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もう少し真面目で章(スプリング編)2 握手は突然に

 ガイアスの世界


 光のダンジョンへ続く森


 森と言われているが、光のダンジョンまでの道がしっかりと作られており滅多なことが無い限り道に迷うことが無い。

 この森にも数種の魔物が生息しているが、ゴルルドの草原と同様に脅威になるような魔物は殆どいない。だが時々、得体の知れない咆哮が聞こえたりするという噂はあり、完全に安全とは言えない。





 もう少し真面目で章(スプリング編)2 握手は突然に




 剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




「お、こんな所に冒険者なんて珍しい」


絶叫した後、自分の状況が理解できず茫然と立ち尽くすスプリングに声をかけたのは一人の男だった。


「冒険者や戦闘職にとってここは退屈な場所だって言うのによく来るね」


そう言いながらへへへと笑いを混じらせる男はどうやらスプリングが呆然と見つめている村の村民のようだ。そんな村民の男が言うように確かに村の周囲には静かな草原が広がるだけで、荒事が多い冒険者や戦闘職では退屈しそうな場所であった。


「……」


 数十秒前まで確かにスプリングは、光のダンジョンへと続くはずの森の中にいた。森に入ればダンジョンまで一本道、迷うことなど本来なら有り得ない。もしその一本道を外れたとしても、抜けるのはゴルルド周辺と同じ光景が広がる草原地帯のはず、今スプリングが茫然としながら見つめる村など存在しないはずであった。

 しかし事実、スプリングの目の前には光のダンジョンの入口では無く見知らぬ村が存在している。正直自分が置かれた状況を把握することも処理することも出来ないスプリングは言葉を失いその場に立ち尽くすことしか出来ない。


「どうしたんだい兄ちゃん? 狐獣人に抓まれたような顔をして……」


ヒトクイにある古典的な表現を現代風にアレンジしてスプリングの様子を言い表す村民の男。

 

「あれ? 面白くなかったかい?」


そう言いながら勝手にガハハと大笑いする村民の男。

 元来、ヒトクイでは狐は人を化かすと考えられている。そのイメージの大半は、人間に悪さをするからというものが強いが、その他にも人の姿に変わり人間の社会に溶け込んでいる、狐が突然別の何かに変わったという噂が多くあることから村民の男が口にした言葉の原形「狐に抓まれた」の語源になっていると言われている。

 統一によって他の大陸から続々と冒険者や戦闘職、観光目的の人々がヒトクイにやってくるようになり、獣人もヒトクイへ渡ってきたことから、村民の男は、「狐に抓まれた」を「狐獣人に」と言う言い回しに変化させたのだろう。しかしこの言い回しは獣人に対しての差別用語として捉えられてもおかしくない。村民の男はそれを知ってか知らずか口にしているようだった。

 統一以前までヒトクイに獣人は存在していなかったと言われている。しかしそれは今となってははっきりとした確証がある訳では無い。統一以前からヒトクイには数は少ないが獣人はいたのではないかと考えている者も多くその理由が獣憑きや魔物憑きという存在の話が古くから語り継がれていたからだ。

 古くからヒトクイでは体の一部、あるいは体の半分が動物や魔物の物に酷似した者のことを獣憑き、魔物憑きと呼び忌み嫌うことがあった。何か悪いことをすると獣や魔物の姿に変えられてしまうぞという子供を躾け言い聞かせるような古い言伝えのようなものである。だが獣憑きや魔物憑きを実際に見たという者は少なく、見たという者も祖父や祖母から、またその祖父や祖母は父親や母親から聞いたというような証言が多く確かなものでは無い。

 統一以降、他の大陸からヒトクイへ来る者が増え、その中には獣人の姿もあり、ヒトクイに住む人々にも獣人という存在が認知されるようになった。だがそれはあくまで首都であるガウルドやある程度人口が多い町だけで、未だに地方にある小さな村などでは獣人を獣憑きや魔物憑きと勘違いしたり、はたまた神の使いだと崇める者も多いのが現状であった。

 そして例え獣人という存在を知っていたとしても、獣憑きや魔物憑きに対して恐怖を抱く者もいる為、獣人を受け入れられない者達も地方の村々にはいる。どうやらスプリングに話しかけてきた村民の男の口ぶりからして、獣人という存在は理解しているようだが、あまり好ましく思っていないようであった。


「……」


 村民の男の言葉の裏に隠されている獣人に対しての想いに気付くはずもない、それ以前にそんな事に気付く余裕のないスプリングはただ自分の目の前に現れた村を見つめることしか出来ないでいた。

そんな状態のスプリングの視線は、吸い込まれるようにそこが村であることを示している看板に向けられた。


「……ユモ村?」


看板に書かれた村の名を口にするスプリング。


「おお、そうだ、ここはユモ村だ」


渾身の例えを一切無視された村民の男は、それでも人懐っこい表情で未だ呆然の状態から復帰することが出来ないスプリングの言葉に元気よく答えた。


「……何で……」


村民の男の言葉に続くようにそう呟くスプリング。しかしそれは村民の男に向けられた物では無くただの独り言。自分は光のダンジョンを目指していたはずなのにという意味が込められた「何で」であった。

 

「はっ! こうしてはいられない、引き返さ……」


何かに急かされるように停止していた思考が再び動き出したスプリングは、この場から離れ森に戻ろうと後方へ振り返った。


「……なきゃ? ……ッ!」


しかしスプリングの視線の先に想像していた光景は無かった。


「……草原……」


スプリングが目にした光景、それは、ゴルルドの周囲にあるものとよく似た草原であった。


「……ゴルルド……とは違う……」


自分が見知った場所に酷似しているものの、目にしているその場所は何処か雰囲気が違っていることに気付くスプリング。


「凄いだろ、この草原は俺の村の先祖が開拓したんだぜ」


目の前の草原に再び茫然とするスプリングが驚いているものだと勘違いした村民の男は、誇らしげにその草原について語った。

 そう目の前に広がるその場所をスプリングがゴルルドの草原とは何処か雰囲気が違うと感じていた理由、それはこの草原が作られたものであり、生物の気配が感じられないからだった。とは言え、花や草はしっかりと生い茂り、その間を虫が行き来している。スプリングが感じた生物の気配とはもっと大きく攻撃的なもの。


「先祖の爺様たちのお蔭で俺達は魔物の脅威を殆ど感じることは無い、平和な場所だよここは」


それは魔物の存在だった。

 村民の先祖が作りだしたこの草原には魔物が存在していないのだ。村民の男の言葉でようやくゴルルド周辺にある草原とは違う雰囲気の正体が何であるかを理解したスプリングは、目の前に広がる草原になぜか気味悪さを抱いた。


「所で冒険者や戦闘職にとっては何のうまみも無いこの場所に、兄ちゃんは何の用だい?」


多くの初心者や中堅どころの冒険者や戦闘職は、村や町の周囲に現れる魔物を討伐することで生計を建てている。依頼した村や町から出される討伐報酬や、討伐した魔物から得られる素材を換金し路銀や身の回りで必要な道具や武具の資金に充てているのである。

 しかし、このユモ村の周囲には魔物一匹存在していない。何のうまみもないユモ村に冒険者や戦闘職が立ち寄る事は非常に珍しいことであった。


「……」


『主殿、話がある、ここは一旦この村に入ろう』


状況が把握できず更には魔物一匹存在しない草原を前に混乱するスプリングを見かねたポーンは、村民の男に聞かれない特殊な声で村に入ることを提案した。


「あ、ああ……」


ポーンに言われるがまま、頷いたスプリングは、ここでようやく村民の男を視界にちゃんと捉えた。


「あの……村に入っても構わないか?」


未だ何一つ状況を理解できていない中、スプリングは冷静を保つように一度深く呼吸すると、自分を見つめる村民の男に村に入る許可を求めた。


「ああ、別に構わないよ、そうだな……宿屋、と言ってもただの家だが、そこに連れて行ってやるよ」


そう言いながら村民の男は気さくに笑うとスプリングの肩を軽く叩きながら村へ連れていくのであった。




― ヒトクイ ユモ村 民家 ―




ユモ村に入ってすぐの所にある小さな民家に通されたスプリングは、部屋にあるベッドに腰掛けた。


「それじゃ何かあったら遠慮なく声をかけてくれよ」


ここまで案内してくれた村民の男はそう言うと手を振りながら部屋を出て行った。


「……だぁはぁぁぁぁ……」


疲労に満ちたため息を吐いたスプリングは、天井を見上げた。


「……おいポーン、一体何が起こっているんだ?」


年季のある天井を見つめながら自分の腰に吊るしたままのポーンに話しかけるスプリング。


『……正直、私も理解が追い付いていない……』


「おいおい……話があるって言ったのはお前だぞ、理解が追い付いていないってどういうことだ……」


 所有者が所有者としての実力をしっかり身につければ、国の一つや二つ簡単に相手にすることが出来ると言われている自我を持つ伝説の武器。現在所有者であるスプリングは所有者としての実力を満たしていない為に、本来の力を発揮することが出来ないポーンではあるが、強力な力だけが自我を持つ伝説の武器ポーンの特徴ではない。他の自我を持つ武具に比べれば劣るものの、ボーンも人間では到底追いつけないだろうガイアスについての知識を有している。そんなポーンが理解できていないと言う言葉を吐いたことにスプリングは困惑するしかない。


『いや、言葉が悪かった、主殿の身に起った事自体は説明できるのだ……だが……』


「……何だよ、歯切れが悪いな」


説明は出来ると言うポーン。しかしスプリングの言う通りどこか歯切れが悪く言いにくそうな様子のポーン。


『……主殿、自分がゴルルドからこのユモ村という場所に飛ばされたことは理解しているな?』


重い口調でスプリングに質問するポーン。


「あ、ああ……信じられないけど、ここはゴルルドでも無ければあの森の近くでも無い」


なぜそんな状況になっているのかは分からないが、間違いなく今自分が居る場所がゴルルド周辺では無いことは先程の草原の件で実感しているスプリングはポーンの問に頷いた。


『……これは、『転移』という……平たく言えば……魔法の類と思ってくれていい』


何か言えないことがあるように言葉を選びながら『転移』について説明を始めるポーン。


『……しかし、『転移』を使える者は今このガイアスに存在しない』


「はぁ?」


『転移』を使える術者が存在しないと断言するポーンの言葉に首を傾げるスプリング。


「おい、なら何故俺は、あの森からこんな所まで飛ばされたんだ?」


『転移』を使うことが出来る術者が存在しないのならば自分がユモ村に飛ばされること事体がおかしいとスプリングは疑問をポーンにぶつけた。


『……だから私も理解が追い付いていないと言っているだろう……『転移』を使えるのはあの人……あの人だけなんだ……』


ポーンの後半の言葉はまるで自分に言い聞かせているようにも聞こえる。


「……ポーン、あの人っていうのは誰なんだ?」


ポーンの歯切れが悪い理由が囁くように口にした「あの人」に関係していると断定するスプリング。そのことについて絶対に話すことを拒否することは分かっていたが構わずスプリングはポーンに質問した。


『そ、それは……』


言いよどむポーン。その様子だけでスプリングは自分の読みが当たっていると確信する。


「いつものように話すことは出来ないってやつだろ……分かっている……分かっているけど……」


何らかの情報をポーン確実に持っている。しかしそれを公表することが出来ない。そんな状況に歯がゆさを感じるスプリング。

 ポーンには所有者にすら話せない情報が多くある。それは自我を持つ武具という存在を利用されない為の封印プロテクトであり、ポーン本人でも簡単には解除できないものであった。


『……申し訳ない、主殿』


正直、今回に限って言えばポーン自身もスプリングに対して『転移』にまつわる情報を全て話したい気持ちで一杯であった。しかし自らにかけられた封印プロテクトを強引に解除できる術を今のポーンは持ち合わせておらず、所有者であるスプリングに詫びることしか出来なかった。


「何、話したいのなら、話していいのではないかい?」


「ッ! ……誰だ!」


狭い部屋に突如として響いた声に即座に手に纏わせたままであった打撃用手甲バトルガントレットを構えるスプリング。その視線の先にはフードを深く被った如何にも怪しい人物が立っていた。


「お前、何処から入ってきた?」


戦闘職であれば、高かれ低かれ魔物や人の気配を察知する能力はある程度培われているはず。一時は『剣聖』に近い男とまで呼ばれたスプリングならば尚更に気配を感じることについては他の者達よりも長けているはずだった。しかしフードを被った如何にも怪しい人物はスプリングの気配探知を軽々とすり抜け目の前に立っていた。


「あ……すまない、別に驚かせようとした訳では無いんだよ」


スプリングがいるその部屋は狭く入口は廊下へと続く扉が一つしかない。窓はあるがそもそも人一人が出入りできるような大きなものでは無いしそもそも窓の横にはベッドがありそこにはスプリングが腰掛けている。どう考えてもスプリングに気付かれず部屋の中に侵入することは不可能であった。


「そんなに警戒しないでその拳を下ろしてくれるとうれしいな」


緊張感が広がる部屋。しかしそれにも関わらずフードを深く被った如何にも怪しい人物はその緊張感を物ともせず軽い口調でスプリングに対しそう告げた。


「気配を一切感じさせず突然現れた奴に警戒しない方がおかしいだろ? お前一体何者だ!」


そう言いながら完全に戦闘状態に入るスプリング。


「ふぅ、今にも鋭い一撃が飛んできそうだ……」


だがそう言いながらも余裕がその様子から見て取れるフードを被った人物。


「くぅ……」


だがフードを被った人物のその様子は虚勢ではないことは対峙したスプリングが一番理解していた。


(攻撃が当たる気が一切しない……)


フードを被った人物の立ち姿は、一見戦闘慣れをしていない者のように見える。しかしスプリングは隙だらけのようにも見えるフードを被った人物に対して攻撃を当てられる自信が皆無だった。


「僕が何者か尋ねたよね、その答えは君の相棒であるその古代兵器ロストウェポン……いや伝説の武器に尋ねてみたらどうだい?」


「なに?」


フードを被った男の言葉にスプリングは警戒しつつもその視線をポーンに向ける。


『……』


しかし何も答えようとはしないポーン。


「ふふふ、一部の封印プロテクトは解けているから大丈夫だよポーン」


ごく限られた者達しか知らないポーンの名を口にするフードを被った男。


「な、なんだお前、何で伝説の武器やこいつの……」


『主殿! ……大丈夫だ……この人は敵ではない』


ポーンの事を知るフードを被った男に警戒を強めたスプリングの言葉を制するポーン。


「ポーン……は、この人ってまさか!」


フードを被った人物の事をあの人と呼ぶポーン。その呼び方に先程の話を思い出すスプリング。


『そう、この人こそ、主殿をこの村へと転移させた人物、そして……我々を作りだした創造主だ』


「な……」


ポーンの話す内容にスプリングは言葉を失った。


「はい、私がポーン達、伝説の武具を作りだした創造主です、よろしく」


そう言いながら創造主と呼ばれた人物は、スプリングの意思などお構いなく右手を握り握手する。


「いや~やっと出会えたねスプリング=イライヤ君」


何が嬉しいのか握手した手をブンブンと振り回す創造主。


「あ、あ……」


あまりにも軽いそのノリに、スプリングはついていけずただ顔を引きつらせることしか出来ない。


『創造主、なぜあなたがここに!』


創造主がこの場にいることが信じられないという様子で浮かんだ疑問を即座に言葉にするポーン。


「それはスプリング君をなぜこの場所に飛ばしたかも含めて話すよ」


そう言いながら創造主はスプリングに顔を向け口元をニヤリと吊り上げるのであった。




 ガイアスの世界


獣憑き、魔物憑き


 ヒトクイが統一される以前の時代、ヒトクイに住む人々の殆どは獣人という存在を知らなかった。

その為なのか、ヒトクイでは古くから体の一部や半分以上が獣や魔物の特徴を持っている者を獣憑きや魔物憑きと呼び忌み嫌っていたようだ。

 現在では獣憑き、魔物憑きは、統一以前のヒトクイにも獣人が存在したという証拠になるのではないかと言われるようになったが、統一後、他の大陸から続々と獣人がヒトクイに渡ってきた為に、ヒトクイの人々の目から隠れて生きていたかもしれない獣人達が、他の大陸からやってきた獣人達に紛れてしまった可能性がある為に真相を探ることが更に困難になってしまったという。

 

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