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もう少し真面目で章(スプリング編)3 忘れていた目的

ガイアスの世界



狐獣人


 その名の通り狐の特徴を持つ獣人。ヒトクイでは昔から獣憑きと言えば狐というイメージが強く、人々は狐に対してあまり良い印象を持ってはいない。と言い切ることも出来ない。地域によっては狐は神の使いと考えている所もあり、その土地によって狐の扱いは様々だからだ。

 




 もう少し真面目で章(スプリング編)3 忘れていた目的




剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




「さて、それじゃなぜ君をこの村に飛ばしたか説明しようか」


そう言いながらスプリングと握手していた手を離した創造主は、部屋の隅に置かれた椅子に腰かけた。


「……ハッ! クゥ!」


創造主と名乗る人物のその名前らしからぬ言動行動に呆気に取られていたスプリングは、我を取り戻すとすぐに拳を構え直す。


「ははは、警戒しないで拳を下ろして君も座りなよ」


まるで自分の部屋のように椅子に座りながらくつろぐ創造主は、顔を引きつらせながらいつの間にか再び拳を構えているスプリングにベッドで腰を下ろすよう促す。


「……このままでいい……それよりも早く説明しろ」


ベッドに座るよう促されたスプリングはそれを拒否すると引きつっていた表情を引き締め、警戒した視線を創造主に向ける。


「うーん、困ったな……ポーンの口添えも駄目、話しやすいように振る舞っても駄目、私の事を信用してくれないみたいだね」


スプリングの信用を得る為に色々と策を労していた創造主だったが、スプリングの警戒が解かれた様子は無く困った頭を抱える。しかし言葉とは裏腹にフードに隠れてはいるが、その表情はどこか楽しそうであった。


「……当たり前だ、ノックもせずに突然目の前に現れた人物にアレコレ言われてしかも困ったと口にしながらその態度……信用できる訳がないだろう」


 ものの十分程前まで、スプリングはが今いる場所から遥か遠い場所にあるゴルルドの近くにある森にいたはずだった。しかし気付けば今スプリングは名前も知らなかったユモ村という場所にいる。

正直自分の身に何が起こったのかもあまり理解できていない状況の中、突然気配は愚か物音もさせずに見るからに怪しい人物が突然目の前に現れ、お前をこの場所に飛ばしたのは私だと言われてもスプリングには納得のしようがない。例えポーンの口添えがあったとしても今のスプリングの思考速度では到底追いつけない展開であった。そして何より創造主の態度がスプリングからすれば気に喰わないのも信用できない要因の一つであった。


「ふぅそれは申し訳ない、私の配慮が足りなかった、ならばこれでどうだろう?」


そう言いう創造主は困ったフリを止め、真面目な表情をスプリングに向けると突然右腕を突き出した。


「ッ?」


創造主が突き出した右腕に驚きの表情を浮かべるスプリング。それもそのはず、創造主が突き出した右腕は肘の付け根から消えていたからだ。困ったフリをしていた時の創造主の右腕は確かに頭を抱えていた。だが今はその右腕が見当たらないのだ。


「ッ!」


肘から先かない腕に驚くスプリングの耳に突如部屋の扉からノックする音が聞こえてくる。


「態度も改めて、ノックもした、これでいいかい?」


途中まで真面目な表情であったが耐えられなくなったのかまるで人をからかうような表情を浮かべながらそう言う創造主。


「お前ッ!」


創造主本人がどう思っているのかは分からないが、傍からみれば安い挑発とも思えるその行動に、当然スプリングの怒りが沸点を越える。


『ま、待つんだ主殿!』


今にも殴りかかろうという様子のスプリングを止めようとするポーン。しかしポーンには飛び出すスプリングを止める体も手も無い。言葉だけで止められるはずも無くスプリングは一歩強く踏み出すとそのまま踏み出した勢いを打撃用手甲バトルガントレットを纏った拳に乗せ、椅子に座る創造主に殴りかかった。

 スプリングの放つ拳は風を振動させ狭い部屋を揺らす。


「どうしたんだいスプリング君、私が得た情報では君はもっと冷静な男だと聞いていたんだけどね?」


だが放たれた拳に対し一切の動揺を見せない創造主は言葉を続ける。


「何を焦っているんだい?」


「ッ!」


そう創造主が口にした直後、スプリングの放った拳は創造主の顔に到達することなく鼻先ギリギリの所で止まっていた。


「なッ!」


目の前で起きている光景が理解できないスプリング。



「……肘を見てみなよ」


そう言いながら左手で殴り掛かったスプリングの腕を指さす創造主。まるで誘導されるように創造主の指さす方向へ視線を向けるスプリング。


「ッ!」


そこにあったのは、何も無い場所から生えようにして現れた右腕が自分の肘を掴んでいるというとても奇妙な光景だった。何も無い場所から生えたように現れた右腕の袖は、創造主の左腕の袖と同じ物でそれが創造主の右腕だということが分かる。結果としてスプリングの拳を創造主は無力化していたのだ。


「……くぅ」


何も無い場所から腕が生えているという奇妙な光景が目立つが、それ以上にスプリングは自分の肘を掴んでいる創造主の握力にも驚いていた。


「くぅ! は、離せ!」


 その見た目からは分からない程に創造主は強力な筋力、握力を持っているようでスプリングは掴まれた肘を振り払うことが出来なかった。


「何も無い場所に距離を跳躍出来る見えない穴をあけ体の一部をその穴に突っ込むことで体の一部を別の場所に跳躍させる、これが私の能力の一つ、そして当然この穴に人を丸々突っ込めば、人を別の場所に跳躍させることも可能、これが君をこの場所まで飛ばしたカラクリ、転移というものさ」


信じないのであれば実際に見せればいいと言わんばかりに、創造主はスプリングに自分の能力の一つ転移を見せた。

 先程右腕の肘から付け根が消失していたのも、その直後スプリングがいる部屋の扉がノックされたのも、そしてスプリングの放った拳の力を殺したのも全ては創造主による距離を跳躍することが出来る穴を使った転移によってなせる技であった。


「分かってくれたかな?」


転移の一部を実演してみせた創造主はそう言いながらスプリングの肘を掴んでいた手を離す。次の瞬間には本来あるべき場所に創造主の右腕は戻っていた。


「……」


創造主による転移の実演を見せられ自分がその能力によってこの場所に飛ばされたことを否が応にも理解したスプリング。だが目の前で起った事が余りにも突拍子が無いこと過ぎてスプリングは茫然と立ち尽くすしか無かった。


「おーい、スプリング君! ここで茫然とされてしまうと話が進まないんだけど」


これが日常であり別段驚くことでも無い創造主は目の前で茫然と立ち尽くすスプリングに手を振りながら声をかける。


「……」


あまりにも自分が居る世界とは異質な場所に存在する創造主を前に理解が追い付かないスプリングは目の前にチラつく創造主の手にようやく我を取り戻すと眉間に皺を寄せた。


「……お前がポーンを作りだした存在で、俺をこの場所に飛ばした張本人だってことは信じる」


『主殿』


スプリングの言葉に納得してくれたのかと安堵の声をあげるポーン。


「ふむ、納得してくれてよかった」


満足そうな表情を浮かべうんうんとスプリングの言葉に頷く創造主。


「……答えろ、お前は一体何者だ?」


創造主の転移の力は理解したスプリング。しかし創造主と名乗るこの人物は一体何者なのかそしてスプリングはなぜこの場所に飛ばされたのか、疑問は解消されていない。


「いやだから私はポーン達の作りだし……」


「違う! そんな事を俺は聞きたいんじゃない、本当のお前の肩書きは何だ?」


ポーンを作りだした存在、そんな答えでスプリングは納得できない。転移という規格外の力を持つ存在がポーンを作りだしただけの存在であるはずがないと思うスプリングは創造主に本当の肩書きを尋ねた。


「ふぅ……あまりこの言葉は使いたくないんだけどねぇ……いいよ教えよう私の正体」


『創造主!』


自分の正体をスプリングに明かそうとする創造主を止めるポーン。


「大丈夫、遅かれ早かれスプリング君は知ることになるんだ……」


止めに入ったポーンに創造主は自分の正体はいずれ知ることになると言うと、スプリングを見つめた。


「……私はガイアスという世界を管理する者だよ」


「はぁ?」


この日で何度目だうか、スプリングの思考は創造主の言葉で停止する。


「君達の間では、神と表現するのが分かりやすいかな、私はその呼び方は好まないけどね」


そう言いながら創造主は苦笑いを浮かべる。だが何処か今までの笑いとは違いその苦笑いには血が通っているようで、今まで本質を隠しているようにも思えた創造主の本心が見え隠れしているようだった。


「……まあ、私がガイアスの管理者や神みたいなものであるということは今は忘れて欲しい」


「……いやいや、信じる訳ないだろ」


創造主の言葉を信じる訳ないと言い切るスプリング。しかし創造主が持つ距離を跳躍する穴を利用した術やそれを応用した転移というとんでも無いものを見せられ内心スプリングは目の前の人物はと心を揺らす。何より今まで本質を隠すようにとってつけたような表情を浮かべていた創造主が唯一、自分は管理者、神だと名乗った時の気恥ずかしいそうに浮かべた苦笑いだけは血が通った本心のようにも思えたスプリング。


「……そ、それで管理者なのか神なのか知らないがそんに奴が俺を何でこんな場所に飛ばしたんだ?」


明らかに目の前の人物に対して動揺が見て取れるスプリング。その動揺を紛らわせようとスプリングはもう一つの疑問である、なぜ自分をこんな場所に飛ばしたのかを創造主に尋ねた。


「……君は光のダンジョンに向かおうとしていたんだよね……」


スプリングの疑問に質問で返す創造主。


「……」


創造主の質問に黙りこむスプリング。だがその態度は既に答えを言っているようなものであった。


「……私は君が光のダンジョンに行く事を今は望まない……だから邪魔したんだ」


「何ッ!」


ハッキリと邪魔したと答える創造主の答えに今までの動揺が一瞬にして消え去ったスプリングは創造主を睨みつけた。


「……今の君の実力やその他諸々では、試練としての光のダンジョンを突破することは出来ない」


スプリングに睨みつけられても全く我関せずの創造主は言葉を続ける。


「……君自身、試練としての光のダンジョンを突破できないことは森の入口で出会った変異種の魔物と戦って気付いているはずだ」


「なッ!」


一瞬、創造主の言葉を否定しようとするスプリング。だが次の瞬間、森の入口で出会った変異種の魔物、小鬼猿ゴブリンモンキーの戦闘で満足の行く戦い方が出来なかったことが頭を過ったスプリングは否定する為に上げた声を飲み込んだ。


「あの変異種は、いわば君が光のダンジョンの試練を受けられる技量や力を持っているかを計る試験みたいなものだ……君は今の自分であの変異種達が有象無象に現れる真の光のダンジョンで戦い抜くことができるかい?」


 森の入口で出現した変異種の小鬼猿ゴブリンモンキーは、スプリングの今の実力を計り、光のダンジョンの試練を突破できるかを見定める為に送りこんだものだと語る創造主は、そんな変異種達が出現する試練で戦い抜くことが出来るのかとスプリングに尋ねた。


「……」


言葉を失うスプリング。

 森の入口で出くわした変異種である小鬼猿ゴブリンモンキーをスプリングは一撃で倒すことに成功はしたが、それはあくまで変異種の小鬼猿ゴブリンモンキー一体の話だ。ポーンの話によれば光のダンジョンの試練では小鬼猿ゴブリンモンキーのような変異種が沢山存在していると言っていた。

 もし狭いダンジョン内で変異種が二体三体、複数で襲ってきたら自分は対応することが出来るかそう考えた時、スプリングは自分がその場に生き残っている光景を想像することが出来なかった。


「……」


「君は今の自分の実力が計れない程、愚かでは無いはずだ、だが君は何かに焦りその事実を無視して先に進もうとしていたのではないかい?」


まるでスプリングの心を見透かすようにそう尋ねる創造主。

 確かにスプリングは焦りから本来ならば見誤らないはずの自分の今の実力を無視して光のダンジョンの試練へと挑もうとしていた。


「……君の焦りが何なのか、私はそこまでは言及しない……けれど、今のままでは君は確実に死ぬ」


 いつの間にかふざけたものでは無く真面目な口調になっている創造主は、スプリングが抱く焦りの原因が何であるのかについて言及はしないと言いつつもこのままではその焦りによって確実に死ぬとスプリングに告げる。


「……俺は……どうしたらいい……どうしたら今のソフィアを越えられる……」


創造主に突きつけられた死。それはスプリングの心を取り巻いていた意地プライドをぶち壊した。崩れ去った意地プライドに隠れた本心をまるで創造主に導かれるようにスプリングは吐露した。スプリングが焦っていた理由、それは今まで共に戦ったソフィアという存在だった。


 ガウルドの旧戦死者墓地の戦い以降、目覚ましくその実力を高めていったソフィア。そしてスプリングにとって決定的だったがあの夜の戦い、夜歩者ナイトウォーカーとの戦いであった。自分が手も足も出なかった夜歩者ナイトウォーカーを相手にソフィアは善戦、いや圧勝してみせたのだ。あの日、スプリングの心に嫌の音が響いた。まるで何かがゆっくりと崩れていく音のような音があの日から鳴り止まなくなっていた。


「……スプリング君、一つ聞かせてもらいたいんだが……君は何の為に光のダンジョンの試練を受けるつもりだい?」


「……目的?」


創造主にそう尋ねられ、スプリングは自分が光のダンジョンの試練へと挑む理由を考え直した。


「……君はソフィアという人物よりも強くなる為に光のダンジョンの試練へ挑むのかな?」


「……」


ソフィアの急成長によって本来の目的を忘れているのではないかとスプリングに尋ねる創造主。


「……そうだ……俺は……」


光を見出したように目を見開くスプリング。


「そう、君の目的は『剣聖』になること……そして光のダンジョンの試練へ挑む目的……それは……」


「ポーンを光のダンジョンへ連れていくことだ」


ソフィアという強者の存在に焦り強さを追い求めることだけに執着していたスプリングは、自分が光のダンジョンへ向かっている理由を忘れていたことに気付いた。

 スプリングが光のダンジョンへ向かう理由、それは自分が『剣聖』になる事を信じてくれているポーンを光のダンジョンへの最奥へ連れて行き、ポーンの機能不全を正常に戻すことであった。


「そうだ、その為には君自身が光のダンジョンを突破できるだけの実力をまずは身に付けなければならない、私はその為に君の前に姿を現したんだよ、普通ここまでやらないよ」


いつの間にか先程のようにふざけた口調に戻っている創造主は、本来の自分を取り戻したスプリングを見てニタニタと笑みを浮かべる。


「……そうか……ポーン……その何だ……色々と悪かった……」


焦りから自分を見失っていたスプリングは、自分の焦りに巻き込んでいたポーンに対して詫びた。


『……いいのだ、主殿……いいのだ……』


言葉を詰まらせながらポーンは、スプリングに対して頷くように声をあげる。


「ふぅ……さてスプリング君も我を取り戻したことで、私こと創造主が二つ程アドバイスを送ろう……」


創造主はそう言いながら椅子から立ち上がるとスプリングが座るベッドに近づいた。


「まずは君の……いや、君達の宿敵となる存在をその身で感じなさい」


創造主はベッドの横にある窓の外を眺めながらそう言った。


「宿敵?」


宿敵という言葉、そして君達と言う言葉に全く見当がつかないスプリングは首を傾げた。


「まあ、直ぐに分かるさ……そして二つ目はガウルドに戻って忘れている約束を果たすこと……この二つのアドバイスを完遂すれば私が君に光のダンジョンの試練へ挑む権利を与えよう」


「……とりあえず分かった、だがなぜあんたから試練の権利が与えられるんだ……やっぱり管理者、神だからか?」


憑き物が落ちたように何処か心が軽くなったスプリングは、心に余裕が出来たのか目の前にいる創造主に対して悪い笑みを浮かべながら訪ねた。


「や、止めなさい!」


スプリングの言葉に初めて動揺を見せる創造主。


「……ま、まあ、兎に角、私のアドバイスを守らないと試練は受けさせないからそのつもりで! とりあえず私が言いたいことはこれだけです……それではまた近い内に会えることを祈っているよ」


スプリングの言葉にその場にいることがいたたまれなくなったのか、それとも何か他に理由があるのかそれは分からないが、創造主は忙しなくそう言い残すと、スプリングの前に姿を現した時と同様に忽然とその姿を消すのであった。


「なあ……本当に管理者とか神なのか?」


脱兎の孤独その場から姿を消した創造主に別の意味で疑いを抱くスプリングは、僅かに口元を緩めながら本当にお前を作りだした奴なのかとポーンに尋ねた。


『ああ、あの人は立派な方だ』


スプリングの問に対して全く答えになっていない答えを返すポーン。


「はぁ……とりあえず……飯でも食いに行くか」


そう言うとスプリングは腹を摩り部屋を出て行くのであった。

 


 ガイアスの世界


 『転移』について


 現在『転移』を扱えるのは、創造主のみと言われている。創造主の話によれば距離を跳躍できる穴を作りだし、その穴に入ればどんなもの、生物であろうと生物以外のものであろうと兎に角別の場所へと飛ばすことができるそうだ。

 しかしこれに似た現象を扱う者達がいる。それは剣を扱う者にとっての憧れ、剣の道を究めた戦闘職『剣聖』だ。

 無数の剣を何も無い所から作りだし時にはその剣を矢のように放つ。『剣聖』独特の戦い方は、何処か創造主が扱う『転移』に似ていなくもない。もしかすると『剣聖』の能力は『転移』の何かを流用して作られた物なのかもしれない。



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