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時を遡て隙間で章 大喰らい進軍

 ガイアスの世界



 アカリフ大陸の価値


 広大な自然と山々に囲まれた大陸アカリフには大量の鉱物資源があると噂されている。その理由は原住民である亜人や獣人がその鉱石を採掘する技術を殆ど持っていないからだと考えられている。

 鉱石を採掘する技術も採掘した鉱石を加工する技術を殆ど持っていない亜人や獣人にとってはアカリフ大陸に胸る鉱物資源は無用の代物なのである。







 時を遡って隙間で章  大喰らい進軍



男が『閃光』に出会う少し前……




 アカリフ大陸は現在、大小様々な争い、戦、戦争が各地で起っている。それは最初、原住民である亜人や獣人による部族同士の争いであったはずだが、気付けばアカリフの大地に土足で上がりこんできた人間達がその争いに加わったことで規模が大きくなっていった。人間が行った事は状況も分からない第三者が当事者の間に割って入って勝手にその場を荒らして回るようなもの、当事者からしてみればいい迷惑であり、即座にその矛先は事情を全く理解しないまま争いに介入した人間に向いた。

 だが人間達はなぜそんな事をしたのか、勿論そこに争いを止めたいなどという聖人君主のような理由があった訳では無い。もしかすればそんな者も人間の中にいたのかもしれないが、大多数の人間はそんな事を考えてはいない。人間が亜人や獣人の争いに介入した理由、それはアカリフ大陸という大地に金の匂いが漂っていたからだ。

 事の発端は、アカリフ大陸に上陸した一人の武器商人であった。彼はアカリフ大陸を一目見て、そこに豊富な鉱山資源があることを見抜いた。

 ごく一部の種族を除いて亜人や特に獣人は人間程、手先が器用ではなく物を作りだすことがあまり得意ではなかった。その為鉱石を利用した武器や防具などを製造する技術を持っておらず、アカリフ大陸にある山々に眠る鉱石資源は手つかずのままになっていた。それを見抜いた武器商人はすぐに人間たちが住む大陸に戻りこの事を伝えた。すると多くの人間たちは、手つかずのアカリフ大陸の資源を狙い傭兵たちを派遣するようになった。これが亜人や獣人の部族同士の争いに人間が介入した理由であった。

 最初人間たちは一部の部族に肩入れをして他の部族を殲滅するという計画で状況を進めていた。アカリフ大陸の部族が一つになれば操るのは簡単だと考えたからだ。しかし自分たちを利用しようとする人間の思惑に気付いた部族は、自分たちに肩入れしていた人間たちを排除した。それを引き金となした人間たちは計画をアカリフ大陸の制圧に切り替え長い戦いが始まった。

 アカリフ大陸に人間が上陸して既に十数年、未だ決着は愚か、日ごとにその戦火は広がっている。

そして更に事をややこしくしているのが、人間側に付く亜人や獣人、逆に亜人や獣人側に付く人間の存在だった。その想いは様々で純粋に亜人や獣人を助けたいと思っている人間や人間側に付くことで古臭い部族間の争いを止めようとする亜人や獣人。ただ鉱石資源によって生まれる利益を独占したいと思う人間、そんな人間を利用しようとする亜人、獣人など様々な思惑が交差する現在のアカリフ大陸は収拾がつかない状況になっていた。

 そんな中、鉱石の埋蔵量がアカリフ大陸一と噂される場所へ人間の傭兵部隊が隊列を成して進軍していた。



― 野営地襲撃から数日後 アカリフ大陸 ガドロワ山に続く山道 ―




『閃光』がいたとされる野営地が襲撃を受け壊滅してから数日後、消滅した野営地から南に位置するガドロワ山には『閃光』がいた傭兵部隊とは別の派閥の傭兵部隊の姿があった。


「おい、ゴンゾの傭兵部隊の駐屯地が全滅したらしいぞ」


 長い列を組み、ガドロワ山に続く山道を進軍する傭兵たち。その列の後方に位置する一人若い傭兵が、隣を歩いていたもう一人の若い傭兵にそう声をかけた。


「え、マジか……でも確かゴンゾの部隊にはあの『閃光』がいたはずじゃないか?」


傭兵仲間がいた傭兵部隊が壊滅したと聞き、驚きの表情を浮かべるもう一人の若い傭兵は、次の瞬間には首を傾げた。


「ああ、光のように戦場を駆け、敵を一瞬にして切り捨てて行く『閃光』……結局の所、よくある尾ヒレ羽ヒレだったってことだろうな……」


 戦場で活躍した者に付く異名や二つ名は、『閃光』で例を挙げるなら、光のような速さで戦場を駆けた、敵を一瞬にして切り捨てた、一人で100人以上の敵を全滅させたなど、その者が成し遂げた偉業やその行動からつけられることが多い。

 しかしそれはあくまで噂でしかない。実際に異名や二つ名のような行動をする者を見たことがあるのは同じ戦場にいた者達だけ。他の戦場で人伝にその異名や二つ名を聞いた者達にとっては、真実か嘘かは実際に会ってみなければ分からないものである。そして噂というものは、人伝に伝わって行く内に誇張されていくことが多い。実際に当の本人を目撃してみれば異名や二つ名、噂程の実力を持っておらず拍子抜けしたなどという話は若い傭兵が言うようによくあることであった。


「まぁ、俺達がその野営地に居なかったことは運が良かったぜ」


「ああ……金貰っても死んじまったら意味がないからな」


国に仕え国を守り国にその命を捧げるといった高い意識を持つ兵士とは違い、金と自分の命が全てである傭兵。戦いの背後にどんな政治的な思惑が渦巻いていたとしても傭兵たちにとっては目の前に積まれた金の方が大事。どこそこの野営地が壊滅したという話を聞いたとしてもそれが自分で無い限り何処か他人事であった。


「ぺちゃくちゃ話している余裕があるなら、自分たちがこれから向かう次の戦場のことでも考えたらどうだ若造達?」


野営地壊滅の話をしていた若い傭兵二人の背後からそう声をかけたのは、長年幾つもの戦場を経験してきたという雰囲気を放つ古参の傭兵であった。


「これから向かうガドロワ山は、話によれば中々にきつい場所だと聞く……お前らみたいに経験が浅い奴らは気が抜けているとすぐに死ぬぞ」


今まで数多くの戦場を経験してきた古参の傭兵は、自分の経験則から今度の戦場が中々に大変な戦場であることを若い傭兵たちに告げた。


「え……それ本当ですか……」


古参の傭兵の有難い助言に対して、表情を引きつらせる若い傭兵。


「えぇぇぇぇ……それ話が違うよ」


顔を引きつらせた若い傭兵の隣にいたもう一人の若い傭兵は、話が違うと絶望したような表情を浮かべる。

 雇い主と契約を結び傭兵は指定された戦地へ向かうというのが基本的な流れだが、それはあくまで契約をした時点での話。戦況は常に変化する為、現地に着いてみれば戦況が変わり実力も支払われる金も見合わない自分が交わした契約とは全くかけ離れた戦地へと送られるということは、傭兵業界では日常茶飯事にあることであった。これは明らかな契約違反であるのだが、雇い主あっての傭兵、契約が違うと突っぱねようものなら、横の繋がりが強い雇い主は、その人物の情報を他の雇い主に流し、これ以降その者が戦場へ出ることが出来ないように仕向けてしまう。それだけならばいいが、あれやこれやと口車に乗せて逆に契約違反だと大きな賠償を負わせる事例も多く賠償を負いたくない者達は逆らうことが出来ないというのが傭兵業界の現状であった。そして特にアカリフ大陸の傭兵の扱いは酷く傭兵業界の中では最も命が軽視され消費される場所となどと言われている。


「……はぁ……それだけならまだしも、どうやらこの列の中には、あの『大喰らい』がいるんだそうだ……なぁ分かるだろ?」


「それって……あの『大喰らい』ですか?」


「あ、あの……戦闘が始まれば敵味方構わず暴れるっていう……」


契約とは違う戦地へ現在進行形で送られ正直絶望している若い傭兵たちは、古参の傭兵が口にした『大喰らい』という言葉に更にその絶望の色を濃くした。


「ああ」


静かに頷く古参の傭兵。

 『大喰らい』。『閃光』と共に、このアカリフ大陸の戦場で一二を争う有名な傭兵の二つ名。だがその二つ名は『閃光』のような輝かしいものではなく、悪名としてアカリフ大陸に轟いていた。

 『大喰らい』の二つ名の由来の一つは、『大喰らい』が愛用する特大剣にある。現在存在する特大剣の中で一番大きいと言われているその得物は、常人一人では持ち上げることも出来ないと言われている。しかしそんな得物を『大喰らい』は軽々と片手で振り回すことができる。おおよそ人間とは思えない筋力を持つ『大喰らい』は戦いの火蓋が切られるとその特大剣を振り回しながら敵側へと突っ込んでいくのだ。その突進力と殲滅力は脅威以外の何物でも無く、『大喰らい』が突き抜けたその場所には押し潰された死体しか残らないと言われている。その光景から敵を喰らい尽くすという意味を持って『大喰らい』という二つ名がついたと言われている。

 だが大喰らいと言うだけあって、『大喰らい』は大食漢だ。喰らい尽くすのは敵だけでは無く、その飢えは仲間の傭兵にも容赦なく向けられるのだ。近くにいた傭兵は問答無用で『大喰らい』の餌になる。これが『大喰らい』の悪名の由縁であった。

 だがそんな悪名が轟いているというのに『大喰らい』は傭兵業界から抹殺されることは無い。なぜならどんな戦場でも『大喰らい』がいれば勝つことができるからだ。約束された勝利の為ならば、他の傭兵の命など軽い。それが『大喰らい』を雇っている雇い主の考えのようであった。

 

「自分達は運がいいとさっきお前たちは言ったが、もし『大喰らい』が俺達と同様にこの列に居て同じ戦場に向かっているならば、『閃光』がいたという野営地よりも悲惨なことになるぞ……」


戦場経験が浅い若い傭兵二人を脅すように『大喰らい』の話をする古参の傭兵。


「まあ、生きて帰りたいならなるべく特大剣を持った奴の側には近づかず戦場の後ろの方にいることをお勧めするよ」


一見若い傭兵たちを脅すような話をする古参の傭兵。しかしその真意は過酷な戦場で生き抜く為の助言であった。


「「は、はい」」


古参の傭兵の助言を真摯に受け止め頷く若い傭兵たち。しかし次の瞬間、古参の傭兵の言葉に真摯に頷いた若い傭兵たちの表情が恐怖に染まった。


「ん? どうし……ああ?」 


古参の傭兵は様子が変わった若い傭兵たちに声をかけた。すると突然天気が悪くなったかのように古参の傭兵の周囲が暗くなる。


「なーに?」


軽い調子の男の声と共に、古参の傭兵の右横から突然現れた丸太のような太い腕。


「俺の話している?」


突然現れた丸太のような太い腕は大蛇のように古参の傭兵の右肩に纏わりつくと、左肩からニコリと笑みを浮かべた男の顔が現れた。

 気の抜けたような軽い調子の声。だがその声の印象とは真逆の大男がそこにはいた。隊列を組み歩く傭兵たちの頭二個分は大きいその男は、まるで覆いかぶさるように古参の傭兵に体を預けると顔を引きつらせ今にもその場から逃げ出しそうな若い傭兵たちに声をかけた。


「なッ!」


突然肩を組まれた古参の傭兵は、自分の肩に乗った男の腕を剥がそうとする。


「うぐぅぅ!」


だが男の腕は古参の傭兵の力ではびくともしない。


「ダメだよ、そんな変な噂を教えちゃ、俺は仲間想いのいい傭兵だよ」


古参の傭兵が口にしていた『大喰らい』の悪評を否定する男。


「だから君達も俺と一緒にバンバン前に出て、戦果を挙げて報酬一杯貰おうぜ!」


その言葉だけならば傭兵にとってはとても前向きな発言に聞こえる。しかしそう口にした人物が誰だかを理解した若い傭兵たちには前向きな発言には聞こえない。


「この、クソ、ええいその腕をどけろ!」


押しても引いても一向に動かない腕に苦戦する古参の傭兵。


「それじゃ前線で会おうぜ!」


そう言いながら古参の傭兵の肩から自分の腕を離した男は踵を返し、自分の列へと戻って行く。


「うおっ!」


突然男が自分の肩から腕を離したことによって、腕を剥がそうと押したり引いたりしていたその力が行き場を失い、その勢いで盛大にスッ転げる古参の傭兵。


「ぐぬぬぬぬぬぬ、きさ、きさまぁぁぁぁあ……?」


若い傭兵の目の前で無様な姿を晒し自尊心を傷つけられた古参の傭兵は、すぐに立ち上がると自分にこんな仕打ちをした男の姿を追うように振り返った。だがその瞬間、勢いのあった声がしぼんでいく。


「あ、あれは……『大喰らい』……ハッ!」


思わずそう口にしてしまった古参の傭兵は自分の声を遮るように両手で口を塞いだ。

 そこには人間よりも大きな特大剣を背負った男、一目で自分たちが噂をしていた『大喰らい』がいた。


「……」「……」「……」


これから起こる戦場での悲惨な状況を想像する三人は言葉を失う。


「「「「…………………………………………………………………………………………………」」」」


だが悲惨な状況を想像していたのはこの三人だけでは無い。彼らの一部始終を見ていた周りの傭兵たちも同じく『大喰らい』の存在に絶望を抱いきその場はまるで葬式のように静まり返っていた。

 だがガドロワ山へ向け進軍する傭兵たちの不運はこれだけに留まらない。彼らにとって今回の敵側の中に『大喰らい』とは別の意味で敵に回してはいけいない厄介な存在が混じっていたからであった。



ガイアスの世界


 傭兵業界の事情


戦う力さえあれば稼ぐことが出来る傭兵という職業。戦闘職という制度が出来てからは更に活気づいた業界だが、現在は戦争が減り低迷時代に入っている。

 しかし争いは絶対に消えない。低迷していると言っても未だ大小に限らずガイアス各地では戦争は存在している。

 そしてなにより傭兵業界が今一番注目しているのが亜人や獣人が住むアカリフ大陸である。人間はアカリフ大陸が持つ豊富な鉱物資源を獲得する為に傭兵を送りこんでいるようだ。

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