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隙間で章11 掌で踊らされる者達

ガイアスの世界


 大喰らいに秘められた力


 インセントによってガイルズでは引き出せなかった大喰らいの力が僅かに判明した。


それは『風』。大喰らいには風の力を宿っているようだ。






 隙間で章11 掌で踊らされる者達




剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス




 突然目の前で起った光景に思考が追い付かないインベルラ。だが目の前の光景に思考は追いつかなくとも感情は反応しインベルラは絶望に満ちた絶叫を王の間に響かせた。


「……やってくれたな聖狼セイントウルフ


 ヒラキを爪で貫いた聖狼セイントウルフ化したガイルズに視線を向けるインセント。首を刎ねるつもりでガイルズの首裏に特大剣大喰らいを振り下ろしたインセントは直撃して尚、首の皮一枚切れない聖狼セイントウルフの強靭な肉体を前に内心焦りを感じていた。


「ッ……油断ひた……お前なが悪ゆい……」


しかし首は落とせなかったものの、一定のダメージはあるようで大喰らいの首裏への攻撃は脳を揺らされたガイルズは呂律が回らず満足に立つことが出来ないのか膝をついた状態になっていた。脳を揺らされ思うように動かないガイルズは無理矢理体を動かしヒラキの腹部から爪を引き抜いた。


「ッ?」


ヒラキの腹部から爪を引き抜いた瞬間、脳が揺れる中ガイルズはその感触に違和感を抱く。


「王……王ッ……」


腹部から爪を引き抜かれ床に横たわったヒラキの下へ混乱しながら駆け寄るインベルラ。


「あ、あああ……」


ヒラキに駆け寄るまで内心まだ何処かで王の生を抱いていたインベルラ。しかし抱き抱えたことで自分が抱いていた可能性が無であること、その肉体から生が失われていることを実感したインベルラはヒラキの死を自分の意思とは関係無く受け入れてしまう。


「王ぉぉぉ……」


生命活動を停止したヒラキの胸に顔を埋めたインベルラは悲しみを垂れ流した。


「……お前、これがどういうことかは理解しているな?」


 ヒラキの胸に顔を埋め嗚咽を吐くインベルラを横目に冷たく抑揚のない声で未だ脳が揺らされた状態にあり思ったように立ち上がれないガイルズに向け大喰らいの剣先を向けるインセント。その背後にはガイアス全土に存在する大小様々な無数の剣が並んでいた。

 その光景はどれだけ剣の造詣を深めたかの証、剣聖が剣聖たる由縁にして剣聖の代名詞。インセントは己が持つ剣聖としての知識と力全てを持って、古き友の命を貫いた獣をこの世から消し去る準備を始めた。


「ダメ……こいつをやるのは私……」


脳の揺れが収まらないガイルズに全ての剣先を向けたガイルズを止めたのはヒラキの胸に顔を埋め泣き叫んでいたはずのインベルラだった。


「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス、私がお前を殺す」


覗かせたその瞳には暗い光が漂う。そこに泣き叫ぶ声は無く、その代わりに呪詛のように呟く声が続く。その呪詛のような言葉を引き金にインベルラの肉体は内に秘めた獣の力を解放し変貌を遂げ始める。


「……ハッ!」


その時だった。インベルラは自分の腕に何かが触れるのを感じた。その感触は温かく今までガイルズに向けられていた怒りや憎しみが和らいでいく。


「王……」


インベルラの腕に触れた感触、それはヒラキの手の温もりであった。


「インベルラ、怒りを納めるんだ……」


「へっ?」「はぁ?」「……ッ!」


三人の耳に届くその声はインベルラの腕の中にいたヒラキのものであった。その声にガイルズたちは三者三様の反応をみせる。特にヒラキを抱き抱えていたインベルラは信じられないという表情を浮かべていた。


「ふぅ前線から離れると腕も勘も鈍ってしまうものだな…………油断してしまった、まさかあそこで腹を貫かれるとは思ってもみなかった……ガイルズ君、君の期待に応えられなくて申し訳ない」


何が起こっているのか分からないというインベルラの腕の中から上体を起したヒラキは、その様子から自分と戦いたかった様子のガイルズに期待に応えられなかったと詫びると何事も無かったように立ち上がった。


「ちょっと待て、どういうことだ?」


インベルラと同様に現在の状況を理解できていないインセントは、ヒラキとガイルズの会話に割って入った。


「インセント、剣を納めてくれ」


ガイルズに向けられた無数の剣を納めるようインセントに頼むヒラキ。


「だ、だが!」


例えヒラキが剣を納めろと言っても、ガイルズが牙を向いたという事実は変わらない。インセントは抜いた剣を鞘に納める気はもうとうない様子であった。


「大丈夫、大丈夫ですから……剣を納めてください」


「……ッ!」


王としては違和感のある口調でもう一度剣を納めるようインセントに頼むヒラキ。その言葉にインセントは何かに気付いたのか背後に展開していた無数の剣を消失させた。


「……やっぱりな……あんたの腹から爪を引き抜いた時からなんか妙だと思っていたんだ……」


ヒラキの言葉によって無数の剣による串刺しを間逃れたガイルズは首裏を摩りながら聖狼セイントウルフの姿から人間体へと戻ると、ヒラキの腹部から爪を引き抜いた時に感じた違和感を口にした。


「……あんたのその姿、幻術の類か?」


「……」


自分と対峙するヒラキの姿を幻術だと言い放つガイルズ。


「幻術?」


ガイルズの言葉にインベルラは混乱した表情を浮かべる。それもそのはずだ。ヒラキが幻術を使えるなどインベルラは知らなかったからだ。

 ヒトクイの歴史上、統一戦争を制し、ヒトクイの王となったヒラキという人物は、勇敢な剣士としてヒトクイの人々に知られている。その歴史、ヒラキという人物史を小さい頃に学んだインベルラからすれば、ヒラキが幻術を使えるなど思いもよらないことであった。


「……」


インベルラとは違い、統一戦争を友に戦い抜いたインセントはその事実を知っていたのか何とも言えない表情を浮かべたまま沈黙していた。


「その通り幻術だ、君たちがこの王の間に入った瞬間、私の幻術が発動した」


ガイルズの問にそう答えヒラキは種明しをするように指を鳴らす。するとヒラキの姿は霧のように霧散を始める。


「王ッ!」


突然霧散していくヒラキの姿に不安を露わにするインベルラ。


「大丈夫だ私はここにいる」


インベルラたちの前から姿を消したヒラキ。だがその声は別の場所からする。その声を辿るようにインベルラたちの視線は玉座に向かう。そこには玉座に座るヒラキの姿があった。


「ん? ……二人が壊した柱や壁、天井が……」


気付けばガイルズとインセントの戦いにより穴が空いた天井や砕けた柱、壁、床までもが破壊される前の形を取り戻している。


「インベルラ隊長どうかされましたか?」


唖然としているインベルラに話しかける王の間を警備していた兵の一人。


「あ、いや……別に何も……」


先程までは姿が見えなかった王の間を任された警備の兵に問題無いと動揺しながら答えたインベルラは混乱から首を傾げる。


「……はぁ……今考えればおかしなことは幾つかあった……普通な王の間には警備の兵が常に居るはずだ、だが今日に限ってその兵が誰一人いなかった……それに俺とそこの聖狼セイントウルフが暴れ回ったり、嬢ちゃんが泣き叫んだりしてもこの王の間には兵は愚か誰一人駆けつける奴はいなかった……王の間自体に幻術がかかっていたヒントは幾つもあったんだなそれに気付けないとは……俺も歳か……」


王の間とは内政を務める家臣やヒトクイの様々な場所を警備している兵たちから報告を受けたり、ヒトクイと様々な交渉、取引をする為に他大陸からやってきた者が王と謁見したりする場所である。長い時であれば一日の半分を王はこの王の間で過ごすことになる王の間は、曲者などからの襲撃に備えて城のどの場所よりも厳重な造り、厳重な警備が敷かれている。

 王の間がいつの間にか元通りの姿になり先程まで姿がなかった警備の兵たちの姿を見たインセントは、王の間自体に幻術がかかっていたこと、そして周囲の状況から幻術にかけられていることに気付けなかった自分が年老いた事を実感する。


「うぅわ、俺が聖狼セイントウルフになった事まで幻術だったのかよ」


聖狼セイントウルフになる際、急激な肉体変化によって、ガイルズの場合、纏っていた防具は肉体変化に耐えきれずに弾け飛ぶ。しかし纏っていた防具は弾け飛んでおらず、即ち自分が聖狼セイントウルフに姿を変えた事自体すら幻術であったということにガイルズは引いていた。


「はぁ……それでこんな幻術まで使ってあんたは一体何がしたかったんだ?」


ヒラキという人物が幻術を使えることは既に納得したガイルズは、その幻術を使って一体何がしたいのか、単刀直入にヒラキに聞いた。


「インベルラから君の話を聞いて私は君に興味を持った……」


事情を知らない兵がいる手前、ヒラキは遠回り回りくどい言い方でガイルズに答える。


「……なるほど」


ヒラキの意図を汲んだガイルズ。即ちヒラキは自分が持つ聖狼セイントウルフの力に興味があるとガイルズは解釈していた。


「悪いが、そこの女と一緒にあんたの飼い犬になる気はないぜ」


ガイルズはヒラキが自分を兵として勧誘しているのだと思い即答で断った。


「ん? ……ああ、いや君を我国の兵にしたいとは僅かにも思っていないよ」


「へ?」


ヒラキの言葉に突然梯子をとられた感覚に陥るガイルズ。


「どうやら君は勘違いしているようだが、君をこの国の兵として迎え入れたいと思っているのはインベルラの独断だ」


「はぁ?」


てっきりインベルラから話を聞いたヒラキは、自分が持つ聖狼セイントウルフの力を欲しているのだと思っていたガイルズは、それが単なるインベルラの独断である事を告げられ気の抜けた声が漏れた。

「おい……」


勘違いから恥をかいたガイルズは恨めしそうにインベルラを睨みつけた。


「私は王がお前の力を欲しているなどとは一度も口にした覚えはない、そもそも王に手を上げるお前などこちらから願い下げだ」


睨みつけられるのはお門違いと言いたいのか、インベルラはそう口にすると幻であっても王に手を出したガイルズを睨み返した。


「はぁ……じゃ一体俺の何に興味を持ったんだ?」


一瞬にして玉座に座るヒラキの考えが分からなくなったガイルズは、自分が持つ聖狼セイントウルフの力以外の何に興味を持ったのか苛立ちながら聞いた。


「それは君が秘めているもう一つの力だ……」


「はぁ?」


聖狼セイントウルフの力とは別に違う力があるとヒラキ言われ全く見当が付かないガイルズは首を傾げた。


「君の中にはまだ君が知らない力が存在する、君が追い求めていた情報も含めて君はこれからフルード大陸に向かうことをお勧めするよ」


「フルード大陸だと?」


なぜフルード大陸なのかそれこそ全く見当が付かないガイルズ。


「詳しくはインセントに聞くといい」


「はぁ? 俺?」


突然、話を振られたインセントもまた全く見当が付かずに困惑する。


「フルード大陸には相当年上の知り合いがいるだろう?」


「年上? ……ああ、なるほどそう言うことか……」


ヒラキの言葉に納得するインセントはガイルズに視線を向ける。


「おい、ここじゃ詳しいことは話せない、こっちにこい」


事情を知らない兵たちの手前、詳しく説明することが出来ないと考えたインセントは、王の間の扉を指差すとこの場から退室することをガイルズに伝える。


「はぁ……面倒だな……」


ヒラキたちに付き合ってきたが、いい加減言いたいことが言えないことを面倒に思っていたガイルズは、嫌々ながらもインセントの指示に従い渋々王の間を後にするのであった。




― 数十分後 ガウルド城 門前 ―




「はぁ……本当に今日は疲れた一日だった」


ゲッソリとした表情でガウルド城の前門を潜るガイルズ。


「それはこっちの台詞だ……お前本当ならば即座に死刑だぞ」


未だガイルズがヒラキに手を上げたことを根に持っているインベルラはそう忠告すると足を止めた。


「それでインセント殿とはどんな話をしたんだ?」


「あー? そんな大層なことじゃねぇよ……フルード大陸にあるある村に行って千歳を超えるババアにあってこいって話だ」


「千歳を超えるババア? そんな人類いるのか?」


「知らねぇよ……だがまあ俺に隠されたもう一つの力っていうのは気になるからとりあえず行ってみる」


その言葉にやる気は見られないが、インセントからもたされた情報はガイルズにとって有益なものであったのか以外にも素直にフルードへ行くことを決心した様子であった。


「そうか……その、なんだ……」


門の前で立ち止まったインベルラは突然体もモジモジと捩じらせる。


「なんだよ気持ち悪い」


その動きを単刀直入に貶すガイルズ。


「気持ち悪いとはなんだ! うぅぅぅぅ……とりあえず、聖狼セイントウルフについて知り得た情報は私にも教えろ、わかったな!」


「はぁ? 俺がそこまでお前にする義理は無い、知りたいなら自分で行け」


「ぐぅぅぅぅぅこの鈍感男が!」


苦虫を噛みしめ苛立ちを爆発させたインベルラはそう捨て台詞を吐くと踵を返しガウルド城へと帰って行った。


「……なんだよ、鈍感男って……」


インベルラになぜ鈍感と言われたのか理解できないガイルズは首を一度傾げたが次の瞬間にはその事を忘れ、夜になったガウルドの町へと消えていくのであった。




― ガウルド城 王の寝室 ―




一日の公務を終え、動きやすい恰好に着がえたヒラキは自室のベッドに腰を下ろしていた。


「よぉ」


突然の野太い声に全く動じることなくヒラキは視線を扉に向ける。そこにはインセントの姿があった。


「回りくどいことは面倒だ、率直に聞く、あの聖狼セイントウルフが持つもう一つの力ってのは何だ?」


王の間では事情を知らない兵の手前、深く尋ねることが出来なかった、ガイルズが持つ聖狼セイントウルフとは別の力について、ヒラキに尋ねるインセント。


「はぁ……例え旧友であっても夜に何の断りも無く王の寝室にやって来るのはいかがなものかな?」


インセントの突然の訪問に苦言を呈するヒラキ。


「悪いがお前とは旧友だが、俺はお前のことを王ともヒラキだとも思っていない」


「……そうですね……あなたの前だけでは私はヒラキでもこのヒトクイの王でも無い」


そう言いながらインセントから視線を外し寝室の床を見つめるヒラキ。その口調は王の間でインセントに剣を納めさせた時のように王という立場としてはいささか違和感のあるものだった。


「はぁ……今はそんな事はどうでもいい、早く奴の力について話せ」


自分の言葉で少し凹んだ様子のヒラキに対して話題を元に戻すインセント。


「彼、ガイルズにはこの世界を大きく変える力がある」


「この世界を大きく変える?」


ヒラキの何とも規模の大きな話に疑問しか浮かばないインセント。


「彼の内にあるそれは力と言っても単純な物理的な力でも強大な魔法でも無く、言うなれば役割のようなものです」


「役割?」


「はい……誰しもがこの世界を生きる上で何かしらの役割を持っています、例えばあなたなら剣聖、私ならば偽りの王……ですが彼にはその役割というものが存在しません、彼はこのガイアスという世界の理から外れた存在なんですよ」

 

「役割が無い……それが一体何になるというんだ?」


役割が無い。無力にも聞こえるその言葉に更に疑問の深さが増すインセント。


「……今はまだ微弱ですが、それは何時しかこの世界を巻き込む大きな渦となる……そんな時、彼の何も無い役割、理を外れた力が必要になってくるということです」


「……はぁ、お前しばらく会わないうちに性格が悪くなったな」


自分の頭では全く理解出来ないという結論に達したインセントは、ベッドに座るヒラキであったはずのその人物に対して嫌味を口にする。


「あなたは変わりませんね、歳をとって見識を広げて丸くなったかと思えば、私が腹部を貫かれたぐらいで激怒して剣聖の十八番を使おうとするなんて……」


「そ、それは……お前があの聖狼セイントウルフの力がじゃ……ああああ! というかそもそもお前があの時俺に幻術を使うことを始めから俺に伝えていれば……」


嫌味を嫌味で返され僅かに動揺するインセントの様子にヒラキであったはずの人物はクスリと優しい笑みを浮かべる。

旧友同士のような二人の軽口の言い合いは夜が更ける頃まで続いたのだった。







ガイアスの世界


 理を外れし者



ガイアスという世界に生きるもの全てはガイアスの理の中で生きている。しかしその理から逸脱した者が存在する。それが理を外れし者である。だがそれが一体どういう役割を持っているのか現在はまだ不明である。

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