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もう少し真面目で章(スプリング編)10 恐怖との対峙

ガイアスの世界


 創造主とビショップの関係


 ビショップと創造主の間には様々な関係性が見られる。まず一番に上がるのが殺した側と殺された側。しかしこれはあくまで他の伝説武具ロストウェポンの視点であり、それが事実なのかは定かでは無い。

 次に二人の立場が対等であること。作った側と作られた側であるにも関わらず二人の会話には遠慮が無い。他の伝説武具ロストウェポンとは違いビショップは創造主の事を崇拝している訳でも崇めているわけでも無く、その言葉に一切の遠慮は見られない。

 最後に互いに同じ方向で物事を見ているようだが、多少のズレ、考えの違いのような物があるように感じられる。

 どちらにしても両者共に思わせぶりな発言が多く、そこは流石作った側と作られた側、似ていると言えるだろう。

 





もう少し真面目で章(スプリング編)10 恐怖との対峙




剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




 時に激しく時に幼子のようにユモ村に響き渡ったスプリングの叫びは、日が顔を出し始めた明け方まで続き、力尽きるようにようやく収まりを見せた。傍らでスプリングを見守ることしか出来なかったポーンにとっては永遠に続くかもしれないと思える程に長く辛い時間、一日であった。特に終盤のスプリングの様子は酷く、思わず目を逸らしたくなるような光景が続いた。

 何かに恐怖し抗おうとしていたスプリングは、喉が枯れて尚、声にならない声で叫び続け暴れ吐血した。迫りくる恐怖にどうしていいか分からずスプリングは叫び続けながらベッドを破壊し壁に頭を打ち付け、テーブルを拳で叩き割り暴れまわった。手足は傷つき体中が血塗れになり吐血しても尚、自分の体の痛みなどお構いなしに暴れ続け叫び続けたスプリングは、突然まるで操り人形の糸が切れたように力尽き倒れ込んだのだ。

 だがユモ村は何事も無いというように日常を続けていた。普通ならば村中に響き渡る叫び声と破壊音を耳にすれば、怖くとも誰かしらがその様子を見に来るものである。しかし一晩中暴れ続け叫び続けたスプリングの様子を見に来た者は誰一人としておらず、村民は日々の生活を続けていたのである。その状況、光景は不自然としか言いようがない。まるでスプリング一人が別の場所にいるようなそんな感じさえあった。

 だがこの不自然さには訳がある。その訳とはこの村を支配する存在、自我を持つ伝説の本ビショップの能力の一つにあった。

 ビショップが持つ能力、人心掌握ハートブレイク。この能力は対象となる人物の心に入りこみその対象が最も欲している感情、あるいは最も拒絶しようとする感情を刺激することでその行動、または記憶を操作する能力。この能力を使うことでビショップはユモ村の村民たち全ての心を支配したのだ。

 それは全て自分の所有者である少年の為。少年を心地よく眠らせるという目的の為であった。ビショップは自分達がこのユモ村にいても何ら不自然では無いと思わせる為に村民たちの心をわざわざ支配したのである。そしてビショップは自分たちや村民たちにとって不都合になる事を認識させないようにもした。一晩中叫び続けていたスプリングの行動に村民たちが一切反応しなかったのはそれが理由である。

 

『……主殿』


同胞であり、自分を作りだした創造主を殺した仇でもあるビショップの能力、人心掌握ハートブレイクの存在を知っていたポーンは、何かに怯えその恐怖に抗おうと叫び暴れ続けそして力尽きたスプリングを見た。

 一晩中何かの恐怖から逃れようと叫び暴れ続けたスプリングの姿は血塗れで痛々しい。しかしその見た目とは違い、命に関わるような大きな外傷がないことにポーンは一旦安堵する。


『……ここからだ』


だが一旦安堵はしたものの、その声には未だ不安が残る。いやむしろここからが本番というようにポーンはこれから起こる事を案じ自身の心を引き締めてさえいるようにも聞こえる。

 問題なのは肉体よりも精神。叫んだり暴れたりしているうちはまだ恐怖に対して肉体で抵抗が出来ている証拠。しかし問題になってくるのは、心身が共に疲弊した時。力尽き肉体で恐怖に抗うことが出来なくなった時。精神のみで恐怖に対峙し抗わなければならなくなった時が一番危うい状態だとポーンは考えていた。


『……ここからが山場だぞ、主殿……奴の人心掌握ハートブレイクに打ち勝つんだ』


我を失い発狂し暴れまわる程の突然の恐怖。スプリングの身に起きた事の原因はビシッョプが持つ人心掌握ハートブレイクによる影響にあった。しかしスプリングが受けているものは村民と性質が異なっていた。

 村民は幸福によって心を支配されたが、スプリングはそれとは真逆の性質、恐怖によるものであった。だがスプリングはユモ村の村民のように完全に心を支配された訳では無い。現状辛うじてではあるがスプリングはビショップに心を支配されずに踏ん張っている状態にある。

 それは幸いにも日々の鍛錬や過酷な戦場を生き抜いてきたその経験がスプリングの精神耐性を強くしていたからであった。だがその耐性も完全とは言えない。着実にビショップの人心掌握ハートブレイクはまるで毒のようにスプリングの心を恐怖で蝕んでいる。僅かなきっかけで即座にスプリングの心は恐怖に折れてしまう状態にあると言ってもいい状態にあった。

 だがもしこの恐怖に耐え抜くことが出来れば、スプリングの恐怖への精神耐性は高まる。はずであると思うポーン。確かな確証は無い。このまま恐怖に呑まれスプリングが廃人になってもおかしくは無い。だが今のポーンにはそう信じる他無い。自我を持つ伝説の武器と言われようとも、人の傷を癒す事が出来ようとも国一つ簡単に滅ぼす力を持つポーンであっても、人の心をどうにか出来る力は餅わせていないのだ。こればかりはスプリング自身が乗り越えなければならないこと。心の奥にある問題は他人がどうこうできるものでは無く結局本人自身が解決しなければならないことなのである。だがそれでもポーンは思う。なぜ自分はここまで無力なのかと。なぜ自分の所有者を支えることが出来ないのかと。

 苦悶の表情を見せ始めたスプリングに対して静かに鼓舞することでしか支えることが出来ない自分をポーンは歯がゆく思うのであった。




 それは隅々まで頭と心に刻まれた光景だった。カーテンに身を隠しその隙間から俺は部屋を見つめる。部屋は炎に包まれていた。燃え上がる炎は熱く酸素を奪い息をするのも辛い。俺は今にも恐怖から声を上げたくなる衝動にかられるが、前に立つ母さんの背中がその衝動を抑えてくれていた。

 頼もしい背中。だがそれは幼かった自分が見ていた時に感じたもの。今では気丈に振る舞っているように見えるが肩が震え、心なしか頼りなくも見える。でも幼かった自分にとっては何よりも頼りになる背中だった。

 だが俺は知っている。この先その背中が鮮血で染まることを。炎の中、鮮血に染まったその背中が目の前で倒れることを。

 これは戒めだ。何度も夢で繰り返し見ることであの時に抱いた気持ちを忘れないようにするための戒めなのだと、毎日、目覚める度に俺はそう心に刻んだ。

 俺は母さんや父さんを殺した奴を絶対に許さない、必ず復讐すると誓ったんだ。



― お前は本当に復讐を望んでいるのか? ―


ああ、望んでいる……


― ならなぜあの時の事を夢で見なくなった ―


それは……


― お前の中から復讐という想いが薄まっているからじゃないのか? ―


違う! そんなことは無い!


― お前の中で復讐の為の手段であった『剣聖』が何時の頃からか目的、憧れに変わってしまったからじゃないのか? ―


違う! 俺は復讐する為に『剣聖』になるとあの日、誓ったんだ!


― 本当にそうか? お前は憧れただけじゃないのか? 復讐になどでは無く自分の前を行くあの『剣聖』と同じような存在になりたいと思ったからじゃないのか? ―


違う違う違う!



― ……そこまで否定するのならそれを俺に示してみろ、復讐の為に生き、無駄に命を散らしそれを糧にして己を研ぎ澄まして来たあの日々のように、俺にお前の復讐の意思をみせてみろ ― 


俺は……俺は……


― 思い出せ……毎夜毎夜両親が死んだ悪夢を見続け心を鋭利に研がらせ死の漂う戦場を駆け抜けていた頃を……恐怖を抱かなかったあの頃の事を ―


あの頃……俺は……



 目の前に広がるのは死。まるで人形がちぎれていくように命が簡単に散って行く戦場。泥を啜り、死体を掻き分け生き残り続ける日々。やがて味覚は血の味で染まり鼻から感じる臭いは常に死臭で満たされる。景色は色を失い全てが灰色に染まる。それでも血だけは色濃くはっきりとその色を滲ませる地獄のような日々。そこにスプリング=イライヤは確かにいた。


 あの日、フルード大陸にある森人エルフの住まう村を抜け出してからスプリングは、他の大陸に渡り様々な戦場を傭兵として転々としていた。

 スプリングにとって戦場は己の力を高める為の訓練の場であった。はずであった。しかしその考えが間違いであった事をスプリングは知る。

 戦場では等しく命は軽い。先程まで一緒に談笑していた仲間が次の瞬間にはただの肉の塊になる。吹き飛んだ四肢、頭の無い胴体。顔が半分無い仲間。そんな光景は日常茶飯事。戦場は己の技量を高める所などでは無く、ただただ命が消えていく場所でしか無かった。

 それを知って尚、スプリングが戦場から離れなかったのは、自分の目的、復讐を果たす為であった。スプリングにとってそれだけが唯一の心の支えであった。数多くの死を前に自分の命すら軽いものであると錯覚させる戦場。それでも復讐の為に生き残ろうと足掻き続け強さを求めたスプリングの足はより激しい戦場を求め彷徨っていた。



 ガイアスの世界


 現在のガイアスの戦乱状況


 魔族と人類の争いやヒトクイ統一戦争の時代に比べれば、スプリングが傭兵をしていた頃は比較的平和な時代と言ってもいい。だがそれはあくまで比較的であり戦争自体の数は減りはしたが、ムハード大陸のように戦争の燻りを見せる場所は常にとこかしらに存在していたようだ。

 

 


 

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