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もう少し真面目で章(スプリング編)7 お茶会の結末

ガイアスの世界


 スプリングの出身地


  本人の様子やビショップの言葉から、スプリングは幼い時期ヒトクイの極北で生活をしていたようだ。

  ヒトクイの極北はフルード大陸程ではないにしろ、冬になれば厳しい環境になる場所である。北側極北と呼ばれる場所は、ヒトクイで罪を犯した者達を流す流刑地とされているようででもあるようで、町や村は殆どない。そんな場所になぜ幼少時代のスプリングがいたのかは不明である。




 もう少し真面目で章(スプリング編)7 お茶会の結末




剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




 ― 十年前 ヒトクイ 極北 ―



 吹雪によって視界一面が白に包まれる中、その吹雪を燃やし尽くすように突然炎が現れ吹雪の中にあった屋敷を赤く包み込んだ。


「母さぁぁぁぁぁぁん! 父さぁぁぁぁぁん」


燃える屋敷に向かって両親を呼ぶ少年。しかし少年の声は吹雪と炎によって両親には愚かその両親が居るだろう燃える屋敷には届かない。


「小僧、離れるぞ!」


体格のいい大柄の男が燃える屋敷に向かって走り出した少年の首根っ子を掴む。


「離させ! 中に母さんと父さんがぁぁぁぁ!」


首根っ子を掴まれた少年は、頬を伝う涙が一瞬にして凍り肌に張り付くのもお構いなしに叫び暴れ体格のいい大柄の男から逃れようとする。しかし十歳かそこらの少年の力では体格のいい大柄の男の手から逃れることは出来ず、最後には積もった雪に押し付けられた。


「くそ、あいつ……あいつが……ッ!」


雪の冷たさで体温が奪われみるみるうちに青くなっていく少年の顔。しかし年端もいかない子供のものとは思えない鋭く暗い眼光は燃える屋敷に向けられていた。


「こ……! ぞう……!」


体を押さえつける男の声が耳に入る少年。しかしその声などどうでもいい少年は、燃え続ける屋敷内の何かを睨みつけていた。


『あ……どの! 主殿ッ!』



― 現在 ユモ村 広場 ― 



 今まで吹雪と炎の音以外他には何も聞こえていなかったスプリングは、突然耳に響いた自分を呼ぶポーンの声に顔を上げ周囲を見渡した。


「……」


ユモ村の村長の屋敷から少し離れた場所、村の広場に自分が居ることに気付いたスプリングの耳に今まで聞こえていなかった談笑する村民たちの声が届き始める。


「……あ、ああ……」


今まで自分の意識が過去にあったことを理解したスプリングは、我に返ったように遅れてポーンに返事をした。


『……心ここにあらず……と言った感じだな主殿』


屋敷を出てから一点だけを見つめただ真っ直ぐに歩いていたスプリングの様子をそう言い現すポーン。


「あ、ああ……悪い……奴の話を聞いていたら昔の事を思いだした……」


 見渡す限りの雪原。それはスプリングが幼い頃によく目にしていた光景だった。しかしその光景は赤い炎の色に食いつぶされていく。吹雪舞う中燃える屋敷。吹雪と炎以外、何も聞こえない音。その光景と音はまだ幼いスプリングに復讐を決意させる光景となった。


『主殿が『剣聖』を目指した動機は大体理解しているつもりだ……それに関して私は何も言うことは無い……』


スプリングが『剣聖』を目指す動機。それが光輝くものでは無く、普通なら決して共感できるようなものてばない事を知っているポーン。しかしそれでも尚、ポーンはスプリングの意思を尊重していた。


『しかし、しかしだ主殿………例え主殿の願いぶったとしても奴との取引だけは認めるわけにはいかない』


 『剣聖』を目指す動機自体に口を挟む気が無いポーンではあったが、自分にも曲げられない信念があるポーンは先程見せたスプリングの行動に納得できない様子であった。

 それはビショップが開いたお茶会でのことであった。



― 十五分程前 ユモ村 村長屋敷 ―



『な、何を口にするかと思えば! 戯言を言うなビショップ!』


ビショップの所有者らしき少年が眠る寝室にポーンの怒号が響く。


『戯言なんかじゃないよポーン、私は本気だ。本気で私の下にスプリング君に来て欲しいと思っている……だから私は自分の能力を使ってスプリング君が欲している情報を手に入れた』


今までのような漂々としたものでは無く真面目な声色でビショップはポーンにそう告げた。


『……』


その声色からビショップの言葉が本気であることを察したポーン言葉が出ずは黙りこんだ。


『……と言う訳でスプリング君、私の下に、いや坊ちゃんの仲間になってくれないかい? そうすれば君が探し求めていた情報を教えよう』


ポーンを黙らせることに成功したビショップは邪魔者が居なくなったとばかりに再び漂々とした声色でスプリングに取引を持ちかけた。


「……証拠は? ……お前のその情報が正しいという証拠をみせろ……」


『主殿……』


まるで挑発するようなビショップの言葉。普段のスプリングならば頭に血が昇っていたことだろう。ビショップが口にした言葉にはスプリングにとって重要な内容が含まれていた。スプリングにとってビショップが持っている情報は喉から手が出る程に欲しいものであることを理解しているポーンは、想像以上に冷静なスプリングに驚き思わず声を漏らしてしまった。


『……証拠……ですか? ……困りましたね、あなたが幼い頃に見たあの光景を私が言葉にしただけでは証拠になりませんか?』


「……取引には信頼関係が必要だろ……ならもう一つや二つ話せよ。そうだな、一体俺に何が起こったか話してみろよ」


どうしてビショップが自分を欲しがるのかその理由までは分からないが、状況的に自分が優位にいると判断したスプリングは強気に出た。


『ははは、そうやって情報を少しでも私から絞りとるおつもりですね……ふふふ、良いでしょう、お話しますよ……あなたはクローゼットの中で二本の剣で切り刻まれる母親を目撃した……その者はまるで、けん……おっとここまでにしましょう……これ以上は取引が成立してからです……どうですか信じていただけましたか?』


わざとらしく口を滑らせわざとらしく慌てるビショップは、そう言うとスプリングの様子を伺うように黙りこんだ。


「……お前の能力が本物だと言うことは分かった……」


ビショップが口にした内容は確かにスプリングが記憶している光景と合致している。ビショップの能力が本物だということは認めざるを得ないと思うスプリング。


『ならば!』


納得したようなスプリングの言葉に歓喜の声を上げるビショップ。


「だかもう一つ聞きたい……なぜあんたは俺を欲する?」


ビショップの能力が本物であるとわかったスプリングは、次に何故自分を欲するのかを尋ねた。なぜなら目の前にいるビショップは世界を壊すことができる力を持っているからだ。それだけの力があれば今さら仲間や手駒と言った存在は必要ないはず、それにも関わらずビショップはそれを欲している。スプリングはその真意が気になっていた。


『それは……坊ちゃんの身を守って頂く為です』


「……どういうことだ?」


 自我を持つ伝説の武具の中でも最強の能力を持つと言われ、その力は世界を壊すとまで言われているビシッョプの発言とは思えない答えに首を傾げるスプリング。更にその疑問を深める存在がビショップの横で緊張感なく寝息をたて眠っている少年だ。眠っていて全容は定かではないが、明らかに少年から発せられる気配はただの子供のものではない。そんな気配を漂わせる少年を自分が守る意味とは一体何だと疑問が深まるスプリング。


『……その事についての説明は取引が終わった後です……どうでしょう?そ決して悪くはない取引だと思いますが?』


取引の答えを求めるビショップ。


「……保留だ……今あんたが俺に提示した情報だけでは取引には不十分だ……」


確かに眠っている少年を守るだけで自分が欲している情報が得られるのであれば、こんなに簡単な話はない。だがスプリングの答えは保留だった。ビショップが見せた情報だけでは取引として不十分だとスプリングは判断したからだった。


『……保留ですか……まあそれでも別に構いません……次に会った時にいい答えが聞けることを楽しみにしています』


保留という答えを出したスプリングに対し余裕な様子のビショップ。


「……そうか……なら今日の話はここで終わりだ、俺は帰る」


自分の方が優位な位置にいたはずなのに、全く焦る気配すらないビショップの余裕な雰囲気が引っかかりつつも、スプリングはそう言うと席を立った。


『リ―ランさん、お客様がお帰りです、お見送りを』


 半ば取引は失敗に終わったと言ってもいい状況であるにも関わらず、一切動揺や不満そうな雰囲気が声に無いビショップは、先程から微動だにせず立ち続けていた給仕の女性の名を呼ぶとスプリングのお見送りを命じた。


「分かりました……」


ビショップに見送りを命じられた給仕の女性リ―ランは、ビショップや少年に対して一度頭を下げた後、視線をスプリングに向ける。


「お客様、こちらに」


扉の前に移動したリ―ランはその扉を開けると寝室に連れてきた時と同じようにスプリングの前に立ち廊下へと出て行く。


『スプリング君、何か行き詰ったら、ポーンを通して私に連絡してくださいご相談に乗りますよ』


部屋から出ようとするスプリングの背にそう言い残すビショップ。


「……ああ……」『……』


短くそう返事をしたスプリングは振り返ることなくビショップと少年が居る寝室を後にした。



― 現在 ユモ村 広場 ―



 村民たちの談笑の声が響く広場は至ってのどかで平和な光景をスプリングに見せる。しかしこの村の者達全てが現在ビショップの手の中にあると思うと少し気味が悪く感じるスプリングは早々にその広場をあとにすると、自分が休むことになっている平屋へと足を進めた。


『……奴は私達の仇だ……それは主殿も肝に銘じてもらいたい』


「……ああ……わかっている……分かっているよ」


ビショップとの取引をはっきりと断らず保留にしたのが気に喰わないのか、ポーンはスプリングに念を押した。


「……ただ、思うんだ……本当にあいつはお前が言ったように創造主を殺したのか?」


ビショップと会話をしたスプリングは、ビショップが創造主を殺したという事に疑問を抱いていた。


『なッ! ……主殿、それはどういう意味だ? ……奴は確かに私達の目の前で創造主を殺害したのだぞ!』


スプリングの言葉が信じられないというように激昂するポーン。


「……お前を疑っている訳じゃない……ただ、理解できないんだ……あそこまで理性や知識を巡らせられる奴が何でわざわざ創造主を殺すようなことをする?」


ビショップが何かを腹に抱えているのは確かだと思うスプリング。しかし対面してわかったのは、ビショップという存在が感情で動くような存在ではないということであった。そこに至った経緯や状況がはっきりしていない以上、確証は当然ないが感情に左右されないビショップが果たして親殺しという強い感情を発しそうな行為を行うだろうかとスプリングは考えていた。当然ポーンが嘘を言っているとも思えないスプリング。だからこそ、ビショップに抱く自分の印象とポーンの言葉にズレや違和感のようなものをスプリングは感じていた。


『何を馬鹿な事を主殿は奴の本性を理解していない! 自分の欲望の為ならばこの世界をも破壊しようとする存在だぞ!』


 そう、世界を壊す力をも持っている程の存在が、なぜポーンをまともに扱うことも出来ない自分を欲しがっているのか、そこにも違和感があると思うスプリング。


「きっと……何かあるんだ……何か……何かが……」


今日自分が泊まる平屋の前に辿りついたスプリングは突然体から力を抜けるのを感じた。


『主殿!』


突然膝をついたスプリングに対して先程の激昂は嘘だったかのように心配そうに声をかけるポーン。


「わ、悪い……安心したら体から力が抜けた……たく、腹の探り合いなんて性に合わないことはするもんじゃない」


本来言葉で話し合うよりも拳や剣で語りあう方が得意であるスプリングは、慣れない腹の探り合いと自分よりも遥かに強い強者と対峙したことによる極度の緊張からの解放によって一挙に疲労が押し寄せてきていた。


「兎に角だ……今は休みたい……」


そう言いながらスプリングはフラフラしながら立ち上がると平屋の扉をかけ中に入って行った。




― ユモ村 村長屋敷 寝室 ―




「……お客様がお帰りになりました」


扉の前に立つ給仕の女性リ―ランは、スプリング達が帰った事をビショップに報告した。


『はい、ご苦労様でした』


労うビショップの声が給仕の女性の耳に届く。


「出しゃばった発言をお許しください……あの者を帰してよかったのですか?」


自分の目から見ても取引は失敗に終わっていたと思うリ―ランは、失敗したまま素直にスプリングを屋敷から出してもよかったのかと、ビショップに尋ねた。


『ふふふ、いいんだよ……形はどうあれ……いずれ彼は私の下に……坊っちゃんの下にやってくることになる……それが『絶対悪』との巡り合わせだ』


リーランの質問に対し、ビショップは機嫌よくそう答えた。


『そうだリ―ラン、本業の方で君に新しい仕事を与える……すぐにこの村から立ち、ガウルドに向かってくれ』


思い出したようにリ―ランに対し新たな仕事を命じるビショップ。


「はい、わかりました……それで私はガウルドで何をすれば?」


自分がこれからガウルドに向かうことは理解したリ―ラン。しかしなぜガウルドに向かうのかその目的が分からないリ―ランは、ビショップにその理由を尋ねた。


『ちょっとやってもらいたいことがあるんだよ……祭りの準備を……』


楽しそうにそう言うとビショップは己の体である本をゆっくりと閉じるのであった。





ガイアスの世界


 給仕の女性 リ―ラン


 ユモ村の村長の屋敷で給仕として働く女性。

 その顔立ちはヒトクイの首都ガウルドにいる女性と似た傾向があり簡単に言えば都会的な顔立ちをしている。その顔立ちからどうやらリ―ランはユモ村出身では無いようだ。

 リ―ランはビショップの存在を知っていおりどうやら今は村長では無くビショップに仕えているようだ。


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