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もう少し真面目で章(スプリング編)5 伝説の本の真実

ガイアスの世界


 強者の声


強者は戦わず声だけで敵の戦意を喪失させることがある。これは話すだけで自分よりも力量が低い者を戦意喪失させるという強者のみに許された戦いを回避する方法である。これによって無駄な血を流さずに済むはずなのだが、強者は戦いを好む者が多く、殆ど使う者はいないと言われている。

 スプリング達に話しかけてきた屋敷から聞こえた謎の声は、スプリングよりも圧倒的な力量を持つ強者であるようだ。

 戦いを好む強者が多い中、体を圧迫され身動きが取れなくなったスプリングは珍しいケースであると言える。


 

 




 もう少し真面目で章(スプリング編)5 伝説の本の真実




剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




 屋敷の謎の声が放っていた圧迫感によって体の自由を奪われ身動きが取れなくなっていたスプリングは、未だ抜けきらない圧迫感によって重くなっていた体を屋敷に向けた。


『主殿、まさか屋敷に入るつもりか?』


どう考えてもまともに動ける状態では無いにも関わらず屋敷内に入ろうという意思を見せるスプリングに対して驚きの声をあげるポーン。


「ああ……ここまでコケにされたんだ、絶対に茶会に出席してやる」


屋敷の謎の声に、声だけで圧倒的な力量の差を感じさせられてしまったスプリングは、事が起るまでは茶会に出向くことをあまり良しとは思っていなかったスプリングだったが、屋敷の謎の声に声だけで圧倒的な力量の差を見せつけられたことが悔しいのか口元を吊り上げながら屋敷を睨みつけた。だが明らかにその表情や言葉が強がりだとわかるようにスプリングの全身は強張っていた。


『無理だ、今のその状態では何も出来ん、大人しく撤退しよう主殿!』


力量の差以前に既に戦える状態では無いと今のスプリングの状態を分析するポーンは、撤退を提案する。


「いいや……駄目だ……あの屋敷の中にいるのはお前の知り合いなんだろう? だったら俺にも紹介してくれよ」


屋敷の謎の声に対してビショップと名前らしき言葉を口にしたポーンの声を聞き屋敷の謎の声とポーンが知り合いであると察したスプリングは俄然、屋敷の謎の声の正体に興味が湧いた。

 しかしそれ以前に相手の姿も拝まず戦わずしてここまでボロボロにされたことが相当悔しい様子のスプリングは満身創痍な肉体とは裏腹に気持ちは臨戦態勢のままであった。


『はぁ』


スプリングの様子に深いため息をつくポーン。


『分かった、主殿の願いを聞きいれよう』


冷静さを失い熱くなっているスプリングに折れた形でポーンは渋々願いを聞きいれた。


『だがその前に私の話を聞いてくれ』


ただでは願いを受け入れないと言うように自分の話を聞くようにスプリングを促すポーン。


「……何だ?」


話を聞けと言われ渋々ポーンの言葉に耳を傾けるスプリング。


『あの屋敷にいるいるのは伝説の本の所有者だ』


「な、何……」


ポーンの言葉に顔を引きつらせるスプリング。


「……お、おい……伝説の本って……まさかあの世界を手に出来るっていうあれか?」


ポーンの言葉を信じられないと言うように伝説の本にまつわる逸話の一つを口にするスプリング。


『そうだ、主殿が知っているその伝説の本で間違いない』


自分が口にしたものは、スプリングが考えているものと同じだと頷くポーン。


「お、おい……嘘だろ」


 伝説の本と聞きスプリングがここまで驚くのには理由ワケがあった。ガイアス各地で発見された伝説と名の付く多くの武具一つ一つには、その武具にちなんだ伝承や逸話が残されている。

 その中でも伝説の本の伝承や逸話は他の伝説と名の付く武具に比べその規模が規格外であった。伝説の本にまつわる逸話や伝承には、あらゆる知識を手に入れることができ世界をも手に入れる知恵を授けてくれるというものがある。他の伝説と名の付く武具に比べ抽象的な逸話や伝承ではあるものの、解釈によってはどんな伝説と名の付く武具よりも強力な武具でありそれを手に入れた時点で世界を手に入れたと同義と言ってもいいともとれる。


「……」


 こんな状況を前にしてポーンが嘘を付くはずも無く、その言葉を信じるしかないスプリングは言葉を失う。今まで熱くなっていたスプリングの心は嘘のように一瞬にして冷めていった。


『そして、その伝説の本には自我がある』


ここに来て追い打ちのようにスプリングに衝撃の事実を突きつけるポーン。


「お、おい……まさかビショップって……」


ポーンの言葉に恐る恐る尋ねるスプリング。 


『ああ、私の元同胞だ……』


どこか少し寂し気にスプリングの問に答えるポーン。


「……何か……あったのか?」


その様子に疑問を抱いたスプリングはポーンに尋ねた。


『奴は……ビショップは創造主を殺したのだ』


「はぁ?」


スプリングがポーンの言葉に首を傾げたのはおかしくはない。


「殺されたって俺もお前も創造主とさっきまで会っていただろう?」


スプリングとポーンは、ビショップに殺されたはずの創造主とさっきまで対面し話をしていたからだ。


「ど、どういう事だよ?」


何処か要領を得ないポーンの言葉に混乱すスプリング。


『……あの創造主は、創造主が自分の一部を切り離し人形に植え付けた、いわば分身のような物だ』


「……分身? ははッ……お前を作りだした創造主は本当に何でもありだな」


武具に自我を持たせたり距離を跳躍する『転移』が扱えたり、終いには自分の一部を切り離し自分の分身を作ってしまう創造主という存在に呆れて顔を引きつらせるスプリング。


『……冷静になったか主殿?』


「冷静も何も……お前の話で戦意喪失もいいとこだ」


冷静になったかとポーンに聞かれ冷静を行き過ぎて戦意喪失したと皮肉を交えるスプリングからは悲壮感や絶望感が漂う。


『だが事実だ、主殿が出席しようとしている茶会の主催者は、今の私達では到底勝つことが出来ない相手だ……そして創造主が言っていた宿敵とはビショップのことだったんだ』


創造主からもらったアドバイスの一つ、宿敵の存在をその身で感じろというのはビショップの事を言っていた事に気付いたポーン。


『……とりあえず創造主のアドバイスの一つは達成したと言ってもいい、主殿兎に角今はこの場から撤退しよう』


創造主からのアドバイスは、宿敵となる存在をその身で感じろ、その目的は達成されたと判断したポーンはスプリングにこの場から離れることを提案した。


「くぅ……」


奥歯を噛みしめるスプリング。その表情は悔しさに染められている。


『主殿……』


ポーンもスプリングの気持ちは当然理解できる。いや、スプリング以上にポーンは目の前に仇と言える存在がいるにも関わらず自分が無力である事を痛感し撤退という判断しか下せない現状に悔しさを感じていた。


「……いや、まだだ……ポーン、創造主は宿敵の存在をその身で感じろと言っていたよな……俺はその宿敵の存在を感じてない……ただ得体の知れない圧迫感で体の自由が奪われただけだ」


『主殿!』


どう聞いてもただの屁理屈でしかないスプリングの言葉に声を荒げるポーン。


「だめだ、ダメだ、駄目だ! ここで引いたら、もう一生かてる気がしない……今は奴の力を僅かでもこの身で感じて次に繋げるんだ」


気力を振り絞るように、纏っていた悲壮感や絶望感を消し去るようにそう叫ぶスプリング。


『駄目だ主殿! 次は無いんだ!』


行けば敗北が確定している戦いにそれでも身を投じようとするスプリングの考え次は無いと否定し止めるポーン。


「……それならそれまでだ、次に繋げる可能性すら作れないのならいつ戦っても勝てやしない」


もはや自暴自棄ともとれるスプリングの言葉。しかしこの言葉は傭兵時代の経験に基づき辿りついたスプリングの考えの一つだった。

 今でこそ戦場でその名を知らない者はいない百戦錬磨と言われるようになったスプリングだが、最初から傭兵稼業がうまくいっていた訳では無い。寧ろ失敗の連続の方が多く何度も今際の淵に立たされたことはあった。もはやそれは運としか言いようがないが、しかしそれでもスプリングは生き抜き、その失敗を糧に数多くの戦場を駆け巡った。そしてその経験は実を結び若手で一番『剣聖』に近い男とまで言われるまでになった。その傭兵時代の経験は今でもスプリングの支えであり誇りでもある。


「いくぞ!」


強い意思から発せられたその言葉は鉛のように重くなった足を突き動かし屋敷へと進ませる。


『……うぅ!』


納得はしていない。納得などできる訳がない。既に敗北が決まっている戦いにスプリングを向かわせる訳にはいかないと思うポーン。しかしそれに反するようにスプリングの言葉や強い意思に期待を抱いてしまう自分がいることもポーンは自覚している。


『ええい! 儘よ!』


何かを振り払うようにそう叫んだポーンは覚悟を決め、スプリングと共にビショップが待つ屋敷へと向かうのであった。



ガイアスの世界


 伝説の武具の中で最も有名な伝説の本


 その逸話や伝承から最強の伝説の武具とされる伝説の本。しかし未だ伝説の本を手にしたという者はおらず、その存在自体が幻なのではないかと思う者達もいる。しかしながらその圧倒的な力や能力に魅了され憑りつかれた者も多く、現在に至るまで伝説の本を探し求める者は後を絶たない。


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