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もう少し真面目で章(スプリング編)4 茶会の誘い

ガイアスの世界



ユモ村の噂


 ユモ村の周囲は村民の先祖たちの手によって全て人工の草原に変わっている。しかし人の手が加わる前までは魔物が多い場所であったようだ。

 特に幻術を使う魔物が多く生息していたようで、人工草原になる前は魔物達の幻術にかかる者達が続出していたようだ。

 それを何とかする為に何十年もかけて村民の先祖たちは、ユモ村の周囲を草原に変えたという話なのだが、実はユモ村自体が幻術なのではないかという噂である。

 幻術を得意とする魔物が生息していた場所を戦闘職でも冒険者でも無いただの村民が開拓し人工草原にしたというのは、あまりにも常識からかけ離れていると考える者も多く、更にはユモ村の村民の度が過ぎる程の親切心が逆に不気味というのこの噂に拍車をかけているようだ。

 実際真実はどうかは定かではないが、もしかすると今も尚、幻術を得意とする魔物がユモ村の周囲に存在しているのかもしれない。






 もう少し真面目で章(スプリング編)4 茶会の誘い




剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




「ふぅ、滅茶苦茶安いのに想像以上に美味い飯だったな」


ここ数日、まともな食事をしていなかったスプリングは、ユモ村に唯一ある食堂から外に出ると腹を摩りながら満足そうな表情を浮かべた。食堂で出た料理はどれも美味で更には驚く程安く普段大食いでは無いスプリングの胃は腹八分目を軽く超えていた。


『腹を満たせば余裕が生まれる……まさに今の主殿そのものだな』


腹を満たし満足そうなスプリングに対しどこか嬉しそうな声で話しかけるポーン。


「ぐぅ……食事する必要が無いお前がそれを言っても説得力がないぞ……」


遠回りに自分をいじってくるポーンに対し、皮肉を言いながら苦笑いを浮かべるスプリング。だが苦笑いを浮かべながらもスプリングは自分自身に余裕が生まれていることを実感していた。


「……はぁ、それにしてもこの村……のどかだな……」


強くならなければという焦りから、周囲の事など全く気にする余裕すら無かったスプリング。創造主との一件で強さを求めた焦りから多少解放されたことによって落ち着きを取り戻したスプリングは今一度その目でユモ村を眺め、純粋な感想を漏らした。

 スプリングが言うように確かにユモ村はのどかであった。度が過ぎると言ってもいい程のどかだ。例えば村の中を歩く者達の中に急いでいる者は一人もおらず、一度立ち止まれば何を見ているのか、何を考えているのか、最低でもその場に一分はとどまり続ける。他には皆誰もが親切で、よそ者であるスプリングに対し何かをしたがる世話好き。そして誰もが笑顔だ。


「なんか、この場所にいると強さがとか戦いがとか、馬鹿らしくなってくるな」


 ポーンと出会う前、傭兵稼業でガイアス各地を飛び回っていたスプリングは、のどかで親切な人々がいる村や町に立ち寄ったことは幾度もあった。だが、のどかで親切な人々がいても、強さや戦いの事が頭から離れたことは一度たりとも無い。それはスプリングにとって『剣聖』という目指す目標と更にはその先に待っている成し遂げなければならないことがあったからだ。

 今までどんな状況にあろうと必ず頭の片隅にそれがあったスプリング。しかしユモ村ののどかな雰囲気は固執していたはずの強さや戦い、さらには『剣聖』という目標までも否定してしまうような言葉を漏らさせる程にスプリングに影響を与えてしまっていた。


『……ふむ、のどかで良い村だ……しかし主殿、こののどかな空気に馴染んではいけない、それでは主殿が目指す目標を否定することになるぞ』


ユモ村ののどかな雰囲気に影響を受けたスプリングの変化に違和感を抱くポーンは即座にスプリングに注意を促した。


「あ、ああ……何か変な事言ってたな俺……何でこんな事……」


ポーンに注意を受けたスプリングはまるで我に返ったように自分が口にした発言に疑問を抱いた。


『確かに、ガイアス全体がこの村のようになれば強さを求めることも争いが起ることも無くなり平和な世界になるかもしれない……それは大半の人々が思い描く理想郷といってもいい、だがそれは不可能だ……人間はどう足掻いても争いからは逃れられない、それは人間が自我という個を持っているからだ』


まるで人類史を見てきたかのように、人間について語るポーン。その言葉は何処か悲しくも聞こえる。


「お、おいおい、今の俺の話で何故そんな壮大な話になるんだ?」


自分の発言に疑問を抱きつつも、ポーンが語った話がどう間違ってそんな壮大な事に転がったのかが気になるスプリング。


『すまない、主殿の話を聞いて、遥か昔、本当にその理想郷を作りだそうとして失敗した者の事を思いだしてしまった……』



「ふーん」


あまり興味なさそうに相槌を打つスプリング。しかし内心では驚いていた。以前のポーンならばどんなに尋ねようとも絶対に昔語りなどしなかったからだ。しかし今はそれを自然ながれでそれも自分から口にしている。これが創造主によって封印プロテクトの一部を解除された影響なのかと実感するスプリング。


『しかし……この村、何か妙だ……』


 いつものスプリングならばのどかな雰囲気や親切にされただけでここまで気持ちの変化が起ることは無い。それはこの数カ月、常に一緒にいたポーンが一番理解していることであった。だからこそスプリングにそう思わせ言わせたこの村の雰囲気が妙に引っかかるポーン。


「おい、あんた!」


食堂を後にし先程の民家に戻ろうとしていたスプリングに一人の村民が声をかけた。


「あ、あんたは……さっきの……」


声をかけてきたのは、ユモ村の前でスプリングに新設にしてくれた村民だった。


「おう、探したぜ」


「探した?」


自分を探していたという村民の言葉にスプリングは小首を傾げた。


「いやな、さっきあんたと別れた後、村長に会ってな、あんたのこと話したら是非お茶会に招待したいって村長が言いだしてな、もしよかったら村長の所に顔をだしてくれないか?」


村民がスプリングを探していた理由、それは村長がスプリングに会いたいからというものであった。


「お茶会? ……あ、ああ……別に構わないが……」


正直お茶会など出たことも無いスプリングは苦手だなと思いつつも別に断る理由もない為村民の願いを聞きいれ首を縦に振った。


「ああ、それは良かった! それじゃ村長の家まで案内するぜ」


そう言うと村民はスプリングの道案内として歩き始めた。


「……でも、何で村長は俺に会いたいんだ?」


村民の後を追いながらスプリングはなぜ村長が自分に会いたいのか尋ねた。


「うーん、恥ずかしい話、この村はあんまり外との交流が無くてな、お客は珍しいんだ、だから他の村や町のことを聞きたいんじゃないのかな」


村民自身なぜ村長がスプリングに会いたいのか、その理由ははっきりと分かっていないようで想像で理由を語っているようだった。


「ふーん」


人里離れた村ならおかしくも無いかと村民の言葉に頷くスプリング。


「よし、ついた、ここが村長の家だ」


「……」


スプリングの目の前に広がるのは村一番の大きな屋敷。と言っても今のヒトクイでは珍しい全て木材で作られた平屋であった。


「それじゃ俺はこれから畑仕事があるから後は二人で行ってくれ」


「え、おい、ちょっと待てよ!」


スプリングの制止の言葉も聞かず、村民はそう言うとその場から去って行く。


「……おいおい、何の繋がりも無い村長の屋敷に一人で訪問しろって……」


普通こういう場合、仲介として村長に紹介するのがあんたの役目じゃないのかと畑仕事に向かって行く村民の後ろ姿を見つめながら苦笑いを浮かべるスプリング。


「はぁ……仕方ない……行くか……」


一瞬にして村長のお茶会に行く気が失せるスプリング。しかしこのままお茶会に顔を出さなければここまで連れてきてくれた村民の顔を潰すことにると考えたスプリングは嫌々ながら重くなった足を屋敷へ進める。


『待て、主殿……』


「どうしたポーン?」


屋敷へと向かおうとするポーンの言葉に足を止めたスプリングは、その声の雰囲気からあまり良い事では無いと何処となく感じ取る。


『……先程の村民の言葉に違和感を抱かなかったか?』


「違和感? ……ああ、確かにあそこで引き返すのは何か変だな」


ポーンにそう聞かれ、屋敷の前で自分を一人置いて畑に向かってしまった村民の行動のことを口にするスプリング。


『いや、確かにそれも不自然ではあるが私が言いたいのはそこでは無い、別れ際、あの村民……後は二人でと言っていたんだ』


「……二人で……二人で?」


一瞬思考が追い付かず何がおかしいのかと首を傾げたが、よくよく考えてみれば村民のその言葉は確かにおかしくスプリングの表情が一瞬にして険しくなる。

 そう、村民は一人のはずのスプリングに対して、「後は二人で行ってくれ」と言っていたのだ。


「おい」


『ああ、あの村民も含めて、今から会う人物には警戒した方がいいかもしれない……私の存在に気付いているようだからな』


自我を持つ伝説の武具は、その性質上、多くの者達に自分の存在が知られることを嫌う。ポーンの場合、スプリングの周囲の親しい人物たち、ガイルズやソフィア、例外として日々平穏の創設者ロンキにしかポーンの存在は知られていないはずであった。それなのにも関わらず、スプリングを屋敷の前まで連れてきた村民はポーンの存在に気付いている可能性がある。更に言えば、スプリングをここまで連れて来てくれと村民に頼んだ村長もポーンの存在に気付いている可能性があるのだ。


「何がお茶会だ……嫌な予感がプンプンする」


『ああ、私も同感だ主殿』


それまで何の変哲もなかった屋敷が急に胡散臭く見えるスプリングとポーン。


「……どうする? このまま屋敷に行くのをやめるか」


正直、今のスプリングからすれば下手な面倒事に巻き込まれるのは御免だった。強さへの焦りは和らいだものの、それでもやはり創造主が残した言葉は気になるし、出来るなら早く試練に挑みたいというのが正直な気持ちだったからだ。


『……ふむ、この屋敷にいる者が何者なのか気になる所ではあるが、今私達がこの先に行くメリットは無い……引き返した方がいいだろう』


屋敷へと進むことに何のメリットも無いことを確信するポーンはスプリングの考えに頷く。


「よし、なら引き返そう」


自分の考えに賛同してくれたポーンの言葉に後押しされるように何処か安堵した気分でそう言うスプリングはあからさまに胡散臭く見え始めた屋敷に背を向けた。


『あれれ、お茶会の誘いをバックレるおつもりですか? おいしいお茶とお菓子も用意しているというのに ……更に言えばあなた方にとって凄くメリットになると思うのですがね』


突然、屋敷から男の声がする。その声は何処か漂々としており、先程別れた創造主に少し雰囲気が似ているようにも思える。


「……誰だ?」


突然聞こえた謎の声に屋敷に背を向けていたスプリングは思わず振り返る。しかしその声の主の姿は無い。


『……この声は……』


どうやら屋敷から聞こえるその声に聞き覚えがあるポーンは警戒を強めた。


『私はお二人とお茶とお菓子を楽しみながら、ああ、まあ私はお茶もお菓子も嗜めないのですが、大切なお話がしたいのです……そう、自我を持つ伝説の武器ポーン、そしてその所有者であるスプリング=イライヤ……あなた方と……』


その声はスプリングの名を、そしてポーンが何であるかも知っていた。そしてその声からは明らかに何か含みを持っているような気持ち悪さがあった。そして当然その誘いが罠の類であることは明白である。


「な、何だこの圧迫感は……」


だがその謎の声の影響なのか、スプリングは妙な圧迫感を感じその場に立ち尽くすことしか出来ない。


『……何故、何故お前が目覚めているビショップ!』


妙な圧迫感の影響でその場から動くことが出来ないスプリングとは対照的に、宿敵を見つけた如く、屋敷から発せられる声の主の名を激昂して叫ぶポーン。


『……ふふふ、それではお待ちしていますよ』


体の自由が利かず立ち尽くすスプリングと激昂するポーンを嘲笑うかのように、ビショップと呼ばれた声は、二人を招き入れるべく屋敷の扉を開くのだった。




 ガイアスの世界


ユモ村の建物


 ユモ村は他の村や町との交流が少ない為、情報や技術が振い。首都であるガウルドやそこに近い村や町は既に石と木材を使った建築が主流となっているが、ユモ村は未だに木材のみの建物が多く、村一番の屋敷である村長の家でさえ、平屋である。




 


 

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