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真面目で章(ユウト編)8 起床

ガイアスの世界


 自我を持つ伝説の武器ポーン(槍)



 おなじみの能力暴走によって打撃用手甲バトルガントレットから槍へと変化を遂げたポーン。

その見た目は何処にでもあるような槍であり、別段目立った所は無い。

 当然所有者であるスプリングは槍士としての熟練度が足りず槍になったポーンの能力を100%引き出すことは出来ず、杖替わりにすることぐらいしか出来ない。






 真面目で章(ユウト編)8 起床




―   ―



 ― もし、何か困ったことがあったら、こいつに助けを求めろよ、見た目はその……凄く怪しい奴だけど滅茶苦茶頼りになるやつだから ―


 そう僕に話しかけてきた二十代前半の男は、ニコリと人の良さそうな笑顔を浮かべると自分の横に居る男を親指で指差した。笑顔を僕に向ける男の言う通り、横にいた男の恰好は真夏だというのに全身黒一色の服装、外に出る時は全身を覆う黒いマントまで羽織っていて確かに怪しい。ただでさえその姿だけで怪しく見えるのに、その怪しさを更に加速させているのが、どう見ても実用性が無い仮面だ。そう見るからに怪しい男は、目元がくりぬかれた仮面を付けているのだ。正直もうその姿は怪しさを通りこして不気味と言ったほうがいい。

 でも僕は見るからに怪しく不気味なこの男に命を助けられた。組織に追われていた僕を助けてくれたのだ。


― …… ―


その見た目を裏切らず口数は少ない。いやむしろ話さない。喋れないのかと言う程に無口な仮面の男は、隣で朗らかに笑う男の言葉に頷き僕に手を差し伸べた。僕は男が差し伸べた手を戸惑いながら握り返した。

 これが彼らとの出会い。僕がまだ、天才児と呼ばれていた頃の記憶。僕が魑魅魍魎渦巻くあの街にやってきた頃の記憶。





― ヒトクイ ユモ村 村長屋敷 ―



『おはようございます、坊ちゃん』


目を覚ますタイミングを見計らったように静かに目を覚ました少年に落ち着いてはいるがまだ若い男の声で目覚めの挨拶が告げられる。


「……二週間たったのか……」


小さな欠伸を上げながらそう呟いた少年は、まだ眠たい目をこすりベッドから上体を起すと周囲を見渡しながらそう呟いた。


『はい、きっかり二週間です』


主人に仕える執事のような喋り方でそう答える姿無き男の声は少年が二週間眠り続けていた事実を告げる。それは少年が持つ強大な力、能力の代償、唯一の弱点であった。


「宿……じゃないみたいだね……どこかの屋敷?」


自分以外誰も居ない部屋。だがそんな状況お構いなしに、それが日常とでも言うように平然と少年は自分以外誰も居ない部屋で姿無き男の声と会話を続ける。寝起きだというのに頭の覚醒が早いのか、瞬時に自分が居る場所が宿屋では無く何処かの屋敷の一角である事を言い当てた。


『はい、今坊ちゃんが居る場所はヒトクイにある小さな村、ユモ村という場所……その村の村長の屋敷の寝室です』


姿無き声も別段それが普通であるというように少年の質問に対して正確に情報を伝える。


「ふーん……それで……」


二週間の眠りにつく直前の記憶を思い出しながら少年は姿無き男の声に細かい状況確認をしていると、部屋のドアがノックされた。ノックされた部屋のドアに視線を向ける少年。


「入りますぞ」


するとドアの向こうから老人の声が響き、その声と同時にドアが開く。開いたドアの前には少年が知らない老夫婦が立っていた。


「おお、お目覚めになりましたか」


老夫婦の夫がそう言って少年が居るベッドへと近づいてくる。妻の方も夫の後を追うように部屋に入ると柔らかい笑みを浮かべていた。


「……部屋を貸してくれてありがとう」


自分に話しかけてきた老夫婦の夫がこの村の村長でありこの屋敷の所有者である事を理解した少年は、部屋を貸してくれたことに対して感情のない声で礼を伝えた。


「はぁ……僕はあまり派手にやるなと言ったはずだけど……」


自分を見つめる老夫婦から視線を外すと少年は姿無き男の声に向かってそう咎めた。

 少年は理解していた。今目の前にいる老夫婦が正常な状態では無いことを。自分に向けられた老夫婦の夫の言葉が自分の意思によるものでは無いことを。そしてそう仕向けた張本人がこの場に姿の無い姿無き男の声であるということを。


『すみません、色々と根回しするよりも精神支配をしたほうが楽だったので』こちらの方が楽だったもので……でもご心配なくこの村の人々にかけた精神支配は強いものではありませんから』


 悪びれる様子も無くこのガイアスでは禁術とされる精神支配を施したことを少年に告げる姿無き声。その影響なのか姿無き男の声は老夫婦には届いていないらしく、その視線はじっと少年に向けられたままになっている。精神支配によって今この場の状況も自分や姿無き男の声の都合が良いように老夫婦には変換されているかと思う少年の表情は僅かに呆れていた。


『あ、でもご安心を、村の人々に施した精神支配は軽度ですのですぐに解くことは可能です』


「……村全体に……」


軽度ではあるとは言え、自分が想像したよりも大きな範囲に精神支配が施されていることに呆れた表情を続けざるをえない少年はそうぼやくと体を預けていたベッドから抜け出し立ち上がった。


『坊ちゃん、直ぐに立ち上がっては……』


普通肉体は二週間もの間ずっと眠り続けていれば動かないことによって筋力が衰える。下手をすれば歩くこともままならないかもしれない。そんな心配からか姿無き声はベッドから抜け出し立ち上がった少年を気遣う言葉を向けた。


「問題無いよ」


だが姿無き声の思いを裏切るように少年は一切ふらつくことなくしっかりと二本の足で立ち問題無いこと姿無き声に伝える。これも少年が持つ強力な力、能力の一つであった。


「……睡眠は十分、しばらくは休む必要は無い、直ぐにこの村から出ようビショップ」


二週間の眠りを終えると少年は次の二週間は眠る必要が無い。しかし制限時間がある為に少年は計画的に行動しなければならない。時間が惜しいと思った少年はそう提案しながらベッド脇にある小さなテーブルに視線を向けた。そこには人一人を殴り殺せる程に分厚い本が一冊置かれていた。その分厚い本をビショップと呼ぶ少年。先程から姿を見せない声の主。その正体は少年が見つめる先にある分厚い本であった。

 遥か昔、今よりも様々な技術が発展していた時代に創造主と呼ばれる人物が作りだした伝説武具ジョブシリーズと呼ばれる兵器の一つ、それが自我を持つ伝説の本ビショップであった。

 そしてそんなビショップの所有者である事を認められた少年の名はユウト。このガイアスという世界とは別の世界からやってきた異世界の住人である。


『そうしたいのは山々なのですが、少々お時間をいただけないでしょうか』


村から出るというユウトに対して少し時間が欲しいというビショップ。


「……何で?」


普段、文句一つ言わず自分に従うビショップが少し待ってほしいと言いだした事に疑問を抱くユウトはその理由を尋ねた。


『今から私の客がこの屋敷にやってきます、是非とも坊ちゃんにはその客に会って頂きたいのです』


「客……」


これまで影で色々と何かをしていたビショップ。そんなビショップが自分に合わせたい人物が居るという話に当然何か企みがあるのだと考えるユウト。


『ああ、どうやら到着したみたいですよ』


ビショップがそう言った瞬間、屋敷の玄関の扉が開く音が響く。


「……」


ユウトは何も言わずテーブルに置かれたビショップを手に持つと自分を見つめる老夫婦を無視して寝室を後にして屋敷の入口へと向かった。


「はぁはぁ……ビショップ! 来てやったぞ!」


「……ッ!」


階段を下りるユウトの耳に息を切らした見知らぬ男の声が響く。だが見知らぬ男の声であるはずなのにユウトはその声に何かを感じ階段を下りる足が速くなる。


「……くぅ……もうダメだ、座るぞ……」


明らかに疲弊した男の声。


『いやいや、遅いお帰りでしたね……』


屋敷の玄関で座り込んだ男を出迎えるように軽口を叩くビショップ。


「五月蠅い、そんな事よりも、俺が知りたい情報を全て話し……」


ビショップの軽口に対して疲弊しながらも反論する男の言葉が突然途切れる。屋敷の玄関に座り込んでいる男の視線の先には階段を下り廊下を進んできたユウトの姿があった。


「……ッ!」


男の顔を見た瞬間、普段滅多に感情を表に出さないユウトの表情が僅かに揺れる。それはこの世界にやって来てから全てが想定の範囲内であったユウトにとって初めての動揺であった。


「……ハル……」


男の顔を見てユウトはそう言葉を漏らすのであった。




―   ―


 今まで部屋に籠って研究やよく分からない実験をさせられていた僕にとって彼らとの出会いは新鮮で楽しかった。勿論、僕は組織から命を狙われ続けていたから彼らと出会ってからの数カ月の間、楽しい事ばかりだけでは無かったけれど、少なくともあの暗い部屋に籠っていた時よりも遥かに充実した日々を過ごすことが出来たと思う。

 彼らは探偵をしていた。と言っても浮気調査や身辺調査と言った現実的な探偵では無く、それじゃあ怪盗からお宝を守ったり密室殺人のトリックを暴いたりする小説やドラマに出てくる探偵かと言えばそうでもない。

 探偵と名乗っていた彼だったが、舞い込んでくる依頼は到底探偵がやるようなものではなかった。

常に危険と隣り合わせ、僕と同じく彼らも組織に追われ命を狙われていた。僕や彼らを追う組織を壊滅させる為に、僕は彼らのサポートをするようになった。今まで無意味だと思っていた僕の能力が彼らの力になる事がとても嬉しかった。

 でもその日々は突然終わりを告げた。まるでこの数カ月が僕の見ていた夢であったかのように彼らは突然、何も言わず何も残さず僕の前から姿を消した。僕は彼らの痕跡が何一つ残っていない事務所で茫然とすることしか出来ず、魑魅魍魎渦巻くあの街に一人取り残されたんだ……。







ユウトの記憶について


今回の話の最初と最後に差し込んだユウトの記憶についてなのですが伝説の武器が装備できませんに大きく関わる内容ではありません。

 あくまでユウトの元いた世界の過去という扱いで今回は読んで頂ければ幸いに思っております。

  ユウトが元いた世界では組織と呼ばれている存在が暗躍している世界になっており、そんな組織と戦うユウトたち(ユウトは主人公じゃないんですが)の、数カ月の物語を機会があればいずれ書きたいと思っていますのでその時は生暖かい目でよろしくお願いします(本当に書けるのか?)



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