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時を遡るで章(スプリング編)18 望んだ宿敵

ガイアスの世界


ガイルズが持つ体質



聖狼セイントウルフの力を持つガイルズは、その力の影響で自己再生の能力を持つ。


自己再生は己が負った傷をたちまち癒す能力であ。下位互換の能力に治癒というものがあるが、それとは比べものにならないほどの回復量、回復速度を持っているのが特徴で、治癒では出来ない失った体の一部を復元することも出来る。回復や修復に限度があるのかは現在不明。

 能力とは言ったが、ガイルズは自己再生をあくまで体質と主張している。これは自分が化物であることを否定したい想いの現れからくるものなのかもしれない。







 時を遡るで章(スプリング編)18 望んだ宿敵




青年が自我を持つ伝説の武器と出会う前……




 ― アカリフ大陸 ガドロワ山林道 傭兵側 ―



「隊長……」


 ガドロワ山へと続く林道を進軍する傭兵部隊の先頭を歩く一人の傭兵が安堵した表情で隣を歩く傭兵部隊の部隊長に声をかけた。


「なんだ……」


目的地へと続く林道を真っ直ぐに見つめながら隣を歩く部下の呼びかけに返事する部隊長。


「その……大喰らいを敵陣へ先行させたこと他の傭兵たちに変わって感謝します」


部下の傭兵はそう感謝しながら横を歩く部隊長に頭を下げた。

 今から数十分前、ちょっとした騒ぎを発端に大喰らいことガイルズの存在が部隊全体に知れ渡りその事実を知った他の傭兵たちの雰囲気は一瞬にして絶望に染まった。アカリフ大陸で傭兵稼業をしている者ならば、ガイルズの噂を知らない者はいない。

 どんなものが相手でもガイルズが戦場にいれば勝利が約束されると言われる程にその力は凄まじい。しかしその反面、一度戦い始めれば敵味方関係なく目についた全ての者を喰らい尽くすとまで言われているガイルズは傭兵たちからすれば最も戦場で肩を並べたくない厄介者でもある。

 ガイルズが居ることで勝利は約束されるものの、自分たちの命は普段の戦場よりも更に危険に晒されるのだ。

 ガイルズの存在を知った傭兵たちの様子は、完全なお通夜の雰囲気。絶望が部隊全体に広がり、明らかに傭兵たちの士気は下がり始めていた。部隊の士気が下がれば勝てる戦も勝てなくなる。いやこの場合、生き残れなくなると言ったほうが正しいかもしれない。そんな士気の下がった雰囲気を察した部隊隊長はガイルズを一人敵陣へ先行させることで、部隊の士気をどうにか保つことに成功したのであった。


「いや、奴を先行させるという考えは俺の判断じゃない」


「へ?」


しかし部下の傭兵に感謝されても浮かない表情を浮かべる部隊長は、ガイルズを敵陣へ単独で先行させるという判断が自分の考えで無いことを部下の傭兵に打ち明けた。


「……元々奴を敵陣へ単独で先行させるというのは上の命令で決まっていたことだ」


続けてそう判断したのが自分たちの雇い主である事であり、元々今回の戦いでガイルズを単独で敵陣へと先行させるように命令を受けていたことを打ち明ける部隊長。


「それって……まさか……」


あくまで雇い主は雇い主であり戦場に関しては素人であり、戦場での作戦や指揮は全て部隊長に一任されていた。だが今回に限って作戦に口を挟んできた雇い主に疑問を抱いた部下はその真意に気付いたのか何か驚きの表情を浮かべた。


「ああ……お前が考えている通りだ、上もようやくその重い腰を上げたってことだろう……上は奴の始末を決定した」


雇い主の真意に気付いた部下に対して静かに頷き答える部隊長。

 雇い主にとってもガイルズという存在は傭兵と同様に目の上のタンコブであった。だがそれでも今までガイルズが行ってきた悪行に対して一切の処罰が無かったのは、それを上回るだけの戦果、利益を雇い主にもたらしたからであった。

 攻め落とすことが難しいとされたアカリフ大陸各地の戦場を幾つも攻め落としたその実績のお蔭で、雇い主の懐は今まで潤っていたのだ。その為ガイルズは今まで処罰されずに済んでいたのである。しかし次第にガイルズがもたらす被害の方が戦果、利益よりも高まって行った。戦果はもたらすものの傭兵たちの被害のほうが大きく結果利益へと繋がらず不利益になる方が多くなったのだ。

 例え戦果をもたらしたとしても商売にならなければ意味が無い。立場は一変、雇い主にとってガイルズは邪魔な存在になった。しかしそれでも今までガイルズを処罰することは出来なかった。その理由は簡単で処罰しようものならガイルズが何をするか分からないからだ。

 戦場でその二つ名を知らない者はいない程に有名なガイルズ。当然雇い主もガイルズの人間離れした力は知っている。そんなガイルズが素直に処罰を受けるとは思えない。事実、処罰しようとしてガイルズの前任の雇い主は半殺しにあったという噂もあった。その為今の雇い主は下手にガイルズを処罰することが出来ずに困っていた。

 だがそんな時、雇い主はとある武具商人から次の戦場でガイルズを単独で先行させろという助言を受けた。この助言を信じ実行すれば、あなたの望み通りになるとま武具商人は言った。

 正直ガイルズの処遇に困っていた雇い主は武具商人の助言を信じ普段戦場の事を全て任せていた部隊長にこの指示を伝えた。これによってガイルズは単独で敵陣へ先行することになったのだった。


「それって……」


部隊長の話に苦笑いを浮かべる部下。


「ああ、正直信用できるのかわからん……だが、上は藁にもすがりたい気持ちなんだろうよ」


苦笑いを浮かべる部下の気持ちを理解しつつも、現状ガイルズの所為で経営が傾きかけている雇い主の心情も理解できる部隊長は何とも複雑な表情を浮かべた。


「上手くいきますかね……奴はどんなに被害をもたらそうとも確実に戦場で戦火を上げてきた強者、敵陣へ一人先行させたからといって死ぬような奴とは思えませんが?」


今までどれだけ被害を出そうとも確実に戦果を挙げてきたガイルズ。それだけの実力がある強者が敵陣に単独で先行した程度で死ぬとは思えない部下は今回の作戦を疑問視した。


「ああ確かに今まで戦ってきた亜人や獣人ならそうだろうな……だが今回は少しばかり違う、今我々が向かっている場所は何処だ?」


「場所? ……ガドロワ山です」


「そうガドロワ山だ……アカリフ大陸に住む亜人や獣人にとってその場所は神聖視され神が住む場所とも言われている」


「神が住む場所ですか?」


部隊長の言葉に今一ピンと来ていない表情を浮かべる部下。


「ああ、アカリフ大陸全ての亜人や獣人が神聖視する場所、そんな神聖な場所は絶対に犯されてはならない場所だ、だから当然そういった場所にはその場所を守る守人が存在する……」


「何で?」


「何でってお前……」


「すみません、自分神は信じない性質なんで」


無神論者であることを明かす部下。


「はぁ……ならこう考えろ……国の王を守るのは誰だ」


今一理解できていない部下にため息を吐きながら例えて話す部隊長。


「……国の兵士ですね」


「そう兵士だ……亜人や獣人にとってこれから我々が向かう場所はそう言った場所なんだよ」


「なるほど」


「はぁ……話によればその守人である亜人や獣人たちはアカリフ大陸で最強と言われている戦士の部族らしい」


「えッ! ……だとすると自分たちはそんな強い敵とこれから戦うんですか?」


これから自分たちが向かう場所で待つ亜人や獣人がアカリフ一の戦士である事を知り、表情が強張る部下。


「だからこそ、奴を敵陣に先行させて戦場を掻きまわさせるんだ……互いが潰し合ってくれればそれで良し、どちらかが残っても相当に疲弊しているはずだ、そうなれば後は我々でどうにかすればいい……どちらに転んでも我々にとっては危険が少ない作戦になるって寸法だ……」


どちらに転んだとしても自分たちにとって危険が少ない戦いになると部下に告げる部隊長。しかし何か引っかかることがあるのか何処か歯切れが悪い部隊長。


「なるほど、確かにそれなら比較的安全ですね……て、あれ? 何か、不安な要素でもあるんですか部隊長?」


部隊長の歯切れの悪い物言いに気付いた部下は何かあるのかと尋ねた。


「……未確定だが……その亜人と獣人の部族が強力な助っ人を呼び込んだという情報が入ってきている」


どこから仕入れたものなのかも定かでは無い曖昧な情報を耳にしていた部隊長は部下に歯切れが悪かった理由を語る。


「助っ人……ですか?」


「ああ、その情報が正しければ……正直面倒なことになる」


「面倒な事? その助っ人、何者なんですか?」


全く正体が思いつかない部下は、間髪入れずにその助っ人が何者なのかを部隊長に尋ねた。


「そいつは……」




― アカリフ大陸 ガドロワ山 林道 中間地点 ―




 ガドロワ山へ続く林道の中間地点で激しい戦闘音が響き渡る。邂逅して早々に戦いを始めた二人。互いが互いを強者として認めたからこそ、なんの取り決めもなく、スプリングとガイアスは互いの剣を走らせた。


「ガッハハハハ!」


心底スプリングとの戦いを楽しむかのようにガイルズは笑い声を響かせながら完全に防御を捨てた捨て身の動きで迫ってくるスプリングを迎え撃つ。


「……」


 ガイルズとは対照的に一切の感情を表に出さず常に動き周り攻撃を仕掛けるスプリング。特大剣を一振りするだけで嵐のような突風を発生させるガイルズに対してスプリングは、冷静にその嵐のような風圧を躱すと懐に潜り込み長剣ロングソードによる斬撃を放ち即座にその場から離脱していく。そして一旦距離をとってから再び間合いに飛び込み斬撃を入れるというような行動を繰り返していた。

 二人の戦いが始まってから数分、未だガイルズの攻撃を受けておらず攻撃の手数や立ち回りからみてスプリングが一見優勢にみえるこの状況。しかし実際の所、追い詰められているのはガイルズでは無くスプリングの方であった。


(……自己再生……厄介だ)


傷を負っても即座にその傷が癒えていく治癒という能力がある。多くは植物系の魔物などよく見られる能力ではあるが植物系の魔物だけに限られたものでは無く、失った体の一部を修復するとまではいかないものの傷を癒す治癒の能力は一定の強さに達している魔物ならば備わっている能力である。

 魔物の治癒には劣るものの亜人や獣人の中にも治癒の能力を持つ種族は存在している。そして治癒の能力は稀ではあるが人間の中にも持って生まれてくる者が存在する。

 だが基本的に人間が持つ治癒は魔物や亜人獣人に比べ効果が微量で常人よりもわずかに傷が癒えるのが早い程度。戦っている最中に負った傷が即座に癒えるということは無く、失った体の一部が復元することも無い。

 しかし今スプリングの前に立つガイルズは人間でありながら魔物並の、いやそれ以上の速度で傷を癒しそればかりか失った体の一部まで修復する治癒の能力を持っている。これはもはや治癒という体質では説明することが出来ず、いうなれば自己再生といってもいい領域の能力であった。

 人間離れそればかりか魔物以上の治癒能力を持つガイルズはスプリングにとって非常に相性が悪い相手であった。

 基本的に治癒の体質を持つ魔物に対しては一撃で仕留めることが推奨されている。それは一撃で仕留めることで治癒の発動を阻止できるからだ。しかしスプリングの戦い方は一撃で仕留めるのではなく、素早さを活かした手数による戦い方が基本である。治癒を持つ魔物と戦うのはあまり相性がいいとは言えない。しかしそれでも今までスプリングは治癒能力を持つ魔物と対峙した際には、自分が得意とする圧倒的な手数でそれを補い、相性が悪いとされる治癒能力を持つ魔物を苦戦することなく倒して来た。

 だが目の前にいるガイルズは今まで戦ってきた治癒を持つどの魔物とも違う。圧倒的な回復量も厄介ではあるが、それ以前に治癒の回復量を上回る攻撃量を許してくれる程ガイルズには隙が無いのだ。

 傷を負うことに一切の躊躇が無く防御を捨てているガイルズは無理矢理に自分の攻撃をねじ込んでこようとする。そんなガイルズに対してスプリングが攻撃を当てられるのは精々四回が限度。それ以上連続して攻撃を繰り出せば、傷を負うことに全く動じないガイルズの攻撃がスプリングを襲う。このまま戦いが消耗戦になれば不利になるのはスプリング。この状況を打破できなければスプリングに待つのは死であった。しかし今スプリングの心には今までにない滾りがあった。傭兵として戦場に出始めた頃は常に意識の中にあった死。だが経験を積むごとに死の意識は薄れていった。久しく感じていなかった死の意識が目の前に立つガイルズに呼び起こされたことにより、スプリングは自分が戦場へ何をする為にやってきたのか、それを思い出した。

 今まで冷静であったスプリングの口元が僅かに吊り上がる。久しく表情筋を動かしていなかった所為か、その表情は引きつっているが、それは紛れも無く笑みであった。


「ふふ、いい、実にいい! お前は強い! 俺をここまで追い込んだのはお前が初めてだ!」


ぎこちないスプリングの笑みを理解したのか、ガイルズは嬉しそうにそう叫ぶ。スプリングが今の状況を打破するべく思考しながら長剣ロングソードを振う中、ガイルズは自分が望んでいた強者を前に興奮していた。


「俺はお前みたいな強い奴と戦うことを望んでいたんだ!」


 ガイルズが得たものは現在のガイアスにおいては不要とされ忌み嫌われる力であった。人々から世界からすら存在を否定されたガイルズは、自分の運命に抗うようにその力を振うことが出来る場所を求めた。そして辿りついたのが命が簡単に消費される戦場であった。

 常に争いが存在する戦場ならば自分と同等な力を持った強者がいるかもしれない。そんな希望を胸にガイルズは幾つもの戦場を駆け抜けた。しかし戦場で得たのは失望だった。

 戦場で幾度となく名のある強者と対峙した。だがガイルズが少し力んだだけで目の前に立つ強者たちは風船のように弾けていく。そんな状況にガイルズは心底失望したのだ。

 そんな状況がしばらく続き失望しきったガイルズはある日、アカリフ大陸の戦場で閃光の噂を耳にした。正直もうガイルズは期待などしていなかった。今までと同じように強者と言われていても所詮は人間。他の強者と同じように自分の前に立った閃光も少し力んだだけで風船のように弾ける程度なのだと期待はしていなかった。

 しかしある日、見るからに怪しい姿をした武具商人がガイルズの前に現れ言った。


【あなたが望む存在は近々現れる】


 武具商人のその言葉にガイルズの頭に最初に過ったのは閃光。だがそんな胡散臭い奴の言葉など信じないガイルズは冗談程度に武具商人のその言葉を聞き流した。

 そしてその矢先、戦場で閃光が消息を絶ったという情報を耳にしたガイルズはやはりと期待していなかったはずの閃光に落胆した。

 その直後、敵陣に単独で先行しろという命令がガイルズに下った。そればかりかその敵陣には閃光がいるという情報のおまけつきだった。その情報を耳にして落胆していたはずの心が胸が躍るのを感じたガイルズ。理由は分からない。だが今までにない期待が胸を躍らせる。

 雇い主が自分を邪魔に思っていることは知っていた。自分を抹消する為に敵陣に一人で突っ込ませようという魂胆も理解していた。だがガイルズにとってそんな事はどうでもいいことであった。自分がこれから向かう先に閃光がいる。閃光が自分の力を振うことに値する相手なのか確証はない。だがそれでもガイルズの心は今までにないくらいに躍っていたのだ。

 そして今、自分の期待が裏切られる事無く目の前に存在している事を実感するガイルズ。目の前にいる閃光は強い。そして戦いの中で急速な成長を遂げている。スプリングの強さを前に嬉しさが込み上げてくるガイルズは緊迫した戦いの中で笑みを漏らし続ける。


「さぁ閃光! もっと、もっとお前の強さを見せろ!」


間違いなくこの戦いは自分の人生の中で忘れられないものになると感じるガイルズはガドロワ山へと続く林道の中間地点で歓喜の雄叫びをあげた。

 偶然なのかそれとも必然なのか、自分と対等に渡り合える強者を望んでいた二人は、ここでようやく望んだ宿敵と巡り合ったのであった。



ガイアスの世界


 治癒



ガイルズが持つ自己再生の下位互換に当たるのが治癒。


 基本的には魔物に多くみられる能力であり負った傷を癒す力がある。自然治癒とは違い即座に傷が癒える。

 だが治癒には限度があり植物系の魔物以外は頻繁に治癒の能力は使えない。


魔物に多くみられる能力ではあるが、亜人や獣人の中にも治癒を持つ種族は存在する。だが魔物程の効果は期待できず治癒で傷を癒すのにも多少時間がかかる。だが例外も存在しており、特に夜歩者ナイトウォーカーなどの亜人種の治癒は魔物以上の効果を発揮する。

 稀に人間の中にも治癒の能力を持って生まれる者がいるが、亜人や獣人以上にその効果は薄い。

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