時を遡るで章(スプリング編)1 肉親との別れ、師弟の出会い
ガイアスの世界
前書きと後書き
皆さんお久しぶりです、山田ですどうにか生きてます。
突然ではありますが、この回から章が変わるということでご挨拶をしたいと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございます、皆さまのお蔭でここまでやってまいりました。毎回書いていることですが、これまた大風呂敷を広げ過ぎた感があり、どうにも収集がつかなくなっている状態であります、はい。
広げ過ぎて過去に書いた物語と全く辻褄が合わなくなっておりましてね、どうやって繋げていくかで悪戦苦闘の日々です。それに加え私用で満足に書けない状況も多々……あ、まあこれはただの言い訳ですね、しっかり書けるようがんばります(誤字脱字は温かい目で……)
昨今、色々と大変ですが私はどうにか踏ん張っております。読んでくださっている方々もどうかお体には気を付けてください(お前何様だよ)
それでは、またいずれ~
2020年 11月19日(木) 某YouTubeにハマりながら……
時を遡るで章(スプリング編)1 肉親との別れ、師弟の出会い
青年が子供だった頃、自我を持つ伝説の武器と出会う前……
視界いっぱいに広がる銀世界。どこまでも続く雪の大地は、フルード大陸を連想させる。しかし極寒な大陸フルードに酷似している光景が広がっているが、そこは小さな島国の頭、通称ヒトクイの頭と言われる、ヒトクイの最北端、極北と呼ばれる場所であった。
極北はヒトクイの首都ガウルドよりも広大な面積を持つが、統一されて尚、未だ人の手が殆ど入っていない未開の地であった。とは言え、極北で未開の地と言われているのは、本当の最北端側であり、本土に近い地域には村や町などが存在している。ただ過酷な環境の影響で開発や整備が進んでおらず気軽に向かえる場所ではない。
そんな過酷な場所であっても極北へと向かう者達はいる。その理由や目的は魔物の討伐任務であったり己の技量を高める為だったり極北に眠るお宝を求めてなど様々でその殆どが冒険者や戦闘職ばかりだ。その他に統一戦争の時、戦犯となった者達の何人かが極北へ追放されたという噂もあったりはするがその噂は定かでは無い。
そんな過酷な土地でスプリング=イライヤは生を受けた。両親と共に三人で幸せな暮らしをしていた。あの日が来るまでは。
― ヒトクイ 極北 村から少し離れた屋敷 ―
近くの村から少し離れた場所にある屋敷。幼いスプリングはそこで両親と共に三人で生活していた。
裕福でも無ければ貧しくも無い生活、厳しい環境ではあるものの、平穏な日々は家族三人にとってとても幸せな日々であった。その幸せを象徴する三人が暮らす屋敷。だがその幸せは突如として崩れ去った。極北では日常である雪がシンシンと降りだした日、三人が暮らす屋敷は炎に包まれていた。
「母さん、スプリング、早く逃げるんだ!」
突然、屋敷内に響き渡るスプリングの父親の声。次の瞬間には剣戟の音が屋敷内に響き渡る。
「ゴホゴホ……スプリング、逃げるわよ」
既に火の手が屋敷中に周り黒い煙が視界を遮る中、唯一まだ火の手が殆ど届いていない部屋に訳の分からないまま母親に手を握られ飛び込んでいくスプリング。部屋に入ると即座に扉を閉めたスプリングの母親は我子を守る為、スプリングを自分の背後に隠す。普段優しく柔らかい表情を浮かべているスプリングの母親は、スプリングが見たことも無い険しい表情を浮かべながら鋭い視線を部屋の扉に向けた。
扉の外で響く剣戟の音はしばらく続いた。その音の響きからだけではどちらが優勢なのか分からず、スプリングの母親の表情には不安の色が見える。
「うぁあああああ!」
すると突如土肥らの外から二人の見知った声が扉の外に響く。
「……くぅ……」
その声が自分の夫のものであると理解したスプリングの母親は、扉を再度睨みつけるとそのままスプリングを抱き抱え部屋の奥へと向かった。スプリングは何が起こっているのか理解できず今にも泣きだしそうな表情を浮かべ怖い表情を浮かべる母親を見つめる。
「……少しの間、ここに……隠れていなさい、何があっても声を出しちゃ駄目、泣いては駄目よ」
他の部屋に比べ比較的火の勢いが弱いその部屋の奥、窓際へ移動したスプリングの母親は、抱き抱えていたスプリングを床に下ろし忠告すると窓脇で揺れる白いカーテンでスプリングの姿を隠した。母親の忠告を忠実に守るスプリングは、白いカーテンの隙間から母親の背中をじっと見つめる。二階へと続く階段を上がる足音が響く。自分の存在を知らせるように悪戯に大きく響かせているその足音は、スプリング達が隠れている部屋の前で止まった。少し間が空いた後、扉を蹴り破る音が響く。黒煙と共にゆっくりと姿を現す大きさの違う剣を両手に持った黒ずくめの男は、スプリングの母親を見つめた。
「……何が目的なの」
静かにだが確かに怒りを込めた声でスプリングの母親は、前に現れた黒ずくめの男にそう言うと両手を黒ずくめの男に向けた。
「……」
しかし黒ずくめの男はスプリングの母親の問には答えない。その代わりとでも言うようにスプリングの母親の前に何かを投げた。
「ッ! ……」
スプリングの母親の前に転がったのは、大量の血が付着した髪の束。
「おまえぇぇぇぇぇ!」
それを見るなり内に秘めていた怒りを爆発させるスプリングの母親。カーテンの隙間から見ていたスプリングは聞いたことの無い母親の怒りの声に肩が跳ねた。
「許さない!」
怒りを露わにするスプリングの母親は、自分の前に投げられた血の付いた髪の束が何を意味しているのか理解しているようで突き出した両手に青い光を纏わせた。しかしスプリングの母親が両手を青く光らせ何かしようとした瞬間、幼いスプリングの動体視力では追うことの出来ない速度で、黒ずくめの男は距離を詰める。
「ごふぅッ」
「……ッ!」
それは一瞬だった。何が起こったのか分からないという表情を浮かべながら吐血するスプリングの母親。黒ずくめの男が持つ長い剣がスプリングの母親の胸を貫いていた。目の前で刺された自分の母親の姿に思わず声を上げそうになるスプリングは両手で自分の口を塞ぐ。
「こぅのぉおおおおおお!」
自分の状態を把握したスプリングの母親は、至近距離の黒ずくめの男を更に睨みつけながら叫ぶと未だ光を失っていない青く光る両手で黒ずくめの男を掴もうとする。だがスプリングの母親が体を掴むより先に黒ずくめの男はスプリングの母親の胸に突き刺した刺した剣を切り上げた。スプリングの母親の胸から左肩へかけて噴水のように噴き出す鮮血。
「はぁ……ぐぅ!」
スプリングの母親から噴き出した鮮血は、スプリングが身を隠していたカーテンにふきかかり一瞬にして白いカーテンは赤く染まっていく。パタパタと血しぶきがカーテンにふりかかった音やその振動が自分の体に伝わり再び声をあげそうになるスプリング。だがそれでも母親の忠告を守るように自分の中から湧き上がる恐怖を押さえつけるようにスプリングは声を寸での所で押し殺した。行き場を失った恐怖は声の代わりと言わんばかりにゆっくりと崩れ落ちる母親の背中を見つめるスプリングの目から大量の涙を溢れださせた。
「……」
倒れたスプリングの母親を一瞥した黒ずくめの男は何かを探すように周囲を見渡す。その視線は血に染まったカーテンに向けられる。
「……ッ!」
黒ずくめの男と目があったように思ったスプリングは、呼吸が出来ないほどに体を強張らせた。
「ぐぅッ」
スプリングは目の前に迫る恐怖から逃げるように目を閉じる。それで事態が好転する訳では無いが、この状況でスプリングが出来ることと言えば、目を閉じ少しでも恐怖から逃れることだけだ。
「……水流弾(ウォーターショット!) 」
その時、スプリングの耳に弱々しくも強い意思を持った声が響く。その言葉が何を意味しているのかまでは理解できないスプリングだったが、その言葉を発したのが自分の母親であることは理解したスプリングは目を見開く。
目を見開いたスプリングの視界に写ったのは大きな水の球体が黒ずくめの男を吹き飛ばす瞬間だった。
黒ずくめの男は水の球体の威力で部屋の扉を越え別の部屋まで吹き飛ばされ炎に呑まれていった。
「は、はぁ……はぁ……」
肩で息をしながら立ち上がるスプリングの母親。真っ赤に染まった体を押し体を震わせ自分を見つめるスプリングに近づく母親。
「す、スプリング……」
水の球体の影響でスプリングと母親がいる部屋まで回っていた火はその威力を弱らせていた。しかしそれも時間の問題、直ぐに部屋を燃やしていた火はその威力を取り戻し始める。
「おか……」
「うぅぅぅああああああ!」
すぐそこまで迫った火の手にスプリングの母親は、最後の力を振り絞るように恐怖から立ち上がることも出来ないスプリングの体を抱き抱えた。
「……ごふぅ……あっ……はぁはぁ……ふふふ……大きくなったね……お母さんもうスプリングのこと抱っこできそうにないや」
吐血しながらスプリングの母親は普段の優しい笑顔をスプリングに向ける。
「……」
その顔を見てスプリングは、幼くありながら母親との別れが近い事を察し顔をしかめる。目からは大量の涙が溢れだしていた。
「はぁはぁ……窓から……飛び降りるのよ……ゴフッゴホ……二階だから……少し高いけれどきっと雪がクッションになってくれる」
そう言いながら母親はスプリングの体を窓へと近づける。
「……か……あさん……」
「ごめんね、スプリング……」
そう言いながら血の付いた手でスプリングの額を摩る母親。
「よく聞いてスプリング……例えどんな事が起ろうとも……決して諦めては駄目……諦めた時点で可能性は逃げていくわ……だから諦めず、そしていつでも可能性を引き寄せられるように、油断しては駄目よ……スプリング……」
優しく柔らかな笑みを浮かべるスプリングの母親。背に炎が迫っているというのにスプリングの母親は、優しさに満ち溢れた表情でそう言葉を言い残すとスプリングを二階の窓から突き落とした。
「生きて……」
落下する自分の息子に対して、声にならない声で本当の最後の言葉を送ったスプリング。
「ッ!」
二階から落下する間際、自分を優しく見つめる母親の背後には黒ずくめの男の姿があった。黒ずくめの男は母親の背に向け短い剣を突き立てようとしている。
「かあさぁぁァァァァァぁ!」
まるで時が鈍くなったように感じるスプリングは必至で叫ぶ。しかしその声が届く前に勢いを増した火がスプリングの母親と黒ずくめの男を呑み込んでいった。
― 極北 村近く イライヤ家 屋敷跡 ―
「くっ……」
燃える屋敷を前に悔しそうな表情を浮かべる男。
「何があった」
燃える屋敷に向けそう呟いた男、その姿は今まで長い旅を続けてきた冒険者のように見える。背中に一本、腰に一本剣を携えている所から、戦闘職は剣士である男の名は、インセント=デンセル、剣士ならば誰も一度はその高みを目指す『剣聖』の一人であった。
ヒトクイ統一戦争当時、後にヒトクイを統一し王の玉座に座るヒラキが率いた軍に所属していたインセントは、ヒトクイ統一後、王である前に親友であったヒラキや国へ引き留めようとする者達の言葉を無視して、『剣聖』の道を更に高めるべく世界を巡る旅に出た。
それから十数年、ガイアスのあちこちを旅したインセントは、久々に故郷であるヒトクイへ戻ると、ヒラキ王がいる首都ガウルドには向かわず統一戦争当時の想い人、いや友人へ会いに行くべくヒトクイの頭、極北へと直行した。
友人が住んでいる場所の近くにある村に辿りついたインセントは、村人に友人の家を訪ねた。村人は一瞬怪訝な表情を浮かべるとインセントにその友人が住んでいる場所をその指差した。すると村人が指差した方角には黒煙が上がっていた。何か胸騒ぎを感じたインセントは村人に礼を言う事無くその場から飛び出すと黒煙の上がる方へと走った。黒煙が昇るその場所に辿りついたインセントが目にしたのは火に包まれた友人が住む屋敷であった。
「イライヤ……」
燃える屋敷の持ち主の苗字を茫然とした表情で口にするインセント。友人の屋敷が燃えていることに驚きを隠しきれないインセントは、周囲を見渡し友人や友人の家族が無事に逃げていないか人影を探す。しかし周囲には友人は愚かその家族の姿も見当たらない。
屋敷に友人が居ないことを祈りながらもインセントは、どうにかして屋敷を燃やす火を消す方法が無いか考えた。
周囲には川も無ければ井戸も無くあるのは雪だけ。そもそも水があったとしてもインセント一人では焼け石に水。どうにもならない。
「雪……」
どうにもならないと思った時、インセントの視界に大量の雪が映る。水は無いが腐る程雪があると思ったインセントは背中の剣に手をかけた。
巷で剛の『剣聖』と呼ばれていたインセントは、その言葉通り筋力に物を言わせた力技を得意としていた。その腕力を生かし周囲一面に腐るほど積もっている雪を屋敷に吹き飛ばせば燃える火を消火できるのではないかと考えたのだ。普通ならば馬鹿な考えと笑われてもおかしくないその方法。しかしインセントならばそれが可能であった。それ程までにインセントの腕力は人間離れしているのだ。
しかしこの方法には問題があった。確かにインセントの腕力であれば目の前で燃える屋敷の火を消し去ることは可能。しかしその影響は火を消火するだけには留まらないのだ。インセントが腕力に物言わせ剣圧で雪を屋敷に向かって吹き飛ばせば確かに火は消える。しかしその威力は屋敷にも影響を与え、下手すれば屋敷事吹き飛ばす可能性があったのだ。もしまだ中に人が居れば、インセントの剣圧の威力によって屋敷の中にいる者にも被害が及ぶことになる。背中に担いでいた剣に手をかけたものの、その結論に達したインセントはその剣を抜くことは無かった。
「かあさぁぁぁぁ!」
「……ん?」
何も出来ずただ燃え朽ち果てるのを見ているしか出来ないインセントの耳に子供の声が響く。次の瞬間、雪に落下したのかドサっと雪が鳴る音が響く。
「……子供……」
子供の声がした方に視線を向けるインセント。そこには煤と血が体中に付着した子供の姿があった。その見た目に反して大きな怪我はしていない子供はすぐに立ち上がった。
「母さぁぁぁぁぁぁん! 父さぁぁぁぁぁぁん!」
燃える屋敷に向かって叫ぶ子供。その声は燃える屋敷の音でかき消されていく。
「……」
次の瞬間、何の躊躇も無く燃える屋敷に向かって走り出す子供。
「チィ馬鹿が!」
そう言いながら子供の後を追うインセント。雪に足をとられ上手く走れない少年に追いつくのは簡単だった。インセントは燃える屋敷へ突っ込もうとする少年の首根っ子を掴んだ。
「……小僧、離れるぞ!」
そう告げるとインセントは首根っ子を掴んだ少年を燃える屋敷から遠ざけた。
「離せ! 中に母さんと父さんがぁぁぁぁ!」
自分の首根っ子を掴まれてもお構いなしに暴れ叫ぶ子供。所詮子供の力、インセントは暴れられても子供を逃さない自信があった。だが普段から子供の扱いに慣れていないインセントは思わず暴れるその子供を雪が積もった地面へと叩きつけそして押さえつけてしまった。
「くそ、あいつ……あいつが……ッ!」
「……」
押さえつけられて尚、抵抗し屋敷を目指そうとする子供のその言葉は、自分の父親や母親を助けたいと思っている言葉には聞こえず何者かを指した言葉だった。押さえつける子供のその言葉でインセントは屋敷が燃えているのがただの火事では無いことを悟る。
「……くそ、母さん……父さん……僕が……」
雪に押し付けた子供の言葉が弱々しくなっていく。子供の顔色は見る見るうちに青くなっていく。
「……」
今この手を離せば両親を助けようとこの子供は燃える屋敷に向かって走って行くと思ったインセントは、その手を緩めることは無かった。だがインセントが子供を押え続けたのはそれだけでは無い。子供が放った言動と燃える屋敷を見つめるその瞳。子供とは思えない暗い眼光を放っているその瞳にインセントは、復讐の色を見た。今手を離せばあの屋敷にいるかもしれない何者かに確実にこの子供は殺されることになる。そう思ったインセントは友人の面影を残すその子供から手を離すことはしなかった。
ガイアスの世界
インセントの腕力
インセントの強さは当然『剣聖』という立場に集約される。しかしインセントの強さの理由は『剣聖』だからというだけでは無い。
その理由は腕力。単純にインセントの筋力は常人より遥かに高いのだ。それはインセント自身による才能なのか、それとも別の要因があるのか今の段階では分かっていない。




