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もう少し真面目で章(スプリング編)16 対峙する所有者たち

ガイアスの世界


 ユモ村の村長夫婦


 ビショップの精神操作によって自分達の屋敷を奪われた村長夫婦。どうやらユウトの事は貴族の坊ちゃんに見えているようで、ビショップに精神操作されてからはあれこれ身の回りの世話を給仕、メイドのリーランと共にしていたようだ。


子供が居ない村長夫婦にとってはユウトが息子のようにも見えていたかもしれない、かもしれない。


※すみません、最近本当にネタがありません(汗





もう少し真面目で章(スプリング編)16 対峙する所有者たち




剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス



「だっはぁ! やっとついた」


 槍で己の体を支え肩で息をしながら目の前に広がるユモ村の入口を見つめるスプリング。『絶対悪』の残滓をどうにか浄化することに成功したスプリングはその代償に大きな疲労感に襲われていた。

 立つのもやっとであるスプリングが『絶対悪』の残滓がいた平原からユモ村に戻ってこられたのは、打撃用手甲バトルガントレットから槍へ形を変えたポーンを杖の代わりにしたお蔭であった。しかしその変化はスプリングもポーンも望んだものでは無い。


『大丈夫か主殿?』


槍へ形を変えた自分を本来の使い方では無く歩く為の補助代わりの杖として扱うスプリングの身を心配するポーン。しかしその声はいつもよりも暗い。


「ああ、お前が杖代わりになってくれているお蔭で幾分か楽だ……」


とは言うものの、純粋に自分に対して感謝している訳では無くその言葉に嫌味が混じっていると感じるポーン。


『……本当に申し訳ない……まさか、また能力が暴走するとは……』


そのその嫌味に耐えられずポーンはスプリングに対して深く詫びた。

 今ポーンは自身に問題を抱えていた。いや、その問題はスプリングと出会った時から既に発生していた。

 自我を持つ伝説の武具たちは様々の汎用的な能力と共にそれとは異なった唯一無二の特殊な能力を持っている。ポーンが持つ唯一無二の能力は職業転職ジョブチェンジ。しかしポーンはその唯一無二である能力に問題を抱えていたのだ。


「もう三度目だ、いい加減慣れたよ……」


明らかに声が暗く落ち込んでいる様子のポーンに対して諦めたような声でそう答えるスプリング。

 本来ならばポーンやスプリングの意思によって転職場の手続きなしで戦闘職を変更できる能力が職業転職ジョブチェンジ。だがポーンはこの能力を制御することが出来ず、スプリングに対して三度も理不尽な強制転職をさせてしまっていたのだ。

 これは自我を持つ伝説の武具として健全な状態とは言い難く、下手をすれば自分の存在価値すら見失う不健全な状態、機能不全に陥って至る状態であった。


『だが……』


「ああ、グチグチ落ち込むな気が散る、この話はこれで終わり、そんな事より今はビショップだ……」


自分の所有者であるスプリングに三度にも渡り強制転職を強いてしまった事に大きな罪悪感を抱くポーンからは完全に自信が失われている。そう感じたのかスプリングは強引に話を終わらすと疲弊した体で目的の場所へと向かって歩いていく。


「はぁはぁ……やっと着いた」


息も絶え絶えになりながらどうにか目的の場所に辿りついたスプリングは視界に映る屋敷を見つめた。村では一番の大きさの建物であり村の一番奥にあるその屋敷を見つめるスプリングの顔色は悪い。だがそれは単に疲弊しているからだけでは無く、その屋敷自体に良い思い出が無いからであった。トラウマと向き合うように屋敷をひとしきり見つめたスプリングは意を決したような表情で屋敷の入口である玄関へと足を進めた。

 しかし玄関前に進んでも前回のようにビショップの圧に充てられることも無くすんなりと扉の前まで辿りついたスプリングは僅かに安堵の表情を見せた。


「自分で開けろということか……クソッ」


屋敷に居るはずのメイドの姿は一向に現れず、扉が開かない。疲弊した体で扉を開けなかければならないのかと思ったスプリングの口からは思わず悪態が零れる。

 普段ならば何の問題も無い屋敷の扉。しかし今の疲弊した体では屋敷の扉を開けるのも一苦労であるスプリングはノブを握るとゆっくりと引いた。どうやら鍵はかかっていないようでスプリングは扉を引く腕に今ある全ての力を注いだ。


「ぐぅううううう!」


手に力が入らないスプリングの口から力む声が漏れ出してくる。力むスプリングの声が響きながら屋敷の扉はゆっくりと僅かに開いた。丁度自分の体が入るぐらい扉が開いた瞬間、スプリングはその隙間に滑りこむようにして屋敷の内部へと入りこんだ。


「はぁはぁ……ビショップ! 来てやったぞ!」


肩で息をしながらその視線の先に広がる長い廊下を見てスプリングは最後の力を振り絞るように声を張り上げた。既に目の前に広がる長い廊下を歩いていくだけの体力が自分には無いと判断したスプリングは声を上げることでビシッョプの方から来てもらうと考えたのだ。


「……くぅ……もうダメだ、座るぞ」


人様の屋敷の玄関先に座り込む事が行儀のよい事では無いことはスプリングにも分かる。だが体力の限界はとうに過ぎている今の状態ではそんな事を気にしている余裕はなくスプリングは崩れるように屋敷の玄関先に座り込んだ。


『いやいや、遅いお帰りでしたね』


するとスプリングを出迎えるような声が何処からともなく聞こえてくる。


「五月蠅い、そんな事よりも、俺が知りたい情報を全て話し……」


人を小ばかにするような雰囲気を持つその声に力無く五月蠅いと反論したスプリングは自分の要件を主張しようとする。しかしその主張は途中で途切れた。

 何気なく長い廊下を見つめたスプリングのその視線に人影が写ったのだ。だがその人影は前にビショップが待つ寝室へ案内してくれたメイドでも無ければ屋敷の本当の持ち主でも無い。そこには寝間着姿で分厚い本を抱えた少年が立っていたのだ。

 その少年に視線があった瞬間、スプリングの全身に緊張が走った。それもそのはず、スプリングの視線の先に居たのはこの屋敷の寝室で寝ていた少年、即ちビショップの所有者であったからだ。

 寝ていた時には気付かなかったが、少年の姿に強者の圧を感じるスプリング。しかもその圧は今までにスプリングが感じたものの中で最も強力なものであった。


「……ハル……」


しかしそんな強者の圧を放つ少年はスプリングの顔を見て明らかに動揺を見せ何やら人名のようなものを発した。その人名は明らかにスプリングに向けて発せられたものだが、正直スプリングには身に覚えが無く何の事だかさっぱり分からない。そもそもハルなどとあだ名でも呼ばれたことが無いスプリングは、動揺を見せる少年のその言葉に困惑していた。


「……ハル?」


少年に対しての緊張と困惑から思わず聞き返してしまうスプリング。


『ふふふ、スプリングさん槍もお似合いですよ』


互いに動揺と困惑を見せるスプリングと少年のその場の空気を壊すように、少年が持つ分厚い本、自我を持つ伝説の本ビショップが何とも嫌味たらしい事を言ってきた。


「……スプリング……」


その嫌味たらしいビショップの発言を聞き、スプリングの名を呟く少年。


《気を付けろ主殿》


ポーンも少年の強大な圧を感じ取ったのか、少年に警戒するようにと周囲に聞こえないように直接スプリングの頭に話しかけた。


(う、うん……)


 ポーンの言葉に心の中で頷くスプリング。一見すればどこにでもいそうな少年。しかし少年が只者では無い事は発する圧が物語っている。そもそもビショップが認めた所有者である。只者で無いはずがないのだ。


「あ、ああ……お、俺はスプリング、スプリング=イライヤだ」


なぜ動揺しているのかそしてなぜ自分をハルと呼んだのか気になりはするが、スプリングは少年に対して律儀に名を名乗り、槍に形を変えたポーンを支えにするようにして再び立ち上がった。


「……ふーん、僕はユウト」


スプリングが名乗ると同時に少年の表情から動揺が消える。まるで興味を失ったかのように少年は名乗ったスプリングに返答するように自分の名を口にするとその視線を抱えている分厚い本、ビショップに落とした。


「……ビショップはこのお兄さんを僕に会わせてどうしたいの?……」


「……ッ!」『……』


ユウトのその質問に緊張が走るスプリングとポーン。ビショップの返答次第ではこれからこの屋敷で目の前のユウトと戦うことになりかねないと思ったからだ。


『彼は私の同胞であるポーン……自我を持つ伝説の武器の所有者です、その事を知って欲しかっただけです』


しかしスプリングたちの緊張と警戒は杞憂に終わる。ユウトの質問に対してビショップの返答はスプリングたちが何者であるかの説明にとどまったからだ。まだ断定はできないがビショップがここで自分たちと一戦交えようとは思っていないと思ったスプリングは心の中で安堵の息を吐いた。


『そんなに警戒しなくとも大丈夫ですよスプリングさん……』


「ッ!」


まるで見透かすように心の中で安堵のため息を吐いていたスプリングをもう一度緊張させるビショップ。


『今我々があなた方と戦うメリットはありません、安心してください』


 今スプリングたちと戦っても自分たちには何のうまみも無いことを堂々と告げるビショップ。だがその反面、何らかのうまみ、メリットが発生すれば戦うともとれるビショップの言葉にスプリングの緊張の度合いが更に高まる。


「それで僕とこのお兄さんが顔を合わせたことで満足したビショップ?」


『え、えええ……もうそれは大いに満足しました』


ユウトの声にも顔にも感情は見当たらない。しかしユウトにそう尋ねられたビショップは即座に分かる程の動揺を見せた。


「ふーん」


ビショップのその返答に納得しているのか納得していないのか感情無く興味なさそうに頷くユウト。


『とりあえずこの場でお話するのもあれですから、二階に上がりましょう』


ビショップは自分の所有者から発せられる何かに怯えるように一旦話を切り上げると場所を移そうとスプリングに提案する。


「あ、ああ……そう……だ……」


ビショップの提案に頷こうとするスプリング。だが今までのやり取りで発生した緊張と緩和、更に緊張、そして蓄積した疲労によって本当の限界を迎えたスプリングは意識を容赦なく刈り取りられその場に倒れ込んだ。


『あ、主殿!』


倒れたスプリングに慌てて声をかけるポーン。しかしスプリングから返答はない。


『……そんなに慌てなくても命に問題無いことは分かっているでしょうポーン』


慌てながらも甲斐甲斐しくスプリングに声をかけるポーンを鼻で笑うビショップ。


『黙れ!』


自分の事を鼻で笑ったビショップをそう一蹴するポーン。


『はぁ……これでは話が進みませんね』


ポーンに一蹴されても尚、嫌味を炸裂させるビシッョプは倒れ意識を失ったスプリングの姿にそう呟いた。


「……」


倒れたスプリングを見つめていたユウトは無言のままスプリングに近づいていく。


『少年よ主殿に近づくな!』


突然スプリングに近づいていくユウトにあからさまな拒絶を見せるポーン。


「大丈夫、危害は加えない」


一切感情の無い声でユウトは危害を加えない事をポーンに約束すると倒れたスプリングの体を片手に持ちあげていた。


『な、何をしているのですか!』


自分の所有者の予想外の行動に戸惑いと動揺が入り混じるビショップ。


「何って……こんな所で倒れたら風邪を引くから寝室に運ぶんだよ」


何の冗談かとも思える言葉を一切の感情無くビショップに告げるユウト。


『そ、そんな事を坊ちゃんがする必要はありません、他の所有者と接触しないでください!寝室には私が運びますから!』


スプリングと接触させたくないのか声を荒げてユウトに抗議するビショップ。


「嫌だ」


しかしその抗議を一言でバッサリと切り捨てたユウトは、ビショップをその場に置くと床に転がっていたポーンを拾い上げる。


『な、少年!』


ユウトの行動に今度はポーンが戸惑い動揺した。


「一緒に連れて行く……」


そう短く言葉を口にしたユウトは屋敷の中に続く長い廊下をスプリングを片腕で担ぎながら歩き始めた。


『あの、坊ちゃん……私は……』


遠くなりやがて消えていく自分の所有者の背中。自分以外誰も居なくなった玄関先でユウトに置いていかれたビショップは自分だけその場に置いていかれたという事実を受け入れられずそう呟きながら途方に暮れるのであった。



ガイアスの世界


ユウトが発した強者の圧


 スプリングは目覚めたユウトから今までに感じたことのない強者の圧を感じたようだ。

それはスプリングが今まで出会ったどの者達よりもユウトの圧は強大だったようだ。


 

 

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