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もう少し真面目で章(スプリング編)1 森を抜けるとそこは…… 

ガイアスの世界


 ユウトの持つ体質


 ユウトは今から五年程前から二週間起き続け、その後二週間寝続けるという体質になった。


その原因は精神的なことからくるものでは無いかと当初担当医から言われたが、ユウト本人には思いつく節は無く、原因不明というどうでもいい検査結果があがってきた。

 当の本人は表面上では気にしていないようだが、二週間寝続けるという状況を気にしているようだ。

 その理由は寝続けている間に見る夢にある。寝続けている間、ユウトは悪夢を見ているからだ。

寝ている間悪夢を見続けなければならないという状況はさぞ精神的ストレスになると思われたが、この体質になってから一年程経過した頃には悪夢を悪夢として捉えないようになりユウトからストレスは無くなった。

 この体質と悪夢に何か関係があるのかは不明であるが、悪夢に慣れた頃からユウトは感情を表に現さなくなったという。


 


 もう少し真面目で章(スプリング編) 1 




剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




 小さな島国ヒトクイの中で初心者冒険者や戦闘職がまずは立ち寄ることを勧められる町がある。その町の名はゴルルド。他の町に比べ初心者に必要な道具や武具が充実している商店が多くあり、宿の価格も良心的であることから、いつの頃からゴルルドは初心者が集まる町となっていた。

 だがゴルルドに初心者が集まる理由は宿の価格が安いことや初心者が扱いやすい道具や武具を販売する商店が多いといったことだけでは無い。ゴルルドの周辺に広がる広大な草原には魔物が多く生息している。だが草原に生息している魔物の大半は下手をすれば冒険者や戦闘職でなくても倒せてしまう程に弱い個体が多く、初心者が戦闘訓練をする場としては最適な場所であった。そして草原で十分に経験を積んだ初心者達はまるで導かれるように草原から少し先に行った所にある森へと向かう。草原で経験を積んだ初心者達ならば十分に戦える程の強さの魔物がお出迎えしてくれるその森は、初心者達の経験を更に高めてくれる。

 実にヒトクイで活動する約九割の冒険者や戦闘職が初心者の頃にこの町に通ったことがあると言う程ゴルルドは冒険者や戦闘職に最低限戦闘に必要な経験を積ませてくれる場所なのであった。

 そして草原や森で十分な戦闘経験を積んだ初心者達が最後に向かう場所がある。そこは森の最奥にあるダンジョンであった。

 今まで数多くの初心者達が出入りした為にお宝と言える物は殆ど残っていないが、あまり複雑では無い内部は探索がしやすく、出現する魔物達も差ほど強くない為、狭い空間での戦闘を経験するにはもってこいの場所であり、ゴルルドに集まった初心者達にとって卒業試験みたいな場所になっていたこのダンジョンはいつのころからか、初心者に夢と希望の光を与えるという意味を込めて光のダンジョンと呼ばれるようになっていた。




 そんな初心者の為のダンジョンへ向かおうと森へ入って行く一人の青年。だが彼は初心者では無い。若いながら既に上位剣士という戦闘職に就き、剣士の頂点『剣聖』に若手で一番近いと言われる彼の名は冒険者や戦闘職の間では有名であった。

 しかし今青年が身に纏っている防具は、動きやすさを重視したと言えば言い訳は立つが、どう見ても初心者が纏う軽装防具ライトアーマー。一目見ただけでは彼が『剣聖』に近い人物だとは誰も思わない。

 更に青年が若手で一番『剣聖』に近い人物と思われない決定的な要因は、剣士ならばあるはずの物がないからだ。そう青年の腰に本来ならば剣が差さっているはずの剣が無く、その代わりとでも言うように紐で吊るされた二種類の打撃用手甲バトルガントレットだった。

 打撃用手甲バトルガントレットとは拳を武器とする戦闘職、拳士などが身につける武器で剣士や上位剣士が身につける物では無い。

 上位剣士でありながら、その得物としては相応しくない打撃用手甲バトルガントレットを腰に吊るしている今の青年を誰も『剣聖』に近い男などとは思わない。

 なぜ『剣聖』に近いと言われていた青年が、剣士では無く拳士なのか、それは彼が腰に吊るしている打撃用手甲バトルガントレットに理由があった。

 青年の腰には二種類の打撃用手甲バトルガントレットが吊るしてあった。一つは初心者拳士が身につけるような地味な物。もう一つは一つ目と同様に地味では凝った作りの何物。しかし一つ目は無論のこと、地味ではあるが装飾が凝った作りの打撃用手甲バトルガントレットが青年の運命を捻じ曲げたと言うにはいささか説得力に欠けているようにも思う。しかしその二つ目の打撃用手甲バトルガントレットが青年の運命を大きく捻じ曲げた張本人であった。

 打撃用手甲バトルガントレットに対して張本人と言うのは、いささか違和感があるかもしれないが、彼の場合は正しいと言わざるを得ない。なぜならば青年が持つ打撃用手甲バトルガントレットには


『主殿……』


自我があるからだ。


 二種類の打撃用手甲バトルガントレットを揺らしながら森の奥へと進んでいく青年は自分以外誰もいないはずのその場所で声をかけられた。


「何だ、ポーン」


自分以外誰もいないはずの場所で突然呼び止められれば、普通ならば挙動不審になるか気の弱い者なら悲鳴の一つでも上げそうなものだが、青年はそれが日常というように当たり前の如く自分を主と呼んだその声、ポーンに返答すると自分の腰に吊るされてい地味だが装飾が施されている方の打撃用手甲バトルガントレットを手に取った。


『……何か違和感を抱かないか……?』


ポーンの声は青年が手にした打撃用手甲バトルガントレットから聞こえてくる。


「ああ、前に来た時はもっと騒がしかったはずだ」


そう言いながら周囲を見渡す青年。

 季節は夏、秋冬に向け魔物達は食料を蓄える為に活発になる時期それにも関わらず青年は一切魔物の気配を感じ取れないでいた。


「……それ以前に静か過ぎやしないかこの森、虫の鳴き声すら聞こえないぞ」


 夏は魔物達以外の生物も活発になる季節。特にこの時期、森は五月蠅い程に虫の鳴き声が響いていたと記憶する青年は、虫の鳴き声一つしない不自然過ぎる今の森の様子に警戒心を強めた。


『もしかすると……既に試練は始まっているのかもしれない……』


何処か緊張したような声でそう告げるポーン。


「上等上等……」


試練という言葉を聞きそう呟く青年。しかし言葉に反してやはり青年も何処か緊張の色が見える。

 先程も伝えたが青年は初心者では無い。ましてや初心者の頃を懐かしく思い思い出に浸ろうなどと思ってこの森に入った訳でも無い。

 青年はポーンが口にした試練を受ける為にこの森の奥にあるダンジョンへ向かおうとしているのだ。

 青年にとって試練とは何なのか、それは彼が持つ自我を持つ武器ポーンに関係していた。

 

「なぁ、ポーン、お前はこの違和感の原因を理解しているんじゃないのか?」


森全体から感じる違和感の原因が何なのかポーンなら知っているのではないかと尋ねる青年。


『いや、すまない、何かが我々に干渉しているという所までは分かっているがそれが何であるのかは私にも分からない』


しかし青年の問に対して分からないと答えるポーン。


「お前でも分からないのか……」


ポーンの答えに僅かに表情が困惑する青年。しかし青年が困惑するのも無理は無かった。今までポーンが周囲の状況を完全に把握できないことは殆ど無かったからだ。

 ポーンには青年を中心として町一つをカバーできる程の索敵能力、情報把握能力が備わっていた。その能力のおかけで青年は何度か命拾いをしたことがあった。

 ポーンの索敵が殆ど機能していないこの状況はあまりにも不自然であり危険であると考えた青年は、ポーンでは無くもう一つの打撃用手甲バトルガントレットを両腕にはめ、いつでも戦える体勢をとった。

 しかしなぜ青年は自我を持ち喋ることが出来る打撃用手甲バトルガントレットでは無くもう一つの方の初心者用の打撃用手甲を(バトルガントレット)を両腕にはめたのか。それは青年がポーンを扱える器量に達していないからであった。



 まるで意図的にと思える程に多くの物事が消失し殆どが歴史として後世に残っていない時代、それをガイアスの人々は暗黒の時代と言う。

 それでも暗黒の時代の痕跡は今でもガイアスに存在する。その一つがダンジョンである。どの大陸、どの国の建築物とも違う技法で作られているダンジョンは、現在ガイアスに残る数少ない暗黒の時代の痕跡であった。

 そしてもう一つがダンジョンから発見されるお宝である。ダンジョンで発見されるお宝の中には、現在とおなじような形をした武具が多く発見されていた。しかし似たような見た目とは逆に現在の武具とは比べ物にならない程の強力な力を宿したが多くあり物によっては国の一つや二つを吹き飛ばす力を持つ物も発見されていた。いつしか人々はその強力な力を持つ武具に伝説と言う名をつけるようになった。

 そう冒険者や戦闘職がダンジョンに潜る理由はそこにあった。凄まじい程に強力な武具、伝説の武具を手に入れることこそが、冒険者や戦闘職がダンジョンに潜る理由なのである。そして青年もその一人であり、それがポーンとの出会いとなったのだ。

 現在までに発見された伝説と名の付く武具はどれも強力な力や特殊な力を秘めた物ばかりであったが、ポーンはそれらを遥かに凌駕する力を秘めていた。

 ダンジョン内で青年と出会い、青年を自分の所有者と認めたポーン。青年にはポーンという強大な力を扱う素質があった。しかしそれはまだ芽吹いたばかりで今のままの青年ではポーンを、伝説の武器を装備することが出来なかったのである。そればかりか、ポーンの力の一つが暴走し青年は望んでもいない戦闘職に強制的に転職させられるというまるで呪いのような仕打ちを受けたのである。その結果の一つが剣士では無く拳士だったのである。

 だが青年は『剣聖』になるという夢を諦めていない。そしてその夢の終着点を諦めていない。青年は例え自分の戦闘職が魔法使いになろうと拳士になろうと諦めずに今まで前を見て進んできたのだ。そしてようやく青年に一筋の希望が現れた。それが試練だった。

 心身共に自我を持つ伝説の武器の所有者として相応しくなる為に青年は、試練が行われる場所、ポーンと初めて出会った光のダンジョンへ向かっているとい訳であった。


「……おい、まじか……」


いつ何時魔物が襲いかかって来ても対処できるように打撃用手甲バトルガントレットをはめた両腕を構えながら森を進む青年は表情を引きつらせながらそう呟いた。


『ここは……』


青年と同様に目の前の状況が信じられないというようにポーンが声を漏らす。


「何処だよここ……」


 確かに青年は森を進んでいたはずだった。初心者の頃、青年はこの森を何度も行き来したことがありその道筋は体に染み込んでいた。いや染み込むも何も森からダンジョンへ続く道は一本道であり迷うはずはないのだ。だがその一本道を進んだ結果、青年が辿りついたのは光のダンジョンへの入口では無く森の出口、そして見知らぬ村であった。


『……主殿、驚かず聞いて欲しい……今我々が居る場所は線距離にして約190キロ先にある場所だ』


「はぁああああああああ!」


 自我を持つ伝説の武器の所有者として相応しい器量を手に入れる為に、今まで一緒に戦ってきた仲間さえ置き去りにして光のダンジョンへ向かった青年、スプリング=イライヤは自分が所有する自我を持つ伝説の武器ポーンの信じられない言葉に思わず絶叫するのであった。







ガイアスの世界


ゴルルド周辺


 冒険者や戦闘職の初心者が多く集まる町として有名なゴルルドは、ヒトクイの首都であるガウルドから徒歩で約一日の場所にある。(馬車なら数時間)


 ゴルルドの周辺は広大な草原に囲まれており、少し行けば川などもある自然豊かな場所である。弱い魔物が生息しており、初心者にとっては戦闘経験を積むには打ってつけの場所である。

 草原を少し行くと森があるが、この森も初心者にとっては良い戦闘経験を詰める場所で、その先にある光のダンジョンも同じく戦闘経験を積むには最適な場所である。

 魔法使いに強制的に転職させられてしまったスプリングはこの草原で魔法の訓練をしていた。


 一時期伝説の武器が光のダンジョンにあるという噂が流れ、ガイアス全土から冒険者や戦闘職が押し寄せ町が人で溢れるという状況になつたが、今はその噂も落ち着き平穏な日常へと戻っているようだ。

 


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