もう少し真面目で章(スプリング編)11 信頼と不穏
ガイアスの世界
アカリフ大陸のその後
アカリフ大陸でその名を轟かせた傭兵、閃光と大喰らいはほぼ同時期に消息を絶った。その話は瞬く間に他の傭兵たちの間で噂となった。
雇い主は違えどアカリフ大陸を進軍していく中で重要な戦力とされていた閃光と大喰らいを失った雇い主たちは継続したアカリフ大陸の進行は難しいと判断して撤退を決断。その決断から間もなくして誰よりもアカリフ大陸の進軍に金を注いでいた大喰らいの雇い主が失脚した事で、これ以上の進軍による利益は望めないと判断した傭兵部隊の雇い主たちは、アカリフ大陸からの完全撤退を決断することになる。
これにより外敵が消えたアカリフ大陸は再び部族同士による争いが過熱するかに思えたが、ガドロワ山を守護するガドロたちの働きによって部族同士による争いは一旦鎮火状態となった。
だが部族同士による因縁は未だ燻っており、再び何かをきっかけにアカリフ大陸で争いが起る可能性は残っている状態である。
もう少し真面目で章(スプリング編)11 信頼と不穏
剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス
スプリングの眼窩に広がるのは半壊した平屋。室内にあったベッドを含めた家具の殆どは倒れ砕かれ粉砕している。壁は愚か屋根まで無くなり既に建物として成立していないその場所でスプリングは訳も分からず茫然と高い空を見上げていた。
『……二日前、主殿は我を忘れ一晩暴れ回った……その結果がこれだ』
状況が理解できていないだろう自分の主であるスプリングに意識を失ってから何が起こったのかを説明を続ける自我を持つ伝説の武器ポーン。
「……暴れた?」
目の前の惨状を引き起こしたのはお前だと言われても全く身に覚えの無いスプリングは空から視線を落とすとポーンにその視線を向けた。
『……奴の能力の一つ、人心掌握によって主殿の心は恐怖に染まった……それに抗う為に主殿は無意識に暴れていたんだ』
人心掌握とは、ポーンと同じ自我を持つ伝説の本ビショップが持つ能力の一つ。その効果は人の心に入りこみ、相手が一番強く反応する感情に触れることで相手の心、精神を掌握する能力である。ビショップはユモ村に住む全ての村民の心を幸福で掌握することで静かにだが確実に支配していた。そして幸福で心を支配していった村民とは対照的に、ビショップはユモ村へと足を踏み入れたスプリングに対しては恐怖で心を支配しようとしていたのだ。
『だが結果として主殿は奴の人心掌握に打ち勝った……それは主殿が普通の者よりも精神耐性が高かったからだ……』
心を操る術を持つのは人類だけでは無く、一部の魔物や魔族の中にも人の心を操ることが出来るものが存在する。そんな相手と対峙した時に重要になってくるのが心の強さ、所謂精神耐性である。精神耐性の有無は生まれた場所や過ごしてきた環境によって得るものであり、心に負荷をかけることでこの耐性は高まって行くと言われている。目の前で両親を殺され、インセントと共に過酷な旅を続け、一人傭兵として戦場で毎日のように人の生き死を経験してきたスプリングには人心掌握に耐えるだけの精神耐性が十分に備わっていたことをポーンは理解していた。
「そうか……それじゃ傭兵の頃の俺は無駄じゃなかったって訳だな……」
剣の師であるインセントの教えを理解することが出来ず、あの日ブルダンを飛び出したことを後悔していたスプリング。
傭兵になって戦場に立つことでインセントからは学べなかった様々な経験ができたことは確かであった。しかしそれ以上に戦場という場所はスプリングの精神を蝕んでいった。戦場という場所に深く関われば関わる程、敵の死、仲間の死を目の当たりにす程、戦場という場所の無意味さを理解したスプリングは当時の経験が無駄にしか思えなくなっていた。
「……ありがとう……」
それが都合のいい解釈であることはスプリング自身十分に理解していた。だがポーンの言葉によって無駄だと思っていた傭兵時代の自分が救われたような気持ちになったスプリングは思わず感謝の言葉を口にしていた。
『ん?』
自覚せずに漏れ出たその言葉はポーンにはっきりとは届かない。どんな言葉を発したのか上手く聞き取れなかったポーンはスプリングに聞き返した。
「あ、いや、いい気にしないでくれ……」
反射的に漏れ出した言葉に僅かに動揺をみせるスプリングは、少し照れながら慌てて立ち上がった。
『急に立ち上がってはダメだ!』
突然立ち上がったスプリングを注意するポーン。
「大丈夫だ」
自覚は無いが一晩暴れた影響で体中が傷だらけであったスプリングだったがポーンの心配は杞憂に終わる。スプリングはしっかりとした足取りでその場に立っていた。
「よし!」
頬を叩きスプリングは気持ちを引き締めた。
「ポーン、これからもう一度ビショップの所に行くぞ!」
半壊した平屋から外を見つめたスプリングはポーンに宣言する。外に向けたスプリングの視線の先にはビショップが待つ屋敷があった。
『……主殿……もう一度問う、本当にビショップの所に行くのか?』
覚悟を決めそう宣言したスプリングに水を差すようにそう尋ねるポーン。その声色は明らかに不機嫌なものであった。
『……奴の交渉を受け入れるのか?』
不機嫌な声色のまま、質問を重ねるポーン。
「ああ」
不機嫌になるポーンの問に即答するスプリング。
『……』
即答したスプリングに対してポーンは沈黙で答える。
「……ポーンには悪いと思っている」
ビショップとの交渉をあからさまに嫌がっているポーンに対して詫びるスプリング。
「でもお前の感情を無視してでも俺はビショップの所へ行く……」
ポーンとビショップの間には修復できない溝があることは理解しているスプリング。だがビショップに対して怒りや恨みといった感情を持つポーンの意思を無視してでもスプリングには行かなければならない理由があった。
『……』
沈黙を続けるポーン。
「頼むポーン……行かせてくれ……俺は両親を殺した奴が誰なのか知りたいんだ」
沈黙を続けるポーンに対して自分の想いをもう一度告げるスプリング。
『……』
「……」
両者の沈黙が続く。
『……はぁ……わかった』
根負けするように深いため息を吐いたポーンは頷くようにスプリングにそう答えた。
「無理を聞きいれてくれてありがとう」
ポーンにとってビショップは憎き仇である事を理解しているスプリング。ポーンがわかったという言葉を口にするのにどれほどの覚悟が必要だったかその重みを感じながらスプリングは今度ははっきりと感謝の言葉を伝えた。
『……ただし条件がある……もし奴が少しでも怪しい動きをしたと判断したら例え主殿が欲している情報が手に入らなくなったとしても私はこの交渉を潰す』
スプリングの意思は尊重したが仇であるビショップを信じることが出来ないポーンは、状況によってはスプリングとビショップの交渉を潰すと宣言した。
「……ああ、俺も両手を広げて奴の仲間になるつもりは無い、判断は任せるぜ相棒」
『……あ、ああ……』
きっとスプリングに他意があった訳では無い。だが普段のような冗談や嫌味のようなものでは無いスプリングの相棒という言葉にポーンは密かに動揺していた。自分を本当に相棒として認めてくれたのではないかとそんな事を思いながらポーンはスプリングに短く返事を返すのであった。
― ヒトクイ ユモ村 村長の屋敷 村長寝室 ―
「……それではこれから私はガウルドに向かいます」
大きなベッドで眠る少年を前にメイド姿の女性リ―ランはそう告げると踵を返しその寝室を後にした。
『……スプリング君は間に合いましたか……』
未だ目覚める兆しの無い少年の傍らに置かれた分厚い本、自我を持つ伝説の本ビショップは、スプリングの意識が目覚めたことに気付き、嬉しそうに独り言を呟く。
『そうなると、問題になってくるのはポーンの方ですね……私を憎む彼は必ず私とスプリング君の交渉に口を挟んでくるはず……』
まるで半壊した平屋でのスプリングとポーンの会話を盗み聞きしていたかのように、ビショップはポーンの行動を予測する。
『まあでも、この村に迫っている新たな来訪者を目にすればその考えも変わるでしょうね……』
誰に聞かせる訳でもないというのに何かを匂わせるような事を口にするビショップ。そのビショップの言葉を体現するかのように、寝室の窓から見える空には黒く重い雲が漂い始めていた。
ガイアスの世界
ガイルズの剣術の実力。
スプリングに出会うまで、一切剣術に触れてこなかったガイルズ。剣術に限っては素人同然であったが、それでも己が持つ驚異的な自己修復と類まれな戦闘能力であまたの戦場を駆け抜け生き抜いてきた。
スプリングと出会ったことがきっかけで剣術を身につけるようになったガイルズは、それ以降、幾つかの剣に携わる戦闘職を習得し、現在では力技だけでは無く技術的にも自在に操ることが出来る重剣士に成長している。
実質、スプリングがガイルズにとっての剣の師と言ってもいいのだが、ライバル心からなのか、ガイルズはその事実を認めてはいない。
※ 謝罪
どうも山田二郎です。
GWという大変大きな時間を貰いながら今回全く手が進まず、物凄く短い話になってしまいました。
内容自体もいつも以上に散らかった状態のままアップしてしまった事を重ねて深くお詫びします。
肉体的にも精神的にも瞬く問題はないのですが全く物語が浮かばない状態にあり、これからしばらくいつも以上に不安定な内容をお送りする可能性がありますが 四苦八苦しているな山田 ぐらいのスタンスで読んで頂けるとありがたいです。
今回は本当に申し訳ありませんでした。
山田二郎