もう少し真面目で章(スプリング編)18 気付かぬ復讐
ガイアスの世界
創造主が伝説武具に自我を与えた理由
武器や防具である以上、伝説武具も人が扱う道具である。ならばなぜ創造主はそんな道具である彼らに自我を与えたのか。それは所有者と伝説武具が対話をはかることで、互いに成長し創造主自身が想定した以上の力を発揮させる為だと言われているが真実は定かでは無い。
もう少し真面目で章(スプリング編)18 気付かぬ復讐
剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス
スプリングの前から創造主が忽然と消えてから数秒後、寝室のドアをノックする音が響いた
「ッ!」
スプリングが知る限り今この屋敷に居る人間は一人。寝室のドアをノックした主が誰であるか即座に理解したスプリングは視線をドアに向けた。その視線には困惑と好奇心が混在していた。
「あ……」
スプリングがノックに対して返事をしようとすると、その前にドアが開いた。
「……」
スプリングの返事を待たずして寝室に入ってきたのはやはりユウトだった。寝室に入った途端ユウトは何も言わず何かを探すように周囲を見渡した。
「……誰もいない」
『……ッ』
周囲を見渡しスプリング以外に誰も居ない事を確認するユウトのその様子は、普段通りの無表情、無感情に見える。だがユウトに抱えられたビショップだけは無表情、無感情の奥に隠されたユウトが抱くある感情を読み取っていた。
「あ……!」
そんな中、スプリングは寝室に入り周囲を見渡すユウトの顔を見て創造主の素顔を見た時と同じように驚いた表情を浮かべていた。
「……? どうしたのお兄ちゃん……?」
自分の顔を見つめ驚くスプリングに首を傾げるユウト。
「あ、いや……」
今自分が見ている光景が信じられずスプリングは言葉に詰まった。なぜなら今スプリングの前で無表情のまま首を傾げているユウトと瓜二つの顔をした者と数十秒前に別れたばかりだったからだ。
正しく言えば、ユウトと瓜二つという表現は正確では無い。正しくはユウトが今よりも成長したような人物と言った方が正しい。
そう突然スプリングの前に姿を現した創造主の顔、フードの奥に隠されたその素顔は、まるでユウトが年齢を重ね成長を遂げた後のような顔だったのだ。
(……これは一体、どういうことだ?)
改めてユウトの顔を見て創造主と瓜二つであることに困惑するスプリング。
《やはり、似ている……》
スプリングと同じく創造主の素顔を見ていたポーンもユウトと創造主の顔が瓜二つである事に困惑していた。
《これをただの他人の空似で片付けるにはあまりにも偶然過ぎる……この少年と創造主の間には何かかる……この事にお前は関与しているのかビショップ…・・》
ユウトと創造主の顔が瓜二つであることをただの偶然で済ませることは出来ないと思うポーンは、ビショップが裏で何か糸を引いているのではないかと考えた。
「お兄ちゃんは誰と話していたの?」
驚きと困惑で言葉に詰まって以降、硬直しているスプリングに重ねてそう尋ねるユウト。
「……え、いや……」
正直、ユウトに創造主の事を打ち明けたい気持ちが無い訳では無い。だが未だ自分でも創造主という存在が何であるのか理解できていないスプリングはそれをどう説明したらいいか分からず不用意に口にすることが出来ずに更に言葉を詰まらせた。
《……ビショップ……聞きたいことがある》
ユウトの問にどう答えればいいのか分からず声を詰まらせるスプリングを横目に、ポーンは真相をつきとめるべく、その真相を知っているであろうビショップの自我、心に直接尋ねた。
《グゥゥゥゥ……》
スプリングとユウトに話の内容を聞かれないよう直接ビショップの自我、心に話しかけたポーンに届いたのはまるで獣が唸るような声だった。
《……ッ? どうしたビショップ》
その声を不審に思いながらももう一度声をかけるポーン。
《ん? ……私の自我に直接話しかけてくるなんて、何の用ですかポーン》
冷静は保っているものの、何処か言葉には苛立ちのようなものが感じられるビショップは自分の自我、心に直接話しかけてきたポーンに不満げな態度をとった。
《尋ねたいことがある……》
《尋ねたいこと? ……私に尋ねたいこととは何ですか?》
ポーンの言葉を聞き、僅かに聞く体勢になるビショップ。
《……お前の所有者は一体何者だ?》
普段から本心を語らず漂々としているビショップにしては珍しく感情を昂らせ苛立っていることを珍しいと思いながらもポーンはユウトという存在について尋ねた。
《……何者? ……坊ちゃんは坊ちゃんですよ……》
ポーンの問に要領を得ないと感じたのかビショップは、僅かに苛立った様子で同じく要領を得ない答えを口にする。
《茶化すな! ……ビショップ……何を苛立っている?》
自分の問に対して真面目に答える気が無いビショップを一喝したポーンは質問を変えた。
《ふん、失礼ですね、別に私は苛立ってなどいませんよ! ……話は終わりですかそれなら私の心から早く去ってください》
明らかに今この状態にあることを不満に思っているビショップは、話が無いのなら立ち去れと語気を荒くする。
《話は終わっていない! ……私の質問が煩わしいのなららば単刀直入に聞く、お前は知っているのか? ……あの少年と創造主の関係を!》
何故かこの状況を煩わしく思っている様子のビショップに対してポーンは単刀直入にユウトと創造主の関係について尋ねた。
《……関係? ……あなたが何を仰っているのか分かりませんね……》
ユウトと創造主の関係についてポーンに問い詰められたビショップは少し間をあけると冷静にそう答えた。
《……本当に分からないのか?》
ここまで問い詰めて尚、分からないと口にするビショップの反応に驚くポーン。
《ええ……この寝室で創造主と一体何があったのですか?》
先程の苛立ちが嘘のように冷静になったビショップは一体何があったのかとポーンに尋ねた。
《……お前は……創造主の素顔を見た事しがあるか?》
明らかにビショップの情緒がおかしいと思いながらもポーンは、新たな質問をした。
《創造主の素顔? ……あの方は私達が誕生してから一度もその素顔を見せたことはありませんから当然、私は見たことがありませんね……》
そう口にした所で、何かを考え込むように一度黙りこむビショップ。
《……まさか……あなたは創造主の素顔を見たのですか……?》
僅かな思考の間の後、ポーンが創造主の素顔を見たという答えに辿りついたビショップはそれを言語化した。
《……ああ……私は創造主の素顔を主殿と共に見た……》
自分達を生み出した頃には既に顔を隠していた創造主は、スプリングに胸ぐらを掴まれるあの時までポーンたちに素顔を見せたことは一度も無かった。そんな一度も見たことのない創造主の素顔を見てしまったという衝撃にポーンは僅かに声を震わせていた。
だが創造主の素顔を見てしまたった事だけがポーンに衝撃を与えた理由になった訳では無い。
《……創造主の素顔は、お前の所有者である少年に瓜二つだったのだ……》
創造主が晒したその素顔がビショップの所有者であるユウトに瓜二つであったことが、ポーンに更なる衝撃を与えたのだ。
《この事をお前は知っていると私は思っていた、だから二人の関係をお前に尋ねたのだ》
ポーンはユウトと創造主の顔が瓜二つである事をビショップは知っていると思っていた。だからこそユウトと創造主の関係について尋ねたのだとわざわざビショップの自我、心に話し方理由を口にした。
《……なるほど、事情はわかりました……ですが私はその事について一切の情報を持っていません》
ポーンが何を探ろうとしていたのかを知ったうえでビショップは淡々と自分は知らないと答えた。
《……》
ビショップの態度とその言葉に不自然さを感じるポーン。
まず創造主とユウトの顔が瓜二つだという事を聞いた割にビショップの態度は冷静過ぎる。本当に知らないのだとしたら、ポーンのように驚きや動揺があるのが普通である。
そして次にビショップの言動。ビショップは一切情報を持っていないと言ったがそれはおかしい。ガイアス全土の情報を全て網羅する観測者という能力を持つビショップが創造主や自分の所有者であるユウトについて何の情報も得ていないのは不自然過ぎるからだ。
《本当に何も知らないのか?》
二つの理由からポーンはもう一度ビショップに何か知っているのではないかと尋ねた。
《ええ、知りませんでした》
ポーンの問に対して冷静にそう答えるビショップ。
《……本当だな》
《くどいですね……いくら私がこの世界全てを見通すことが出来る観測者だとしても、見えない、知りえないことはあります……すみませんが同じことを何度も聞く暇は私にはありません、失礼》
しつこいポーンの問に僅かに先程とは違う苛立ちを見せたビショップはそう僅かに声を荒げると会話を強引に終わらせるのだった。
『……すみません坊ちゃん、そろそろスプリングさんとの用事を済ませたいのですが……』
ビショップとポーンの会話は時間にてみれば僅か数秒。その間、ユウトの質問に対してスプリングは答えられないまま未だあたふたとしていた所だった。
「……」
突然会話に割り込んできたビショップに無言で視線を向けるユウト。
『……そ、そんなに不機嫌にならないでください坊ちゃん』
無表情、無感情であるユウトの僅かな感情の揺らぎを読み取り困ったような声でユウトをなだめ始めるビショップ。どうやらユウトはスプリングとの会話を邪魔されたことに機嫌を損ねたようだった。
『……さて、色々とあって中々この話に辿りつけませんでしたがようやくあなたにこの情報を開示することができますね……』
傍から見れば何処か不機嫌なのか分からないユウトをなだめ終えたビショップは、やっとスプリングが知りたがっている情報を開示することが出来ると安堵の声を漏らした。
『……』
そのビショップの様子を何とも胡散臭いと思いながら黙って聞くポーン。
「……」
ビショップに情報を開示すると言われ今まであたふたしていた表情が一瞬にして真剣なものへと変わるスプリング。
『……スプリングさん、改めて『絶対悪』の残滓の浄化へのご協力ありがとうございました……』
『絶対悪』の残滓の浄化への協力に感謝の言葉を述べたビショップはユウトの手の中で自分の体である本を開いた。
『……それでは早速情報の開示をします……スプリングさんのご両親を殺害した者……その人物の名は、盗賊団、『未来風』元団長……ゴッゾ=バルミリオンという人間ですね』
淡々と自分の中に現れる情報を音読するビショップ。
「ッ! ……ゴッゾ……だと……」
ビショップが口にした男の名を聞いた瞬間、スプリングの表情が引きつった。
『……ふむ? あらら……どうやら既にこの世にはいないようですね……』
自分の中に流れてくる情報を読み進めるビショップは、既にゴッゾがこの世にいない事をワザと臭く驚いた声で告げた。
「……」
その瞬間、力無く膝からその場に崩れ落ちるスプリング。
『どうしたのだ主殿!』
ビショップの言動におかしな所がないか監視していたポーンは突然膝から崩れ落ちたスプリングに慌てた声を上げた。
『……金品強奪、その過程で殺人を犯し指名手配されていたゴッゾは傭兵……上位剣士に討ち取られた……なんと! その上位剣士とはスプリングさんあなたではありませんか!』
スプリングの様子などお構いなしに流れてくる情報を読み聞かせるように音読するビショップは、ゴッゾを討ち取った者がスプリングだった事を更にワザと臭く驚きながら告げた。
「……」
その事実にスプリングは言葉を失い寝室の床を茫然と見つめることしか出来なかった。
― 数年前 とある大陸 ―
「……そうか、お前が俺の最後の相手か……」
目の前に立つ上位剣士の傭兵に対して自傷気味な笑みを浮かべた恰幅のいい男は、対峙する上位剣士の傭兵にそう告げると腰に差していた刀に手をかけると深く沈み込むような体勢をとった。
「俺の……いや、私の抜刀術がお前の一撃を凌駕するか、お前の一撃が私を凌駕するか勝負だ」
先程の自傷気味な笑みとは違い、その時浮かべた男の笑みは純粋な力比べに心躍らす少年のようであり、そこには傭兵に追われる犯罪者の姿は無く、一人の武人が立っていた。
ガイアスの世界
傭兵時代のスプリングの活動
傭兵時代、様々な戦地をかけていたスプリング。戦争がない間は、各国や街にある相談所を周り、様々な依頼をこなしていたようだ。
素材集めから魔物討伐など、主に戦いに関する依頼ばかり受けていたスプリング。勿論それは『剣聖』になる為であった。




