとざわついている聖狼セイントウルフの力の所為かそれは分からない。だが今のままでは永遠にこの追いかけっこは終わらないと思ったガイルズは今は深く考える事を止め、目の前の武具商人を追うことだけに集中する。


「ほほぉー速度が更に上がりましたね」


森中を逃げ回る武具商人はガイルズの変化に気付いた。その瞬間だった。


「……追いかけっこは終わりだ」


数秒前まで追っていたはずのガイルズの姿が今は武具商人の前にあった。。


「……あら? 隠れる場所が無くなってしまいましたね」


武具商人がそう口にした瞬間、二人の周囲にあった木々は一斉に倒れていく。木々を隠れ蓑にしていた武具商人は自分が隠れる場所が無くなった事に気付き、逃げ回っていたその足を止めた。


「……」


闇の力に向けられた闘争心。無駄な思考を止め、闇を狩るという本能に身を委ねたガイルズの身体能力は普段の数倍にまで高まっていた。それを現すようにガイルズの手足は人間のものとは違う、獣のような様相に変化していた。


「……確かに追いかけっこは終わりのようですね……」


半獣化しているガイルズの姿に驚いた様子の無い武具商人。


「……見事にあなたは闇を狩る存在としてその力を制御コントロールしているようだ……」


それ所かその姿が何であるか知った口ぶりの武具商人はガイルズに向け称賛とも思える言葉を向ける。


「……ただ……」


「……ッ!」


ねっとりとした何かで全身を舐められた感覚とでも言えばいいのか、元から不気味な気配は発してはいたが、改めて対峙した武具商人のそれは先程までとは比べものにならず今までに感じたことのない違和感と気持ち悪さのようなものが体を這いずるのを感じるガイルズ。それは強烈な臭いとして半獣化したことにより更に鋭くなったガイルズの鼻を襲った。


「今のあなたでは、私をどうすることもできませんよ」


そう言うと自分の顔に手を添えた武具商人は薄気味悪く笑みを浮かべたその顔を突然、文字通り仮面のように外した。


「あぐぅ」


まるで押えこまれていたように武具商人の素顔と仮面の隙間から漏れだした臭いに表情を歪めたガイルズは強烈な吐き気に襲われた。


「……あらら、刺激が強かったようですね……」


顔色が悪くなったガイルズを見て薄気味悪く笑みを浮かべた仮面を付け直す武具商人。


「がぁ……はぁはぁ……お前は……一体何者だ……」


全身を襲う震えと痺れ。こびりついたように取れない悪臭にやられ疲弊したように肩で息をするガイルズは、込み上げてくる吐き気に耐えながら人の姿をした何かである武具商人に対してそう尋ねた。


「何者……ふーん、そうですね……いうなればこの世界の……」


「ッ!」


武具商人が己の正体について答えようとした瞬間、何かがガイルズの横を凄まじい速度で通り過ぎる。その何かはそのまま武具商人の頬を、いや仮面をかすめた。


「これはこれは、お目覚めですか……」


「……閃光……スプリング?」


武具商人が見つめる視線の先に自分の視線を向かわせるガイルズ。そこに居たのは川岸で倒れていたはずのスプリングだった。


「……」


スプリングはどこからともなく取り出した二本の剣を放った。すると二本の剣はスプリングの側に浮いたように佇む。


「……? ……あなた……」


スプリングに対して武具商人が何かを言おうとした瞬間、スプリングが放った二本の剣はその刃先を武具商人に向けるとまるで意思をもったかのようにその場から飛び出し、武具商人の体を貫いた。


「……なるほど……一体あなたはいつの……」


自分の体を貫いた二本の剣を見て何かを理解した武具商人はスプリングに何かを言うとした。だがその瞬間、スプリングが放つ出所が分からない剣が次々と武具商人の体を貫いていく。


「ちょっと……手を休めて私の話を聞いてもらえませんかね?」


話す暇も無く次から次へと自分へと剣を放つスプリングに対して武具商人は話を聞いてくれるように頼む。


「……」


しかしスプリングは休む間も喋る間も与えないと言うように何処からともなく出現させた無数の剣を次々と武具商人に目がけ放ち続けた。


「お、おい……」


あの日、アカリフ大陸のガドロワ山に向かう道の途中で対峙し戦ったスプリングは確かに上位剣士だったはずだと思うガイルズ。だがしかし今目の前で無数の剣を出現させ武具商人を攻め立てるスプリングの姿はどう考えても上位剣士が扱う技では無い。それは剣を極めた者だけが辿りつく終着点。剣を極めた者だけに与えられる特別な技。そんな技をなぜ上位剣士であるはずのスプリングが扱えるのか理解できないガイルズ。


「……時間が無い……お前の持つ全ての力で奴を仕留めろ」


武具商人にとの距離を縮めながら無数の剣を放ち続けるスプリングは、ガイルズに対して静かにそう指示を送る。


「……」


自分の横を通り過ぎながらそう指示を出すスプリングは、確かに今まで一緒に行動を共にしたスプリングだった。だが何処か別人のようにも感じるガイルズ。


「早くしろ」


呆然するガイルズに対して僅かに語気を強めるスプリング。


「あ、ああ……」


ガイルズはスプリングに言われるがまま頷くと己が持つ渾身の一撃を武具商人に与える為に自分の中にある聖狼セイントウルフの力を解放する。

 すると聖狼セイントウルフの力に反応するようにガイルズの体に変化が起る。骨の折れる音と共に急激に骨格が変化しガイルズの肉体はより太く筋肉質になっていく。頭頂部に大きな耳が生え鼻は前へと伸び口は鋭い歯と共に裂けていく。そして全身を覆う白銀の毛。そこには二足で立つ狼、聖狼セイントウルフへと姿を変えたガイルズの姿があった。


「行けっ!」


聖狼セイントウルフへと姿を変えたガイルズはまるでスプリングが出現させた剣のようにその場から飛び出すと、真っ直ぐに武具商人へと向かう。


「そうですか……話は聞いてもらえないようですね……」


迫る聖狼セイントウルフと無数の剣を前に武具商人はそう言うと諦めたように抵抗することなくその場に立ち尽くした。

 ガイルズよりも先行していた無数の剣が武具商人の体を貫く。その後を追うようにして聖狼セイントウルフの姿となったガイルズは両手に持った特大剣大喰らいを武具商人に振り下ろした。


「……理を外れし者……お二人ともまたいずれお会いしましょう……」


そう言葉を残し、ガイルズが振り下ろした特大剣大喰らいによって押し潰された武具商人はその肉体を黒い霧のように霧散させ消えていった。


「……はぁはぁはぁ……」


霧散していく武具商人を倒したという手応えは全くないガイルズ。だが周囲から嫌な臭いが消えていくのを感じるガイルズは肩で息をしながら、スプリングがいる方へ視線を向けた。


「おい……お前……一体誰だ」


聖狼セイントウルフの力が落ち着き元の姿へと戻ったガイルズは、目の前に居るスプリングに対して単刀直入にそう尋ねた。


「……俺は俺だよ……」


そう言いながらガイルズの前では見せたことのない笑みを浮かべるスプリング。


「いや違う……お前は俺の前でそんな顔で笑ったりはしない」


アカリフ大陸の一戦以降、スプリングと行動を共にしていたガイルズ。その旅路の中でスプリングは一度として笑ったことは無く、ましてやガイルズに向けて笑顔を向けることは無かった。そんなスプリングが自分に笑顔を向けているという状況に違和感しかないガイルズは、スプリングらしき人物の言葉を否定した。


「……それにお前は俺が聖狼セイントウルフだと言うことを知らないはずだ、なのになぜお前は俺のあの姿を見て平然としていられる」


目の前にいるスプリングに対してガイルズが抱いた違和感は自分に向けられた笑顔だけでは無い。

ガイルズは自分が聖狼セイントウルフである事をスプリングに隠していた。だがそれにも関わらずスプリングはガイルズの聖狼セイントウルフの姿を見ても一切動揺することは無く、それ所か既に知っていたような素振りすらあった。


「……いずれ分かる……」


そう口にするスプリングの表情は何処か切なそうにも見える。


「はぁ? いずれ分かるだと?」


全く答えになっていないスプリングの言葉にガイルズは怒りを露わにする。


「……悪いな……」


そう呟くスプリングがガイルズの視界から消える。


「ど、どこ……ゴフゥ!」


消えたスプリングの姿を目で追うガイルズのみぞおちに突然、激痛が走った。歪む視界の中でガイルズは自分のみぞうちに拳を放ったスプリングの姿を見る。


「……やっぱり……お前は……スプリングじゃない……」


自分のみぞうちに拳を放ったスプリングにそう口にしながら崩れ落ちていくガイルズ。


「……」


意識を失い倒れたガイルズを何処か申し訳なそうな表情で見下ろすスプリング。


「……これから俺の事を頼む……ガイルズ」


スプリングはそうガイルズに言い残すと突然力が抜けたようにその場に倒れ込むのであった。



― 数時間後 名も無いオアシス ―



「おい、起きろ……起きろよ」


「ん……何だッ」


誰かに頬を打たれて目を覚ましたガイルズはその視界にスプリングを捉えた。


「何時まで寝ているつもりだ? 置いていくぞ」


素っ気ない態度でそう口にしたスプリングは言葉通りガイルズを置いてその場から移動を始めた。


「お、おい待てくれよ!」


慌てて飛び起きたガイルズは置いていかれないようスプリングの後を追う。


「……なぁ、ここって何処だ?」


スプリングに追いついたガイルズは周囲を見渡しそう口にする。


「何処って、ここはムハード大陸の端にあるオアシスだろ……昨日お前がここに立ち寄ろうと言ったんじゃないか」


ガイルズの問に対して不機嫌にそう答えるスプリング。


「オアシス……ああ! そうだそうだ! 丁度腹が減っていた所にオアシスを見つけたんだったな」


霧がかっていた記憶が晴れたように昨日の事を思いだしたガイルズはうんうんと頷く。


「……はぁ……それより俺に近づくな」


距離が近いガイルズを突き放すスプリング。


「何でだよ、一緒に旅する仲間じゃねぇかよ」


ニタニタと笑みを浮かべながら更にスプリングに接近を試みるガイルズ。


「やめろ! 仲間になった覚えは無いし、そもそも裸で出歩く男と一緒に行動する趣味は俺には無い!」


接近を試みたガイルズを素早く躱したスプリングは、軽蔑するようにガイルズを睨みつけた。


「はぁ? ……おお! 本当だ! 何で俺裸なんだ?」


下着すら履いていない事に気付いたガイルズは、自分の大事な部分を見つめながらなぜ自分が裸なのかと首を傾げた。


「知るかッ! ……それよりそんな恰好で俺に近づくなよ……同類だと思われたくないからな」


ガイルズの非常識な恰好に苛立つスプリングは近づくなと念を押した。


「そうは言ったって着る物が無いんじゃな……」


そう言いながら周囲の木々から大きな葉っぱを幾つかもぎ取ったガイルズは器用にその葉っぱを腰に巻きつけ、大事な場所を隠した。


「……いや、それ以前に砂漠のど真ん中で誰かの視線を気にする必要はないだろ、どうせ誰も見ていないんだし」


ムハードにある砂漠は広く、滅多に人に遭遇することは無い。それに気付いたガイルズは人の視線を気にする必要はないのではないかと主張し始め、大きな葉っぱで作った腰布を脱ぎ始めようとする。


「おい、待て待て待て! 何でそう言う考えに行きつく! そもそも砂漠で裸なのが問題だろ! お前焼け死にたいのか?」


昼の砂漠の温度は高い。太陽からの熱は容赦なく体を焼いていく。そんな状況の中、裸でいるのは自殺行為と言っても過言ではない。


「ああ、そうか……」


自分の考えの論点がずれていたことに気付いたガイルズは脱ぎかけた大きな葉っぱで作った腰布を履きなおした。


「……なら、どうしたらいい?」


少し考える素振りを見せたガイルズ。しかし即座に考える事を放棄しその答えをスプリングに求めた。


「だから知るか! 自分で考えろ!」


「そんな、酷いよ、一緒に旅をする仲間じゃないか!」


「ああ、ウザったい! 暑い! 近寄るな!」


「ねぇねぇ、そのフード俺に貸してよ」


「ふざけるな! これは俺のだ、そもそもお前の馬鹿デカい体には入らないだろ!」


……


………


…………




「……記憶の辻褄は上手く行ったようですね……」


まるで子供の喧嘩のように騒ぎながらオアシスを後にしていくガイルズとスプリング。その二人の背を見つめる黒い影があった。


「まさか理を外れし力でここまで介入してくるとは思いませんでした……だだし、これだけの事をするのには膨大な力が必要になる……二度は無いでしょう……ですが注意することに越したことは無い、彼らの動向は常に監視するべきですね」


名も無きオアシスに漂う黒い影はそう独り言を口にすると霧散するようにその場から姿を消した。


ガイアスの世界


 剣聖が持つ技


 今までに得た様々な剣の経験、知識を形として具現化することが出来る剣聖は、何も無い所から剣を作りだす事が可能。その為、普段、剣帯していない剣聖も多い。

 作りだした剣は手に持つことなく操ることも可能で時には無数に剣を出現させ、それを矢のように飛ばす事もある。ちなみにこの技に決められた名は無く、剣聖一人一人が思い思いの名がある。

 無数に剣を出現させ矢のように飛ばすこの技を外法と言い、あえて使わない剣聖もいるという。


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