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真面目で章 (スプリング編)6 追跡者達

 ガイアスの世界


 旧戦死者墓地。


ヒトクイが統一されて直ぐに造られた共同墓地。そこに眠るのは、ヒトクイが統一される決め手となったガウルドでの大きな戦で死んでいった者達を弔う為に作られた墓地であった。

 しかし元々戦後の混乱の中急ごしらえで作られた仮の場所であった為、その数年後に新たに造られた戦死者墓地に移されることになった。

 戦死者墓地が別の場所に移って以降、その旧戦死者墓地は、墓地であったということもあり近づく者もおらずそのままにされている。


 

 

 真面目で章 (スプリング編)6 追跡者達



 剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス



 ― 小さな島国ヒトクイ 城下町ガウルド ―


 月の神の誕生を祝う祭り、月祭り。三日目の最終日を迎えた小さな島国『ヒトクイ』の中心『ガウルド』は最終日らしく盛大な盛り上がりを見せていた。祭りの終わりが近づくにつれ、地元の人々の熱気は高まり飲めや歌えとドンチャン騒ぎに拍車がかかる。

 しかしそんな熱気の高まる人々に混じり、明らかにその場の熱気とは異なったもの放つ者達の姿があった。


「どこ行きやがった!」


「捜せ、捜しだせ!」


 どう聞いても祭りを楽しんでいるような様子ではない言葉が混雑する『ガウルド』の道に響く。祭りを楽しむ人々に紛れ、殺気だった強面の男達が至る所を見渡しながら走り去っていく。


「ぜぇはぁ……ぜぇぜぇ……んっ……一体何なんだ!」


 強面の男達が走り去っていくのを暗い裏路地で身を隠しながら見送った伝説の武器の所有者スプリングは一息つけると荒い息をあげながら疲れ果てたという表情でその場に腰を下ろした。


「くそ……本当にすぐ疲れやがる」


自分のスタミナの無さに怒りが込み上げてくるスプリング。

 元々上位剣士であったスプリングは、自分の体力には自信があった。しかし強制的に魔法使いに転職させられてしまったスプリングの体力は、見る影も無く低下してしまっていた。


「はぁ……天下のスプリング様が逃げ一択とは残念の極みだね」


 自分のスタミナの無さに深刻に悩むスプリングの前に声をかけた長身で筋骨隆々の男ガイルズは、息が整わないスプリングを見ながら残念そうに息をついた。


「ば、馬鹿……早く隠れろ」


 裏路地に堂々と入ってきたガイルズを慌て隠れろと怒鳴るスプリング。渋々ガイルズはスプリングの言う通りに裏路地の奥へと入って行く。


「どうしたのこんな所に隠れて?」


 すると今度は建物の上からスプリングに向けて女性の声が響く。焦りながらスプリングが視線を建物の方へ向けるとその声の主は建物から飛び降りスプリングの目の前へ着地する。


「……目立つような事は止めろソフィア!」


 何処で誰が見ているか分からない。裏路地であっても目立つ行動を避けたいスプリングは自分の目の前に着地した女性、伝説の武器を狙う自称義賊、ソフィアを叱った。


「お前ら何しに来たんだよ!」


「いやいや、面白そうだったから」


「見かけたからついて来たの」


 全く反省する様子の無いガイルズとソフィアの理由を聞き思わずスプリングはうなだれ絞り出すようなため息をつく。


「だから顔を出すな!」


 スプリングがため息をついている間に裏路地から中央通りに顔を出すガイルズ。スプリングは慌てて立ち上がるとガイルズの頭を掴み裏路地へ引っ込めさせようとする。しかしガイルズの体は今のスプリングの力では引っ張っても全く動く気配が無かった。


「あんな奴ら倒しちゃえばいいのに」


 そう言いながら裏路地から中央通りに顔を出しているガイルズを真似るようにソフィアも顔を出す。


「はぁ……二、三十人を相手に魔法使いの俺一人で挑めというのか?」


 ガイルズとソフィアの行動を止めるのを諦めたスプリングは呆れながらそう言うと再び地面に腰を下ろす。


「無駄にある腕力で全てを無かった事に出来る奴や素早い動きで相手を翻弄できる奴ならこの状況でも問題無いんだろうが、今の俺には無駄にある腕力も素早い動きをする体力も無いんだよ、あの数をいっぺんに相手できる訳ないだろ」


 基本戦闘では中距離長距離を得意とする魔法使い、一人や二人を相手にするだけならば日々修練を続けているスプリングでも問題なく戦うことは出来る。しかしスプリングが置かれていた状況は一対複数という状況。殆どの魔法使いにとってその状況は避けなければならないものであった。

 避けなければならない理由としては、魔法使いは魔法を使う以上、魔法を発動させる為の詠唱をしなければならない。しかし悠長に詠唱している暇があるわけも無く複数を相手にした戦闘の場合、必ずといっていいほど詠唱を邪魔されるのだ。中には無詠唱で魔法を発動させることができる魔法使いもいるが、それ以外の魔法使いにとって複数戦闘を避けなければならない理由はそこにあった。しかしそれはまだいい方の理由である。工夫しだいではまだ戦えない訳ではないからだ。それ以上に魔法使いには一対複数での戦闘を避けなければならない致命的な理由があった。

 その致命的な理由とは魔法使いの基礎体力の低さにあった。魔法使いは体力が低い為、前に出ず後方から攻撃支援をするのが基本的な役回りである。そんな魔法使いが前に立ち複数の敵を相手にするというのは体力的に無理があるのだ。うまく相手の攻撃を避けられたとしてもそのうち体力が限界に達し動きが止まった所をしとめられてしまうのがオチであった。それをしっかりと理解していたスプリングの行動は正しいものであり決して批難されるようなことでは無い。


「とにかくだ、今の俺は一人で複数を相手にするのは厳しいんだよ」


 自分がとった行動は正しいのだとガイルズとソフィアに説明するスプリング。


「ほー」「ふーん」


 しかしスプリングの説明空しく魔法使いを経験したことがないガイルズとソフィアの心には届いていないのか、興味が無いというような返事がかえってきた。


「それにしても何で狙われているの? やっぱりスプリングの首を狙っているから?」


 スプリングと言えば戦場では有名人であり裏の世界では多額な賞金がかかっているという噂もある。それを目当てにスプリングの命を狙おうとする者は多かった。


「ああ、いや……それは無いと思う……」


 何故か歯切れ悪くソフィアの言葉を否定するスプリング。


「なんで?」


 自分の言葉が否定されたソフィアは純粋に疑問に思い首を傾げた。


「それは……」


「それは俺がいるからだな」


 言いにくそうに言葉を濁しているスプリングの言葉を覆い隠すようにガイルズが自慢気に口を開く。


「ここ数年は俺と一緒に旅をしていたからな、その事が広がってからは頭がおかしい奴以外はスプリングの首を狙おうとする奴はいなくなったよ」


 戦場でその名を知らない者はいないというほど有名であるスプリング。それに劣らずガイルズの名も戦場では轟いており知らない者はいなかった。そんな二人が一緒に旅をしているのである。並の相手では返り討ちにされて終わりだ。二人が一緒に旅をしているという噂が広がるとパタリとスプリングの首を狙ってくる者はいなくなった。


「ちぃ……まるで俺のボディーガードみたいな言い方してんじゃねぇよ」


 ガイルズのお蔭で襲われる率が少なくなった事が面白くないのかスプリングはガイルズを怒鳴りつける。


「でも今は本当にお前のボディーガードみたいなもんだろ?」


「くぅ……この……!」


 魔法使いになってしまったスプリングは現在ガイルズに守られている。その事実を突きつけられたスプリングは何も言い返せず悔しそうに顔を歪めた。


「じゃ何が目的だっていうの?」


 スプリングの首にかかっている賞金が狙いでは無いとするなら一体何が目的なんだとソフィアはスプリングに聞いた。


「……お前……分からないのか?」


 スプリングはジトっとした目でソフィアを見つめた。


「な、何よその目は」


 なぜスプリングが自分をそんな目で見つめるのか見当がつかないソフィア。


「お前が俺と一緒に行動している理由はなんだ?」


 自分の首以外で自分が狙われている理由をすでに理解しているスプリングは、ソフィアに自分と行動している理由を聞いた。


「……私の目的……?」


 スプリングに自分の目的はと問われ首を傾げるソフィア。


「あ!」


「やっと気付いたか……」


 しばらく考えた後、答えに行きついたソフィアは目を見開き、声を漏らす。そのソフィアの姿に呆れるスプリング。


「ああ、なるほどポーンを狙っているって事か!」


「おい、お前も気付いてなかったのか?」


 明らかにソフィアと同じタイミングでスプリングの後をつけている者達の目的に気付いたガイルズの様子に更に呆れるスプリング。


「でも、なぜスプリングがポーンを持っている事を知っているの?」


「それは分からない……だが奴らは伝説の武器を奪えと叫んでいたんだ」



 そう言いながらスプリングは、この出来事の始まりを思いだす。それはスプリングが日課である早朝修練を終え一旦『ガウルド』で自分が宿泊している宿に戻ろうとした時であった。


「……」


 人気が無く静かなその場所はスプリングが集中して修練をするには最適な場所であった。しかし人気が無いという事は、何が起こったとしてもそれが発覚する可能性が低いという事でもある。


「……何か俺に用か?」


 帰り支度をしていた手を止めたスプリングは、自分の周囲を見渡す。そこには突如として見るからに外道職である事を主張した姿の男達が数人スプリングを見つめていた。


「おい、返事しろよ? ……何も無いんだったら行くぞ」


 話しかけるスプリングに一切反応しない男達を見ながらスプリングはその場を立ち去ろうとする。


「……」


 しかし立ち去ろうとするスプリングを妨害するように男達の中で一番と二番に大柄な男達が立ちはだかる。


「邪魔なんだけど……」


 大柄な男二人を見上げるスプリング。すると大柄な男二人はスプリングを見下ろしながらニヤリと口元を緩める。次の瞬間、大柄な男二人は息を合わせたようにスプリング目がけて両サイドから拳を振う。大柄な男二人に拳で挟み撃ちにされたスプリングは咄嗟にしゃがみそれを回避すると素早く後方へ飛んだ。盛大に空振りする大柄の男二人の拳は器用に互い違いになりぶつかることは無かった。後方に飛びながらスプリングは大柄な男二人の顔を確認すると、大柄な男二人の顔は全く同じ作りをしておりどうやら双子のようであった。


「お前が持っている物、特に武器を全て置いてここから立ち去れ」


 そんな大柄な双子の息の合った攻撃動作を眺めながらスプリングは背後から聞こえた男の声に咄嗟に振り返る。


「渡せ!」


 スプリングが振り返った瞬間、立ち去れと言っておきながら明らかに命を狙った攻撃を仕掛けてくる細身の男。


「くぅ」


 柄に鎖のついた鎌を振り下ろした細身の男の攻撃に体を捻りギリギリの所でかわしたスプリングはそのまま転がるようにして細身の男から距離をとる。


≪主殿!≫


 自我を持つロッド、伝説の武器ポーンの警告ともとれる声がスプリングの頭に響く。


「……不味いな、どんどん増えてくる」


 数十秒という僅かな時間でスプリングの周りには大柄な双子や細身の男の仲間と思われる輩が集まり場締めていた。


 《まずい、囲まれている……またまだ増えるぞ》



 自分の所有者に敵意を持った者を感知できるポーンは、まだその数が増え続けるとスプリングに警告する。


「ちぃ……やるしかない」


 そういうとスプリングはポーンでは無く初心のロッドをその手にとり構えた。


「我を導く風となれ! 『追風サポートウィンド』!」


 魔法を発動せる詠唱を素早く唱えるスプリング。すると突如としてスプリングの背に強烈な風が発生する。その風はスプリングの体を浮き上がらせるとその勢いのままスプリングを吹き飛ばした。大柄の双子の頭上を軽々と飛び越えていくスプリングはそのまま『ガウルド』がある方へと逃げ出した。


「何ボーっとしている奴を追え! 奴が持っている伝説の武器を奪うんだ!」


 一瞬何が起こったのか理解できずその場で茫然とする大柄の双子に何が起こったのかはっきりと見ていた細身の男は怒鳴り声を上げ指示を出す。細身の男の怒鳴り声で我に返った大柄の双子は細身の男の指示に従いスプリングの後を追い走り出したのだった。


「……奴らは、はっきりと伝説の武器と口にしていた」


 細身の男がはっきりと伝説の武器と口にしていたことを聞き逃さなかったスプリングは、奴らが狙っているのはポーンであるとガイルズとソフィアに告げる。


「くそ、何処で漏れたんだ……」


 こういった事態を避けるために自我を持つ武器、伝説の武器ポーンを目立たないようにしていたスプリング。


『主殿、漏れてしまった事は仕方が無い、それよりもこれからどうするかを考えるのが先決ではないか?』


 何処から自分が伝説の武器の所有者であるという情報が漏れたのかが気になるスプリングに対してポーンはそれよりも今この状況をどうするか考えるのが先決ではないかと促す。


「ああ悪い、確かにそうだな」


 ポーンの言葉に素直に頷くスプリング。


「とりあえず、お前らは宿にもどってろ」


 自分の腰に差さっているポーンから視線を外したスプリングはそう言いながら立ち上がる。


「少し走っただけで死にそうな顔する奴が何いってんだ?」


 ニヤリと笑みを浮かべるガイルズ。


「ポーンを他の奴に奪われるのは面白く無いから私が手伝ってあげるよ」


 ガイルズに続くようにして気持ちいい笑顔をスプリングに向けるソフィア。


「お前ら……」


 驚いたような表情になるスプリング。


「……面白がっているだろ」


 と思いきやすぐさまスプリングの表情はガイルズとソフィアを疑うものとなった。


「面白がってなんかないよスプリング君」


「君?」


 今まで一度だってスプリングを君づけで呼んだ事など無いガイルズのその呼び方に気持ち悪さが先行し顔を引きつらせるスプリング。ニヤケたガイルズのその顔と言動が面白がっている事を物語っていた。


「わ、私は真面目にポーンを奪われたくないだけだからね!」


「自分がポーンを奪いたいからだろ……はぁ……」



 本当にこんな奴らに背中を預けて大丈夫なのかと不安になるスプリングは頭を抱えた。


『主殿達、楽しい談笑中、申し訳ないが敵が近づいてきている』


 突如警告するようにポーンが近づいている敵がいる事を告げる。すると今まで気の抜けたような雰囲気だったその場が一瞬に引き締まる。


「それじゃ最初は俺から行くか」


 そう言うとガイルズは一息で背中に背負っていた特大剣を鞘から引き抜くと次の瞬間、建物に向かってその特大剣を振り下ろす。


「ガハッ!」


 砕ける建物の壁。その奥に潜んでいた男が砕ける壁と共に吹き飛んで行く。


『次は上だ!』


 ポーンの声と同時にソフィアは素早く動き頭上から落下してくる男の攻撃をかわす。


「甘いよ」


 ソフィアはそのまま着地した瞬間の男の顔に拳を打ち込む。


「ぬがぁ!」


 ソフィアの拳を打ち込まれた男はそのまま白目をむきながら倒れ込んだ。


「おうおう、歯ごたえない奴だな」


「とりあえず中央通りに出るぞ!」


そう言いながら走り出すスプリング。その後を追うガイルズとソフィア。



 路地裏から走り出し中央通りに出た三人は人でごった返す中央通りに身を隠す。


「あそこだ! デカい剣を持った男が目印だ!」


「ちょっとガイルズ、あんたの所為ですぐに居る場所がバレてるじゃない!」


 沢山の人が歩いている中、全く隠れる事が出来ていない目立つガイルズを目印に数人の男達が走ってくる。その男達から逃げるようにスプリング達も走り出した。


「ぐぇ!」


「ぐお!」


「がはっ!」


 次々と襲いかかる男達を拳でのしていくソフィア。


「お前、盗賊じゃ無くて拳闘士にでもなったほうがいいんじゃないの?」


「うっさいわね! 拳闘士なんて野蛮な戦闘職になる気なんて無いわよ! それに私は私盗賊じゃなくて義賊よ! 」


 そういいながら一人二人と拳でぶっ飛ばしていくソフィア。


「おいおい……その野蛮な事を現在進行形でやっているのは何処の誰だ」


 想像以上の拳闘士としてのセンスに苦笑いを浮かべるガイルズ。


『二人とも待ってくれ主殿が!』


 ガイルズとソフィアの背後からポーンの声が響く。ポーンの声に振り返る二人。


「ぜーはーぜーはー!」


 そこには顔面蒼白で今にもぶっ倒れそうなスプリングの姿があった。


「おいおい、まだ50メートルぐらいしか走ってないぞ」


「魔法使いって本当に体力ないのね」


 必至でガイルズとソフィアに追いつこうとするスプリングを見ながら二人はそれぞれ感想を口にするとすぐに前に視線を戻して走り出した。


「だぁ! お前ら! ま、待てコノヤロォォォォォォ!」


 祭りで湧く人々の中、スプリングの息絶え絶えの叫びが響き渡った。




『どうやら、追手を巻いたようだな』


 スプリング達は中央通りから少し外れた人気の少ない裏路地に入っていた。周囲に敵の反応が無い事を確認するポーン。その言葉を聞いたスプリングは力尽きたように倒れ込んだ。


「いや町を使っての鬼ごっこなんて久々だな、ガッハハハハ!」


 既に死んでいるようにもみるスプリングとは対照的に、全く息が切れていないを切らすこガイルズはまるで遊んでいるかのように豪快に笑い声をあげる。


「ポーンがいてくれれば、捕まる心配は無さそうね」


 額に浮かぶ汗を腕で拭き取りながら、軽い運動をしたような爽やかさでそう言うソフィアガイルズ同様ソフィアもまたほとんど疲れていないようであった。


「ぜぇぜぇ……お、お前ら……ポーンがいなくても自前で逃げ切れるだろ……」


 平然としているガイルズとソフィアに絞り出すような声でつっこむスプリング。


「ガハハ! そんな事は無い、ポーンがいてくれるお蔭で俺達は楽が出来る!」


 豪快に笑い続けるガイルズは、そう言いながら今にも死にそうなスプリングの背中はバンバンと叩いた。


「ゴフ……ゲフ……や、やめ……ガフ……」


「あッ!」


 しまったという表情になるガイルズ。白目をむいて体を痙攣させるスプリング。


『主殿! しっかりしろ主殿!』


 そう言いながらポーンは『ゴルルド』の酒場で見せた大きな口へと変化しスプリングを飲み込もうとする。


「待ってくれポーン、これぐらいなら俺にまかせろ」


「へ?」


 ソフィアは首を傾げる。そんな中ガイルズはスプリングの背に手を乗せる。


「神よ、癒しの息吹を目の前の悲しき羊に……以下省略」


 適当な言葉を口にするガイルズ。するとガイルズの手が光りその光はスプリングの体に伝わっていく。ガイルズの手から放たれスプリングの体に伝わっていった光はスプリングの体をみるみるうちに癒していく。


「治癒術……!」


 ガイルズのその姿に驚きの声を漏らすソフィア。


「よし、これで終わり、大丈夫かスプリング?」


「ぐぅ……大丈夫も何も俺を殺しかけた張本人が何を言っている」


 ダメージを受けた体か癒されたとはいえ、体力がもどる訳では無く疲労感が抜けないスプリングはゆっくりと体を起こしながら、ガイルズを睨みつけた。


「ど、どういう事? 何でガイルズが治癒術を使えるの?」


 驚きを隠しきれないといった表情でガイルズに迫るソフィア。それもそのはずでガイルズが使った『治癒術』とは使用者の力量にもよるが傷ついた体を癒す力がある。その『治癒術』が扱えるのは聖職者系の戦闘職にしか使えないからだ。


「こう見えてガイルズは俺と出会う前はプリーストだったらしいんだよ……顔ににあわねぇけどな」


 走りで疲労していた疲れが少し抜けたのかスプリングはそう言いながら立ち上がった。


「ええ! そうだったのガイルズ!」


 ガイルズの衝撃的な過去に更に驚くソフィア。


「俺の昔話なんてどうでもいいんだよ、それよりもこれからどうするんだスプリング?」


 自分の昔の事に触れられたくないのか、すぐに話題を切り替えるガイルズ。


「……とりあえずこのままじゃ何も進まない……奴らの隠れ家を探そう」


 ガイルズに催促されスプリングはこれからの指針を口にする。


「まあ、そうなるな……だったら一人攫ってきてその場所を吐かせるか」


「……ソフィア、お前何かこの町で、盗賊関係に関する噂を耳にしたことは無いか?」


 スプリングの言葉にソフィアは少し考え込み周囲を見渡してから口を開く。


「私もこの町の人間じゃないから詳しい事は分からないけど、かなり大きな盗賊団がこの町に存在するっていう話は聞いた事がある」


「盗賊団……?」


 ソフィアの持っていた情報に何か引っかかるスプリング。


「どうしたの?」


 考え込むスプリングに声をかけるソフィア。


「あ、いや……何でもない」


 ソフィアにそう言うと背を向けるスプリング。


 《主殿……まさか……》


(ああ、もしかしたら昨日出会った少年と関係があるのかもしれない)


 祭りで賑わう『ガウルド』の中央通りに出ていた屋台で出会った少年の事を思いだすスプリング。


「スプリング、ガイルズ、この話は……ここまでにして……とりあえず場所を移しましょう」


 そういうとソフィアは裏路地を抜け中央通り歩き出し人ごみに消えていく。


「お、おい待てよ」


 突如として話を切り上げ中央通りに消えていくソフィアの後を追うスプリングとガイルズ。


『主殿……ソフィア殿についていったほうがいいかもしれない』


「ああ、確かに……俺もあいつに付いて行く事を勧める」


 ポーンとガイルズも何かに気付いたのか、スプリングにソフィアの後を追うように勧める。


「あ、ああ……」


 よく分からないまま、とりあえずスプリングは、ポーンに言われた通りに中央通りを歩いているソフィアの後を追っていくのであった。

 ソフィアを先頭にスプリング、ガイルズの順番で中央通りを歩く三人。ソフィアは何かを気にしつつ歩き、後方を歩くガイルズもソフィアの視線を追っていた。スプリング一人だけが何も分からず歩いている。



「……んー、あの連中……感が鋭いな……感づかれたかも……」


 中央通りに立ち並ぶ建物。その中で一番高い建物の屋上から中央通りを見下ろす人影が一つ。その人影の視線の先には中央通りを警戒しながら歩くスプリング達の姿があった。


「女の子のほうは盗賊……大柄の男のほうは……うーん元プリーストって所か……にしてもまさか昨日のお兄ちゃんが伝説の武器の所有者だとはな」


 建物の屋上からまるで下界を見下ろすような様子でその人影、昨日スプリングとであった少年スビアはスプリング達を監視する。


「これは団員じゃ苦戦するね……」


 言葉とは裏腹にスビアの口元は歪んでいた。



「二人とも姿勢を低くして、特にガイルズ」


 人気の無い『ガウルド』の端へとやってきた三人は物陰に姿を隠す。


「うわぁ、盗賊顔の奴らがゴロゴロいるな」


 ソフィアの先導によってスプリング達がたどりついた場所、そこは『ヒトクイ』統一後に作られた戦死者を弔う共同墓地であった。しかし現在戦死者墓地は他の場所に移されこの場所はただの跡地、旧戦死者墓地となっていた。


「多分、ここの何処かに盗賊団の隠れ家の入口があるわ」


確信したような口ぶりでスプリングに盗賊団の入口がある事を伝えるソフィア。


「おいおい、確かに怪しい場所だが、何でそんな事が分かるんだ?」


 確信に満ちたソフィアの言葉に首を傾げるスプリング。


「それは……同業者としての勘……ゴホンゴホン! 女の勘よ」


「言い直した」「言い直した」『言い直した』


スプリング達の声が重なる。


「う、うるさいわよ、どう見てもこんなに盗賊顔の奴らがウロウロしてたらここが奴らの隠れ家だって分かるじゃない!」


正論を口にするソフィア。しかし動揺しているのか正論であるはずなのに説得力が無い。


「……ソフィアがようやく自分は盗賊だって認めたな」


「だから私は義賊よ!」


「まあ、それは置いといてだ、ソフィアの言うことは当たっている……下手したら盗賊団ですむ話じゃないかもな」


 何かの気配を感じているのか、ガイルズの雰囲気が急に鋭く引き締まった。


「お、おう……」


 戦闘中でもここまで引き締まった雰囲気を発したことが無いガイルズに驚くスプリング。


「兎に角、ここに何かあるのは確かだ、ここまで来たらチマチマ隠れながら探すより、騒ぎを起こして奴らを倒し入口の場所を吐かせればいい」


「お前はただ暴れたいだけだろ……騒ぎを起こして凄い人数集まってきたらどうするんだ」


 何ともガイルズらしいゴリ押し戦法に苦笑いを浮かべるスプリング。


「問題無い、俺が全てぶった切る」


「あっそう……」


 明らかに無謀と言える作戦。だがガイルズはそれをやってのけるだけの力と説得力を持っている。スプリングは無謀だと思いつつもガイルズの作戦を飲むことにした。


「わかった、それでいこう……ガイルズは前衛遊撃で、ソフィアは俺の護衛を頼む」


 スプリングの指示に静かに頷くガイルズとソフィア。


「よしいくぞ!」


 不気味な気配が漂う旧戦死者墓地でスプリングの声が響く。その瞬間、スプリング達と盗賊団の戦闘の火蓋が切って落とされたのであった。




 スプリング=イライヤ(魔法使い)


年齢 20歳


 レベル57


職業 魔法使い レベル29


 今までにマスターした職業


ファイター 剣士 ソードマン


 装備 


 武器 初心のロッド


 頭 初心のフード


 胴 初心の衣


 足 初心の靴


 アクセサリー 守りの指輪


 本人の努力と、伝説の武器ポーンの力により、すでに初心者の領域を超えた魔法知識をもっているスプリング。だが本人はその事に気づいていない。

 本人は今だに体力の無さを気にしており、少しでも体力をつけようと毎日筋トレをしている。だが腕立て20回、腹筋25回、スクワット30回が今彼にできる筋トレの回数である。


スフィア (偽名)


年齢15歳


レベル 35


職業 盗賊 レベル 99


 今までにマスターした職業


  なし


武器 毒刃のナイフ


頭  遠見のスカーフ


胴 風姫の革鎧


腕 先手の腕輪


足 疾風の靴


アクセサリー 手癖悪き指輪


 スプリングとの戦いの後、伝説の武器ポーンをどうしても手に入れたいと彼らと行動を共にするようになった。だがそれは建前で、何やら彼女には自分の目的とは別に秘めたる思いがあるようだ。

 スプリング達と行動を共にするようになって、道中での魔物達との戦闘が増え盗賊としてのレベルが急激に上がった。どうやら伝説の武器ポーンは所有者だけではなく、パーティーの仲間にも成長を促す能力が影響するようだ。


ガイルズ=ハイデイヒ


年齢25歳


レベル61


職業 重剣士 レベル 80


 


習得済み職業


 習得順 プリースト 薬師 ファイター 剣士 ソードマン


装備


 武器 大剣 大喰らいの剣


 頭  擦りきれたバンダナ


 胴 絶対守護の鎧


 腕 腕力ある者の小手


 足 脚力ある者の足甲


 アクセサリー 誓約の首輪


 聖職者 プリーストとしての力を使ったことによりソフィアに元プリーストだとばれてしまった。ガイルズはその当時の事をあまり語りたがらない。


伝説のロッド 名称 ポーン(正式名 ジョブマスター)


 色々と能力が分かってきたが、それでも謎の多い武器。


 ジョブ会議で彼の人としての姿があることが明らかになってイケメンであるということがわかった。だが彼にその事を言うとなぜか頑なに自分はイケメンではないと怒り否定されるので、イケメンと言う場合は覚悟して言おう。



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