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もう少し真面目で章(スプリング編)17 唐突な来訪

ガイアスの世界


 ユウトの身体能力


 見た目子供であるユウトだが、その身体能力は他の能力同様チートである。腕力はガイアスの成人男性の五倍以上あり、岩を軽く素手で粉砕することが出来る。(岩を素手で粉砕する行為自体は肉体を扱う戦闘職であればそんなに珍しいことでは無い)





 もう少し真面目で章(スプリング編)17 唐突な来訪




剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




「……また、これか」


 ゆっくりと目を開いたスプリングは視界に映った光景に力無く自嘲気味な笑みを浮かべた。ここ数カ月、死にかけたり意識を失ったりすることが多かったスプリングは意識を取り戻した時に最初に見るもの、天井を目にすることが多くなっていたからだ。


「……」


自分が意識を失った時はまだ空に太陽があった事を記憶しているスプリングは、ベッドから上体を上げると周囲が暗く蝋燭の灯りだけが広がるその部屋を見て今が夜である事を認識する。そして自分が寝かされていた場所がビショップのいた屋敷の寝室である事を理解すると再び蝋燭の灯りが灯った寝室を見渡した。


『主殿、目を覚ましたか……』


スプリングが寝ていたベッドの脇から聞こえる声は、不安と安堵が入り混じったような、またそれだけでは無いような複雑な感情が入り混じったようなものだった。そこには槍へと変化したポーンが寝室の壁に立て掛けられていた。


「お互い……無事だったみたいだな……」


壁に立てかけられたポーンを見つめながら自分たちが無事である事を理解するスプリング。だがそこに安堵の感情は無くその声には覇気が無い。そればかりかその双眸に光は無く何かを失ったかのようにスプリングの表情は暗い雰囲気に覆われている。その様子に動揺したポーンは声を詰まらせながら、屋敷の玄関先で意識を失い倒れたスプリングしてから目覚めるまでの経緯を軽く伝えた。


「……無様だな」


経緯を聞いたスプリングは軽く笑いながらそう呟いた。そこにあったのは自分に対しての嘲笑であった。

 見た目子供であるビショップの所有者に大の大人である自分がこの寝室まで運ばれたという事実、しかもそれがいずれ敵になる者に助けられたという事がスプリングが持つ矜持プライドを容赦なく傷つけていた。

 この数カ月、満足できる戦いは一つ無く、いつも気付けば天井を仰いでいたスプリング。その為天井を仰ぐという行為はスプリングにとって敗北の証のようなものになっていた。

 夜を冠する魔族にも、師である『剣聖』にも、そして守りたいと願った少女にすら勝てず気付けば天井を仰ぐ日々を繰り返し、それでも幾度も立ち上がってきたスプリング。しかし圧倒的強者である少年を前にして戦うことすら無く力の差を見せつけられたスプリングは戦う者としての自信を完全に砕かれてしまった。

 自分よりも強い存在がこの世界に沢山存在することはスプリングも十二分に理解しているつもりだった。その力の差は努力すれば埋められ追い抜くことが出来ると信じていた。だが目の前に現れた少年は違った。少年が持つソレは自分がどう足掻いても辿りつけない、手を伸ばしても届かない無慈悲な程の領域だった。努力では辿りつけない場所、そう悟り、悟らなければならない事実にスプリングの心を諦めという言葉が過り始めていた。


『……体の調子はどうだ?』


暗く焦点の合っていない放心したスプリングの様子を心配しながら慎重に話しかけるポーン。


「……」


その声は聞こえている。だがそれに返答する気力が今のスプリングには無い。意識がはっきりすればはっきりする程、努力という無意味な行為に必至になっていた自分が惨めになるスプリングは、他者の言葉が聞き入れられず自身の殻に閉じこもって行く。


『あ、ある……』


視認出来る程、精神状態がどんどん悪化しているのが分かるポーンはそれでも呼びかけようとする。しかし呼びかけようと声を発した瞬間、ポーンは自分のその行為に疑問を抱いた。主殿に声をかける資格が自分にあるのかと。

 数月敗北を味わい続けているスプリング。しかしそれはスプリングが弱かっただけが原因では無い。上級剣士として若手で一番『剣聖』に近いと言われていた男が敗北を味わい続ける日々を送る要因になった一つは、自我を持つ伝説の武器、即ち自分に関わったからだと思うポーン。

 自分の能力の暴走によって結果的に戦いの自由をスプリングから奪ってしまったポーン。その罪の意識からポーンはスプリングに対して何と声をかけていいのか、その資格があるのか分からなくなってしまった。


 ポーンが口を閉ざしてから二人の居る寝室には重い空気が流れた。どれだけ時間がたったか、一分のかそれとも一時間なのか、長く感じ重い空気が流れる寝室にそれは突如として何の前触れも無く現れた。


「はぁ……何だいこの陰鬱とした重い空気は……今にも押し潰されてしまいそうだよ」


二人の間に流れる重たい空気をぶち壊すような能天気な声が寝室に響く。


『……創造主っ!』


月明かりだけが照らすその寝室にどこからともなく湧いた創造主。その突然の来訪にポーンは以前と同じように驚きの声を上げた。


「おっと、そう言えば部屋に入る場合はまずノックをするのがマナーだったね」


ポーンに創造主と呼ばれたフードを目深に被った男はそう言いながら自分の右腕を前に突き出した。すると異次元に吸い込まれるように創造主の右腕が肘の所まで忽然と消える。すると寝室の外からドアが叩かれる音が響いた。


「これでいいかな?」


以前スプリングと会った時に言われたことを忠実に守ろうとする創造主は、空間を歪ませることで寝室に居ながら腕だけを寝室の外に出現させドアをノックした。しかしそもそも根本が間違っていることに創造主は気付いていない。普通ドアをノックする場合は外からであり、室内からドアの外側をノックすることは有り得ないことだ。


「……」


どうだやってやったぞと言う所謂ドヤ顔を披露しながらスプリングを見つめる創造主。だが以前であれば創造主のその行動に鋭いツッコミを入れてもおかしくはないはずのスプリングは、ただ創造主を見つめるだけでその行動に対して何の言及もしない。


「……はぁ……ここまで追いつめられているとは……少し君の精神力を高く評価しすぎたかな」


鋭いツッコミを期待していた創造主は負抜けたようにただ自分を見つめてくるスプリングの態度に呆れた。


「やれやれ、こんな事今までだっていくらでもあっただろう? たかが圧倒的な強さを見せつけられたぐらいで君は、何をそこまでへこたれているんだい?」


これまでのスプリングの事情を見透かしているように創造主は挑発するような物言いでそう口にすると先程まで少年が腰掛けていた椅子に座った。


『創造主! それは言いずぎではないか!』


所有者であるスプリングを守護する立場にあるポーンは、これまでどれだけスプリングが悔しい思いをしてきたかを理解しているつもりだった。だからこそポーンは創造主の物言いに反論するように語気を荒げた。


「……あれ珍しい、遅い反抗期かな?」


自分に反論かるポーンのその様子は創造主にとっては珍しいものだった。

 自我を持つ伝説の武器であるポーンは、無から勝手に生まれた存在では無い。そこには確実な製作者というものが存在する。その製作者、生みの親が創造主である。言わば二人は親子の関係にあり、もっと考えを飛躍させれば、ポーンにとって創造主は自分を作りだした神と言っても差し使いは無い。そんな神にも等しい存在に反抗、口答えをしたのだ、創造主からすれば子供であるポーンが反抗期に入ったと思っても別段おかしなことではない。

 ならばなぜポーンは反抗期に入ったのか、それは創造主に対して不審を抱き始めたからだった。


『あなたは一体何がしたいのですか? ……ビショップに何をさせたいのですか?』


スプリングが目覚める前、この寝室で少年と僅かな会話を交した時に感じたビショップにある矛盾。それが創造主にポーンが抱いた不審の理由だった。

 遥か昔、創造主がビショップによって殺害される光景を思い出しながらその光景が偽りだったかもしれないと思い始めていたポーンは、その光景の真相を求めて創造主を問い質した。


「……はて、今はそんな話をしていたかな? ……確かいま私と君が話していたのはスプリング君についてでは無かっただろうか?」


ポーンの問に対してあからさまにはぐらかす創造主。


『はぐらかさないで、真実を教え……』


はぐらかし話から逃げようとする創造主に喰らいつくポーン。


「ポーン、君はそこまで自分の所有者に対して薄情なのかな?」


話をはぐらかし逃げようとする創造主に喰らついつこうとするポーン。しかしその言葉を制するように創造主は、スプリングに対しての思いやりが欠如しているのではないかと指摘する。


『ハッ……ぐぅ』


そう指摘されたことで自分の感情が先行しスプリングを蔑ろにしていた事に気付いたポーンは言葉を詰まらせた。


「ふむふむ、でもいい傾向だ、私に対しての反論、所有者よりも自分の感情を優先させてしまう行動、しっかりと一つの自我として自立が見られる」


ポーンの成長を実感する創造主は嬉しそうにそう呟くとその視線をスプリングに向けた。


「……さて、子の成長を楽しみたい所ではあるけれど、彼が目覚めているともなれば私がここに長居する訳にもいかない……」


創造主が言う彼が誰なのかは分からない。しかし見た目以上にゆっくりとはしていられない様子の創造主はそう言うと椅子から立ち上がりベッドに座るスプリングの胸倉を突然掴んだ。


『そ、創造主!』


その行動に驚きを隠しきれないポーンは寝室の外に聞こえる程の声で叫んでいた。


「己惚れるなよ……スプリング君……!」


『創造主……』


今までに見たことのない創造主の感情の起伏に更に驚くポーン。


「君がこれから向かう場所には君より強い存在が吐く程存在する……それはこれまで様々な場所で戦ってきた君なら理解できるだろう? それでも君は強さを目指し『剣聖』を目指し君が持つ本来の目的の為にこれまで努力を積み重ねてきたのではないか? そんな君が自分よりも強い存在に二度や三度敗北したぐらいで何をへこたれているんだ? もう一度言う、己惚れるなよ……君はまだへこたれる程、自分の可能性と向き合えていないんだよ!」


熱の籠った創造主の言葉。それはポーンが見たことのない創造主の姿だった。


「……これ以上……どうしろって言うんだ……俺は、俺は努力を積んできた! 強くなる為に、『剣聖』になる為に、奴に復讐する為に! 俺は……俺は努力してきた! でもあんなの見せられたら……力の差を見せられたら……」


暗くなっていた目に怒りの光が差すと同時に感情が一気に爆発するスプリングは恥も外聞をかなぐり捨て、ため込んでいた想いを吐露すると創造主の胸ぐらを掴み返した。その反動で創造主が被っていたフードが翻る。


「なっ!」『ハッ!』


フードの下に隠れていた創造主の顔に言葉を失うスプリングとポーン。


「……ふぅ……どうやら騒いだ所為で彼が気付いたようだ……」


胸ぐらを掴むスプリングの手を軽く払いのけた創造主は翻ったフードを深く被り直すと寝室の扉に視線を向ける。


「ドタバタしてしまったから言いたいことを全て話すことが出来なくなってしまったけれど、最後に一つだけ言っておく……スプリング君……君は彼の希望であってくれ……希望であり続ければ君の努力は絶対に報われる……」


そう言い残すとまるで何かから逃げるようにして創造主はスプリングたちに背を向けた。


「ま、待て!」


スプリングの叫びは届かず創造主は寝室から姿を消した。


「一体……どういうことだ……」


『……』


自分たちがみたその光景を信じられないスプリングとポーン。呆然としているスプリング達のことなど知らずドアをノックする音が響いた。



ガイアスの世界


 創造主の素顔


フードの下に隠れた創造主の素顔。スプリングやポーンが知る者と同じ顔をしているようだ。

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