隙間で章9 約束と対峙
ガイアスの世界
活動死体を倒した後の対処
活動死体が厄介なのは倒された瞬間から腐敗が急激に始まることにある。動かなくなった活動死体からは大量の腐臭が漂い、腐った肉からは大量のウジが湧く。その為、町中などで活動死体を倒した場合は、即座に焼却処理をしなければならない。
隙間で章9 約束と対峙
剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス
生から切り離された死者の唸りと、生きる事を感じさせる生者の雄叫びが混じりあった赤き月の晩から数日後。
人型、魔物型を含めた活動死体の総数、約千体に対してガウルドの冒険者、戦闘職、国民の被害は死傷者30名、行方不明者12名。町の規模からすればガウルドが受けた被害は最小に留まったと言える。町自体の被害も建物の扉が壊された、部屋の中が荒らされた程度に済んでおり、すぐに町の日常も回復するかに思えた。しかし事体はそう簡単では無くなかった。
長い夜が終わり、赤き月が姿を消した直後、活動死体たちは一斉に行動を止め、再び動かぬ死体へと戻ると急速な腐敗が始まった。それは冒険者や戦闘職に倒された個体も同様で、千を超える死体が一斉に腐敗を始めたことにより、ガウルドには腐敗臭が広がり、死体からはウジとハエが大量に発生する事態となった。
強烈な腐敗臭とウジとハエの大量発生によりガウルドは町としての機能が麻痺、このままではまともな生活が送れないとヒトクイの兵とガウルドの人々は、町の機能を回復する為に早朝から散乱した活動死体たちの処理の為に奔走するはめになっていた。
そんな赤き月の晩の影響によって人々が慌ただしく行き来するその中に、対闇部隊、聖騎士の隊長インベルラの姿があった。
赤き月の晩以降、事後処理に追われこれまで殆ど睡眠をとっていないインベルラの表情は明らかに疲弊していた。機嫌も悪く目つきが悪くなったインベルラの様子に、道ですれ違う人々は見るからに関わらないよう距離をとって歩くほどであった。
だがインベルラの機嫌が悪いのは寝不足だけが原因ではない。いや、どちらかと言えばもう一つの方がインベルラの機嫌を損ねている原因になっていた。
恐れ距離をとる人々とすれ違いながら、インベルラはある場所と向かっていた。そこは他大陸からやってきた観光者を相手にしたガウルドきっての宿屋街。冒険者や戦闘職がダンジョン攻略や魔物討伐の合間に間借りする安宿がある庶民街とは違い、宿屋街は、安い店でも一泊の価格が冒険者や戦闘職が半月は生活できる程。冒険者や戦闘職はまず立ち寄らない場所である。聖騎士部隊の隊長であるインベルラも当然、宿屋街には殆ど縁が無くこの場所には数えるぐらいしか来たことが無い。来た理由も全て任務関係でありプライベートでは一度も足を踏み入れたことは無かった。そんなインベルラがなぜ、高級宿屋がひしめく宿屋街にいるのか。それはガイルズを探しているからであった。
聖狼についての情報を得る為に、ヒラキ王との謁見を約束し再び会う事にしたインベルラとガイルズ。だがそう約束したはいいが、インベルラはガイルズが何処に居るのか所在を詳しく聞くのを忘れていたのだ。しかしガイルズは元傭兵の戦闘職、最初は冒険者や戦闘職の出入りが多い庶民街に行けば会えるだろうと思っていたインベルラ。だがそこにガイルズの姿は無かった。
赤き月の晩の事後処理に追われながら、その合間にガウルド中を周り冒険者や戦闘職が行きそうな場所はかたっぱしから回ったインベルラ。だがその何処にもガイルズの姿は無かったのだ。そんな事をしている間に数日が経った頃、ふと我に返ったインベルラは、なぜ忙しい合間を縫ってわざわざ私が奴を探し回らなければならないのか怒りが込み上げてきた。それが現在インベルラの機嫌の悪い一番の理由であった。
「……まさかとは思うが……」
ガイアス中にその名が轟く傭兵であるとはいえ、ガイルズも一人の戦闘職。その稼ぎはたかが知れており、宿屋街には立ち入らないと思っているインベルラは、宿屋街の入口を見つめながらそう呟いた。
視界に映るのは見ただけで眩しくなる豪華な作りの宿屋ばかり。到底ガイルズがここに居るとは思えないが、しかし他の場所は全て探し尽くし選択肢は他に無い。赤き月の晩の騒動など嘘であるとでも言うように栄える宿屋街を行き来する観光客を横目に、その場に居るだけで目立つガイルズの姿を探し始めるインベルラ。
「クンクン……うぅぅ……」
狼を模した聖狼の力の影響なのか、常人よりも遥かに高い嗅覚を持つインベルラは、ガイルズの匂いを探し宿屋街に広がる臭いを探った。しかし即座に顔をしかめるインベルラ。
「……やっぱりこの場所の臭いは苦手だ……」
以前から宿屋街の臭いがどうも苦手であるインベルラは、その臭いを嗅ぎ分け、目的の臭いを探す。
「ッ!」
目を見開くインベルラは、その視線を一つの宿屋に向けた。
絢爛豪華という言葉をまさしく形にしたようなその宿屋は、宿屋街でも1、2を争うと噂される有名な宿屋であった。
そんな宿屋の出入り口から見知った匂いを感じたインベルラは、宿屋の入口を凝視する。するとその入り口からどう見ても宿屋街には似つかわしくない特大剣を背負った男が姿を現した。絢爛豪華な作りの宿屋から出てくるその男の姿は場違いでしか無く違和感しかない。だがその男は慣れた様子で、入口の前に立つボーイに何やら話しかけたかと思えば何処かへ出かけようとしていた。
「あ゛あ゛あ゛……いたぁあああああああ!」
絢爛豪華な宿屋街に上品とは程遠いインベルラの叫び声が響く。
「……あん? おおあんたは……何でこんな所にいるんだ?」
インベルラの叫び剛に何事だと周囲の観光客が振り向く中、その声に反応したガイルズはなぜこんな場所にいるのかと尋ねた。
「お前ッ! 後日会おうと約束しただろう!」
赤い月の晩、旧戦死者墓地で約束を交わした事をすっかり忘れていたガイルズのその
態度にここ数日の苦労や苛立ちが爆発するインベルラ。
「ああ、そう言えばそんな約束していたな」
怒鳴られインベルラとの約束を思い出すガイルズ。
「それに、何でこんな所にいるんだとはこっちの台詞だ! 私がどれだけお前を探すのに苦労したと思っている……」
金持ちの旅行者が集まる宿屋街にガイルズが居るなど思いもよらなかったインベルラは、数日探し回った苦労を口にする。
「そう言われてもな」
「そう言われてもじゃない! この場所はお前のような一介の傭兵崩れが来ることができる場所じゃないだろう!」
傭兵が一回の戦場で貰える報酬程度では、宿屋街で食事をすることも出来ない。そんな身分のガイルズがなぜこんな場所に居るのかと怒鳴りながら疑問をぶつけるインベルラ。
「傭兵崩れって、俺をそこいら傭兵と一緒にするなよ、俺は傭兵時代に他の傭兵の数十倍は稼いだぞ」
自分と他の傭兵を一緒にするなとそう言いながらガイルズはニヤリと笑みを浮かべた。
ガイルズが言っていることは嘘では無い。数ある戦場で暴れ回り、大喰らいという二つ名まで付けられていたガイルズは、良くない噂は多くあったがその実力は本物であり、戦場で引っ張りだこの人気傭兵の一人であった。当然戦場での活躍に見合った報酬をガイルズは雇い主から貰っていた。
「……嘘だな、お前は絶対に悪いことをして稼いでいる、そんな顔をしている」
ガイルズの顔を見ながら嘘だと決めつけるインベルラ。聖騎士部隊の隊長であり、人一倍正義感の強いインベルラからすればガイルズの顔は下衆のソレにしか見えない。ガイルズが所持している金は汚いことで稼いだ物であるとインベルラは疑いの目を向けた。
「そんなことねぇよ」
疑われるガイルズは否定する。しかしその目は僅かに泳いでいた。
ガイルズを疑うインベルラの目は正しかった。傭兵時代、雇い主たちから多くの報酬を貰っていたことは事実だが、ガイルズは報酬額に納得できなかった場合、交渉という名の脅迫で度々報酬額を吊り上げていたこともあったからだ。
「はぁ……そんなことはどうでもいい、私はお前との約束を果たしにきたのだ」
少し熱くなりすぎたと自覚したインベルラは、一呼吸おくと冷静な態度で本題を切りだした。
「ああ、そうそう、それだよそれ、早く会いにいこうぜ王様に」
話題が逸れて本題を切りだしたインベルラに僅かに安堵するガイルズは、また嫌な所を突っつかれないようにと早々にヒトクイの王が居るガウルド城に足を向けた。
「はぁ……」
まだ言いたい事は沢山あったが、まずは本題を片付けてかからだと、言いたいことをぐっと堪えため息をついたインベルラは、前を行くガイルズの後を追った。
― ガウルド城 王の間 ―
赤い月の晩の騒動で被害を受けた場所を通り過ぎガイルズとインベルラはガウルド城に到着した。
城内に入ると赤き月の晩の事後処理に追われている兵たちの慌ただしい姿で溢れていたが、兵たちを横目にガイルズはインベルラに先導される形で王が待つ王の間の前に辿りついた。
「王、客人を連れてまいりました」
インベルラが大きな扉の前でそう言うと、自然と扉が開く。開かれた扉から少し離れた正面には王が座る玉座があった。
「ん?」
扉が開いた瞬間、インベルラは身構えた。本来その玉座に座っていなければならない人物は座っておらず、別の者が座っていたからだ。即座に不審者であると判断したインベルラは、一切の警告無く、剣を抜剣すると王以外がすわってはならない玉座に座っている無礼者に向け走り出した。
「おっと!」
速度の乗ったインベルラの鋭い一撃が玉座に座っていた無礼者を襲う。しかしその鋭い一撃を軽くいなすように無礼者はヒラリと躱しながら玉座から腰を上げた。
「おい、家臣の躾けがなってないんじゃないのか?」
インベルラの攻撃を躱した無礼者は、全く緊張感の無い笑みを浮かべながら王の間の端に視線を向けた。
「はぁ……だから止めろと言ったのだ、玉座に私以外の者が座っていれば、誰でもそうなる、彼女の反応は至極全うだと私は思うが?」
「え……!」
自分の攻撃を容易く躱されたことも驚きではあったが、その無礼者が視線を向けた先にいた人物に驚きの声を上げるインベルラ。そこにいたのはヒトクイの王ヒラキであった。
「王……」
ヒラキがいた事を認識したインベルラは即座に剣を鞘に納めると膝を突きヒラキに頭を下げた。
「申し訳ありません、私の判断が行き過ぎたばかりに王の間で、王の前で抜剣した事をお許しください」
原則、王の前や王の間で剣を抜くことは禁止されているヒトクイ。玉座に座る不届き者に対して頭に血が昇り我を忘れ、周囲の状況を確認することが出来ず、近くに王がいた事に気付かなかったインベルラはそれをヒラキの前で詫びた。
「いやいや、落ち度があったのはこちらだ、頭を上げなさいインベルラ」
本来ならば良くて謹慎、悪ければ極刑になってもおかしくは無い状況。だがヒラキはインベルラに落ち度は無く、悪いのは自分であると逆に詫びた。
「王……」
ヒラキにそういれてもその表情には罪悪感が浮かんでいるインベルラ。
「おい、これで彼女が調子を落として任務に支障がでたらどう責任をとるつもりだインセント?」
インベルラのその表情を見たヒラキは玉座の隣に立つ男を責めた。
「ふん、こんなことでへばるようじゃたかがしれているだろう」
ヒラキの言葉を鼻で笑う男、そこにいたのは剣に携わる戦闘職の頂点、剣聖の一人インセントであった。
「インセント……」
ヒラキが口にしたその名にインベルラの表情は凍りつく。
「……」
そして今のやり取りの中で蚊帳の外にあったガイルズは剣聖であるインセントの名を聞き口元を吊り上げた。
「そ、その……申し訳ありません、まさかあなたが剣聖インセント様だとは思わずご無礼を……」
ヒトクイの歴史において、ヒラキの次にその名を知らない者はいない。ヒトクイ統一戦争の勝者の一人であり英雄と呼ばれているインセントを前に、インベルラは緊張した表情で再び頭を下げた。
「先日の騒動の折に冒険者や戦闘職と共に活動死体の討伐に参加して頂いたとか……対『闇』討伐部隊、聖騎士の隊長として、硬く御礼を申し上げます」
冒険者や戦闘職と共に活動死体たちからガウルドの人々を守ってくれたインセントの活躍を部下から聞いていたインベルラは、聖騎士部隊の隊長として感謝を告げた。
「あ、ああ、まあ、丁度立ち寄った次いでだ」
インベルラに礼を言われ、僅かに戸惑いを見せるインセント。
「それより、何だ、対『闇』って……お前そんなもんを作ったのか?」
自分に頭を下げ、行儀よく礼を告げるインベルラを見ながらインセントは呆れた表情を浮かべながら横に立つヒラキに聖騎士部隊の事を尋ねた。
「ああ、『闇』に特化した部隊でとても頼りになる者たちばかりだ、彼女たちにはこの国を影から支えてもらっている」
インベルラの前で聖騎士部隊についての評価を口にするヒラキ。
「あ、ありがとうございます」
ヒラキの評価に嬉しさから声を震わせるインベルラ。
「うーん、何だがお前の直属の部隊にしては礼儀正しすぎやしないか?」
先程からインベルラの様子を伺っていたインセントは不満げな表情を浮かべた。
ヒトクイ統一前からの付き合いでありヒラキの右腕とも言われたインセント。ヒトクイの王となる以前のヒラキを知る数少ない人物であるインセントは当然、ヒラキの性格を熟知している。そんなインセントからすれば、ヒラキ直属部隊の隊長であるインベルラの態度はお行儀が良すぎるように映ったようだ。
「はぁ……それだけ、歳月が経ったってしまったということです……」
ため息を吐いたヒラキはそう呟く。
「?」
ヒラキの様子に違和感を抱くインベルラ。ヒラキの口調や雰囲気が普段とは違うように思えたからだ。
「……インセント……あの時……あなたが……」
「おい、それ以上は自分の首を絞めるぞ……お前はヒラキだ、それ以上でもそれ以下でも無い」
インセントに対して何かを言いかけたヒラキ。しかしその言葉を隠すようにインセントは、少し強い口調でヒラキの言葉を遮った。
「ッ!……すまない……」
制したインセントの言葉に僅かに驚いた表情を浮かべたヒラキは、普段通りの表情に戻ると短く詫びた。
「……ふぅーそれでは本題に入るとしよう、またせてすまなかったね聖狼の力を持つ者よ」
そう言いながらヒラキはインセントに向けていた視線を王の間の扉の前で傍観していたガイルズに向けた。
「おう、内輪話は終わったか?」
「くぅ……」
一国の王を前にしてガイルズの態度は、到底褒められたものでは無かった。そう感じたインベルラは立ち上がると、宿屋街の時のような怒りとは違う鋭い怒りを向けながらガイルズの下へと駆け寄った。
「おい、お前でも王の御前での礼儀くらいわかるだろう」
ガイルズに駆け寄ったインベルラは鋭い眼光をガイルズに向けその態度を注意した。
「ああ? そんなもん知るか……俺は生狼のことについてか知っているかもしれないとお前が言うからこの場所に来ただけだ、意味も無く頭を下げる為にきた訳じゃない」
インベルラのから注意されたガイルズはその言葉を突っぱねると自分を目の前の王に対して頭を垂れる気は毛頭ないと言い切った。
「ハッハハハ! 俺はこいつの方がお前の直属部隊の隊長に似合っていると思うぞ」
ガイルズが王に対してとった態度に腹を抱えて笑うインセントはまるで守るようにヒラキの前に立った。
「……気に入った、お前名は何て言う?」
無礼千万な態度をとるガイルズを気に入ったインセントは名を尋ねた。
「気に入ってもらえて光栄だ剣聖……だがな、その常に上からの物言いは気に喰わねぇ……あんたに名乗る名前はない……なッ!」
それは刹那だった。無礼な言葉を並べ、その無礼がヒラキだけでは無くインセントにまで飛び火した瞬間、インベルラの目の前からガイルズの姿は消えていた。その直後に押し寄せる僅かな風の流れ。その流れを感じインベルラが視線を向けた先には、特大剣を抜きインセントに飛びかかるガイルズの姿があった。
ガイルズの攻撃は先程のインベルラの攻撃よりも素早いものであった。
「ふんッ!」
インセントは何処からともなく瞬時に生成した長剣を持つと振り下ろされるガイルズの特大剣をそれで受けた。
「なっ!」
特大剣を振り下ろしたガイルズは自分の一撃を長剣で防がれたことにも驚いたが、何よりもインセントが手に持つ長剣に驚いていた。
(あの長剣は……)
インセントに片手で防がれ弾かれたガイルズはその勢いを殺しながら地面に着地すると、インセントが持つ長剣を見つめた。
(やっぱり……あれは……)
何かを確信するガイルズ。
「どうした、もう終わりか?」
ガイルズの一撃をものともしないインセントは、不敵に笑いながら挑発した。
「王の御前です、二人とも止めてください!」
突如ヒラキの前で勃発したガイルズ対インセントの戦いに一人インベルラだけが慌て止めに入る。
「うるせぇ!」「行儀の良い事言うなよ」
だがガイルズとインセントから返ってきた言葉はどちらも止めるな、の意でありどうしていいのか分からなくなったインベルラはヒラキに視線を向けた
「……」
しかしヒラキは無表情のまま二人を見つめていた。
「……そ、そんな……」
頼みの綱であったヒラキが二人を止めるきが無い時点で、自分が出る幕は無い。そう悟るしかないインベルラはヒラキに何かあっては困ると、互いに見合うインセントとガイルズを刺激しないようゆっくりとヒラキの下へと移動する。
「その特大剣、いいものだな……ちょっと貸してみろよ」
「貸すかよバ……ッ!」
インセントの言葉に反応した矢先、特大剣を握っていた腕から重量が忽然と消えたことに気付くガイルズ。
「おお、おお、よくこんな重いもんブンブンと振り回せるな、大喰らい」
気付けばガイルズの背後で鈍い風切音を響かせながら特大剣、大喰らいを振り回すインセント。
(速い……)
その見た目からしてインセントは、自分と同じく力で戦場を駆け抜けてきたタイプだと思っていたガイルズ。しかしその見た目からは想像できない程に素早く動くインセントにガイルズは戸惑っていた。なぜならその速さは、速度を特化した立ち回りをしていた全盛期のスプリングをも超える速度だったからだ。正直今のガイルズの目ではインセントの動きを捉えることが出来ない。
「……戦いは筋力だけでどうにかなるものじゃない、その証拠にお前はこの特大剣の本当の力を半分も引きだせちゃいない」
「なに……」
時には相手を叩き潰し、時には吹き飛ばして来たガイルズの相棒、特大剣大喰らい。しかしそんな相棒を使いこなせていないと言う剣聖インセント。ガイルズは背後に回ったインセントに体を向けた。
「よし、筋肉馬鹿なお前さんに、剣ならなんでもござれの剣聖インセント先生が直々にこいつの使い方を教えてやるよ」
まるで自分の方が大喰らいを理解していると言うようにガイルズを挑発するインセント。
「ああ、なら教えて貰おうか先生!」
ガイルズはインセントの挑発に乗る形で本来、『闇』に対してのみ使う聖狼の力をその場で解放するのであった。
ガイアスの世界
観光客向けの宿屋街
他大陸からやってきた観光客がガウルドに宿泊する場合、一番に勧められるのが観光客専用の宿屋街である。
勿論、庶民街にある宿屋に泊まることも出来るが、観光でやってきた者がわざわざ庶民街の宿屋を利用することはほとんどない。
宿屋街の宿屋は何処も豪華な作りで観光の疲れを癒すには最適な場所になっている。サービスも充実しており、観光客が満足できること間違いなしだ。
だがその分、値段は庶民街の宿屋に比べ高く、安い所でもガウルドの人々は半月は生活できる価格になっている。
その為、ガウルドの人々や冒険者や戦闘職は殆どこの宿屋街を利用することは無い。